ラノベ・ロワイアル Part10at MAGAZIN
ラノベ・ロワイアル Part10 - 暇つぶし2ch2:イラストに騙された名無しさん
07/01/25 01:27:09 1Kx0I4y1
ラノベ・ロワイアル 感想・議論スレPart.18
(感想・NG投稿についての議論等はすべて感想・議論スレにて。
 最新MAPや行動のまとめなども随時更新・こちらに投下されるため、要参照。)
スレリンク(magazin板)

まとめサイト(過去ログ、MAP、タイムテーブルもこの中に。特に書き手になられる方は、まず目を通して下さい)
URLリンク(lightnovel-royale.hp.infoseek.co.jp)

過去スレ
ラノベ・ロワイアル Part9
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ラノベ・ロワイヤル
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避難所
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3:参加者リスト(1/2)
07/01/25 01:29:36 1Kx0I4y1
2/4【Dクラッカーズ】 物部景× / 甲斐氷太 / 海野千絵 / 緋崎正介 (ベリアル)×
1/2【Missing】 十叶詠子 / 空目恭一×
2/3【されど罪人は竜と踊る】 ギギナ / ガユス× / クエロ・ラディーン
0/1【アリソン】 ヴィルヘルム・シュルツ×
1/2【ウィザーズブレイン】 ヴァーミリオン・CD・ヘイズ / 天樹錬 ×
2/3【エンジェルハウリング】 フリウ・ハリスコー / ミズー・ビアンカ× / ウルペン
1/2【キーリ】 キーリ× / ハーヴェイ
1/4【キノの旅】 キノ / シズ× / キノの師匠 (若いころver)× / ティファナ×
3/4【ザ・サード】 火乃香 / パイフウ / しずく (F)× / ブルーブレイカー (蒼い殺戮者)
1/5【スレイヤーズ】 リナ・インバース / アメリア・ウィル・テラス・セイルーン× / ズーマ× / ゼルガディス× / ゼロス×
1/5【チキチキ シリーズ】 袁鳳月× / 李麗芳× / 李淑芳 / 呉星秀 ×/ 趙緑麗×
1/3【デュラララ!!】 セルティ・ストゥルルソン× / 平和島静雄× / 折原臨也
0/2【バイトでウィザード】 一条京介× / 一条豊花×
1/4【バッカーノ!!】 クレア・スタンフィールド / シャーネ・ラフォレット× / アイザック・ディアン× / ミリア・ハーヴェント×
1/2【ヴぁんぷ】 ゲルハルト=フォン=バルシュタイン子爵 / ヴォッド・スタルフ×
2/5【ブギーポップ】 宮下藤花 (ブギーポップ) / 霧間凪× / フォルテッシモ× / 九連内朱巳 / ユージン×
0/1【フォーチュンクエスト】 トレイトン・サブラァニア・ファンデュ (シロちゃん)×
0/2【ブラッドジャケット】 アーヴィング・ナイトウォーカー× / ハックルボーン神父×
2/5【フルメタルパニック】 千鳥かなめ / 相良宗介 / ガウルン ×/ クルツ・ウェーバー× / テレサ・テスタロッサ×
2/5【マリア様がみてる】 福沢祐巳 / 小笠原祥子× / 藤堂志摩子× / 島津由乃× / 佐藤聖
0/1【ラグナロク】 ジェイス×
0/1【リアルバウトハイスクール】 御剣涼子×
2/3【ロードス島戦記】 ディードリット× / アシュラム (黒衣の騎士) / ピロテース
1/1【陰陽ノ京】 慶滋保胤

4:参加者リスト(2/2)
07/01/25 01:31:49 1Kx0I4y1
3/5【終わりのクロニクル】 佐山御言 / 新庄運切× / 出雲覚 / 風見千里 / オドー×
0/2【学校を出よう】 宮野秀策× / 光明寺茉衣子×
1/2【機甲都市伯林】 ダウゲ・ベルガー / ヘラード・シュバイツァー×
0/2【銀河英雄伝説】 ×ヤン・ウェンリー / オフレッサー×
2/5【戯言 シリーズ】 いーちゃん× / 零崎人識 / 哀川潤× / 萩原子荻× / 匂宮出夢
2/5【涼宮ハルヒ シリーズ】 キョン× / 涼宮ハルヒ× / 長門有希 / 朝比奈みくる× / 古泉一樹
2/2【事件 シリーズ】 エドワース・シーズワークス・マークウィッスル (ED) / ヒースロゥ・クリストフ (風の騎士)
1/3【灼眼のシャナ】 シャナ / 坂井悠二× / マージョリー・ドー×
0/1【十二国記】 高里要(泰麒)×
2/4【創竜伝】 小早川奈津子 / 鳥羽茉理× / 竜堂終 / 竜堂始×
1/4【卵王子カイルロッドの苦難】 カイルロッド× / イルダーナフ× / アリュセ / リリア×
1/1【撲殺天使ドクロちゃん】 ドクロちゃん
2/4【魔界都市ブルース】 秋せつら× / メフィスト× / 屍刑四郎 / 美姫
4/5【魔術師オーフェン】 オーフェン / ボルカノ・ボルカン / コミクロン / クリーオウ・エバーラスティン / マジク・リン×
0/2【楽園の魔女たち】 サラ・バーリン× / ダナティア・アリール・アンクルージュ×

全117名 残り48人
※×=死亡者

【おまけ:喋るアイテム他】
2/3【エンジェルハウリング】 ウルトプライド / ギーア× / スィリー
1/1【キーリ】 兵長
2/2【キノの旅】 エルメス / 陸
1/1【されど罪人は竜と踊る】 帰ってきたヒルルカ
1/1【ブギーポップ】 エンブリオ
1/1【ロードス島戦記】 カーラ
2/2【終わりのクロニクル】 G-sp2 / ムキチ
1/2【灼眼のシャナ】 アラストール&コキュートス / マルコシアス&グリモア×
0/1【楽園の魔女たち】 地獄天使号×

5:ゲームルール(1/2)
07/01/25 01:32:22 1Kx0I4y1
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
開催場所は異次元世界であり、どのような能力、魔法、道具等を使用しても外に逃れることは不可能である。

【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給される。
「多少の食料」「飲料水」「懐中電灯」「開催場所の地図」「鉛筆と紙」「方位磁石」「時計」
「デイパック」「名簿」「ランダムアイテム」以上の9品。
「食料」 → 複数個のパン(丸二日分程度)
「飲料水」 → 1リットルのペットボトル×2(真水)
「開催場所の地図」 → 禁止エリアを判別するための境界線と座標も記されている。
「鉛筆と紙」 → 普通の鉛筆と紙。
「方位磁石」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。
「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが一つ入っている。内容はランダム。

6:ゲームルール(2/2)
07/01/25 01:32:53 1Kx0I4y1
※「ランダムアイテム」は作者が「エントリー作品中のアイテム」と「現実の日常品」の中から自由に選んでください。 
必ずしもデイパックに入るサイズである必要はありません。
エルメス(キノの旅)やカーラのサークレット(ロードス島戦記)はこのアイテム扱いでOKです。
また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。

【「呪いの刻印」と禁止エリアについて】
ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「呪いの刻印」を押されている。
刻印の呪いが発動すると、そのプレイヤーの魂はデリート(削除)され死ぬ。(例外はない)
開催者側はいつでも自由に呪いを発動させることができる。
この刻印はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
24時間死者が出ない場合は全員の呪いが発動し、全員が死ぬ。
「呪いの刻印」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
下手に無理やり取り去ろうとすると呪いが自動的に発動し死ぬことになる。
プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると呪いが自動的に発動する。
禁止エリアは2時間ごとに1エリアづつ禁止エリアが増えていく。

【放送について】
放送は6時間ごとに行われる。放送は魔法により頭に直接伝達される。
放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」「残りの人数」
「管理者(黒幕の場合も?)の気まぐれなお話」等となっています。

【能力の制限について】
超人的なプレイヤーは能力を制限される。 また、超技術の武器についても同様である。
※体術や技術、身体的な能力について:原作でどんなに強くても、現実のスペシャリストレベルまで能力を落とす。
※魔法や超能力等の超常的な能力と超技術の武器について:効果や破壊力を対個人兵器のレベルまで落とす。
不死身もしくはそれに類する能力について:不死身→致命傷を受けにくい、超回復→高い治癒能力

7:投稿ルール(1/2)
07/01/25 01:33:26 1Kx0I4y1
【本文】
 名前欄:タイトル(?/?)※トリップ推奨。
 本文:内容
  本文の最後に・・・
  【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
  【残り○○人】※必ずいれる。

【本文の後に】
 【チーム名(メンバー/メンバー)】※個人の場合は書かない。
 【座標/場所/時間(何日目・何時)】

 【キャラクター名】
 [状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
 [装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
 [道具]:キャラクターがバックパックなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
 [思考]:キャラクターの目的と、現在具体的に行っていることを記入。
 以下、人数分。

【例】
 【SOS団(涼宮ハルヒ/キョン/長門有希)】
 【B-4/学校校舎・職員室/2日目・16:20】

 【涼宮ハルヒ】
 [状態]:左足首を骨折/右ひじの擦過傷は今回で回復。
 [装備]:なし/森の人(拳銃)はキョンへと移動。
 [道具]:霊液(残り少し)/各種糸セット(未使用)
 [思考]:SOS団を全員集める/現在は休憩中

8:投稿ルール(2/2)
07/01/25 01:34:00 1Kx0I4y1
 1.書き手になる場合はまず、まとめサイトに目を通すこと。
 2.書く前に過去ログ、MAPは確認しましょう。(矛盾のある作品はNG対象です)
 3.知らないキャラクターを適当に書かない。(最低でもまとめサイトの詳細ぐらいは目を通してください)
 4.イベントのバランスを極端に崩すような話を書くのはやめましょう。
 5.話のレス数は10レス以内に留めるよう工夫してください。
 6.投稿された作品は最大限尊重しましょう。(問題があれば議論スレへ報告)
 7.キャラやネタがかぶることはよくあります。譲り合いの精神を忘れずに。
 8.疑問、感想等は該当スレの方へ、本スレには書き込まないよう注意してください。
 9.繰り返しますが、これはあくまでファン活動の一環です。作者や出版社に迷惑を掛けないで下さい。
 10.ライトノベル板の文字数制限は【名前欄32文字、本文1024文字、ただし32行】です。
 11.ライトノベル板の連投防止制限時間は30秒に1回です。
 12.更に繰り返しますが、絶対にスレの外へ持ち出さないで下さい。鬱憤も不満も疑問も歓喜も慟哭も、全ては該当スレへ。

 【投稿するときの注意】
 投稿段階で被るのを防ぐため、投稿する前には必ず雑談・協議スレで
「>???(もっとも最近投下宣言をされた方)さんの後に投下します」
 と宣言をして下さい。 いったんリロードし、誰かと被っていないか確認することも忘れずに。
 その後、雑談・協議スレで宣言された順番で投稿していただきます。
 前の人の投稿が全て終わったのを確認したうえで次の人は投稿を開始してください。
 また、順番が回ってきてから15分たっても投稿が開始されない場合、その人は順番から外されます。

9:追記
07/01/25 01:34:32 1Kx0I4y1
【スレ立ての注意】
このスレッドは、一レス当たりの文字数が多いため、1000まで書き込むことができません。
500kを越えそうになったら、次スレを立ててください。

――テンプレ終了。

10:イラストに騙された名無しさん
07/01/25 01:35:00 ynqB+Idw
>>1
支援

11:大崩壊/デスマーチ(人生終了)(11/14) ◆eUaeu3dols
07/01/25 01:36:12 1Kx0I4y1
#前スレの最後の番号より続けます

「まさか両方に飲ませるつもりだったのかい? そうだね、それも手かもしれない。
 だけど半分こにしてしまって、本当にその傷から二人を助けられるのかな?
 その“不死の酒”とやらがどれほどの力を持つのか知らないが、難しくないかい?
 それよりも片方だけに飲ませた方がまだ確実ってものじゃないか」
「で、ですが、片方を見捨てるなどと……」
「片方だけでも助けられる事を神様に感謝しなくちゃあ。俺は信じてないけどね。
 それに狩りに両方とも助けられても、半死半生になってしまったらどうするんだい」
臨也は最も無難な選択肢を吊して、嗤った。
「それだと、『助かったところで二人は足手まといになっちゃう』ね」
その言葉に保胤の頭にも血が上った。
「あなたは、仲間を利害でしか見ていないのですか!?」
「当然だよ。今の状況を何だと思っているんだい?
 追撃に向かった方は二人になってしまった。
 あの二人はとても強いそうだからそれでも生き残るかな?
 だけど二人じゃ全てをカバーするなんて出来ないよね。敵はこっちにも来るかもしれない。
 さっきだって戦いの後の隙を突然の乱入者に突かれてしまったんだろう?
 このマンションを憎らしく思っている、ゲームに乗った奴は他にも居るはずだよ。
 それらが隠れて手ぐすね引いて隙を待っている、そんな可能性は高いじゃないか。
 なにせ爆発まで起きて危険を露呈してしまったんだからね。
 今はとてつもなく危険な事態なんだ。一人でも多くの戦力が要る。
 その千絵って子だって護らないといけないんだろう?」
臨也は目の前の危険を積み上げて見る見るうちに保胤を追い込んでいく。
「ここは確実な戦力の確保を取らなきゃあいけない。そういう物だろう?
 ほら、リナの顔色がどんどん悪くなっていく。ベルガーももう喋れないじゃないか。
 痙攣もしだしている。これはもう5分も持たないね。
 さあ、早く! 二人の内のどちらか片方に、“不死の酒”を使うんだ!」
「私は…………私は……!!」
「早く!!」


