09/02/08 10:22:23
婿養子が見る夢
ここはパリの酒場
「よう、アランじゃないか。久しぶりだな。元気だったか?聞いたぜ、幸せなんだってな。」
声を掛けて来たのは士官学校時代の友人で、いまは軍隊を止めパリで商人をやっている近所の幼馴染だった。
アランが大貴族のジャルジェ家に婿に入ったことは近所ではかなり有名な話だったので、
久々のアランの登場とあれば、騒然となって当たり前。
さながらちょっとした有名人のような扱いで持て囃されるアラン。
婿に入った先は伯爵家、妻は超美人な上に准将である。
これはもう兵卒のアランにとっては逆玉以外のなにものでもなく、
人々の興味の的にされて当然と言えば当然なのだが…
みんなの関心事は、男装の美人を妻にするアランの心情のほうにあった。
「で、どうなんだい?」
昔からアランを知る近所の老婦人が徐にアランと幼馴染の間に割り込んで来てそう言った。
「ど、どう、って?」
アランはいきなりの直球に、飲んでいた酒を吹き出しそうになった。
「そりゃああんた、あっちのほうだよ」
「あ、あっちって…」
「だって、あんた種馬だろ?」
この会話、この質問…やっぱりここに来なきゃよかった。
後悔がアランを襲う。
「子供はまだなのかい?」
「あ、ああ。まあだ」
オスカルは何も言ってこない。
なにか体に異変があれば真っ先に俺に話すはずだ。
「結婚してひと月も経てばねえ…。伯爵様はご心配だろうねえ」
「ひと月も、って…まだひと月じゃないか?」
「あんた、なんの為にあんな大貴族のお邸に婿に入ったと思ってるんだい?
勘違いしちゃいけないよ。
美人のお嬢様といいことをする為に入ったのかい?だとしたら大間違いさ。
あんたには、伯爵家の跡取りを作らなくちゃならないと言う大きな義務があるんだよ」
「わかってるさ、そんなことは。…いちいちうるせーな」
「わかったかい?、あんたの務めはあの超美人なお嬢様を身ごもらせることなんだよ」
「あー、何度も言われなくとも、そんなことはわかってるよ」
はっ… ゆ、夢…?
隣を見ればオスカルが気持ちよさそうな顔ですやすやと眠っている。
なんだ…今のは夢だったのか?
アランは大量にかいた汗を、手の甲で拭うともう一度オスカルの寝顔を見た。
幸せすぎると怖くなるって誰かが言っていた。
俺はいま、たまらなく幸せだ。
俺の奥さんも幸せなのかな、きっとそうだと信じたい。
アランは再び眠りに就いた。
─おわり─