09/02/07 10:38:29
第二話 天井裏から
>>567(の続き)
メイドが呼びに来てオスカルとアランが出て行っても俺は放心したまま暫く動けなかった。
狭いクローゼットから抜け出すと、急いで持ち場に戻り、そのまま何食わぬ顔で給仕に取り掛かったが
目にした光景が瞼の裏から離れず心は上の空だった。
それからというもの、俺はアランを見てもオスカルを見ても
あの夕刻時に見た衝撃の映像を重ねてしまうようになった。
冷静な仮面の下に隠す男と女の欲望。
だが俺も「もう一度見たい」と言う欲望の芽を自分の中で育てていた。
そしてそれは大きくなるばかりだった。
初めて見たオスカルの体、綺麗で淫らだった。
そしてあの時の声…。絡み合う二つの肉体。
ああ、もう一度見たい。なんたってアランは俺なのだから。
盗み見るという行為。
その興奮と高揚感は他の何からも得ることは出来ないと思えるほどの破壊力を持つ。
もう一度あの場面を見ることは叶わないだろうか。
見つかることなく安全に二人を盗み見るにはどうしたらいいだろう。
俺は廊下をうろうろしながら考えた。またクローゼットでは危険すぎる。
…そうだ、屋根裏の通路を使う手があった。
アンドレは思わず自分で繰り出した名案に手を叩いた。
部屋に居ないとなれば言い訳が必要になる。これはそう度々実行出来ることじゃない。
名案ついでに思い切って今夜にしよう。
朝からそわそわして落ち着きがない俺を、何も知らないオスカルは訝しげな目で見ていた。
「アンドレ、なにかいいことでもあったのか?」
オスカルの済ました顔を見てると無性に腹が立って「あったんじゃない。それは今夜起こるんだ」
そう言ってやろうかと思ったが止めた。オスカルにはなんの責任もない。
怒りの矛先はアランに向けるのが真っ当だ。いやアランも悪くない。
やはり俺が全部悪いんだ。しかしアランが俺で俺がアランだからこれは許されることなんだと思う。
「何をひとりでぶつぶつ言ってるんだ。おかしな奴だなまったく…」
オスカルは朝食を終えると、意味もない笑顔を残してさっさと自分の部屋へ戻っていった。
『へっ、そうやって笑ってろ。俺は今夜もおまえたちを見てやるんだからな』