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藤 和彦 経済産業研究所コンサルティングフェロー
■中国でEVが売れない…
アメリカでは、電気自動車(EV)が売れずにトヨタのハイブリッドが売れているという。世界でもこの傾向に拍車がかかるのだろうか。少なくともEVに力を注いできた中国では、EVはいま大きな過渡期を迎えようとしている。
その要因は、習近平国家主席が景気刺激策を打たずに、国民全体で消費が後退しているからだ。供給に対して需要がまったく追いつかない状態で、高価格のEVは値下げ圧力が大きくなっている。
中国政府が3月1日に発表した2月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、49.1だった。前月より0.1ポイント低下したが、5ヵ月連続で好不調の境目である50を下回った。
絶不調の中国経済の中で「期待の星」とされるEVだが、業界はシェア確保のための値下げが相次いでおり、SNS上では「今後3年間で自動車価格は30%下がる可能性がある」と話題になっている。
中国のデフレが、EVに対しても深刻なダメージをもたらしているのだ。
■EVが世界的に不調
EVの異変は、アメリカではじまった。
アメリカでは、ここまで旺盛な需要が経済を牽引しインフレを加速させてきた。しかし、現状ではFRBによるインフレ抑制策で金利が上昇、アメリカでEV販売が減速した。加えてガソリン価格も上昇したことから、消費者は経済性に優れたハイブリッドにシフトしているという。その影響で投資家はテスラ株を売却し、トヨタ株を買っているとマーケットでは指摘されている。
その傾向は世界一のEV大国、中国でも高まっている。
昨年の中国の自動車販売台数、生産台数はともに3000万台を超え、15年連続で世界第1位となった。なかでも気を吐いているのがEVであり、昨年の販売台数は前年比38%増の950万台と9年連続で世界1位の座を堅持している。
しかし、ここにきて中国の需要不足が、EV販売に影響し始めているのだ。
中国自動車協会が2月8日に発表した1月の国内自動車販売台数は205万台で前月比14%も減少したが、その足を引っ張ったのがEVだった。1月のEV販売台数は前月比47%減の40万台と低迷した。
中国は折からの景気減速と不動産バブルの崩壊による資産効果の剥落から、極端な需要不足に陥っている。さらに、中国のEV業界は現在、電池メーカーも含めて供給が過剰になっている。
需要が小さいのに供給が多ければ、それはデフレを引き起こす。価格競争の激化によって中国EV関係企業の大量倒産は、時間の問題だろう。
■「消費の大後退」と習近平の「経済無策」
中国経済に関する情報はいつものとおり暗いものばかりだ。不況の元凶である不動産市場は相変わらず低迷している。
不動産大手100社による2月の新築住宅販売額は、前年比60%減の1859億元(約4兆円)だった。1月の34%に比べて下落幅が拡大した。政府が不動産市場の救済策を強化しているが、状況は悪化の一途を辿っている。
若者の就職難も変わらない。雇用状況は若干改善したが、賃金の低下傾向が鮮明になっている(2月29日付ロイター)。
先にも述べた通り、この原因はバブル崩壊に伴う「需要の大幅な後退」によって引き起こされている。
しかし、習近平国家主席はこのことを今一つ理解していないようだ。
それどころか、かつて汚職を摘発して共産党内部の反対派を追いやった習氏は、消費社会が堕落の象徴のように映っているのではないかと指摘されている。
消費社会を否定すれば、需要を喚起する経済政策は当然、本腰の伴わないものとなる。その嫌な予感が、現実となったのが、3月5?11日まで開催された全国人民代表大会(全人代、国会に相当)だった。
後編では『「中国EV大ピンチ」のウラに、習近平の「経済大粛清」があった…!中国「虎の子EV」を壊滅させる習近平思想の「恐ろしい中身」』では、「世界のEV市場の変調」が中国EVに与える影響と、政府がバブル崩壊後の「需要不足」に全く関心を払わない背景にある“習近平氏の「思想」”について、詳しく見ていこう。
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