09/09/06 02:07:45
「ぜったい行かない」
佳主馬くんの断固とした拒否の声が、角のところで聞こえた。
日も暮れかけた今、僕は着替えを持って居間…だった場所に
集合しようとしていたところだ。
あらわしが落ちて(幸いにも怪我人はゼロとは言え、家は酷い有様だ)
屋敷の被害を確認したところ、どうやらガス関係がやられていたらしい。
台所も使えないし(たとえ無事だったとしても、ご飯を作る気になんて誰もなれなかっただろうけど)、
お風呂にも入れない。
みんな埃まみれで疲れ切っていた時、街の方まで降りていこうと誰かが言い出した。
皆で銭湯に入って一日の疲れを流して―その後、陣内家ご用達の、
ちょっとお高めの小料理屋さんでご飯でも食べて疲れを労おうじゃないか、ということになった。
僕もありがたくご相伴に預かることにして、
いそいそと着替えを持って(僕が使わせてもらっていた部屋も砂埃がひどかった)
戻るところだったんだけど。
薄明かりの廊下で、佳主馬くんと聖美さんが何事か言い争っていた。
お腹の大きな聖美さんが佳主馬くんに着替えらしき荷物を渡そうとすると、
佳主馬くんが腕を組んでぜったいに受け取らないと意思表示する。
佳主馬くんはとっつきにくそうに見えて(ごめんね)、
本当はお母さん想いのいい子だということは短い付き合いでよく分かっていたので、
その佳主馬くんがお母さんに困った顔させるなんて、
これは相当の事態じゃないのかなと思った。