06/02/02 23:46:53 GEeYK+m1
「しずるさんと偏屈な死者たち」上遠野浩平
その昔、ライトノベルはスレイヤーズを端とするライトファンタジーが全盛を誇っており、当時の新参
レーベル電撃文庫も例外ではなかった。
そこに一石を投じたのが、上遠野浩平である。
大雑把な話をすれば、現代のラノベの潮流を形作ったのは彼の処女作である「ブギーポップは笑わ
ない」であり、
そんな彼が、初めてスニーカーと並んで最老舗ラノベ出版社である富士見から発表したのが今作だ。
さて、ここで一つ考えてみてほしい。
ブギーポップシリーズで彼が描き出した若者の自我肥大と孤独感、これらはライトファンタジーからの
流れで見ると異端であるが、庄司薫の「いちご白書」など、元々ヤングアダルト小説では定番のテーマ
である。
つまり上遠野浩平は、ライトノベルの新たな潮流を作り出したというよりも、本流に引き戻した者である
という見方も出来るのではないか。
その視点があれば、しずるさんで彼が狙ったことも十分理解出来よう。
つまり、ここでも彼が狙ったのはミステリの原点回帰、そう、エドガー・アラン・ポーによる不朽の名作、オー
ギュスト・デュパンシリーズの復活なのだ。
そう考えれば、「そんなん分かるわけねえだろ」的なトリック、「主人公以外頭腐ってんのか」的説教など
も納得がいく。
また、冒頭の
「第一発見者は、よりによって山の中で迷子になっていた遭難者からのものだった。」
という、およそプロとは思えない混乱しきった一文も、作者自身の原点回帰という上遠野の完璧主義者的
意識の現れと言えよう。
そしてこの小説の一番素晴らしい所は、そのような高度な狙いが満載であるにも関わらず、読み終わった後
の感想は「しずるさん萌え」以外残らないところである。