06/02/17 01:05:33 mvoq8Aur
「電蜂 DENPACHI」(著:石踏一榮/イラスト:結賀さとる/富士見ファンタジア文庫)
ゲームを愛好する者ならば、時間を忘れ、ゲームの世界に没入した経験は一度ならずあるだろう。
ひととき現実を離れ、架空の世界で「ロールプレイング」する快感は、時ならず人を虜にする。
―だが、もし「ゲームのような世界」が、現実を浸蝕しだしたとしたら?
第17回ファンタジア長編小説大賞〈特別賞〉を受賞した本作は、
「ゲームのような戦い」に放り込まれた少年少女たちのサバイバルを描いた物語である。
作者が本作で一貫して描き続けるのは、「現実」と「ゲーム」の相克である。
ベルトを剣とし、炎や雷を操り、ゲームのように現実の世界で戦う少年少女たち。
それらを媒介するのが、ケータイという至極「現実的な」アイテムである。
そして、ケータイを破壊された者は「死ぬ」―死体を残さず消滅し、
周囲の人間の記憶からも抹消されるという「非現実的な」ルール。この設定が実に秀逸だ。
最初、彼らを「ゲームのような戦い」へと導いたのは、他ならぬケータイであった。
だが、「ケータイの破壊=死亡(消滅)」というギミックは、「非現実的な」世界への導入であった
はずのケータイが、いつの間にか彼らと「現実」を繋ぐ唯一の架け橋となっているかのようである。
死体も残さず消滅する彼らは、まさにゲームの登場人物の如く、そこに「現実」の生は無い。
このような設定が、徐々に進行する「現実」への「ゲーム」の侵攻を実に象徴的に描いている。