17/11/28 12:36:48.91 7lzrUPXQ.net
妓は二十一だといった。…朝鮮人であった。
…はるびん丸で三日がかりで大連に着き、その夜がいまだ、というと、
妓はうれしげに眼をほそめて、アリガトをくりかえした。
…ぼくのしゃべることは聞き分けられるところをみると、
この商売に入って、かなりな年月と思われる。
…この町に日本人女性がおらぬかときいた。妓は、いるとこたえた。
しかし…自分のいる一角はすべて朝鮮人だという。経営者もそうであるという。
…帰りしなに、妓は…名刺の束をとりだしてみせた。輪ゴムをはずしながら、
「日本人たくさん来て、わたしを抱いてゆくよ」
といった。…どこにゆきずりの客の名刺をていねいに保存していた妓があろうか。
しかも、その名刺を、他意なげに、さしだしてみせた妓がいたろうか。
…妓は、それらの人が、みんな気分よく自分を抱いていったと微笑した。
(『水上勉全集 第十四巻』)