07/01/25 21:08:05 FNjqribw
『かのこん5 ~アイをとりもどせ!~』 西野かつみ MF文庫J
一巻から追いかけてきた本シリーズも、はや5巻まで到達した。
これは超人気作「ゼロの使い魔」に比肩する数字である。
(※両シリーズ刊行数をラウンドオフ処理後に比較)
今やかのこんはMF文庫Jのレーベルを、いや、日本を代表する看板作品となったのだ。
その燦然たる輝きは広大なる太平洋とて呑み込むこと能わず、書籍の世界さえ易々と
飛び出して、英訳版の海外出版・ドラマCD化という新展開を引き寄せた。
原作にゆやよんと溢れる瑞々しさを、それぞれ異なった媒体でいかに活写するのか、
制作に携わる諸氏の手腕と感性に期待したい。
さて、薫風高校は新年度に入り少なからぬ変化に見舞われた。
前巻の熊田再入学という不吉さを払拭するかのように、新入生キャラの登場、
桐山の番長としての成長など前向きな変化がいくつも描かれている。
しかしたった一箇所だけ盛大に時を逆行するかのごとき変化を見せたポイントがあった。
ちずるの乳房である。
ちずるを仮死状態に陥れんとする美乃里の計略で盛られた薬が、本来の効果を発揮せず、
あろうことか乳房を縮めてしまったのだ。
繰り返しになるが、本シリーズにおいて乳房は母性の象徴である。
その縮小は母性が作中における絶対性を失いつつある現状の反映なのだろうか。
ちずると耕太はもはや擬似母子の関係に安住することをやめている。
尽きせぬ母性が両者の絆の絶対の担保となりえた揺籃の季節は終わったのだ。
ちずるの恐慌はただ事ではなかった。彼女のアイデンティティの大部分は豊満な乳房に
拠っていた。ちずるにとってこの事態はまさに"乳はShock"―自己喪失の危機であった。
フィジカルな意味では不発だった美野里の毒薬だが、シンボリックな意味においては
見事ちずるを仮死状態に追いやったのだ。
乳房(カップは『I』だったのかも知れない)と共に『自己』を見失い、
物事を正しく見定める『眼』を曇らせたちずるは、
このままでは耕太の『愛』も損ねてしまうと思い込む。
だからこそ今回の副題は「アイをとりもどせ!」なのだ。