04/05/16 21:10
>>520 白石さんは、タイ関係に詳しい人なんですね。
そこでちょっと意見を伺いたいのですが、梁石日の『闇の子供たち』みたいな作品
をどう考えますか。タイの幼児売春の実態を、作家的想像力を駆使して描いたもの
であり、それなりに反響はあったようです。私的には、隣国タイの貧困と暴力を焦点
にあてるような小説がヒットするのは好ましいことではあります。しかし、タイ社会
を描けているかといえば、ほとんど駄目という感じなのです。この小説の登場人物
である在タイ日本人やタイNGOのスタッフなどについては、かなり非現実的な設定なのです。
文学的評価としては、ちょっと辛いなあというのが、私の感想。
タイじゃなくてフィリピンだけれども、船戸与一の直木賞受賞作『虹の谷の五月』
なんてのは、混血フィリピン人の少年トシオを主人公としたそれなりに面白い作品だけれども、
フィリピン社会を描けているようには思えませんでしたね。とくにヒドイのが、この
小説の文庫版の解説。フィリピンのセブに、前資本主義的な閉鎖的共同体があるかのように
解説してある。
やはりタイや東南アジアを描くのは、現地の作家でなくては、不可能なのかもしれない
と私は思うようになりました。 作家が描けるのは、自分の熟知している国か、旅行記
かもしれないのではないかということです。たとえば、ナイポールのイスラムやアフリカ
の旅行記。あるいは、アフリカを舞台にした小説でも、『深い河』のようにインド人を
主人公に設定したもの。山際素男のインド探訪ものも、あくまで他人の話をインタビューして
そのまま書くという設定だから、リアルな面白さがあった。
中村敦夫の東南アジアものなんかは、そういう意味ではどうなのでしょうか。
篠田節子の「コンタクトゾーン」みたいのは、東南アジア描写という意味では、
嘘ばっかり(冒険ものとして考えると、まあまあの出来ではあるが)
日本人に海外を描くことは出来るでしょうか?たくさん、作品は書かれているけれど。