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ファリオルスは長いこと口をきかなかった。午後になると、彼は自分の所有する
牧場を案内してくれた。つい先日お産をすませたばかりの雌馬が、4頭もいた。
子馬たちが囲いの中ではしゃぎまわっているところは、7歳になろうとしていた
娘のデボラにとっては、何よりの見世物であった。だがわたしが彼のところに
来たのは、そんなことのためではない。
「しかし、もうずいぶん長いことになるなあ。ユミットと名乗る人からの手紙は、
最初のころはセスマのところに来ていたんだけど、あれは1962年の昔のことだ。
それからもう29年になる。きみがこの件にかかわりはじめて24年、ぼくだって
17年になる。誰が仕掛けたのか知らないけど、こんなゲームは好きじゃないんだ。
まるで実験室のねずみにでもなって、時々エサを与えられてる気分だな、こりゃ」
「じゃ君はどうしたいというんだい」
「本を1冊書いて、洗いざらい公表してしまうのさ。手紙の内容や、ぼくが手紙に
刺激されて進めてきた科学研究のことや、とにかくこの件にからむ事実や、
出来事や、いろんな人の証言や、ぼく自身の体験なんかをね」
「つまり君は、この件にはもう興味がないってわけか」
「いや、そうじゃない。また手紙が来れば、やっぱり興味津々で読むと思うよ。
でもぼくは科学者なんだ。この17年間というもの、まったくとてつもなく膨大な
事件に振り回されて、何千枚という資料に取り組んできたけど、29年前の手紙
ではほんの兆しでしかなかったことが、最近は現実味を帯びてきてるんだよ。
たとえば、MHDみたいにね。ゲームを裏で操っている奴らは、何かというと
機密性を口にするけど、ぼくはだんだんそうは思わなくなってきた。それで
一切合切を公表する気になったというわけさ」
(宇宙人ユミットからの手紙)