12:大崩壊/デスマーチ(人生終了)(12/14) ◆eUaeu3dols
07/01/25 01:36:51 1Kx0I4y1
急き立てながら、臨也は考えていた。
(しかしまったく、困ったもんだね)
臨也は一つ小さなミスを犯していた。
それは不死の酒の瓶をそのまま保胤に返してしまった事だ。
残る不死の酒は丁度半分。
つまり、明らかに志摩子に飲ませたはずの分が減っていない。
その事に気づかれれば必然的に疑われてしまうだろう。
使える機会が来る事自体はある意味で望んではいた。
使ってしまっても志摩子の時は死んだという事実は彼を苦しめるだろう。
(だからってこんな結果を望んではいなかったんだけどな。あの大集団がなんて有様だ)
まさか二人も重傷に陥るとは思っていなかった。
しかも保胤は両方とも救うつもりのようだ。
もちろん臨也も、両方とも五体満足で生き残ってくれれば言うことは無い。
(だけど流石にそこまでは無理じゃあないか?
 1/4で完治、つまり致命傷から4人も完全回復させるなんて話が上手すぎる。
 しばらくは何も出来ないくらい足手まといになったりするんじゃないか?)
もしそうなれば最悪だ。
戦力になる人間が二人、それから足手まといが一人の集団なら、
足手まといの世話をしてやっておけばまだ二人の頼もしい仲間が護ってくれる。
一人が足手まといを護ることに専念しても、残り一人は自分を守る壁が居る。
だが戦力になる人間が一人、足手まといが三人の集団なんかと一緒には居られない。
別行動中の戦力二人が無事に戻ってきた所で足手まといを一人ずつ面倒を見ればそれでおしまい。
もしそんな事になれば臨也はこの集団を見限るつもりだった。
(このツキの無さじゃもう見限っても良いくらいだけど、まだ戦力は残っているからね。
 まだ少しは期待しても良いかな。
 さあ保胤。君は真っ当な選択を選んでくれるよね?)
臨也は心の底から期待しながら、保胤の選択を待った。
そして保胤は―

     * * *


13:大崩壊/デスマーチ(人生終了)(13/14) ◆eUaeu3dols
07/01/25 01:37:24 1Kx0I4y1
森の中。彼は息を潜めながら、ゆっくりと茂みを這って逃げていた。
彼はこの世界において、なんら特殊な力を持たなかった。
武器を持っていなければ全く戦力には数えられないだろう。
そんな人物はこと戦闘中においては存在感を失う。
まるで空気のように稀薄な、そこに居ても居なくても気づかれない存在と化すのだ。
不運にも持っていたグルカナイフは落としてしまったが、それさえも気配の薄さを助長した。
その存在感の無さが彼、古泉一樹を救ったのだ。
「まったく、酷い目に遭ったものです」
飄々と呟く。
彼はシャナとフリウとの戦いにおいてかなり早期に抜け出していた。
隠れて見物してパイフウ達の旗色が良ければこっそり戻るつもりだったが、残念ながらそうならなかった。
仕方ないので彼らを諦め、一人で逃げ出したのである。
「……おや、これはさっきの」
彼は茂みの一つに少年が倒れているのを見つけた。
竜堂終。シャナに胴体を両断されたはずの少年である。
だが驚くべき事に、両断されたはずの胴体が今では繋がっていた。
「まさか……生きているんですか?」
継ぎ目が有りそうな辺りには繋ぎ合わせるように針金が刺さっている。
確かに竜堂終は胴体を両断されるという致命的で衝撃的な傷を受けた。
だが炎を纏った神速の刃の切り口は滑らかで、単純に切断されていた。
その見た目の強烈さとは裏腹に、治療さえ早ければ治しやすい傷だったのだ。
もっとも、それを戦闘の僅かな間隙に行ったメフィストの奮闘は信じがたい物には違いない。
更にメフィストはシャナとフリウの必殺の一撃の直前に彼をここまで投擲したのだ。
それも大きく衝撃を受け止めてくれる茂みに向けて。
(困りましたね。敵なわけですし、ここはトドメを刺しておきたい所ですが……)
彼は銃弾を受けても皮膚が鱗のようになってひび割れるだけで耐えて見せた。
少なくとも素手やそこらに転がっている石ころではどうにもならないだろう。
さっきのナイフを落としていなければあれを継ぎ目に突き刺せば殺せたのだろうが。
(……おや、これは)

14:大崩壊/デスマーチ(人生終了)(14/14) ◆eUaeu3dols
07/01/25 01:38:13 1Kx0I4y1
だが気づく。終のすぐ近くには彼の使っていた真紅の長剣が転がっていた。
胴体を両断されてもしばらくは腕が硬直し握り続けていたのか、それともメフィストが投げたのか。
更に彼の腰にはコンバットナイフが吊されている。
あのどちらかを針金で継ぎ合わせてある繋ぎ目に叩き込めば、殺せるだろう。
(殺せる機会は逃すべきではないでしょうね)
古泉はゆっくりと終に近寄るとまず騎士剣“真紅”を持ち上げてみた。
……残念ながら、随分と重い。
(これは狙いがずれるかもしれませんね)
狙いがずれればあの鱗に止められてしまうだろう。
古泉は騎士剣を諦め、終の腰からサバイバルナイフを抜きはなった。
これなら継ぎ目を外す事は有り得ない。針金で繋ぎ合わせたその隙間を抉れるだろう。
古泉は終のすぐ横にしゃがみ込みしっかりと狙いを定めた。
そして胴体に向けてナイフを振りかざしたその瞬間。

終の目が、開いた。


現在時刻23時50分。
第四回放送まで残り10分。

―10分もの時間が残っている。


【108 メフィスト 死亡】
【残り 47人】



15:大崩壊/デスマーチ(人生終了)(報告) ◆eUaeu3dols
07/01/25 01:39:38 1Kx0I4y1
【D-5/森/1日目・23:50】
【戦慄舞闘団】
【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:まだ傷有り(程度不明)
[装備]:なし
[道具]:有機コード、デイパック(支給品一式・パン6食分・水1100ml)
    船長室で見つけた積み荷の目録
[思考]:逃げ延びる。南下する? それとも西へ進む?
[備考]:刻印の性能に気付いています。ダナティアの放送を妄信していない。
    火乃香がアンテナになって『物語』を発症しました。

【火乃香】
[状態]:まだ傷有り(程度不明、やや軽傷)
[装備]:騎士剣・陰
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水1400ml)
[思考]:逃げ延びる。南下する? それとも西へ進む?
[備考]:『物語』を発症しました。

【コミクロン】
[状態]:まだ傷有り(程度不明)、腕は動くようになった
[装備]:エドゲイン君
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水1000ml) 未完成の刻印解除構成式(頭の中)
     刻印解除構成式のメモ数枚
[思考]:逃げ延びる。南下する? それとも西へ進む?
[備考]:かなりの血で染まった白衣を着ています。
    火乃香がアンテナになって『物語』を発症しました。


16:大崩壊/デスマーチ(人生終了)(報告) ◆eUaeu3dols
07/01/25 01:40:21 1Kx0I4y1
【パイフウ】
[状態]:まだ傷有り(程度不明、やや重傷)
[装備]:ライフル(残弾29)
    外套(数カ所に小さな血痕が付着。脇腹辺りに穴が空いている。
    偏光迷彩に支障があるかは不明)
[道具]:なし
[思考]:予定全崩壊。火乃香は絶対に死なせたくない。
[備考]:外套の偏光迷彩は起動時間十分、再起動までに十分必要。
    さらに高速で運動したり、水や塵をかぶると迷彩に歪みが出来ます。

[チーム行動予定]:逃げ延びる。南下する? それとも西へ進む?

【D-5/道路/1日目・23:50】
【地獄姉妹】
【シャナ】
[状態]:吸血鬼(身体能力向上)/消耗有り、まだ十分戦える
[装備]:贄殿遮那/神鉄如意
[道具]:支給品一式(パン6食分・ダナティアの血500ml)
    /悠二の血に濡れたメロンパン4個&保存食1食分/濡れていない保存食2食分/眠気覚ましガム
    /悠二のレポートその2(大雑把な日記形式)/タリスマン
[思考]:目の前の4人を追いつめ仕留める/シャナと自分を同一視/
    大集団の者達を殺させない為にその敵を殺す/最終的にフリウは絶対に殺す
[備考]:体内の散弾片はそこを抉られた事により吹き飛びました。
     18時に放送された禁止エリアを覚えていない。
     C-8は、禁止エリアではないと思っている。

【フリウ・ハリスコー】
[状態]:全身血塗れ。右腕にヒビ。正常な判断が出来ていない
[装備]:水晶眼(眼帯なし、ウルトプライド召喚中)、右腕と胸部に包帯
[道具]:デイパック(支給品一式・パン5食分・水1500mm)、缶詰などの食糧
[思考]:目の前の4人を追いつめ仕留める/シャナと自分を同一視/全部壊す


17:大崩壊/デスマーチ(人生終了)(報告) ◆eUaeu3dols
07/01/25 01:40:53 1Kx0I4y1

【C-6/マンション1・2F室内/1日目・23:50】
【大集団の名残】
【慶滋保胤】
[状態]:かなりの精神的ダメージ。不死化(不完全)
    ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている
[装備]:携帯電話(呼び出し中)
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))、不死の酒(未完成、残り半分)
[思考]:不死の酒を―!!/シャナの事が気になる。千絵を落ち着かせたい。

【海野千絵】
[状態]:物語に感染。錯乱し心神喪失状態。かなり精神不安定
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:不明
[備考]:吸血鬼だった時の記憶は全て鮮明に残っている。

【折原臨也】
[状態]:不機嫌(表には出さない)
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)、
    ジッポーライター、救急箱、スピリタス1本(少し減った)、
    セルティとの静雄関連の筆談に使った紙
[思考]:保胤を集団内で孤立させたい。危なくなれば集団から抜ける。
    クエロに何らかの対処を。人間観察(あくまで保身優先)。
    ゲームからの脱出(利用出来るものは利用、邪魔なものは排除)。
    残り人数が少なくなったら勝ち残りを目指す
[備考]:クエロの演技に気づいている。
    コート下の服に血が付着+肩口の部分が少し焦げている。


18:大崩壊/デスマーチ(人生終了)(報告) ◆eUaeu3dols
07/01/25 01:41:59 1Kx0I4y1
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:両肺損傷(右肺は傷は塞いだがどちらにせよ長く保たない)
[装備]:強臓式武剣”運命”、単二式精燃槽(残り四つ)、黒い卵(天人の緊急避難装置)、
    PSG-1(残弾20)、鈍ら刀
[道具]:携帯電話(呼び出し中)、コキュートス
[思考]:????
[備考]:天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。

【リナ・インバース】
[状態]:重傷(10分と保たない)/疲労困憊。魔法は一切使えない。
[装備]:光の剣(柄のみ)
[道具]:メガホン
[思考]:????
    千絵が心配、美姫に苦手意識(姉の面影を重ねています)
    仲間集め及び複数人数での生存。管理者を殺害する。美姫を許す気はない

【C-5/森/1日目・23:50】
【死ぬのは―】
【古泉一樹】
[状態]:左肩・右足に銃創(縫合し包帯が巻いてある)
[装備]:コンバットナイフ
[道具]:デイパック(支給品一式・パン10食分・水1800ml)
[思考]:終を殺害。出来れば学校に行きたい。
    手段を問わず生き残り、主催者に自らの世界への不干渉と、
    (参加者がコピーではなかった場合)SOS団の復活を交渉。
[備考]:学校にハルヒの力による空間があることに気づいている(中身の詳細は知らない

【竜堂終】
[状態]:両断直後くっついた。現在負傷度合い不明/目覚めた
[装備]:騎士剣“紅蓮”(すぐ近くに落ちている)
[道具]:なし
[思考]:????

19:>>4修正
07/01/25 20:33:38 93SJSlJg
3/5【終わりのクロニクル】 佐山御言 / 新庄運切× / 出雲覚 / 風見千里 / オドー×
0/2【学校を出よう】 宮野秀策× / 光明寺茉衣子×
1/2【機甲都市伯林】 ダウゲ・ベルガー / ヘラード・シュバイツァー×
0/2【銀河英雄伝説】 ×ヤン・ウェンリー / オフレッサー×
2/5【戯言 シリーズ】 いーちゃん× / 零崎人識 / 哀川潤× / 萩原子荻× / 匂宮出夢
2/5【涼宮ハルヒ シリーズ】 キョン× / 涼宮ハルヒ× / 長門有希 / 朝比奈みくる× / 古泉一樹
1/2【事件 シリーズ】 エドワース・シーズワークス・マークウィッスル (ED)× / ヒースロゥ・クリストフ (風の騎士)
1/3【灼眼のシャナ】 シャナ / 坂井悠二× / マージョリー・ドー×
0/1【十二国記】 高里要(泰麒)×
2/4【創竜伝】 小早川奈津子 / 鳥羽茉理× / 竜堂終 / 竜堂始×
1/4【卵王子カイルロッドの苦難】 カイルロッド× / イルダーナフ× / アリュセ / リリア×
1/1【撲殺天使ドクロちゃん】 ドクロちゃん
2/4【魔界都市ブルース】 秋せつら× / メフィスト× / 屍刑四郎 / 美姫
4/5【魔術師オーフェン】 オーフェン / ボルカノ・ボルカン / コミクロン / クリーオウ・エバーラスティン / マジク・リン×
0/2【楽園の魔女たち】 サラ・バーリン× / ダナティア・アリール・アンクルージュ×

全117名 残り47人
※×=死亡者
(EDの死亡漏れを修正しました)

【おまけ:喋るアイテム他】
2/3【エンジェルハウリング】 ウルトプライド / ギーア× / スィリー
1/1【キーリ】 兵長
2/2【キノの旅】 エルメス / 陸
1/1【されど罪人は竜と踊る】 帰ってきたヒルルカ
1/1【ブギーポップ】 エンブリオ
1/1【ロードス島戦記】 カーラ
2/2【終わりのクロニクル】 G-sp2 / ムキチ
1/2【灼眼のシャナ】 アラストール&コキュートス / マルコシアス&グリモア×
0/1【楽園の魔女たち】 地獄天使号×

20:残されたもの(1/5) ◆5KqBC89beU
07/01/27 20:39:38 UAlLQhaj
 第三回放送から一時間と数十分が経過した頃だった。
 東の市街地で轟き続ける破壊音を聞きながら、淑芳は真っ直ぐに北上していた。
(C-3周辺には、しばらく近づきたくありませんわね)
 現在地はC-1の海岸だ。周囲に遮蔽物はほとんどないが、C-3付近から逃げる人影が
淑芳の視界内に現れることはなかった。
 逃走経路としては不便な部類に含まれる場所なので、当然といえば当然だ。
 淑芳は今、A-1へ行こうとしている。
 わざわざ僻地を目指すのは、どこにあるか判らない禁止エリアを避けるためであり、
同時に他の参加者から離れるためでもある。
(わたしくらいしか留まりたがらなそうな場所は、禁止エリアにならないでしょう)
 午前中に指定された禁止エリアは、南西部の森や南東部の半島から、安全性を大幅に
失わせた。幾人もの参加者が移動を余儀なくされたと見て間違いはないだろう。
 いろいろと計算された上で禁止エリアは選ばれているらしい。
 半島の居心地を悪くしたかったならH-6ではなくG-6を塞げばよさそうなものでは
あるが、G-6を塞ぎたくなかった理由があったとしても、とりたてておかしくはない。
 例えば、G-6に“すぐ死にはしないが動けない”という状態の参加者が放送以前から
いて、他の参加者は誰もそれを知らない、という状況だった場合。
 そういうとき、主催者側はG-6をしばらく禁止エリアにしないのではないか。
 参加者の死が、参加者の意思と無関係なものになりかねない、という理由で。
 参加者は参加者によって殺されるべきだ、と主催者側は考えるのではなかろうか。
(急ぎましょう。捜されても見つかりにくい場所へ行けない以上、見つかりやすくても
 捜されにくい場所へ、一刻も早く隠れたいところですわ)
 E-1もD-1も、淑芳はほとんど調べていない。せめて海洋遊園地内にあった石碑だけ
でも確認できればよかったのだろうが、そんなことをしている余裕はなかった。

