09/02/01 13:20:46
>>564
「お嬢様、今日は随分とお早かったのですね」
侍女は慣れた手付きでオスカルの着替えを手伝っている。
「ああ。夕食までにはまだ時間があるから、それまでここにいるよ」
な、なんだって?じゃあ俺はオスカルが出て行くまでここに缶詰じゃないか!
どうしろって言うんだ。だが悪いのはオスカルでも誰でもない。他ならぬこの俺だ。
好奇心を持ったばかりに手にする、あまりの情けなさと後悔の重さに俺はひしがれた。
出て行く切っ掛けなど皆無であることは百も承知。
しかし、ここで更に追い討ちをかけるような事態に遭遇してしまうことになる。
アランも帰って来てしまったのだ。オスカルの予定外の行動はいざ知らず
夜勤明けの彼のスケジュールを把握していなかったことが後悔に追い討ちをかける。
なんという不運だ。まるで監獄だ。いやそれより酷い。
仕方なく俺はクローゼットに身を隠す。様子を窺うために半開きにして。
少しの隙間を開けたのは、隣の部屋の物音が遮断されることに気付いたからだったが
このほんの少し開いた隙間から、
あとでとんでもない光景を目にすることになろうとは、この時俺は予想すら出来ずにいた。
二人の会話が聞こえてきた。それがどんどん大きくなる。
まさか、そのまさかだ。ついに究極の状況に俺は置かれてしまった。
アランとオスカルは寝室に入って来てくるなりキスを始めてしまったのだ。
「まだ夕食前だぞ」
オスカルの声だ。
長年の勘で、少し怒りが滲んでいるような声に思うのだが、
隙間から見えるのは激しい口付けを交わす夫婦という矛盾の光景だ。
クローゼットに俺が潜み、全てを見られているとも知らず淫らな行為に堕ちてゆく二人。
無理もない、新婚なんだから。
そうやって俺は、見せつける愛の行為から目を逸らすことが出来ない自分を呪った。