09/08/17 16:15:37 hJzP4mjr
それは、鉄道の駅から私の通う学園へと続く坂道の中程に、夏の始めに開店した新しいカフェでありました。
開店を告げる、店名を刷り込んだ厚紙作りの団扇を配っていたのは、
私よりひとつふたつばかり歳かさの、艶映える黒髪を右左に束ねて垂らした女(ひと)でございました。
そのカフェの、少しばかり奇抜な店構えもそうですが、とりわけ目を引くのは少女給仕の制服でありました。
西洋風の女中服を人形に着せるが如く飾り立てたような、そんな格好でテーブルの間を行き来するさまを、
硝子越しに眺めるのが下校時の日課でありましたし、まだ開店前の時間に居るはずもない可愛いらしい少女給仕を探して、
店の脇やカーテンの隙間に目を凝らすのも、登校時の習慣となっておりました。
と言っても、そのカフェに足を踏み入れる事はありません。いつも男性客達で熱気と活気に充ちたそこに入店するには、勇気が足りません。
朝に夕にカフェの前を通るだけで、その日もただ眺めるだけで……
「あなた、あなた、ねえ」
にわかに声をかけられ、
ここで疲れた