09/08/26 13:36:20
車での旅は数分にも数時間にも感じられた。どこをどう曲がったかなど、もうまったく覚えていなかった。
ようやく止まったかと思えば、人気のない場所なのだろうか、周囲を気にした様子もなく軽々と車から運び出され、埃っぽい部屋に縛られた状態のままで放置された。
そして、今に至る。
佳主馬はアイマスクを外されても、固く目を瞑って決して開かないようにした。
誘拐犯の顔を見てしまえば、無事に帰れる可能性が低くなると判断したからだ。
『顔を見られたからにゃあ生かして帰す訳には行かねえな!』
これは、誰と見たドラマの台詞だったろうか?
続けて猿轡が外され、佳主馬はけほけほと咳き込んだ。
「佳主馬くん、目を開けていいんだよ」
思いもかけない優しげな声が掛けられて、佳主馬は思わず目を開いてしまった。
そして、その場の異様さに息を呑んだ。
思ったよりも広い部屋だった。10畳ほどだろうか。使われなくなった倉庫の一室、という印象だ。
窓があったらしき場所は内側から塞がれ、外の様子はまったく伺い知れない。
そのとき佳主馬はようやく自分が転がされていたのが古いベッドだと知った。
錆びた骨組みの上にところどころスプリングの飛び出たマットが置かれただけの、ボロボロの代物だ。
薄暗い室内で、マスクを付けた男たちが4人、こちらを向いて立っていた。
何よりも異様なのは、その顔だ。彼らの顔につけられたマスクには、どこか見覚えがあった。
すべて、OZで使われる動物のアバターを模したものだ。ポップなデザインのそれらは、今の状況にあまりに似つかわしくなかった。
佳主馬のアイマスクを外した男が立ちあがり仲間の許へと歩いていったが、その顔にはなんとミッフィーのお面が付けられている。
男の大きな顔を到底隠しきれず、日焼けした逞しい顔が可愛らしいウサギの下から覗いて、異常な雰囲気を強めていた。
(1…2、3…4、5…)
5人。
佳主馬はごくりと唾を飲み込んだ。大人の男が5人も揃って、何だと言うのだ?
不自由な体で何とか身を起こし、彼らを睨みつけた。
「何なの、アンタら…」
怯えてなんかいないと威嚇するつもりだったのに、語尾が震えてしまった。
彼らは佳主馬の問いには答えず、ベッドから数メートル離れたところに置いてあるテーブルで何かを熱心に操作していた。
その中心にあるものに気付いた時、佳主馬は冷静さを忘れて声を上げた。
「それ、僕のケータイ!」