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『私のKnightになってよネ!』 佐藤 了 ファミ通文庫
「えっと、悪いんだけど……、私と付きあいなさい」
ジェットコースター・サスペンスノベルと銘打たれた本作は、こんな台詞から幕を開ける。
コースターに乗り込んだ読者は学園ラブコメのコースへ滑り出してゆく。
―突然の告白。戸惑う主人公。荒ぶる野郎ども。微笑み見守る親友。真意を明かさぬヒロイン。
お決まりの小山をいくつか越えたコースターは、いつしかサイコサスペンスのコースへ迷い込む。
―少女を苛む悪夢。悪夢をなぞる現実。本当は怖いお伽噺。嗤う犬。赤に沈む犬。指。
少しずつ振幅を広げながら、じりじりと時を喰らいながら、コースターはただ高みへ。
読者は大いなる不安に襲われることだろう。
ラブコメ仕様のコースターが頂上まで登りきれるのか、そこからの落下に耐え切れるのか、と。
その懸念はしかし、頂上の直前で予想だにしえない形(メル欄)で霧消する。
隠し持っていた推進剤に火が入り、コースターは第二宇宙速度で伝奇バトルの軌道を翔け上がる。
―転ずる主客。異なる人々。捻れた野心。銃口と標的を結ぶ信頼。
桁違いのスピードでコースターを襲うアステロイドたち。
翻弄されるしかない読者は半ば覚悟を決めるだろう。
もうこのコースターが地上へ還れるはずがない、と。
だが、本作最大最後のサプライズ(次のカキコのメル欄)が全てをひっくり返す。
最強のタンデムミラーエンジンと無尽の耐熱タイルを得たコースターは、
易々と地球帰還をやってのけ、学園ラブコメコースへ着陸するのである。
「私はこれから、○○○(=主人公の妻)の座を、本気で狙おうと思ってるんだから」
過程がいかに波乱万丈であろうとも、最後は必ずスタート地へ戻ってくる。
なるほどジェットコースターとは言いえて妙だ。 (↓へ続く)