06/04/18 00:29:24 HNhOjMf9
彼は手に一通の手紙を持っていたが、目をあげてぼくの顔を見つめ、それからまた手紙を見、
それからまたぼくを見た。彼のうしろに、水飼い場に連れて行かれる馬たちの代赭色がかった
赤褐色の斑点が行ったり来たりするのが見え、あまりに泥が深くてくるぶしまでもぐりこんで
しまうほどだったが、いまでも覚えているのは、たしかその夜の間に急に氷がはりつめ、
ワックがコーヒーを部屋に運んできたとき、犬どもが泥をくらいました、といったことで、
ぼくは一度もそんな言いまわしを聞いたことがなかったから、まるでその犬どもとやらが、
神話のなかに出てくる残忍な怪物のように、縁が薄桃色になった口、おおかみのように冷たい
白い歯をして、夜の闇のなかで真っ黒い泥をもぐもぐ噛む姿、おそらくなにかの思い出なのだろう、
がつがつした犬どもが、すっかり平らげ、地面をきれいにしてしまう姿が目に映るような
気がしたのだった。いまは泥は灰色をしていて、われわれはいつものように朝の点呼に
遅れまいとして、馬の蹄のあとが石みたいにこちこちに凍った深いくぼみに、あやうく足首を
くじきそうになりながら、足をよたよたさせて走っていたところだったが、すこしたって彼が、
母上から手紙をちょうだいしたよといった。