05/10/08 19:32:38 NHEYfpmV
男は震えていた。
その不条理に、その不合理に。
だが、その雄たけびは彼女の耳に届く事はなかった。
何故なら彼女は既に羊水に包まれていたから。
8 名前: 文章初心者 [sage] 投稿日: 2005/08/31(水) 15:03:37
「知ってた?水の中って空気より早く音が伝わるんだよ。」
振り向きざまに急に言った彼女の笑顔。
それからだ。何もかもが狂いだしたのは。
地面に落ちた男は、その反発係数の高さが災いして
再び虚空へと投げ出された。
もがく手はただ空を掴むのみ、もがく足は滑稽さ通り越して
哀愁を漂わせるまでの様相を呈している。
不意にドンと何かにぶつかった。
生命の大いなる母。太陽だ。
プツプツという水素原子同士の核融合の音を聞きながら、
男は胎児に戻ったかのように体を丸めて縮こまった。
それが合図だった。 万物は流転し、咆哮を己のものとした。
「雨がやんだ。雨がやんだぞ。」人々は裸足で駆け回る。
そこから根が出、茎が出、葉となった。
俺は笑顔。君も笑顔。皆が笑顔。
街だけは泣いていた。