06/02/12 16:43:12 QcgijU5M
「セルフィス様は馬耳東風!」弐宮環
第14回ファンタジア長編小説大賞佳作の、知る人ぞ知る名作を今日は紹介したい。
半人前の召喚術師である少年が、風の精霊であるヒロインの尻に敷かれつつ
修業の旅をしていると、なんと野良精霊に襲われている村を発見。
野良精霊の発生源をどうにかしてくれと頼まれて調査してみると……
という感じで話は始まる。主人公はすさまじい素質を秘めながらトラウマのせいで
まともに精霊を使役できないという設定。主要購買層のハートを鷲掴みである。
女体を描き慣れた絵師の筆力を最大限に引き出すように、ヒロインは入浴したり
触手付きな精霊に襲われて苦戦したりと中二男子を狙い撃ちする大活躍っぷりだ。
ボーイッシュ系孤児・ロリ系巫女の義姉義妹村娘コンビ(百合気味)や、
見た目10歳くらいのショタ精霊など、各方面へのサービスも万全である。
だが、誤解してはいけない。この作品にはシリアスな一面も完備されている。
すべての元凶だった突然変異の精霊が絶望の果てに人や精霊を喰っていく描写は、
コメディ部分とのギャップによって、絶大な悲愴感を感じさせてくれる。
主人公がトラウマを乗り越え、喰われてしまったヒロインを召喚術で救う
場面では「どんなに強い力を秘めていても心が強くないとダメだよ」という
作者からのメッセージが読み取れるだろう。
舞台を和風の異世界に設定して読者の大和魂を心地よく刺激し、
あえて横文字の名前な精霊を配置して「精霊とは異邦のものだ」と視覚的に訴え、
“斬颯風精”と書いて“シルフィード”とルビをふって横文字の意味を判りやすく伝え、
“送還する”と書いて“かえす”とルビをふるなどして低年齢層の読者を気遣う。 素晴らしいテクニックの数々は、新人らしい荒々しさで我々を魅了する。
あとがきでは、作者が自作のキャラ(改稿時に消えた一人称「ボク」のロリ)と
対談するという捨て身のギャグまで披露してくれる。まさに到れり尽くせり。
「解説 っぽく」と題されたセールストークの塊からは、編集部がこの作品を
どれだけ高く評価していたかが垣間見られることだろう。
貴方にも是非この感動を味わってほしいと、心の底から私は願う。