08/11/11 12:30:12 O
「・・・・だって、あの時」
絞り出すように出した声が、自分のものでは無いような感覚を富澤は覚えた。
「俺、の事・・・泣かせたくないって・・・」
『言ったよ、だから』
設楽の吐息混じりの囁きに、甘さが加わる。
『気持ち良くしてあげるよ』
富澤の全身を一週間前の記憶が――感触が、匂いが、声が――駆け抜けた。
『いい子だから、おいで、富澤』
熱を帯びた目で携帯を握り締めたまま、富澤は立ち尽くしていた。
◇◇◇◇◇◇
薄暗い地下の駐車場で、富澤はアルファベットのプレートを目で追っていた。
「よう」
車に凭れながら煙草を吸っていた設楽が、笑顔で手を挙げる。
富澤は頬を強張らせ、足を止めた。
「何?もっとこっちにおいでよ」
携帯灰皿で煙草を消し、横顔に油断のならない笑みを張付かせたまま、手招きする設楽。
眉間に皺を寄せ、富澤は無言で首を振る。
「そんな怖い顔、しないでさ」