06/03/15 23:47:22 gIwhXCbk
『ソウル・ドロップの幽体研究』上遠野浩平
一つの小説は、その裡に一つの宇宙を有している―ちょっと大袈裟に聞こえるが、これは小説に
おいて避けることの出来ない大前提である。
であるからして、小説内の出来事は小説内宇宙の摂理によって説明されなければならないし、また、
作者はその説明を読者に暗示的・明示的に示さなければならない義務を負っている。
だが、ある意味でこれは大変不自然ではないだろうか?
なぜなら、現実世界は、大きな例では大統一理論から身近な例では隣人の心情まで、分からないこ
とで満ち溢れているのだから。
そこでなんとか解決策を見いだそうとしたのが、この小説である。
物語の根幹に横たわるのは、とあるカリスマ的女性歌手の謎の死。
普通の物語なら、この謎の解決が物語内で、もしくはシリーズを通して行われる。
だが、この《ソウルドロップ》シリーズでは、なんとも画期的なことに、その謎は作中で一切語られない
し、今後も語る予定はない(であろうと思われる)のである!
なぜなら、その謎は、全く別の出版社の、全く別のシリーズうちの、ある特定の一冊(のみ)で既に語ら
れているからだ。
まったく、なんというリアリズムだろうか!
刑事や探偵は一つの真実を探すために脚を棒にして歩き回るが、『ソウルドロップ』で初めて上遠野ワー
ルドに触れた人は、この一冊を理解するためにまるで刑事や探偵のような読書経験を体験出来るのだ!
まさにこれは新感覚の、体験型ミステリーと言えるだろう。