21:残されたもの(2/5) ◆5KqBC89beU
07/01/27 20:40:25 UAlLQhaj
 移動中、B-1で奇妙な物体を目にして、淑芳は足を止める。
 砂の中から、不自然な何かが露出していた。
(手の形をした石……いえ、これは岩の肌に覆われた手……?)
 岩でできた人体を簡単に埋めた後、雨が砂の一部を洗い流せば、きっとこうなる。
 物理法則を超越できる世界の出身者で、この島の異常性を存分に知っている淑芳は、
もはや、この程度の些細な怪奇現象くらいでは驚かない。
 しばし黙考した末に、淑芳は小さく頷く。
 呪符が投げ放たれ、砂の膨らみに接触すると同時に、呪文が唱えられた。
「臨兵闘者以下略! 天風来々、急々如律令!」
 突風によって砂が吹き飛ぶ。
 砂の中から現れたものは、無惨に分断されて事切れた参加者の遺体だった。
 それが既に死んでいると確認した次の瞬間、淑芳は周囲を見回す。
(第三者に目撃されてはいないようですわね)
 血塗れの服を着て死体のそばにいる時点で、とてつもなく不穏に見える光景だろう。
事情を知らない人物が近くにいれば、問答無用で攻撃してきても不思議ではない。
 手持ちの呪符が残り少ない今、淑芳は符術使いとしての真価を発揮できない状態だ。
 戦うにしても逃げるにしても、相手より先に考え相手より早く動かねば命が危ない。
 淑芳は、再び死体に視線を向けた。
(どうやら“隠したかったから”ではなく“葬りたかったから”埋めたようですわね。
 生前の姿に似せて『部品』が並べられていますもの)
 亡骸のそばに遺品がないのは、持ち去られたか海に捨てられたかしたからだろう。
 死因らしき傷跡は、恐るべきものではあったが不可解ではなかった。
 傷跡があるのは攻撃されたから。実に単純明快な因果関係だ。
 だが、遺体を覆う岩の肌が、どんな過程を経て生じた物なのか―それは謎だ。
 淑芳の問いに対して『神の叡智』は複数の例を挙げ、この中のどれかだと答えた。
 加護だったのか、呪縛だったのか、そのどちらでもなかったのか、判然としない。

22:残されたもの(3/5) ◆5KqBC89beU
07/01/27 20:41:16 UAlLQhaj
 正解を知るために必要な情報は揃っていない。
 あるかどうかすら判らなくて役に立つかどうかも判らない手掛かりを探していられる
ような暇はない。“殺してはならない敵”のいた海洋遊園地や、陸を運ばせたH-2や、
崩壊中のC-3から、少しでも遠くへ、できる限り急いで離れるべき状況だった。
 だが、この謎を解くことが無意味だと決まったわけでもない。次の機会があるならば
一応調べておくべきかもしれない。
(厄介事の原因にならないよう、とりあえず今は埋め直しておきましょう)
 淑芳の故郷には、冥府も霊魂も輪廻も実在している。“人は死ねば死者になるのでは
なく死体になるだけだ”という考え方を、淑芳はしない。しかし、それでも淑芳は墓を
暴いたことを後悔しなかった。わずかに生じた罪悪感は、意思の力で叩き潰した。
 人間ほどの大きさをした砂の竜を、呪符と呪文が出現させる。
 砂を材料にして作られた下僕は、亡骸の上に覆い被さってから、ただの砂に戻った。
 呪符と神通力とを温存することよりも、時間を節約することを優先した結果だ。
 何をどれだけやれるのかを把握するための実験も、当然ながら兼ねてはいたが。
(術を改良した成果は多少ありましたけれど、あくまでも多少でしかありませんのね)
 相変わらず、現実は非情なようだった。
 もう一度、周囲を見回してから、淑芳は移動を再開する。
 A-1までの経路に相変わらず人影は見えず、何事もなく目的地へと到着した淑芳は、
またしても墓の前へ立つことになった。
(何故かしら……はっきりとは判りませんけれど、妙な違和感がありますわ)
 眉根を寄せて、淑芳はうつむく。視線の先の地面には、穴を掘って埋めた跡がある。
(まるで、あるべきものが欠けているみたいな……さっきの墓には確かにあった何かが
 この墓には存在していないような……)
 神仙であるが故に備えている、五感ではない知覚能力がそう告げていた。

23:残されたもの(4/5) ◆5KqBC89beU
07/01/27 20:42:28 UAlLQhaj
 かつて毒薬を飲んで仮死状態になり幽体離脱したときの記憶が、淑芳の頭をよぎる。
(ああ、なるほど……誰かが死ねば残るはずの生命の残滓がここにはありませんのね。
 ひょっとすると、いいものが発見できるかもしれませんわ)
 余裕があればこの墓も暴いて調べておく、と淑芳は決めた。
 別の場所で殺された後に、ここまで運ばれて葬られただけで、犠牲者の生命の残滓は
殺害現場に留まっている、ということなのかもしれない。
 あるいは、形見の品が埋まっているだけで、ここには死体がないのかもしれない。
 けれど、現状を説明できそうな仮説は他にもある。
(ここに埋まっているのが“『世界』に挑んだ者”の亡骸だとするなら……主催者側に
 逆らい、この『ゲーム』を打破しようと足掻いた末に、呪いの刻印を発動させられて
 魂を消し飛ばされた犠牲者がここにいたとするなら、調べない手はありませんわね。
 アマワへ復讐するためなら何だってやりましょう。それで誰かが傷ついたとしても、
 わたしの仲間たちが復讐を喜ばなかったとしても……わたしには、こんな生き方しか
 選べませんもの)
 自分が正しくはないことを、淑芳は自覚している。
 ―私怨を理由に他者を煽って復讐の道具に仕立てあげようという企みが、正しい
はずなどなかった。
 自分が正しくはないと理解した上で、淑芳は、自分の信じる正しさを他者に望む。
 大切な誰かを守るために戦い、死にもの狂いでアマワを滅ぼせ、と。
 自分にとっての正しさが別の種類の正しさを踏みにじると承知した上で、自己犠牲を
他者に要求すること自体が傲慢なのだと判っていながら、それでも淑芳は、己の信じる
正しさを他者の中に求め続ける。
 正しい者たちを生かすためになら、正しくないと思った相手を淑芳は見捨てられる。
ただひたすら隠れているだけの卑怯者も、守るべき相手のいない殺人者も、敵の眼前に
仲間を置き去りにして逃げる臆病者も、必要とあらば容赦なく襲えるだろう。
 静かに、穏やかに、けれど確かに淑芳は狂い始めていた。

24:残されたもの(5/5) ◆5KqBC89beU
07/01/27 20:43:48 UAlLQhaj
【A-1/島津由乃の墓の前/1日目・20:10頃】

【李淑芳】
[状態]:精神の根本的な部分が狂い始めているが、表面的には冷静さを失っていない
[装備]:懐中電灯/呪符(3枚)
[道具]:懐中電灯以外の支給品一式(パン4食分・水800ml)
[思考]:外道らしく振る舞い、戦いを通じて団結者たちを成長させ、アマワを討たせる
    /まずは呪符を作る/役立ちそうな情報を書き記し、託せるように残す
[備考]:第二回放送をまったく聞いておらず、第三回放送を途中から憶えていません。
    『神の叡智』を得ています。服がカイルロッドの血で染まっています。
    夢の中でアマワと会話しましたが、契約者になってはいません。
    『君は仲間を失っていく』と言って、アマワが未来を約束しています。

※ゼルガディスの遺体はB-1の砂の中に埋まっています。彼を最初に埋葬した人物は
 おそらく秋せつらだと思われますが、確証はありません。

25:遭遇と焦燥 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:28:58 3L9k9tfj
「まあ黒いものは不吉だっていわれてるわりに、咄嗟に思いつくのは黒猫くらいだわな」
 慣れるのは嫌いだ。
 マンションで佐山達と別れた後、オーフェンは努めて何も思考しないようにしながら商店街を目指していた。
 最寄りで長居できそうな場所はそこと病院跡のどちらかで、何とはなしに商店街のほうが居心地はいいだろうと思ったからだ。
 とはいえ、無思考で長距離を歩くというのもなかなか辛い。だからオーフェンは壊れたラジオのように繰り返していた。慣れることは嫌いだ。
 マンネリ化に陥れば、人は何も感じなくなる。
 健康を害する習慣、規則の無視、幸せな日常―もっとも、最後のに慣れたことはついぞ無かったが。
「しかし逆に幸福なものを考えてみるといい。教会もウェディングドレスもブライダルケーキも軒並み白い。
 まあ何か偏ってる気もするが気にするな。結婚は幸せだというのが年寄りの通説だ。そして大概、そう言う奴ほど配偶者を疎ましく思っている」
 とにかく、慣れてしまえば万事は意味を為さなくなる。痛みや苦痛も慣れてしまえば気にならない。感じないのだから。
 だが当人だけが不幸な状況に陥っていることに気づいていないのは、それはそれでどん底ではないだろうか?
「脇道にそれたが、要はあれだ。黒は不吉ってことだわな。
 黒い教会で黒い花嫁が黒いケーキに黒いナイフで入刀してみろ。もはやそれは立派な宗教だとは思わねっか?」

26:遭遇と焦燥 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:30:42 3L9k9tfj
「思うにだな―」
 オーフェンはようやく観念して声をあげた。
 吊り上がった皮肉気な双眸で、頑張って無視していた喋る人虫を睨む。
 無論、それでスィリーが反省するわけでもないが。
 この煩わしい人精霊との会話に慣れたくはなかったのだが、だからといって聞き流しているのも不毛だ。
 頭を抱えて―この動作もトトカンタ時代でだいぶ慣れさせられたが―呻く。
「お前を黙らせることってできないのか?」
「そうやって言論の自由を侵害する国家は屋台骨だけでやってかなきゃならん。例えるなら吊さないで直立させようとする骸骨模型。
 とまれあれだな。お前さんまで前時代的小娘思考にシフトしてきたのは由々しき事態だと俺は思う」
「小娘?」
「まあやたらと俺を水晶檻に閉じこめたがっていた辺り、猟奇的な趣味だったのだろう。
 幸いにして斧を持っているのは見たことがないが」
「……そいつも苦労してた訳か」
 きっと友達になれそうだ、とオーフェンは独りごちた。
 体の疲労は、ほぼ取れている。
 約束の時間を寝過ごすわけにはいかないので、仮眠を何回かに分けて取った。
 もちろん森の中で寝床に相応しい場所があるわけもないが、それでも軽く休む程度なら事足りる。
 どうせ役に立つこともないと、学生の間で不評極まりなかった山中野外訓練がこんなところで役に立つというのは皮肉である。
 休憩の時間を含めれば、あれから一時間はたっただろうか?
 時計を確認する気も起きずに、オーフェンは何とはなしに夜空を見上げた。
 人の活動時間中に昇っている太陽とは違い、月の傾きから時間の経過を測るのは難しい。
 とはいえ、そろそろ着く頃だろうと見当は付けていた。
 悲しいことに、こういったなんの儲けにも繋がらない勘はよく当たる。


27:遭遇と焦燥 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:34:20 3L9k9tfj
「……で、なんでさっきから黒は不吉だと喚いてるんだ?」
「黒ずくめは不吉だと忌み嫌われているから、まあ交渉が成功しなくても落ち込むな黒いの、と人生の先達として忠告している」
「……」
「感謝はいらんぞ」
「そうだな」
 投げやりに言って、心持ち歩調を早める。それでもスィリーは遅れることなく着いてきたが。
 胸中で苦笑する。人精霊の言葉は無意味だが、それでも人は無意味から意味を捻り出すことは出来る。
(交渉か。確かにあんまり上手くいった試しはないけどよ)
 ギギナと名乗ったあの狂戦士と取引―いまいちこちらの差し出したものが分かりかねたが―を成功させられたのは幸運だった。
 あれは強力な戦士だ。クリーオウを保護して貰えれば、彼女に降りかかる大抵の危機は防げるだろう。 
 そう信じ込むことが出来れば、気持ちも多少は軽くなる。
「まあ何とかはいらん、というのは大抵が建前なわけで。人生を悟ると簡単に本音を訳せるようになる。
 そのなんたるかを教えてやるべきだろうが、授業料はいらん」
 そう言いつつ広げた右手を突き出してくる人精霊が、オーフェンを追い越していった。
 平行して進んでいた物の均衡が崩れるのは、どちらかが速度を上げた時か速度を下げた時である。
 オーフェンは立ち止まっていた。商店街に着いたのだ。
 ただし、あるのはその残滓だけだったが。

