09/06/30 11:24:57
ある日のことだった。
司令官室にやって来た俺に隊長はこう言った。
「アラン、ここにひとつの荷物がある。
私が一人では背負えないであろうほどに大きなものだ。
これをおまえに持ってくれと頼んだら背負ってくれるか?
おまえだからこそ頼みたい」
ここは軍隊だ。
上官の命令は絶対で俺はこの人の部下である。
この状況で逆らえるわけがない。
それを承知でのこの言い方。
時々俺はこの女がわからなくなる時がある。
荷物を持てとひと言言えば済むことなのに。
俺の謎は深まった。
返事を躊躇してるその間に
何だか妙な空気が漂い始めて俺は堪らず上官の求めている返事を即座に返すことにした。
「承知しました。で、どこにあるんです?その荷物とやらは」
心は荷物を持つ準備を始める。
「まあそう急ぐな。時間は十分ある」
「十分たって、俺はまだ任務の途中なんですが」
「私の命令に従うのも任務ではないのか?」
「あ、はい。まあそういうことでいいです」
隊長はふっと軽く笑いを入れると椅子から立ち上がって
期待通りの展開にほっとしたような顔を見せる。
重くて大きな隊長を悩ませる荷物を見付けようと俺は部屋の中を見渡した。
ない。そんな荷物なんてどこにもない。
狐につままれたような顔の俺に背を向けて隊長は歩き出す。
「クーデターに備えてこの部屋には鍵はない。鍵があるのはここだけだ」
そう言って隊長が向かった先にあるのは別室に続くであろう扉だった。