10/10/18 03:15:37 sXqTI+VM
“唯、日曜、空いてるかー?”
“みろみろ! この似顔絵、すげー似てるだろ?”
“ひーまー、ひーまー、なんか面白いこと書けー”
ふふっと知らぬ間に笑みがこぼれて、私は慌てて口を覆った。
ただの文字なのに、送り主の表情や声まで感じとれちゃいそうだ。
りっちゃんから、主に授業中に送られてきた手紙を整理している。
そのために一つ一つ開いて、読んで確認していたんだけれど……結局、どれも捨てられそうにない。
整理をあきらめて、私は、手紙を読むことにひたすら没頭することにした。
私は後ろの方の席。りっちゃんは、前の席。
先生の目を盗んで手紙を回すのは大変なはずだけれど、それでもりっちゃんは、しょっちゅう書いては送ってきた。
そのたびに、私もせっせと書いて、回してもらう。
私の手紙を読んでいるときのりっちゃんが、とってもすき。
だろ? といいたげにこちらをふりむいて、にやっと白い歯を見せたり、
肩を震わせて笑いそうになるのを我慢していたり、うんうん、と頷いたり、
待ちきれないようにすぐに返事の手紙を書き始めたりと、楽しくって、いとしくって、飽きない。
思えば、こんな風にりっちゃんの背中をじっくり見ることって、あんまりなかったかも。
演奏しているときは、りっちゃんが私の背中を見る形だし、
普段一緒に話したりふざけるときも、真横か、私がりっちゃんの前にいる。
りっちゃんに抱きつくときも、真正面か、横からだし。
りっちゃんが私より先を歩いていることもあるけど、すぐに振り向いて、ゆーいー、って声をかけてくれる。
私にとって手紙は、りっちゃんの背中を拝めるチャンスで、その間だけは、誰も立ち入れない、二人だけのコミュニケーションなんだ。