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「品質と安全性の高い製品に裏打ちされた日本勢にとってチャンスとなる」。日系の大手自動車メーカーや電池メーカー幹部からはこうした声が多く聞かれる。
日本の電池メーカーは安全性に自信を持つものの、コスト最優先の風潮の中でシェアを落としてきた。車載電池のグローバル市場でのシェアはパナソニックが6%にとどまるなど、日本勢を合計しても10%に届かない。改めて安全性がより重視されるようになれば、日本製電池が巻き返す余地が出てくる。
もっとも、安全性を強みとしてきた日本勢でも火災事故はゼロではない。
■安全自慢のリーフも火災とは無縁ではない
2010年にEV「リーフ」を投入した日産自動車。販売開始から10年以上もの間、電池に起因する火災事故を起こしていないことをアピールしていた。だが、最近になってこうしたアピールを控えるようになっている。
実は、2019-20年モデルイヤーのリーフに関して、電池火災の報告がアメリカで9件確認され、今年9月に現地当局へリコールの届けを出している。急速充電中に電池内の電気抵抗が増加する可能性があり、電池が急激に加熱され発熱や火災が発生する可能性があるという。
日産によると「原因を調査中で、詳細についてはコメントを控えるが人的被害は報告されていない」という。日産側は電池内の異常の予兆を検知するソフトウェアを開発中で、対策が完了するまでは急速充電しないよう顧客に呼びかけている。
一方、2009年に世界で初めて量産型EV「i-MiEV(アイ・ミーブ)」を投入した三菱自動車は、これまで投入したアイ・ミーブ、軽自動車「eKクロスEV」、商用軽「ミニキャブEV(旧ミニキャブ・ミーブ)」のEV3車種では電池に起因する火災事故は発生していないという。
リーフに関しては、日産が言うように詳細がはっきりしない以上、電池に欠陥があると断言できない。約70万台というリーフの累計販売台数を考えれば、海外勢のEVと比べても安全性は高いのかもしれない。
いずれにしろ安全重視は日本勢にとっては望むところだ。
パナソニックは和歌山工場で、安全性を維持したうえで従来品と比較し容量を5倍に向上させたEV向け円筒形電池「4680」の量産準備を今年9月に完了。東芝はホームページで自社のチタン酸リチウム電池「SCiB」に釘を刺し、30分間破裂・発火しないという動画を掲載し安全性をアピールする。SCiBは安全性や長寿命では評価が高いが、採用実績はHVがメインだった。改めてEV向けに拡販を狙う。
トヨタ自動車、日産、ホンダは、大容量かつ発火の可能性が低いとされる全固体電池の開発を進めると同時に、電池の内製化にも動き出している。
伊藤忠総研エグゼクティブ・フェローの深尾三四郎氏は「発火事故をこれまでほとんど起こしていない日本勢の電池ニーズが高まる可能性がある。中国勢の安値競争に追随しなくても戦えるよう、日本は官民をあげて電池安全に関する標準規格のルールメイキングで主導権を握るべきだ」と指摘する。
■EVでも日本勢巻き返しのチャンスに
日本勢が電池の安全性で業界をリードできれば、電池メーカーだけでなく、自動車メーカーにとっても武器になる。
EVではテスラやBYDに先行を許してきた日本の自動車メーカー。遅れた理由として、EVが収益性で厳しく、製品としてまだ欠点も多く、市場動向を見極める意向が強かったことがある。電池のエネルギーマネジメントでも安全性を重視する考えから冗長性を持たせれば、航続距離や充電時間といったEVの商品性は一定程度犠牲になる。
EVの安全性に対する消費者の疑念が高まっているからこそ、「日本勢のEVなら安全」というブランドを構築できれば、テスラやBYDを追撃するうえで大きな意味を持つ。
商品性や安全性に疑問符がつき始めたEV。このピンチをチャンスにできるか、新たな勝負が始まっている。
東洋経済 2024/11/08 5:40
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