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>>454
そして当日
父の思いを知ってもなお、オスカルが着たのは礼装の軍服だった。
しつらえてしまったからではない。これがオスカルの意思だったからだ。
舞踏会はオスカルの思惑どおりに進行してゆく。
心では哀しい涙を流がしながらオスカルは舞踏会の主役を務める。
そんなオスカルを初恋の人フェルゼンが救う。
オスカルに見える一筋の光明。それがフェルゼンの言葉だった。
友情という糸を更に強くして、恩を返せたと安堵してジャルジェ家をあとにする北欧の貴公子。
舞踏会の喧騒から抜け出しひとり庭に佇むオスカルを、ジェローデルがある場所へと連れ出した。
連れて来られた先の衛兵隊の兵舎でオスカルはアランに心の全てを告げるのだった。
「隊長、舞踏会はどうしたんです?それにしても煌びやかな格好ですね」
アランはわざと話を逸らそうとする。
「ドレスは着なかったのだ。私が着なかった…」
アランはその言葉に頷くようにオスカルを見つめる。
「あまりじろじろ見られると、どこかおかしな所でもあるのかと気になるではないか」
「俺と隊長の特別な夜は決まって隊長はそんな格好ですから…」
「アラン、私は誰とも結婚しない。これからも軍人として生きるつもりだ」
「貴女が決めたことなら俺は…」
アランに決意を告げてもオスカルはまだ完全に自分の足で立っていないことに気付く。そして戸惑った。
私は自分がなんなのか見失っているのかもしれない。
「聞くが、こんな私でもおまえは愛するというのか?」
アランはこくりと頷いた。
「女らしい所も、しおらしい所も何ひとつないこんな私でも?」
「貴女だからこそ、そんなあなただからこそ俺は愛したんだ」
「アラン…」
「俺は貴女が大嫌いだった。女のくせに生意気で…。俺を殴って…。
だからどんなことをしてでも俺たちの前から追い出そうと必死になった。
だが、いつしか…」
アランはオスカルの顔を見つめた。今まで見た中で一番真剣な目だった。
「…好きになった。貴女が好きで、好きで堪らなくなっていた」
アランはオスカルに触れずに会話を続けていたが、手は震えていた。
「俺はいつかこんな夢を見たことがあります。
朝、起きたら隊長が俺の横で眠っていて、俺は隊長の綺麗な寝顔をずっと眺めているんです。
朝の挨拶をして、それから二人して起き出して朝食を食べ、身支度を整えて出て行く。
他に何もいらないと思える幸せがそこにはあって、毎日俺は隊長と一緒に眠るんです。
そんな夢です。とても幸せな…。
でも所詮夢は夢、覚めれば終わるのです。どうか忘れてください」
アランは静かな視線をオスカルに向ける。
「もう戻らなければ、招待客への挨拶があるから」
そうは言ったもののオスカルは出て行こうとしない。
人は時に言葉と行いが一致しないこともあるのだと、アランは目の前でその例を見た気がした。