28:遭遇と焦燥 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:34:54 3L9k9tfj
「……なんだこりゃ」
 破壊は徹底的に行われていた。
 建造物はあらかた壊され、もとがどういう形であったのかも判別できない。
 道路には丸く陥没した穴がいくつも空いている。
 ざっと観察する限り、破壊はすべて同一の手段で行われていた。
 つまり、これはひとりの手で引き起こされたということになる。
 無論、オーフェンも似たようなことは出来る―本来の威力で魔術を使えば。
 だが、これが弱体化させられた参加者同士の衝突によるものだとは思えなかった。
 まるで丸太の雨でも降ってきたかのようだ。
(案外はずれてないかもな)
 思い着くまま浮かんできた思考に自分で頷く。
 戦闘ならば、こんな無目的な破壊は行うまい。
 これだけ破壊され尽しているとなると―
 そう。石造りの壁を粉砕する程の攻撃を、ひたすら避け続けたということになる。
「なんでだろーな。それでトトカンタを思い出しちまうってのは……」
「ほほう。お前さんも郷愁に浸っていたか」
 オーフェンが頭を抱えてしゃがみ込んでいると、先行しすぎたスィリーが戻ってくる。
「お前さんの故郷にもやたらと破壊しまくる魔神とかいたわけだ。
 まったく迷惑極まりないが、つまるところ人生ってのはそういう迷惑の掛け合いゲームだぁな」
「うっせ―って、何だって?」
 人精霊を視界に捉え、反射的に聞き返す。
 まともな返答を期待していたわけではない―という心構えさえ意識しない。
 それほどまでにオーフェンが人精霊に対して抱いていた評価というのは低かった。が。
「お前、心当たりがあるのか?」
「無くもない。
 まあ人生を長く生きるとだ。知識が貯まりすぎて引き出しが重くなって開かずになり、
 結果として痴呆性老人が生まれる」
「どうやら期待した俺が馬鹿だったようだ」
 溜め息とともに、詳しい検分を再開させようと残骸に視線を戻す。

29:遭遇と焦燥 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:37:43 3L9k9tfj
「魔神」
 スィリーが、珍しく短い言葉で区切った。
 この人精霊の口にした単語だ。期待すべきものではない。
 そう思いながらも、オーフェンは振り返っていた。
 ふらふらと漂う人精霊に先程までと変わった様子はない。
 相変わらず軽薄に、好きなように言葉を紡いでいく。
「魔神って知ってっか? 前に教授してやろうとしたら、その若造には知ってると突っぱねられたんだが。
 まあなんだ、悪徳の狩人どもに扱き使われてる間抜け精霊ってことで、結局は奴隷階級だ。恐れる必要はない。訴訟を起こされる心配もねっからな」
「……つまり、こういうことか? その魔神だかなんだかを従えてる奴がいる? 少なくともお前のいた所だと」
 この精霊の言葉を解読するというひどく難解な作業に頭を痛めながらそれをやり遂げる。
「どれぐらい強力なんだ?」
「まあ俺様に敵う奴は見たことがないな。少なくともそれで抗議された覚えはない」
「いや、待てよ―」
 オーフェンはスィリーの言葉を半ばで頭から閉め出しながら記憶を探った。
 最近聞いた覚えがある。精霊……
『獣……精霊!』
 思念の糸を放つ襲撃者。それが恐れるように吐き捨てた言葉。
「あの黒ずくめか……」
「いっちゃなんだが、お前さん鏡という文明の利器を知ってるか?
 なるほどそれは気づかないわけだ」
 やはり人精霊の言葉を無視し、さらに深く思い出す。あの巨大な炎の獅子。精霊。 
(あの獅子はレリーフに封じ込められてた。きちんと体系立てられたシステム。
 ……つまりは、あんなのを武器にしてるような連中がいるわけだ)
 半ば呆れるような心地で呻く。
 それならばこの大規模破壊にも納得がいった。
 対峙した一瞬で炎獅子が撒き散らした凶暴な熱量を思い出す。
 確かにあんな怪物を好き勝手に暴れさせたらこうもなるだろう。
 もっとも、これがその魔神とやらの仕業だと断定できるわけでもないが―いや、まて。
 血の気が一気に引き、青ざめる。
 獣精霊はいた。目の前の惨劇を引き起こせるような手段もこの島にはある―
(これが参加者の仕業だとしたら……!)

30:遭遇と焦燥 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:39:42 3L9k9tfj
 剣呑な解答に気付き、急いで瓦礫を調べる。
 参加者が破壊を行うのなら、その理由は狩る側にしろ狩られる側にしろひとつだけだ。
 戦闘。殺し合い。
「我は生む小さき精霊!」
 呪文に従い光が灯る。光量を最大にした鬼火は、瓦礫の影を払い流した。
 詳しく検分することでやはり最悪の事態が発覚する―
 痕跡から見てこの破壊はごく最近、いやついさっき行われた。
「おう何だ。トレジャーハントか。それとも叔父さんの遺産か?」
 急激上がった光量にやられて墜落しながらも、人精霊は言葉を吐くことを止めない。
 少なくとも、見つかった物は宝の類ではなかった。見つけて嬉しいものでは決してない。
 瓦礫の下から人の腕と、その中身が流れ出している。むろん、死んでいるのだろう。
「やっぱりか、糞っ垂れ!」
 罵声をあげると、オーフェンは駆けだした―ギギナとの待ち合わせ場所である、小屋の方角へ向けて一直線に。
 戦闘が発生するには、口火を切る側であるマーダーの存在が必要不可欠だ。
 この商店街を廃墟にした戦いで、どちらが勝利したのかは分からない。
 だが、少なくともあれほどの力を行使できるマーダーが付近にいる可能性がある。
 警戒する理由はそれだけで十分。
 このゲームに乗ったマーダーの場合、目的は殺人だ。最後のひとりになるために全員を殺す。
 ―ならば、放送で大集団のいることが判明しているマンションに向かう確率は高い。
 大規模破壊を得意とするのなら、むしろ一網打尽は望むところだろう。
 そしてそのすぐ傍には、クリーオウを連れているかも知れないギギナとの待ち合わせ場所がある。
 ギギナは優れた戦士だ。だが、無敵ではない。
 所詮は推測だ。だが、悪い予感というものはなぜだか的中することが多い。
(不幸不幸の人生だけどよ―そこまでツキに見放されてはねえよな!?)
 それは、存外に難しい条件なのかも知れなかった。

31:逃走と覚悟 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:41:26 3L9k9tfj
 彼らは咄嗟に森の中に飛び込んでいた。各々、傷は浅い。
 網膜にはひとりの男が焼き付いている。自らの生命を代価に、彼らを生かしてくれた魔界医師。
 彼の処置は死に際にあってすら完璧だったのだ。
 埋葬をしたいところだったが、その時間はない。事態は生命の危機から立ち直ってなお緊急を要していた。

「西へ逃げよう」
 メフィストの遺言を呟き、決断したのはヘイズだった。だが、その表情は暗い。
 全員が分かっていたのだろう。自分たちは足場と見通しの悪い地面を走る。対して相手は空を飛ぶ。
 追いつかれるのは必至。さらにいうのなら戦力も桁違いだ。
(勝てるわけがない)
 なまじっかIブレインによる未来予知演算が可能なヘイズは、誰よりも正しくそれを理解していた。
 戦力、状況、地の利―その他諸々の要素で敗北の演算結果がはじき出される
 それでも逃走を選んだのは、ここで生命を放棄できないからだ。
 放棄するというのならば、それは侮辱だ。すべてを投げうって彼らを存続させた者への侮辱。
「奴らはそれをしようとしてる」
 静かに、呟く。
 火乃香、コミクロン、そしてパイフウはその呟きを黙って聞いていた。
 誰もがその言葉の意味を理解している。
 誰もがその言葉の重みを理解している。
 誰もがその言葉の不可能を予測している―
「だけど、俺達はそれにどこまでも抗わなくちゃいけない……!」
 すべてを理解している彼らに、反論はない。いや―
 ひとりだけ、コミクロンが青白い顔をしてぼそりと呟いた。
「……無駄だ。それじゃ無駄死にだ」
 予想外の言葉に、驚愕の表情で火乃香が振り向く。
 コミクロンの表情はどこまでも白かった。暗いのではない。ただ白い。そこにはあらゆる感情が消えていた

32:逃走と覚悟 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:42:43 3L9k9tfj
「あんなのから逃げられる訳もないし、勝てるわけもな、いっ」
 陰鬱な言葉を吐き捨てたコミクロンの語尾が跳ね上がる。
 ヘイズがコミクロンの胸ぐらを掴んでいた。押し殺した怒声があげる。
「じゃあどうしろってんだ! このまま無駄死にするってのか!」
「俺たち全員が何をしようと、それは無駄死にになるっていってるんだ!」
 いつになく強い語調で、コミクロンが絶叫する。
 そこに―その底なしの悲壮感の中に、だが諦観がないことにヘイズは気づいた。
 胸ぐらを掴まれたまま、コミクロンが冷たい口調で断言する。
「だから、俺が行く。俺がしんがりで足止めをする。
 その間に三人はバラバラに逃げてくれ。そうすれば少しは生き残る確率もあがるだろ」
「馬鹿なこと―」
 制止の言葉をあげようとしたヘイズの喉に、夜気で冷えた指先が当たった。
 コミクロンの指だ。いつの間にか胸ぐらを掴んでいたヘイズの手が払われ、逆に急所に触れられている。
 その正確さと指先から伝わってくる冷気に、ヘイズは身震いした。
 いつもふざけたことを言っていたこの男は―こんなにも冷たい表情ができる奴だったか?
「……ティッシやキリランシェロほどじゃないけどな。<塔>の魔術士には戦闘訓練が課されているんだ。
 殺す覚悟と―殺される覚悟。必要なら、その両方を魔術士は要求される」
 我ながら馬鹿げたことを言っていると、コミクロンは自覚していた。
 暗殺の時代は終わったのだ。そんなのは前時代的な、カビの生えた訓示でしかない。
 それが自分に必要になるなんて、ずっと思っていなかった。
「でも、いまは必要なんだ」
 今のコミクロンの命を捨てる覚悟とは、誰かを救う覚悟。
 二度と仲間を死なせたくない。自分の無力さが死なせた少女の肌の冷たさ。
 そんなものは、もう沢山だ。

33:逃走と覚悟 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:45:56 3L9k9tfj
「どのみち空を飛ぶ奴らに有効な攻撃手段を持っているのは俺だけだろ。だから」
「……私のことを忘れてない?」
 言葉を遮ったのはそれまで沈黙を守っていたパイフウだった。
 コミクロンは僅かに目を見開いた。<塔>の最機密―いや、もはやこのゲームにそれは愚問か。
「……施条銃か。でも、それじゃ単純に威力が―」
「威力は関係ないでしょう? あくまで“囮”ならね」
 コミクロンはびくりと身を竦めた。
 目の前の女性が発した言葉の裏には、自分が相打ち狙いで挑もうとしていることを見破っている響きがあったからだ。
 魔術士達は魔術を制御するため、無意識のうちに全力を封じている。
 その制限を外して全力で放てば、おそらく刻印で弱体化している今の状態でも通常規模の魔術を放てるだろう。
 ただし、バックファイアで確実に死ぬことを厭わなければだ。
 コミクロンはそれを承知で意味消滅を仕掛ける気でいた。
 この中で傷を治療できるのはコミクロンしかいない。だからコミクロンはひとりで行く必要があった。
 自分の中にある、目前でシャーネを死なせた悲しみ。それと同種のものを置き土産にするのは趣味が悪すぎる。
 そう、思っていた。
 その後ろ向きな逃走を、パイフウが打ち砕く。
「あなたは卑怯者。逃げろなんて言って、一番逃げているのはあなたじゃない」
「……あんたは違うのか?」
 逆に問われると、パイフウは苦笑を見せた。
 違いない―静かに認める。確かに自分は逃げようとしている。
 その質問には答えずに、パイフウは火乃香を見つめた。戸惑うように、火乃香が口を開く。
「先生は……」
「……お願い、ほのちゃん。聞かないで」
 懇願する。彼女に問われれば、自分は容易く決壊してしまうかも知れない。
 辺境随一の暗殺者。かつて彼女はそう謳われていた。
 だが、いまの自分はどうだ。そんな称号など、見る影もない。
 ひたすらにいまの彼女は人間だった。冷徹な殺し屋ではなく、ただの人間。人間では怪物に勝てない。
 だから逃げているのだ。火乃香にゲームに乗ったことを知られたくない。火乃香にその理由を背負わせたくない。
 だが嘘も言えない。これを逃げといわずに何という?
 彷徨うように、指先が外套に触れた。

34:イラストに騙された名無しさん
07/01/27 23:47:17 Cg3sH5GO
支援

35:逃走と覚悟 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:49:13 3L9k9tfj
(私も、逃げることしかできない……)
 彼女に出会ってしまえば、冷徹な強さは発揮できない。パイフウという人間は、弱い。
 そうか。
(……そうか)

 唐突に、気づく。
 パイフウは顔を上げた。
 そうだ、自分は弱い卑怯者だ―捨て鉢な戦いは出来ない。
 何故ならば、その理由は目の前にいるではないか。

「私は逃げるんじゃない。そしてあなた達を助けるでもない」

 自分は弱い―だからどうした。

「私には私の矜持がある」

 口許に刻むは獣の笑み。
 何故黒幕の犬に成り果てた―?

「私は譲れない、奪われたくない物のために戦う!」

 ―彼女を救うと誓ったからだろうが!

