07/03/11 02:02:24 WHfSPcd1
ジッと二人の事を見ていた俺の視線が、ふとした拍子にパーカ娘のそれと絡む。
「あっ……」
零れる様にそう漏らした後、即座に視線を外してグラスを口に運ぶが、鼓動に合わせて手まで震え、歯がグラスにぶつかって上手く飲めなかった。
「見てくださいよ先輩。あのテーブル、物凄い美人ですよ。それも二人も」
ブッ、と思わずグラスの中身を全部吹き出しそうになった。
今のさやかさんとひとみさんの状況を黒川さんに見せるのは、相当まずい。もしそんな事になれば、ただでさえパーカ娘との先のやり取りで弱っている黒川さんは、間違いなく憤死か躁鬱に成ってしまう。
「人の事をジロジロ見るのは止めなさい、悪趣味よ」
パーカ娘をたしなめると言うよりは、もう疲れ切ってどうでもいいと言う感じだ。俺はホッと胸を撫で下ろした。
「もう、先輩。食事はただ食べるだけじゃなくて、そう言うコミュニケーションが大事なんですよ」
「そう思うなら、少しは私の話も真面目に聞いてちょうだい」
パーカ娘が、少し拗ねた様に頬を膨らませた。
「だって私、せっかく先輩から食事に誘って貰ったからって、頑張って仕事終わらせて来たのに……」
「終わって無かったじゃない。半分近く私がやったわよ」
黒川さんからあきれた様にそう言われ、パーカ娘は少し恥ずかしそうに頭を掻いた。
その光景を見て、ふと『パーカ娘はもしかして黒川さんが好きなのでは?』等と思ったが……いや、さすがに無いな。普通好きな人におごって貰えると聞いて、あそこまで追加オーダーを頼む奴はいないだろう。俺もいい加減、百合変換のし過ぎだな。
「本当、今頃になって『君じゃなきゃダメなんだ』って言われた訳が分かった気がするわよ。これが鍋島さんとかだったら、アンタ絶対にいびられてるわよ。それか、鍋島さんの胃に穴が空いてるか……」
「あの人、いかにもお局ってタイプで怖そうですよね。私、先輩みたいに優しい人で本当に良かったです。一生ついて行きますよ~」
くそ、何気ない一言がすべて百合発言に聞こえてしまう……今の会話を、『アンタは私じゃなきゃダメなの』『先輩、一生ついて行きます』と変換出来た自分の能力の高さにびっくりだ。
「……急に褒めて、何が目的?」
「この三万のワインが飲みたいなー……」
「却下」
「じゃあその一つ下の奴……」
「どうせ下って、ランクじゃなくて下のメニューって事でしょ?余計高いじゃない」
やっぱりパーカ娘はパーカ娘か……一瞬でも期待した俺が馬鹿だった。