06/11/25 18:19:54 4gIJIyrL
黄色い花の紅 アサウラ
第5回スーパーダッシュ小説新人賞にて見事大賞を取った期待作。
物語自体は、銃が合法化された日本で警備会社の特派員が狙われた組長の娘を守る、という、
まさに王道といった構成をしておりライトノベルに馴染みのない読者でもすんなりと物語を楽しめる。
さらに、既存の小説に見られる”キャラクタのもつ人間性”を否定しすることで、
物語の登場人物たちに今までの小説にない奇妙なほどの個性を与えている。
場に流されるだけで何を考えているのかよく分からない人形のようなキャラクターや、
まるで物語進行の都合のために何も考えずに行動しているように見えるキャラクター、
その他にも様々な個性を持った独特なキャラクターたちがストーリーを盛り上げる。
しかしこの小説のすごいところは、なんと言ってもその類まれなる描写力と、
さらには物語の全体にちりばめられた銃器についての豊富な知識に裏付けられた説明である。
中学生の物理実験のレポートを読んでいるような気分にさせられるほど味気なく淡々とした文体は、
まるで、女性でありながら油と硝煙にまみれた主人公のドライな心情を表しているようにすら思える。
さらに、多少大げさだがしっかりとした日本語で書かれるセリフはまるで古き良き演劇のようで、
そのような文体でつづられる文章に銃や武器に関する薀蓄が加わったとき、物語は新しい次元に移行する。
ことあるごとに繰り出される銃器解説は、作者の銃器に対する熱い思いが伝わってくるようであり、
物語自体の盛り上がりの欠如や中だるみを埋めるように読者の知識欲を刺激する。
そのうえ、驚くべきことに、これらの銃器解説は実は出版の際に大きく削られているとあとがきに記載されている。
投稿段階ではさらに量も密度も高い銃器解説が書かれていたらしく、著者の銃器に対する熱意と知識には頭が下がる。
著者は現役の大学生でありこれが初受賞作品ということも有り、確かに至らない所もあるが、
第5回スーパーダッシュ小説新人賞金賞の名に恥じない歴史的傑作地雷である。