36:逃走と覚悟 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:49:43 3L9k9tfj
 彼女の宣告に、コミクロンとヘイズは黙っていた。だが、長い沈黙ではない。
 その言葉には力があった。皮肉にも彼女が破滅の切っ掛けを作った大集団の長、ダナティアと同種の力が。
「やれやれ―ティッシかアザリーみたいな女だな」
「嫌いじゃないぜ。そういうの」
 二人の顔には苦笑と了解。だが、火乃香だけが表情を歪ませている。
 パイフウは優しい笑みを浮かべながら、迷彩外套を火乃香に押しつけた。少しでも彼女を救ってくれるように。
 こんな表情も……忘れていた。管理者共に奪われていた。
 だが取り戻した。もう大丈夫だ。この顔ができるのなら、自分はまだ戦える。
「あなた達、彼女をきちんと守りなさいよ―ナイトの役目を譲ってあげるんだから、光栄に思いなさい」
「お姫様ってタマかよ。だが、約束する。俺たちは絶対に死なない。そしてお互いに誰も死なせない」
 ヘイズが力強く断言する。
「コンビネーション1-1-9」
 コミクロンが大陸最高峰の治癒魔術を発動。鈍痛のみを神経に残し、パイフウの傷が瞬時に塞がる。
「餞別、いやこれは貸しだな。あとで返せよ。そしてこの偉大なる頭脳に刻まれたことを感謝するがいい」
「……ありがとう」
 彼女のためならば、臆面もなくそんな言葉も言えた。
「先生……あとで、また会えるよね?」
 ただ、泣きそうな顔をした火乃香には、ひと言も返すことは出来なかった。
 困ったように笑みを浮かべて、誤魔化す。
 彼女にだけは、嘘を付けなかった。

37:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:51:27 3L9k9tfj
◇◇◇

「……二手に分かれた。ひとりがこっちに向かってくる」
「本当? どっちを狙うの?」
「三人の方を―逃げられると厄介だわ」
 シャナが判断した途端、狙ったようなタイミングで銃弾が炎の翼を掠めた。
「……訂正、銃を持ってる。背後を突かれると面倒だから、先にひとりをやるわよ―」
 翼を翻し、シャナは標的を捉える。
 左目に視界を開き、フリウ・ハリスコーは標的を見据える。

◇◇◇

 かつて人は闇を恐れた。
 見通せない暗闇を。人智の及ばない何かが潜んでいそうな黒色を恐れた。
 人は灯りを造った。知識の灯火は、しだいに暗闇を生活の圏内から遠ざけていった。
 だが、それでも暗闇は無くならない。闇を忘れても、人は闇を恐れる。

 パイフウは暗闇の森を全力で走る。そこに恐怖はない。あるとすれば怖いくらいの歓喜だった。
 彼女の足取りに迷いはない。外套を脱ぎ捨てたパイフウの体は軽い。
 だがそれ以上に、彼女の体を強く後押ししている物がある。

 それはとてもとても古くさく、
 それはとてもとても青くさく、
 だが世界の何よりも強靭だった。

 聞かれれば赤面してしまうほど恥ずかしい。だが、いまはそれがむしろ誇らしい。
 今も昔もこれからも、これはきっと最強の武装だ。

38:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:53:19 3L9k9tfj
(ほのちゃんを助けられる。ほのちゃんの為に戦える)
 冷徹を気取り、管理者の犬になることは我慢できた。
 だが、嫌悪はあった。いくら押し込められても気に入らないことには変わりない。
 いまは、それがない。
(私はいま―臆面もなくほのちゃんの為に戦えている!)
 空を見上げる。輝く翼で飛行する物体は目立ったが、的は小さい。
 構わずにパイフウはライフルを構えた。一発だけ撃つ。
 観測手は居ない。だが弾丸は敵を掠めた。有り得ざる手応えにそれを感じた。感覚がひたすら鋭敏になっている―
(私は最強だ)
 パイフウは一点の疑問もなくそれを信じることが出来た。
 自分は死ぬ。それはきっとひどく火乃香を悲しませるだろう。
 ごめんなさい。ほのちゃん。あなただけにはこの苦しみを背負わせたくなかった。
(私が殺した人達も……きっとそう。悲しんだ人がいた)
 静かに、認める。
 どうしようもなかったのだ。パイフウは火乃香を守りたかった。
 だけどそれは彼女の都合。それを押しつけられ、殺された連中にとって知ったことではない。
(ごめんなさいとは言えない。償うことも出来ない。
 これは代償なんでしょうね。悲しみは連鎖する。それが私の所までやってきた)
 だから、逃れられない。パイフウはここで死ぬ。
(だから……今一度の、自分勝手を)

 パイフウは跳躍した。

39:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:53:57 3L9k9tfj
 太い木の枝に掴まり、逆上がりの要領で一回転。幹に背を預けて、射撃体勢を取る。
 ―思ったよりも速い。スコープに映った大きな影を、パイフウは睨み付けた。

 きっとあれは自分を殺す。

 そしてきっと、あれは自分より弱い。

 思わず唇の端が吊り上がり、真珠色の犬歯が覗く。
 弾倉内に残っていた弾丸を全て撃ち込む。火薬が連続して炸裂する威力に銃が震える。
 だが、パイフウはそれを完全にコントロールしきっていた。迫る二人組が回避の為に旋回し、僅かに遠ざかる。
 パイフウはすぐにその場から飛び降りた。一秒後、影が再び接近し、樹上に銀の巨人が現れる。
 タリスマンのブーストを飛行に使っているので、破壊精霊の力は再び制限されている。
 それでも銀の一撃は、パイフウが足場に使っていた大樹を粉微塵に打ち砕いていた。
 パイフウは走る。できるだけ火乃香達から遠ざかるように。
 背後で銀の巨人が消え、再び影が上空に舞う。
(やはり、あの巨人はある程度近づかないと使えない)
 どれだけ離れても使えるのなら、先程の戦闘であんな奇襲をする必要はない。
 地上に降りてくれば、闇に乗じての狙撃と奇襲に秀でるパイフウの餌食になる可能性がある。
 だから空の利を捨てるつもりは無いのだろう。しかし、ならば一撃でパイフウを仕留めなければならない。
(ならば一撃で殺されなければいい)
 その根拠の無い自信は、無限に沸き上がってくる。

40:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:55:25 3L9k9tfj
 疑問の声が聞こえた。落ち着き払った、だがどこか苛立ちを含んでいるようにも聞こえる。
『……君は誰だ。かつてのミズー・ビアンカなのか?』
 その質問に、彼女は大笑した。
 誰が発した疑問なのかは知らないが、馬鹿げたことを言う。
「愚問」
 彼女はパイフウ。ただのパイフウ。
 現在、この島にいるどの参加者よりも強い最強者。誰にも冒せない無敵の存在。
『何故奪えない……君は心の証明なのか?』
 証明せよ。心の実在を証明せよ。
 問うことだけしなかった精霊は、理解できない。

 ―それはとてもとても古くさく―

 ―それはとてもとても青くさく―

 どこまでも陳腐なそれは、だが世界の何よりも強靭だった。

「私から、心を奪う?」
 浮かべるのは優しい笑み。火乃香のことを想うだけで、この笑みはひたすらに尽きない。
「奪いたければ触れるがいい。だけど、誰も私からは奪えない」
 空を見上げる。影は直上から一気に降下。最速の助走を付けて、炎弾と破壊精霊を繰り出してくる。
 パイフウは、吼えた。ライフルに新しいカートリッジを叩き込み、初弾を薬室に装填する。
 ―彼女は取り戻した。完全にとまではいかないが、奪われていた物を取り戻した。

「―私は、最強だ!」

41:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:56:56 3L9k9tfj
 ―それから数分後。
(……思ったよりも手間取った)
 地面に着地して、無感動にシャナは呟いた。
 幾度目かの突進の末、解放された破壊精霊ウルトプライドはその豪腕を標的に叩きつけた。
 標的が、この世界いたという痕跡も残さずに消失する。
 今の彼女にとって、殺人とは時間の経過という意味でしかない。
 だがその無感動の中に、彼女は奇妙な違和感を覚えていた。
(なぜだか、勝った気がしない)
 確かに『殺した』。確かに『殺されていない』。自分は負けていない。
 こうしてわざわざ地面に降りて確認もしてみた。討ち損じた、という訳でもない。
 だというのに、なぜだか―実感が湧かない。
(……まあいいか)
 それよりも、自分にはやるべきことがある。
 振り返る。そこには精霊を封じ、空虚な眼差しを彷徨わせているフリウの姿があった。
「さあ急ぐわよ―あの三人も、そして他の参加者も」
「うん。全部、壊す」
 再びデモンズ・ブラッドを活性化させ、増幅した翼を具現化。破壊と殺人の申し子は空に舞い―
 そして二人同時に眉をひそめた。
「……なに、あれ」
 鬱蒼と木が生い茂る森。
 先程まで、確かに森だった場所。
 その一部分。ある箇所に生えている木々の群れが、次々と切り倒されていた―

42:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/27 23:58:46 3L9k9tfj
 夜の森。木の葉は彼らを上空から覆い隠し、暗闇は痕跡を見つけにくくしてくれる。
 それでも死神は追跡をやめないだろう。この島から敵となる生命が消えるその時まで。
 ヘイズの背後からは、途切れ途切れに轟音が追いかけてくる。
 パイフウは善戦していた。この音が続いている限りは、自分たちが殺される心配はない。だが。
 ―演算終了。逃走成功確率12,74%
(クソっ)
 先程から行っているIブレインの演算結果は、相変わらずろくでもなかった。
 逃げれば逃げるほど逃走成功の確率は上がる。だが、それはコンマ小数点以下の微々たる物でしかない。
 まるで、どれだけ足掻いても逃れられない未来を予告するように。
 バラバラに逃げれば確率は跳ね上がるだろう―だが、誰もそれを提案しなかった。火乃香すらも。
 パイフウと別れた後で、一番最初に走り出したも彼女だった。
(火乃香は強い―フリをしてるんだろうな、きっと)
 横目で、隣を走る彼女を見やる。
 パイフウという、彼女と浅からぬ縁のある女性から受け取ったコートを大事に着込んで走る表情に迷いはない。
 だが、それは感情を押し込めているだけだろう。演算ではなく、直感でそれを察する。
 それでも、気丈だ。そうして他人を気遣えるのだから。
 思わず口許に笑みが浮かぶ。
「どう、したヴァー、ミリオ、ン。酸素、欠乏症、で、幻覚でも、見えたか」
「お前こそ、息、上がってるぜ?」
 二人で、声を殺して笑い合う。それでさらに肺に負担が掛かる。
 だが、誰も止まろうとはしなかった。いつしか牛歩に劣る速度になろうとも、止まることはしない。

43:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:00:50 CBPtOJy0
 魔界医師メフィスト、そしてパイフウ。
 自分たちを生かしてくれた彼らに報いる方法は、きっとそれだけだ。
 ひたすらに逃げ続けて、そして―まあ、そこから先はあとで考える。
 そのためにも、逃走を完了させなければ行けない。
(それでも逃げるだけじゃ、成功しない)
 盲信ではなく、決意でもなく、生き残るためならば現実を直視しなければならない。
 それは絶望ではない。生存への意思だ。
 ヴァーミリオン・CD・ヘイズ。彼は最強ではない。
 フレイムヘイズとやり合えるほどの技量はなく、破壊精霊と殴り合えるほどの膂力もない。
 ならば考えろ。もとより自分は欠陥品。その欠陥品のみに許された超速演算。人食い鳩が持てる武装はそれっきりだ。
 Iブレインが稼働する。あらゆる情報、戦術、経験を統合し組み合わせ、生存へのロジックを組み上げていく。
(……クソ、足りねえ)
 だが何をするにしても、手足の数が足り無さすぎる。
 自分の記憶容量が狭いとはいえ、それでも遭遇はつい先程。脳裏に残る残像は鮮明だ。
 だから分かる。炎使いの馬鹿げた身体能力には対抗できず、最強無比の巨人には対応すら出来ない。

44:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:04:05 CBPtOJy0
(……ひとつだけ分かったことがあるとすれば、あの巨人の有効範囲くらいか)
 ぽつりと胸中で洩らす。独り言に使えるような酸素は、もはや持ち合わせていなかった。
 演算から導き出された結果。あの巨人は制御されているようで“されていない”。
 戦術、破壊対象への選別にムラがありすぎる。手近な物から破壊している感じだ。
 つまり、障害物が多いところで使用するにはある程度目標に接近しなくてはならない。
(だが、それなら一番近いところにいる使用者に危害が及ばないのは何故だ?)
 何者からも制御されないような存在を武器にできるはずがない。どこかで詐欺をやられている。
 さらに演算を続行する。
 戦闘中、巨人が奇妙な方法で移動することがあった。まるで瞬間移動でもするかのように。
 だが本当に瞬間移動が出来るのならば、走ったり跳んだりする必要はない。おそらくはここに意味がある。
 科学者が対照実験から見出すように、瞬間移動した瞬間と、その他の時の情報から共通点と異なっている部分を検索。
 ――エラー。ほんの僅か、情報が足りない。喉を掻きむしりたくなるようなもどかしさ。
(……クソ、あとひとつ、なにかあれば―)
 計算しかできないということは、解答に従うしかないということだ。
 ヴァーミリオン・ヘイズ。彼自身に解答を書き換える力はない。
 だからヘイズは偶然を望んでいた。
 緻密な計算によって戦闘を行う彼にとっては、忌むべき要因でさえあるそれを。
(……けっ。らしくもないか)
 そんなものに縋るとは、情けないにも程がある。
 演算を止めずに、こうなりゃぶっ倒れるまで走ってやる、と覚悟したその時。
 不意に、前方の茂みから人影が飛び出してくる。

45:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:05:42 CBPtOJy0
(っ―こんな時に!)
 三人は急停止した。合わせるように、人影も警戒するように拳を構える。
 暗がりで不鮮明にしか確認できないが、どうやらそれは服の色のせいもあるらしい。全身黒ずくめ―
(最悪だ―思いっきりマーダーくせえじゃねえか!)
 あまりにも強大なマーダーに追われていたため、遭遇戦など予期していなかった。
 三体一とはいえ、ここで光や音のでる攻撃をしたら追撃者達に居所がばれる。
 仮に相手が格闘の達人なら、無音で無効化できるのは剣技に秀でた火乃香しかいない。
 だが、敵には無音という制限がない。
 仮に銃器や魔法のような武器を持っているのだとしたら牽制しなくてはいけない。
「お前は―」
「お前ら―」
 発言は同時。だが、構わずにヘイズは続けた。
「このゲームに乗った奴か!?」
「この近くで戦闘があったのか!?」
 叫び合った内容から、情報を確認する。
 互いにマーダーでないことが、一応は宣言された。だが、ヘイズ達には時間がない。
 警戒は解かず、視線を逸らさないまま首を振る。生存のための地響きはまだ続いていたが、いつ途切れるとも知れない。
「悪いが話してる暇はない。後ろから超弩級のマーダー組が追撃してきている。いまは仲間が足止めしているが―」
「どうでもいい! 戦闘があったのなら、そこに金髪の小娘がいなかったか!?」
 無視するようにして叫ぶ黒ずくめ。噛み合わない会話と時間の浪費に苛立ちが募る。
「いなかったよ! とにかく今はそんな場合じゃないんだ―!」
「ヘイズ、時間の無駄よ。まだ先生が食い止めている内に、早く」
「うむ。その通りだヴァーミリオン」
 コミクロンが最後にそう断じた。黒ずくめにびしりと指を突きつけ、宣告する。
「貴様、とにかく道を空けろ! でないと俺様の問答無用調停装置が―」
「って―コミクロン!?」
 なにやら黒ずくめが驚愕し、絶叫する。
 どうやらコミクロンに原因があるようだが―
(―おい、待て)

46:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:07:06 CBPtOJy0
 ヘイズは違和感に気づいた。まだこちらはコミクロンの名前を口にしていない。
 ヘイズとコミクロンは最初期の頃から組んでいるが、この目の前の男に遭遇したことはない。
 ならば、この黒ずくめは―
「むう。貴様、何故この世紀の大天才の名を―ああ、俺が天才だからか」
「やっぱりコミクロンか。いや、俺―僕だ! キリランシェロだ!」
「……なんだと? キリランシェロ? 嘘を付け、リストには載ってなかったぞ」
「いまはオーフェンって名乗ってるんだよ―ていうか、クソ。こんなのありなのか?」
「つまり―」
 ヘイズは会話を遮った。時間が惜しい。
「あんたはコミクロンと同郷の―魔術士か? 証明できるものは?」
「<牙の塔>、チャイルドマン教室で一緒に学んだ。チャイルドマンはキエサルヒマ最強の黒魔術士だ。
 ついでに、これがその証明だ」
 黒ずくめが銀色を投げてくる。ナイフを警戒したが、どうやらそれはペンダントらしい。
 コミクロンがキャッチし、裏側を確認する。
「コミクロン?」
「……確かに、キリランシェロのだ。言ってることも正しいが……」
 むむ、と唸るコミクロン。時間の経過に苛立ちを隠しきれなくなってきた火乃香。
 ―パイフウと別れてから約一分。命と引き替えの足止めも、そろそろ限界だろうとヘイズは踏んでいた。
 だがコミクロンと同郷だというこの黒魔術士の協力が得られれば。
 事態を好転―とまでは行かなくても、破滅を先延ばしくらいは出来るかも知れない。

47:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:09:06 CBPtOJy0
「キリランシェロ―だったか? 急いでいるようだったが、ここから先には進めない。
 凄腕のマーダー二人がこっちを追跡している。誰彼構わず殺しまる最悪の奴らだ。だから俺たちと―」
「―悪いが組んで逃げるっていうのはなしだ。それよりも、くそっ。誰彼構わずだと? 最悪じゃねえか!」
「アンタは何しにここへ? 目的があるんなら協力できるとは思わないか?」
 相手の返答に失望を覚えながらも、ヘイズは根気強く尋ねた。
 このまま逃げ続けて僅かな確率にかけるか、あまりレートの良くない博打にかけるか。
 確率としては五分五分だろう。
「……この近くで零時に仲間と待ち合わせをしていたんだが、俺もマーダーの痕跡を見つけて戻ってきたんだ。
 いまから一時間くらい前に待ち合わせ場所に着いた。そしたらついさっき爆音と叫び声みたいなのが聞こえた。
 仲間が被害にあったのかもと思って見に行こうとしたら、いまここであんたらに会ったわけだ」
 一息でそう言い切ると、オーフェンは急にあれ? といって辺りを見渡し始めた。
「そういやあの人虫、どこにいきやがった? さっきまでそこにいたんだが」
「連れがいるのか? 小娘?」
「いや、きっぱりと連れってほどじゃないんだが、そいつの知り合いがいたらしくてな。
 話を総合すると、どうもアンタ達のいってるマーダーがそうみたいだが―」
「―待て。敵の知り合いがいるのか?」
 ヘイズははっとして、オーフェンに詰め寄った。
 オーフェンは肩をすくめるような動作をすると、頷いた。
「ああ。つっても人畜無害……いやまあ、とにかく物理的な攻撃力はない奴だが」
「んなこたどうでもいい!」
 急に声を荒げるヘイズ。その変貌に、残りの三人が絶句する。
 ヘイズ自身も驚いていた。自分のことなのに、そうする理由がよく分からない。
 だが、胸中に怒りはなかった。あえてカテゴライズするとすれば、それは―
「そいつはどこにいる!? いや、アンタでもいい。敵について何か聞かなかったか!?」
「ちょっと、ヘイズ―」
「おい、ヴァーミリオン?」
 火乃香とコミクロンの問いにも、ヘイズは答えない。

48:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:15:02 CBPtOJy0
 オーフェンはしばらく考えるように虚空を見やった。記憶を辿る。
 巨大な咆吼が響いた時、それにスィリーは反応した。ただし、やはりいつもの軽い空虚な口調で。
『ぬう。あれはまさしく小娘魔神の雄叫び』
『小娘?』
『小娘を知らんのか? 増長し、すぐに泣き、さらに喧しく、俺様を拉致監禁しようとする残酷な生き物だが』
『……さっきいってた奴か。そいつが……近くにいる? あの叫び声はそいつのか?』
『あんな声で叫ぶのは小娘とはいわん気がする。絶対ナイフとか舐め回してるし、無駄にマッチョそうだ。
 しかしまああれだな。無抵抗飛行路に干渉できる精霊が解放されたとしたら、俺も安全じゃねえしな。
 逃げていいか?』
『危険なのか!?』
『うむ。長老は言っていた。水晶眼に掴まりたくなかったら人間には近づくな、と。
 まあ実際のところ近づいて水晶眼に掴まる可能性は皆無なわけだが、死んじまう可能性があるというのは洒落にならん。
 ―っておい黒ずくめ、急に走ってどこにいく?』
 さほど長くはかけずに、答える。
「……水晶眼がどうこうだとか、魔神だとか、そういう益体もない話は延々と聞いた」
「水晶眼? 魔神?」
「さあな。意味までは知らねえよ。というより、あの人虫の言うことに意味があるのかどうか―」
 かぶりを振りながら、オーフェンの言葉の後半は呻き声になっていた。
 だが、ヘイズはそれを聞いていない。I-ブレインが再び高速で演算を開始している。
 そうして、ようやく“答え”がでる
(―繋がった)
 足りなかった部分に、繋がった。
 偶然にも。
「くっ―はははははは!」
「ちょ、ヘイズ!?」「ヴァーミリオン!?」
 笑いが止まらない。こんな偶然は彼の高度演算機能ですら算出できない。
 だからこそ、あの常識外なマーダー達に打ち勝てる。
「―あるぞ」
「……え?」
 唐突に呟いたヘイズにきょとんとする二人と、黒ずくめ―確かオーフェンだかキリランシェロだかと言ったか。
 彼らを見渡しながら、ヘイズは紡いだ。反撃の言葉を。
「この戦いに勝つ方法だ。俺たちは勝ち残れる―」

49:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:15:43 CBPtOJy0
 タリスマンの力で炎の翼を増幅。飛翔し、目標を捉えるまでに一分と掛からない。
 だが、シャナはこのまま突撃することを得策ではないと判断する。
 吸血鬼は夜に生きる生物だ。いまのシャナは、暗くて視界に困るということはない。
 その超視覚が、敵の奇妙な動作を見破っていた。
 十メートル四方ほどに木が伐採され、平地となったその中心に顔までは見えないが三つの人影がある。
(たぶん、待ち伏せ)
 シャナは決して自分の力を過信してはいない。
 そこに油断はない。なぜならば、彼女には果たすべき目標があるからだ。
 敵を、殺す。自己保存の為ではなく、他者の生存の為に殺す。
 殺さなければいけない。その義務のために、彼女に失敗は許されない。
 故に、彼女に油断はない。
 敵もまさかこの局面ではったりはあるまい。待ち構えているということは、こちらを打ち破る自信があるということ。
 おそらくはあの急造の陣地も、何かを狙ってのことなのだろう。
(なら、こっちもそれを利用する)
 フリウはシャナ。シャナはフリウ。
 この短時間での戦闘で、彼女たちはお互いの癖や性質を完全に把握し始めていた。
 歪んだ心の合致は、それほどまでに強い。
「真上から仕掛ける。障害物がないから、おまえの破壊精霊を最大射程で使える」
「分かった」
 フリウが答える。
 彼女の使う破壊精霊はあくまで虚像。ただの投影ゆえに、精霊は彼女からそれほど離れられない。
 かつてリス・オニキスニに指示する前。生涯で二度目の解放をした時に、彼女は精霊に引きずられていた。
 先程のパイフウとの戦いで、すでに彼女たちは障害物の多いところは不利だと悟っている。
 待ち伏せされているのだったら、接近戦もそれほど安全ではない。
 ―ならば一番の有効策は、最遠距離から最大火力を叩き込むことだ。

50:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:17:08 CBPtOJy0
「上空に到達したら、翼のブーストを解いておまえに回す。一撃で決めて」
 言い放つより速く、シャナは急上昇を開始する。
 フリウ・ハリスコーは念糸を紡ぎ始めた。水晶眼に接続し、開門式を唱えるタイミングを計る。
 ふと、フリウはシャナを右目で盗み見た。
 抱えられているため、接している部分からは人の温もりを感じる。だが。
(……あたしは、この人と同じ)
 自分の温もりならば、信用できない。それは錯覚かも知れない。
 かつてフリウ・ハリスコーは未知を下した。
 信じるに足る、確たる物。それを問われ、フリウ・ハリスコーはひとの繋がりを示した。
 証拠などない。だが信じられるもの。
 ひとは独りでは生きられない。だが、ふたりならきっと信じられる。
 シャナにはいる。多くを失ったが、それでもシャナは己が信じられる者の為に戦っている。
 フリウにはいない。全てを失い、フリウ・ハリスコーは孤独だった。
(だから、あたしは何も信じられない)
 気配がした。気のせいかも知れない。だがどちらも似たようなものだ。その本質は果たされるであろう未来にある。
 精霊アマワ。フリウはぼんやりとその名前を繰り返した。
 黒幕はきっとこいつだろう―シャナから聞いた時、フリウは確信していた。
 アマワはいつも奪っていく。そしていまのフリウにそれを止める術はない。
(サリオン……アイゼン、ラズ、マリオ、マデュー、マーカス、ミズー・ビアンカ……)
 もう会えない彼らの名前。そこにフリウはいくつか名を付け加えた。ロシナンテ、要、潤、アイザック、ミリア。
 失ったものは、取り返せない。この異界に来て、フリウ・ハリスコーはすべてを失った。
 信じられない……ひとりであるかぎり何も信じられない……
(だから、全部壊そう)
 知らずの内、俯いていた顔をあげる。と。

51:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:17:56 CBPtOJy0
「よお」
「……」
 そこには見覚えのある顔があった。
 いや、顔というには語弊があるか。こちらから十センチほどしか離れていないのに、その全身象が視界に収まる。
 最初に浮かんだ感情は、懐かしさというよりは単純な疑問だった。
「……スィリー? なんであんたここにいるのよ」
「さあなぁ。高度すぎて言っても小娘には理解できないかもしれんし」
 羽があるというのに、相変わらず人精霊はそれを無視した姿勢で飛行していた。寸分違わず、こちらと同じ速度で。
「しっかしまあ、随分な挨拶だぁな。
 俺を置いてった黒ずくめを追いかけてたら、何やら森林破壊活動に勤しんでる小娘を見つけてわざわざ来てやったのに。
 まあ小娘だからな。ああ小娘ならしょうがないな」
 うんうんとスィリーは勝手に納得すると、だがすぐに顔をしかめた。
 ようやく周囲の状況に気づいたとでもいうように辺りを見渡し、言ってくる。
「ぬう。しかし小娘も飛べるようになっていたとは小癪千万。
 こうして制空権まで奪われて、俺は西へ東への根無し草。まあもともと飛んでるのに根っこも何もないが」
 以前と変わらず、何の益体もないことを言う人精霊は、しかしある一点で視線を止めた。
 その視線を辿ろうとし、全く辿れないことで理解する。スィリーは念糸の繋がれた水晶眼を注視していた。
「……制空権の徹底的剥奪か? いや、答えんでいい。ところで俺帰ってもいいか?」
「あ―」
 その言葉に。
 無意味なはずの人精霊の言葉に反応するように、フリウは反射的に念糸を解こうとしていた。

52:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:18:31 CBPtOJy0
 ―その刹那。
 きゅぼうっ、というゴム地を指で擦るような音と共に、火球がスィリーを飲み込んだ。
 火は一瞬で消えるが、その時にはスィリーも焼失している。
「……余計なことは考えなくていい」
 耳元で、そんな声が響く。
 シャナは気づいたのだろう。繋がっていた同一の存在が、同一でなくなろうとした瞬間を。
 歪みで練り上げられた彼女たちの絆。それはあらゆる意味で、この世の如何なる物質を破壊できる破壊精霊と同じだ。

 それはもしかしたら、一番弱い。

 手軽に簡単に信じることの出来る手段。だが、最強ではない。
 怒りは湧かなかった。フリウは再び俯いて、念糸を繋ぎ直す。
(……あたしは、これで本当に全部なくしちゃった)
 気づけば上昇は終わり、下降に転じている。
 フリウ・ハリスコーは開門式を唱え始めた。シャナも翼のブーストを解除し、増幅の呪文を唱える。
 再び彼女たちは同一となった。完全に息のあった動作で、その他余分なものは一切無い。
 それでもフリウは自分の頬を撫でてみる。
 しかし一筋も濡れていないことだけを確認すると、彼女は再び狂気に没した。

53:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:19:59 CBPtOJy0
◇◇◇

「……真上から来たか」
 火乃香の努力によって突貫工事で造り上げた舞台。その中心に根付いている切り株の上でヘイズは待ち構えていた。
<I-ブレイン。動作効率を100%に再設定>
 抵効率で直前までひたすら演算させていたI-ブレインを一気に引き上げる。
 初撃は自分が担う。失敗すれば全滅だ。
 それは許されない。だからこうして周到なまでの用意を行った。
 夜の静寂は空気分子の運動予測演算を容易くさせた。
 舞台を整えれば、木の枝や葉がぶつかり合うことで空気分子の運動を不規則にさせることもない。
 パイフウがいなければ、こんな大がかりな仕掛けは出来なかった。
 だから失敗は許されない。支払ったものを無駄には出来ない。
 ヘイズは上空を睨みやる。
 木を切り倒したのは、演算の補助ともうひとつ理由があった。視界の確保。
 こちらが相手を確認でき、さらには相手からもこちらを確認してくれなければならない。
 双方がお互いを認識していると確認することで、奇襲という可能性は消える。
(そうすると、互いのアドバンテージは待ち伏せの罠と、突貫の勢い)
 こちらの罠が相手を打ち破るか。それとも相手の圧倒的戦力がこちらを打ち破るか。
 ―決まっている。
(俺たちが、勝つ)

 敵は炎の翼で姿勢を制御しながら降下してくる。
 降りてくるのは小娘ふたりだが、隕石が降ってくるのと然したる違いはない。
 未だ、翼の光は豆粒のように遠い。だから錯覚だろうが、ヘイズには彼女たちの顔が見えるような気がした。
 白い眼球を、こちらに向けて。

54:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:20:54 CBPtOJy0
(視線か)
 巨人の瞬間移動の謎は、僅かに情報が足りずに解けなかった。
 だが、オーフェンが洩らした単語。眼という単語。それがヒントになった。
 銀の巨人は、常に少女の目の前にいた。目の前にしかいなかった。
 これならば全ての仮定に説明が付く。少女が自分を見ないかぎり、自分が攻撃の対象になることはない。
 おそらくは眼球が向いている方向にしかあの巨人は顕現も出来ないし、進むことも出来ないのだろう。
 恐ろしいほどの偶然が、最後の一押しとなった。
『俺の先生曰く、起こっちまった偶然を否定するのは愚か者だってな』
 全ての事情を話したとき、あの黒魔術士はそんなことを言っていた。
(……腑に落ちないが、確かに疑ってもしょうがない)
 この反撃は全てが笑ってしまうほどの偶然によって成り立っていた。
 頭上の点が大きくなる。重力に引かれ加速しながら、破壊の使徒達が舞い降りてくる。
 だが、ヘイズはその降下を完全に予測演算していた。
 速度、炎の翼による空気の揺らぎ、そして取るであろう最適戦術。
 ありとあらゆる要因を予測し尽し、仮定の未来を見ることは容易い。
 なぜならば、彼はヴァーミリオン・CD・ヘイズであるからだ。
(お前達の判断は正しい。あの時点での急襲は、本来俺たちにとってチェックメイトだった。
 ただ、誰も予測できないクソみたいな偶然が全てを変えた)

 ―彼らは知る由もないが、それは偶然ではなく必然だった。
 この島の『偶然』は全てアマワの物だ。契約者たるアマワ。契約はあらゆる偶然をもってして存続される。
 アマワが誰かに味方することはない。ただ、解答を提示できそうな者を存続させるだけ。
 それがシャナだった。故に、本来ならばヘイズ達を偶然は助けず、逆に破滅させる。
 ヘイズ達はオーフェンと偶然にすれ違っただろうし、あるいは偶然に最強の戦闘狂と再会する可能性もあった。
 だが、アマワはその時余裕がなかった。
 ただひとり―最強を自ら証明する者が居たために。実在する心があったために。

55:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:22:12 CBPtOJy0
 シャナとフリウが近づく。水晶眼の最大射程。それはヘイズの射程より、僅かに長い。
 コミクロンの魔術ならば迎撃も出来ただろうが、怪物となったシャナに防がれるのは自明の理だ。
 故に、コミクロンは動かない。ただ、ヘイズだけが一直線に敵を見据えている。

「此に更なる魔力を与えよ!」
「―開門よ、成れ!」

 破滅が宣告される。
 音もなく、完全な破壊精霊ウルトプライドがヘイズの傍らに現れる。
 破壊精霊は最寄りの物質から破壊する。この場合は、平地の中心にひとり佇むヘイズから。
 だが、誰も動じない。
 ウルトプライドが拳を振り上げる。それでも誰も叫ばない。
(敗因その一。俺はすでに、その巨人を一度見ている)
 故に、予測演算のための情報には困らない。
 拳が振り下ろされ、着弾して、ヘイズがこの世から消滅する瞬間。
 その死までの予定時刻を、ヘイズは完全に予測しきっていた。
<予測演算成功。『破砕の領域』展開準備完了>
 空を飛ぶ彼女達。上空から落ちてくるのならば、それはこちらに近づいてくるということだ。
 銀の軌跡がヘイズを捉える直前―その僅か寸前に、射程に届く。
 ヘイズは指を鳴らした。パチンという小さな音が、だが決定的に静寂を揺るがす。
 指先から生じた空気分子の変動が広がり、それは夜空に論理回路を展開する!
 破壊を司る巨人が、消える。
「っ!?」
 彼の『破砕の領域』では、巨人に致命傷を与えることは出来ない。無論、上空の彼女たちにもだ。
 だが、ひとつだけ例外があった。
 彼女たちの姿勢を制御していた物。破壊精霊を宿すフリウが下を向いているために必要な物。
 炎の翼が、情報解体される。
 咄嗟のことだ。スカイダイビングの経験者だって即座に対応することは出来ない。そしてフリウにその経験はない。
 体勢が落ち葉のようにクルクルと回転し、破壊精霊の照準が定まらない!

56:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:23:16 CBPtOJy0
「くっ―!」
 シャナはフリウを後ろから抱きかかえているため、破壊の視界に入ることはない。
 だが、このままでは激突死は免れない。
 シャナは意識を集中させた。再び翼を作り、姿勢を制御。
(予測済みだっ!)
 前の一撃の後、ヘイズはすでに次の演算に移っている。
<―『破砕の領域』展開準備完了>
 ヘイズがもう一度指を鳴らし、翼を散らす。
 まるで神話にある蝋の羽の英雄のように、彼女たちの落下は止まらない。
 シャナは翼を展開し続けるのは難しいと判断した。よって、その選択肢を排除。
 地上ギリギリで一瞬だけ翼を構築し姿勢制御、吸血鬼の身体能力を使い、落下の衝撃とフリウの体重を支える。
 フリウは目が回っていたが、それでも吐き気は堪えていた。歪む視界にヘイズを捉える。
(壊れろ!)
 念じる。破壊精霊が狙いを取り戻し、再びヘイズを狙う。
 ヘイズに避ける手段は、無い。
 だが、やはりヘイズは動じない。避けるでもなく、じっと精霊の拳を見据えている。
(敗因その二。俺たちの方が手足の数は多い)
 ヘイズに避ける手段はない。だからヘイズの代わりに、未来を書き換える者が居た。
 ガサリという木の葉が擦れる音。
 倒木の、葉っぱが生い茂ったたくさんの枝。そこからコミクロンの上半身が突きでている。
 敵の上昇を見て取った瞬間、すぐに二人はその中に隠れていたのだ。
 コミクロンは頭の中で編んでいた、巨大な魔術構成を解き放つ。
 ヘイズの論理回路と相克し、黒魔術は弱体化する。
 だが、関係なかった。
 なぜならばコミクロンの構成は巨大でこそあったが、内容は見習いでも出来るような単純なものだったからだ。
 しかしシャナの反応も速い。瞬時にコミクロンとの間に夜傘を展開し、防御の体勢を取る。
 だが、それも関係はない。
 なぜならば、それを破壊するのは破壊の王なのだから。

57:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:24:22 CBPtOJy0
「コンビネーション0-2-8!」
 フリウはその破壊の左目の中に、ヘイズを映していた。
 だが、その姿が変化する。
(……誰?)
 見覚えがあるようで、ないようで、はっきりしない。
 だが、すぐに気づく。見覚えはある。だが、それを生の視線で見ることは無かった。
 フリウ・ハリスコー。絶対破壊者が己の視界の中にいる。
(どうして―!?)
 コミクロンの使った魔術は光線の屈折。
 百八十度屈折し、反射となった視線はフリウ自身を捉えていた。
 破壊の王が顕現する。フリウの前に、初めてその破壊意思を主に向ける。
「―!」
 慌てて閉門式を唱え、精霊を封印する。
 フリウと繋がっているシャナも、視界の変化を感じていた。だが、戸惑いはない。
 贄殿遮那を一振りする。瞬時に平地は炎に満たされた。
 通常の炎ならば魔術に干渉は出来ない。だが、シャナの炎は普通の炎ではない。
 コミクロンの魔術の構成が焼き尽くされ、さらに拡大してヘイズとコミクロンを狙う。

58:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:25:01 CBPtOJy0
「我退けるじゃじゃ馬の舞い!」
 フレイムヘイズの炎が魔術に干渉できるのなら、魔術もまた炎に干渉できる。
 パン―という乾いた音がして、炎が鎮火される。
「新手か!」
 シャナとフリウが声の方を見やると、やはりコミクロンと同じように隠れていたオーフェンの姿があった。
 魔術は防御と攻撃、そのふたつを同時に行えない。
 その欠点を補うため、一方が防御を、そしてもう一方が攻撃を司る。
 オーフェンの世界での強力無比な戦闘集団。宮廷魔術士<十三使徒>の常套手段。
 だがその戦術は、彼らの異能が連発できないということを暗示していた。
 シャナはそれをすぐに看破し、とフリウと共に次の行動に移っていた。予想外。だが、まだ戦力はこちらの方が上だ。 
(わたしがあの白衣を殺す。あなたはもう一度精霊を)
(わかった)
 言葉すら使わず、意思の疎通が行われる。
「通るならばその道。開くのならばその扉―」
 フリウの開門式を背に、シャナが駆け出す。左手に贄殿遮那。右手に神鉄如意。
 だが、一歩目を踏み出す時にシャナは違和感を覚えた。
 黒ずくめの出現は予想外。ならば。
(もうひとりは―どこだ!?)
 気付き、コミクロンへと向かう速度を上げる。
 その時、声が聞こえた。

59:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:26:02 CBPtOJy0
「敗因その三―」
 もはや空気分子の振動のことを考えなくてもよいヘイズが呟いている。
 炎の余波で『破砕の領域』は使えない。だが。
「―うちのお姫様を怒らせたことだ」
 鮮血が舞う。
 背中を袈裟に斬られ、シャナはその場に崩れ落ちた
 倒れ臥す最中、見ると虚空から騎士剣と、そして無慈悲にこちらを見下ろす少女の顔が浮いている。
 火乃香だった。形見の迷彩外套を身に纏い、敵が着地した瞬間から気配を絶って忍び寄っていたのだ。
 奇襲ならば、身体能力の差を零に出来る。
「―先生の、仇だっ!」
 そう叫ぶ彼女の顔は、泣いているようにも見えた。
 居合いの勢いは、体を両断するものだっただろう。
 だが寸前に気付いたシャナは、何とか回避行動を取れていた。
 傷は深いが生きている。生きているなら、まだ殺せる。
「―殺す!」
 具象化した炎の拳が、火乃香を打ちすえようと振るわれる。
 だが、そこに標的はいなかった。
「―え?」
 最初から、火乃香は二撃目を振るうつもりはなかった。
 すでに火乃香は引いている―『射線上』から。
 いつの間にか、コミクロンとオーフェンはヘイズの元に駆け寄っていた。火乃香も大きく迂回しながら、それに合流する。
(不味い―!)
 コミクロンとオーフェンは、すでに次の魔術構成を展開していた。
 傷ついた体を無理に動かし、シャナが無防備なフリウの前に立つ。
 防御用に夜傘を再び展開する。

60:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:27:30 CBPtOJy0
「敗因その四。偶然この場にいた魔術士は、コミクロンより強力だった」
「ふっ、この天才の人脈だっ!」
 騒ぐ二人を横目に―
 オーフェンは力強く、真っ直ぐに指さした。眼前の敵を。自分と探し人を危険にさらす存在を。
 大規模な構成を編み上げる。魔力は弱められたが、訓練による自制は損なわれいない。
 だが、本来の規模でなければ威力が足りない。
 その威力をコミクロンが補い、構成を編む一弾指を火乃香が稼ぐ。
「我が左手に―」
「コンビネーション―」
 だが呪文を唱え始めた瞬間、フリウが開門式の末尾を唱えた。
「開門よ、成れ!」
 破壊精霊が顕現する。不完全だが、それでも人を殺すには十分な力を持っている。
 フリウはこの瞬間を待っていたのだ。視線をねじ曲げられる術を使う二人が動けなくなる瞬間を。
 視界を得た水晶眼に、四人を映す。
 ウルトプライドは咆吼をあげ、目の前の一番手近な目標を殴り飛ばした。

61:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:28:47 CBPtOJy0
 澄んだ音が響き、剣が、舞う。
「―!?」
 弾き飛ばしたのは、火乃香が投擲した騎士剣だった。
 それでも破壊精霊は突進するだろう。そして敵を破壊するだろう。
 ―だが、それは失われた未来の出来事だ。
 膨大な演算の先に、小さな勝利を掴み取る。
 全てを予測し、計算し尽したのはヴァーミリオン・CD・ヘイズ。
 ―それしかすることのできない、欠陥品の人食い鳩である。
「―冥府の王!」
 魔術が発動する。キエサルヒマ大陸でも最高峰の魔術師達が吼える。
 崩壊の因子。それは破壊の王の胸部に着弾し、着弾した部分を崩壊させ、大爆発を引き起こした。
 物質崩壊が破壊精霊を消し飛ばし、夜傘に傷を付ける。
 それでもアラストールの皮膜は威力の大部分を削いだ。
 ―そして、次の攻撃は防げない!
「―5-3-8!」
 コミクロンの不慣れな空間爆砕の構成は、それでも傷ついたシャナとフリウに逃げる暇を与えなかった。
 空間が踊る衝撃に夜傘が完全に引きちぎられ、その主と背後の絶対者を吹き飛ばす。
 ―そして荒れ狂う衝撃が止むと、そこには何も残ってはいなかった。
 勝敗は、決した。

62:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:31:09 CBPtOJy0
「……やった、のか」
 ヘイズはその場に座り込んだ。I-ブレインを酷使したため、酷く頭痛がする。
 誘われるように、コミクロンとオーフェンも腰を下ろした。巨大な魔術の使用は、容赦なく体力を奪う。
「―肝が冷えたぞヴァーミリオン。この天才も、二度くらいもう駄目だと思った」
 オーフェンは呻く体力も惜しいのか、ただ荒く息を吐くだけだ。
 黒魔術の最終形態の一、物質の崩壊。その代償は大きい。
 オーフェンは黙ったまま、少し離れたところにいる少女を見ていた。
 立ったままの火乃香。聞いたところによれば、大切な人を失ったばかりだという。
 オーフェンにはクリーオウがいる。火乃香にはもういない。
 だが、その横顔を見て、オーフェンの胸中にはある言葉が浮かんだ。
(だが絶望はしていない、か。この島にも、まだ希望は残っている)
 苦笑する。

 ―この島に神はいない。
 人は疑心暗鬼に殺し合う。
 だが。

「だが、絶望しない。してたまるかってんだ」

 冷えた夜に、荒く白い息が立ち昇る。
 それを見ながら、オーフェンの苦笑いは止まらなかった。

63:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:32:57 CBPtOJy0
◇◇◇

 目を開けると、そこは森の中だった。
 それは当たり前だろう。吹き飛ばされたのだから、背後の森の中にいるのは当然だ。
 ―だが、それを見ることが出来るのは不自然だ。
(―生きている? 何で?)
 フリウは己の生存に驚愕していた。
 あの瞬間、死ぬのは当然だと思った。破壊精霊を失った眼球の痛みを感じた瞬間。
 そして目前で同一視していたシャナの体が消失した時、ならば自分も死ぬのだと思っていた。
 だが、生きている。
(……そうか)
 破壊精霊は、死ぬ間際まで破壊を止めない。
 爆破の瞬間に、拳を振り下ろしていたのだろう。
 それが威力を相殺し、尚かつシャナに守られる形になったフリウを救った。
 ウルトプライドの真の性質を見抜けなかった、ヘイズの冒した唯一の計算違い。
(なら、壊さなきゃ)
 破壊精霊は使えない。虚像とはいえ、それは破壊精霊の力そのものだ。しばらくは回復しない。
 体は動かない。両腕が折れている。罅の入っていた右腕はともかく、左腕までが折れているのは―
 言葉を思い出す。シャナとフリウが同調した時の言葉を。
『もしもわたしが死んだ時、絶対におまえを道連れにしてやる』
(そうか、あの時―)
 夜傘の皮膜が破れた瞬間、シャナはフリウを神鉄如意で打っていた。誓いを果たすために。
 だが凶器を振り切る時間はなく、左腕を折るに留まったたのだろう。

64:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:33:50 CBPtOJy0
(……絶望していたからかな)
 防御が破れた瞬間、彼女たちは死を予測し、それに縛られた。
 もしかしたら、荒れ狂う衝撃の渦の中でも、生き延びられたかも知れない。絶望していなければ。
 それが―そんなものが、勝敗を分けたのかも知れない。
(皮肉なもんだよね。あの人は仲間の為に敵を殺さなきゃいけなかった。
 あたしは理由もなく壊すだけ。なのに生き残ったのはあたし)
 ため息をついて、俯く。
 それでもフリウは壊すだろう。半身を失っただけでやることに変わりはない。全て壊す。
 ひとりでは何も信じることが出来ない。だから壊してしまってもいい。
 集中し、念糸を紡ぐ。
 念糸に五感は必要ない。相手を目視する必要もない。
 あらゆる制限を突破し、念糸は相手に触れられる。人の思いのように。
 フリウは顔をあげた。茂みの向こう、自分を殺しかけた四人組全員に、同時に念糸を繋ぐ。

65:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:36:01 CBPtOJy0
「よお」
 そして、既視感。
「……え」
 目前に、死んだはずの人精霊が漂っている。多少焦げてはいたが。
「な、なんであんた生きてんのよ―」
「小娘はあれだな。やはり修行が足らん。飲んだくれの師匠は見つかったか?
 まあ咄嗟に無抵抗飛行路に逃げ込んだんだが、最近は突然体が爆発するらしい。これはメモしとかねっと」
 そういいながらスィリーは自分の体を探るが、そんな服装で何かを隠せるわけもない。
(……ああ、そうか)
 フリウは笑った。
「む。小娘。人を嘲る奴は嘲られているのだと気付くべきだ。
 ところで小娘はメモ持ってっか?」
「持ってないよ、そんなの」
「分かってはいた。小娘は所詮、役立たずだと」
「あんたに―」
 言われたくない。という台詞を喉の奥に飲み込む。
「……ううん。ありがとう、スィリー」
「メモは無いぞ。まあ感謝は受け取っておくが」
 憮然としている人精霊。とても懐かしい姿。
 辺りは硝化の森ではない。かつての水溶ける場所ではない。取り戻したのは花ではない。
 それでもフリウ・ハリスコーは取り戻した。
(信じられる……あたしは信じられる。言葉を全部覚えてる)
 ミズー・ビアンカ。ベスポルト・シックルド。リス・オニキス。
 ロシナンテ。要。潤。アイザック。ミリア。
 彼らの言葉を覚えてる。彼女の人生に携わった者達の、すべての言葉を覚えてる。
 彼らの生命は終わってしまった。自分が終わらしてしまったものもある。
 だけど、それは無くなってなんかいない。
 忘れていた。だけど、取り戻した。
(あたしはもう大丈夫だ。アマワ。お前の用意した絶望を退けられる)
 まだ言葉を聞ける。元の世界に戻り、気の良いハンター達と言葉を交わせる。
 そう信じることが出来る。

66:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:36:51 CBPtOJy0
「それで、これからどうすんだ小娘?」
「そうだね、どうしようか」
 彼女の呟きは、もう孤独に満ちてはいなかった。
 腕は動かないが、頬が濡れているのを自覚する。

 時刻は零時丁度。
 放送が、始まる。

【023 パイフウ 死亡 094 シャナ 死亡】
【残り 45人】

67:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:38:26 CBPtOJy0
【D-5/森/2日目・00:00】
【奇跡ではない、だが同じもの】
【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:疲労。 軽傷。
[装備]:なし
[道具]:有機コード、デイパック(支給品一式・パン6食分・水1100ml)
    船長室で見つけた積み荷の目録
[思考]:放送を聞く。残りの大集団への接触も考慮しつつ、これからどうするか考える。
[備考]:刻印の性能に気付いています。ダナティアの放送を妄信していない。
    火乃香がアンテナになって『物語』を発症しました。

【火乃香】
[状態]:やや消耗。軽傷。。
[装備]:騎士剣・陰 (損傷不明) 迷彩外套
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水1400ml)
[思考]:放送を聞く。残りの大集団への接触も考慮しつつ、これからどうするのか考える。絶望しない
[備考]:『物語』を発症しました。

【コミクロン】
[状態]:疲労。軽傷。
[装備]:エドゲイン君
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水1000ml) 未完成の刻印解除構成式(頭の中)
     刻印解除構成式のメモ数枚
[思考]:放送を聞く。残りの大集団への接触も考慮しつつ、これからどうするのか考える。
[備考]:かなりの血で染まった白衣を着ています。
    火乃香がアンテナになって『物語』を発症しました。
    『キリランシェロ』について、多少疑問を持っています。

68:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 00:39:47 CBPtOJy0
【オーフェン】
[状態]:疲労。身体のあちこちに切り傷。[装備]:牙の塔の紋章×2
[道具]:デイパック(支給品一式・パン4食分・水1000ml)
[思考]:クリーオウの捜索。ゲームからの脱出。放送を聞く。絶望しない。
    0時にE-5小屋に移動。
    (禁止エリアになっていた場合はC-5石段前、それもだめならB-5石段終点)

【人精霊と小娘】
【フリウ・ハリスコー】
[状態]:全身血塗れ。両腕骨折。全身打撲。だが絶望しない。
[装備]:水晶眼(眼帯なし)、右腕と胸部に包帯 スィリー
[道具]:デイパック(支給品一式・パン5食分・水1500mm)、缶詰などの食糧
[思考]:放送を聞く。ゲームからの脱出。
[備考]:アマワの存在を知覚しました。アマワが黒幕だと思っています。
    ウルトプライドが再生するまで約半日かかります。

69:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 02:06:48 CBPtOJy0
[最強証明における追加事項修正]
【D-5/森】の一部分の木が伐採されています。
【D-5/森】に装備品『神鉄如意』と『贄殿遮那』が半ば埋もれています。
     ※神鉄如意の損傷は不明。次の書き手さんにまかせます

70:最強証明 ◆CC0Zm79P5c
07/01/28 16:39:58 CBPtOJy0
[さらに最強証明における追加修正事項]
※シャナの装備していたタリスマンは粉々になりました。
※火乃香の装備している迷彩外套は起動しますが、
血が付着している部分と損傷している部分は透明化しないため、明るい屋内等だと視認される可能性があります。

71:リーディング・カラケ(なぜか変換できない) ◆l8jfhXC/BA
07/02/03 22:49:50 uEjsekvt
 彼が死んだ。
 青春と呼べる日々を共に過ごした、何かと気にくわない、しかし相棒と言える存在が死んだ。
 憐憫も侮蔑の念も生まれなかった。いつもの皮肉も悪口雑言も思い浮かばない。
 ただわずかに感じた怒りが、苛立ちとなって身体を這い回った。それがひどく不快だった。
 だからその感情を消し去るために、一時的に刃を仕舞うことに決めた。
 代わりに用いるのは、不慣れな口先。
 それはある意味、挑戦といえた。

「ギギァ、ギャーイ、ドク……グフ? 断末魔か?」
「……ギギナ・ジャーディ・ドルク・メレイオス・アシュレイ・ブフだ」
 そんな意を決した行為は、どうやら初っ端から失敗したらしかった。


72:リーディング・カラケ(なぜか変換できない) ◆l8jfhXC/BA
07/02/03 22:50:44 uEjsekvt
「いきなり間違えるなんて失礼ですわ、覚。
ギギナ、ですのね。あたしはアリュセと言いますの。
平和的に情報交換ができるのでしたら、むしろこちらからお願いしたいくらいですわ」
「俺は出雲・覚だ。覚えやすい名前だろ? 俺もまともな会話ができるなら望むところだ。
というわけでお前バニースーツ持ってねえ?」
「いきなり異常な話題に変えないでください出夢さん」
「うわ開始時点から付き合ってる奴に間違えられた!?」
 長身で肩幅の広い青年と、その腰程度の身長しかない幼い少女の組み合わせだった。
 名乗ったかと思えば二人で口論を始めているが、双方ともに注意はギギナからそらしていない。
 さすがに武装した人間に容易に気を許すほど、愚かではないらしい。会話の内容は馬鹿そのものだったが。
「……ともかく、とある三人の人物についての情報が欲しい。そちらが提示する条件は出来る限り飲もう。
騙し討ちをする気は一切無い」
 会話に割り込み、二つのデイパックと腰の大剣、それに背負っていた屠竜刀を地面に下ろす。
 さらに数歩進んでそれを背後に追いやり、両手を挙げた。
 相棒とは違い、ギギナは賢しく心理戦をこなせる技量はない。甘言を弄すことも策略を巡らすことも不可能だ。
 ゆえに、ただ真摯な態度を見せることしかできない。それすらも似合わないと思うが、我慢するしかない。
 ガユス並に性格が歪曲していなければ、事務的な会話程度は成り立つだろう。
「あら、意外と丁寧な方じゃないですの。少なくとも覚よりは話が通じそうですわ」
「む、お前はああいうのが好みなのか?」
「外見に加えて、礼儀正しくて沈着冷静な殿方は魅力的ですのよ?」
「なるほど、原川派か。確かにお前ヒオとジャンル似てるしな。
……ってことはまさかお前も全裸癖が!?」
「あるわけないですのー!」
 歪曲を通り越して混沌としていた。

73:リーディング・カラケ(なぜか変換できない) ◆l8jfhXC/BA
07/02/03 22:51:19 uEjsekvt
(明らかにハズレを引いたが……それでも情報が得られる機会は貴重だ。逃すべきではない)
 今回の放送時点で、既に半数以上の命が失われている。
 この二人のような積極的に他者と協力しようとする者は、ほとんど残っていないかもしれない。
 次の放送時には、あの愛娘の恩人と再会する予定があったが、その前に彼が死ぬ可能性もゼロではない。
 仕方なく、不毛な漫才に割って入る。
「既に死亡している、赤毛の男の情報がほしい。
名はガユス。軟弱で間抜け顔の暇がなくても人に嫌がらせをする口先だけで生きていた男だ」
「やたら主観的な説明だな。あいにくだが赤毛に会ったことはねえ。
今度は俺たちから聞くが、お前千里って知らねえか? 上から下まで俺好みのオンナなんだが」
「主観的過ぎて殴りたくなる説明ですわね」
「あいつを殴るのは難しいぞ? 何せ稀代のコングパワーの持ち主だからな」
 好意的な女には普通使わない形容だったが、なぜか出雲は誇らしげだった。
 抽象的すぎる説明に心当たりなどなく、より詳しい特徴を要求しようとして、ふと気づく。
「貴様の嗜好なぞ知らぬが、奇声を発し怪力を持つ着ぐるみが飛びかかってきたことならあるな」
「着ぐるみ? 千里にんな趣味はないぞ」
「中身の詳細は不明だが、異様に頑丈な着ぐるみだった。防具にはなりえるのではないか?」
「…………、いや、そもそも千里が殺し合いに乗るわけがねえ。奇行癖も鬼嫁暴力だけだしな」
「……そうか」
 かなり特殊な付き合いをしているらしい。一瞬郷里の婚約者のことを思い出して、わずかな身震いと共にかき消す。
 着ぐるみについては、おそらく本当に別人なのだろう。共通する特徴は怪力だけだし、あの体型からして女性というのも考えにくい。
 しかし次の話に移ろうとすると、なぜかアリュセが話を続けた。
「殺し合うつもりじゃなくて、何か理由があったのかもしれませんわ」
 心なしか、彼女の目の色が変わっていた。
 たとえるなら、悪戯を思いついた子供のものに。


74:リーディング・カラケ(なぜか変換できない) ◆l8jfhXC/BA
07/02/03 22:52:03 uEjsekvt
「着ぐるみが脱げなくなって、混乱していた可能性もありますわ。
それに、着ぐるみが邪魔だったけれど、何かを必死で伝えたかったのかもしれませんし。……たとえば、好意などを」
「何ー!?」
「いや、それはさすがに飛躍しす……」
「飛びかかってきたんでしょう? 抱きつこうとしたのかもしれませんわよ?」
「んなまさか、千里が浮気など……!?」
「吊り橋効果ってよくいいますし……こんな美形な方がいたら、心も動くんじゃないですのー?」
「千里―っ!?」
 叫び、出雲は頭を抱えて悶え出した。
 それを追いつめた当人がにやにやと眺める場面は、とても殺し合いゲームの最中とは思えない。
 と、不意にその笑みがギギナの方へと向けられた。
「……これでまともに話せますわね」
 その呟きと同時に、アリュセの足が大地からわずかに浮いた。
 そのまま空中を滑るように移動して、ギギナの足下に着地する。
「今なら、横やりなしで情報交換できますわ。
覚は忘れてるようですけど、その着ぐるみならあたし達も見てますもの。あんな体格、人間ではありえませんわ」
「……意図的に誘導したというのか? 貴様、その姿は咒式か何かの偽装か?」
「偽装? あたし十歳だから難しいことはわかりませんわ」
 白々しい答えとは裏腹な艶っぽい笑みを浮かべて、彼女は対話を続ける。
「ともかく、他の二人の方についても教えていただけません?
もし知っていれば遠慮無く話しますし、知らなくとも今後出会うことがあれば、あなたのことを伝えておきますわ」
「……条件は何だ?」
「見返りなんて求めませんわ。強いて言うなら、あたし達とその知人に危害を加えないことですけど。
あたしはただ、できる限り多くの方の助けになりたいだけですもの」
「こんな闘争の場で、か?」
「状況によって信念を変えられるほど、あたしは器用じゃありませんもの」
 疑念に返ってきた苦笑は、少し弱々しく見えた。しかしすぐに元の微笑に戻り、こちらの返答を待っている。
 まっすぐにこちらを見る目に、嘘はないように思えた。そこには確かに、確固たる信念を貫き通せる意志が見える。


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