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血まみれ学園とショートケーキ・プリンセス 真行寺のぞみ 『電撃文庫』
著者と主人公名が同一である、いわゆる自伝的小説であり、井上靖氏の名著
「しろばんば」を彷彿とさせられた。
苺のショートケーキが好きなごく普通の女子高生、真行寺のぞみは、怪しいゲーム
センターで、幼馴染みのユージに来ては行けないと警告された。
その夜に妙な夢を見、次の日、学校で化け物に変化した校長と教頭に襲われるが、
七人の小人に助けられ、自分が世界を救う「プリンセス」であることを教えられる。
ピンチは続き、ピンクの象さんが運転する飛行船で何とか脱出するものの墜落、
ネアンデルタール人に処女を奪われそうになる。
ここは可愛らしい謎の女の子、西野さんの機転で逃れるが、商店街で銃撃戦に
巻き込まれ、奥さんに浮気されたおもちゃ屋の主人の不幸に同情する。
主人公は、突然、何の脈絡も無く、夢であったケーキ屋さんになる。しかし、敵に
苦戦する仲間達を助けるために戦いに赴くことを決意する。途中、様々なミッションを
重ね、貴重なアイテムを獲得し、電話ボックスで最終戦闘形態たる「スーパーガール」
に変身。最後の戦いに赴く。
ごく簡単にあらすじを追うだけで、脳内物質たるドーパミンが大量に溢れ出し、
とてつもない現実浮遊感に襲われるであろう。しかし、決して単なる荒唐無稽な与太話と
切り捨ててはいけない。場面の急転換を重ねることによって、読者の思考力を根底から
奪い取り、意図を容易に悟らせないという、極めて高度な技法が編みこまれているのだ。
さらに、ミッ○ーという文学界に厳然と立ちはだかるタブーに果敢に挑み、全共闘
世代の熱い想いを回顧し、日常におけるつまらなさや馬鹿らしさに対して、決して諦め
たり安住していけないという、ポジティブな精神を常に保ち続けることの大切さを
伝えるなど、随所で煌きと非凡さが見受けられる、90年代を代表とするアドベンチャー
ファンタジーである。
近頃の小説は奇麗にまとまってはいるが何かが物足りない、と思っている方に特に
お勧めしたい。瑞々しい感性溢れる後書きも必見である。