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おまえを愛したこと、おまえが俺を愛したこと。かつての日々だけが俺
を生かしている。お前は今も真っ暗な部屋でひとりうずくまって、膝をか
かえ声もなく泣きながら、世界を呪い続けているのか。眠れずに、手の
ひら一杯に色とりどりの錠剤をのせたまま今も途方にくれているのか。
俺は今でも思い出せる。朝焼けに青白く浮かぶ部屋の中、二人で手を
つないだまま部屋の真ん中に寝そべっていたときに、お前は悲しそうに
ここが海の底だったらいいのにといった。今、俺は同じように恐ろしく静
かな夜明けの部屋の中で一人でねそべってお前のことを考えている。
ここが本当に海底だったら、お前は今も隣にいたのだろうかと考えてい
る。お前がいたのはこんな風な、背筋が凍るほどの無音の絶望の中だ
った。俺はずっとお前の傍にいたのに、お前の中で絶望が澱のように日
々に沈殿していくのを見過ごしていた。お前が深淵に吸い込まれてゆく
間、俺はただただ幸せだった。確かに幸せだった。今もそれだけで生き
てゆけるほどに。幸福すぎて何も必要に思えなくなるほどだ。無音の部
屋に腹の鳴る音が響く。遠い雷のようだ。かつて二人で稲光を眺めてい
たとき、お前はずっと笑っていた。ここにお前がいたらきっと笑うだろう。
こんな骨と皮だらけの腹からこんな大きな音がするなんてと笑うだろう。