10/09/10 22:56:21 qVYnOqra
「あ、こいつ。顔見せろ」
「や」
りっちゃんが、私の背中に体重を預ける。二人の距離が、これでもかっていうくらいにゼロになる。
「またくすぐるぞ」
「やだもん」
「おい」
「いや」
くぐもった声で拒否を示すと、りっちゃんは小さく溜息をついて黙り込んだ。きっと、子供のような仕草に呆れているんだろうと思う。
構ってくれなかった事が寂しくて、構ってくれた事が嬉しくて楽しくて、枕と唇の間に籠る熱が私の体温を持ち上げて、訳も分からず泣きたくなった。
悲しいなんて微塵も感じていないのに、一体どうしてなんだろう。
「ゆい」
ふと、低い声が私の耳元にぽつりと落ちる。あまりに熱い吐息が耳朶を掠ったので、思わず身体がぴくりと震えた。
「こっち向いて」
「……なんで?」
頭の中でかちりと音がする。
「ほんとにしたくなった」
手の平で口を覆い無言で振り返ると、間近にりっちゃんの真剣な顔があって、小さく息をのむ。
りっちゃんの潤む瞳。笑ったり怒ったり泣いたりしている時も、決して消えないりっちゃんの光が、ちらりと揺れる。
私たちのスイッチが入る。その瞬間が、私はお気に入りだった。
「りっちゃんのえっち」
「そんなこと、とっくに知ってるだろ」
りっちゃんが、唇を塞いだ私の手を乱暴に掴んでにやりと笑った。
おわり