08/08/12 00:34:33
水っぽい。咽が拒否反応できゅっと締まる。
「ん、むぅ…っ」
なにか思い違いをされたらしく、口の中の物がすぐさま嬉々と吐精した。違う、普通の精では無いのか。学院の授業で散々その手の話を聞かされたが、それは人の精液とは若干違った。通常二滴三滴、そう保険医は話していたはずだ、と急速に記憶を探ってから危機感に噎せた。
咥内いっぱいに放たれたものは唾液のようにとろとろと細い喉を流れ落ち、受けきれずに口の中だけで拒絶の声を上げて、たまった液体で頬を膨らませた。すぐに吐き出してしまいたかったが、唇には粘液で音を立てる分厚い肉の塊に栓をされたままで叶わない。
噛みちぎってやる。
屈辱感に若紫の瞳から強く眼光を放つと後ろから更に手が伸びてきて、髪を強く掴まれる。艶が美しい自慢の黒髪を掴んだのは人の肌色をした手で、その骨張った男の手からは今も恋しくてならない懐かしいあの香木のような香りがするのだ。
泣いてなるものか。
屈してなるものか。
甘い香りに騙されてはいけないのだ。
「苦しいのか、朽木」
耳元にかけられた息の熱さにルキアは素直に不快感を露にした顔をするが、後ろから蹂躙をしかけてくる破面とは目も合わせられない。
「なんだ、久々だから接吻のしかたも忘れたのか」
舌の上を踊り咥内を満たす触手の指を食いちぎろうとついに歯をたて犬歯を脈打つ皮膚に食い込ませた時、髪を掴んでいた右手が横に動き首を捉えた。
細い首の柔らかさを無遠慮に徘徊していく。人差し指でくいっと顎の骨を上に向けさせられ、白いしなりができる。
「教えてやったはずだよな。長く口付ける時は息を止めるな、唾液は飲み込め、って」
「んぐ、う…っ!」
少しずつでなければ飲み込めないというのに、無理矢理に嚥下させられる。当然、ルキアは苦しさに咳込んで暴れるが、人外の指は舌を引っ張り弄ぶだけで離れてはくれない。はちきれそうな頬の中で、ごぷんと不気味な水音がたつ。
こんな物が接吻であるものか。あの優しい手とはまるで程遠い。
彼の人と同じ甘い香りに酸欠も重なり、足がふらつく。
何度も溢れそうになりながら口をからにできた頃、涙が止まらなくなっていた。
満足そうに左手が引き抜かれ、蛇のように蠢く触手が改めて視界に入り、酸素を取り戻し呼吸を荒くしながら目を見開いた。
震えてしまいそうになった。だが唇をぎゅっと噛み締めてそれを堪える。