09/01/25 13:22:41
>>406
「忘れさせる?どうやって?」
「泣くことだけが方法じゃない」
そう言うと、アランはオスカルの手を引き、人目を避けるように城の西側にある控えの間を目指した。
「待て、どこへ行く?」
抗おうと思えば出来ないことはない。だがオスカルには何故かそれが出来なかった。
「涙を乾かす場所だ。その顔、ブイエにでも見られたら言い訳が必要だろう」
そう言われてオスカルは白い手袋をはめた手で慌てて涙を拭う。
「そんなに酷い顔を私はしているのか?」
アランは返事をしなかった。
「諦めたつもりなんだろうが、あんたはまだ忘れちゃいない」
控えの間と称された部屋に着くなりアランが言った。
オスカルは図星を指されて視線を逸らす。肩先は微かに震えている。
その体をアランの胸が再度優しく抱き締めた。
そして少し間を空けてから、改めるように言葉を紡ぐ。
「俺が隊長の新しい恋の相手ではいけませんか?」
恭しい敬語がオスカルに新鮮な風を運ぶ。
「私はおまえのことを…」
「言わなくていいです。今は何も…」
言うな否やアランは、地位も身分も今のこの状況さえも超越するかのような情熱的な口付けを始めた。
割り入れた舌を絡め合い、まるで口内を犯されるような激しい口付けに
オスカルは気が遠くなりかけて、立っているのがやっとになる。
「そろそろ広間に戻らなければ」
オスカルが素直な思いを口にしたのは、長い口付けを終えたアランの唇が首筋に下りた時だった。
官能に身を委ねながらも任務のことが頭から離れない上官に、アランは言葉を被せた。
「作戦会議をしていたことにすればいい」
首筋から続いて胸元へと唇を這わせながら、アランは尚も念を押す。
「そうこれは重要な打ち合わせ…」
アランの無骨な、けれども軍人にしては意外に綺麗な手が、オスカルのドレスの胸を肌蹴た瞬間。
その時だった。
廊下をけたたましく走る大勢の軍靴の音がして空気が切り裂かれた。
「こっちだ、こっちに逃げたぞ」
続いて兵士たちの声もする。
騒動の先に視線を向けるとオスカルは、それまで愛撫に任せていた身をさっと翻し飛び出す準備を始めた。
「隊長?」
「賊は一人ではないようだ。アラン、続きはあとだ。武器を持ってついて来てくれ」
「まさかあんな格好で捕り物をしようって言うんじゃ…。いくら強いからと言っても無茶だ」
さっきまでの甘い時間が嘘のように遠くに流れていく。
女隊長のこの一連の行動を、スローモーションのように見ていたアランもようやく事態に追い着きあとに続いた。
続く