16/07/03 20:44:13.52 CAP_USER.net
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覇権主義をサポートした自らの言論の責任は?
この発言の後、質問者の一人、桂文珍氏が「フィリピンなど、アジアの国々が対中国で領土問題を沢山抱へてゐる。それらの国々と連携して対応してゆくといふのはどうか」と質問する。それに対して加藤氏は次のやうに言ふ。
「そこは私は議論が分れるところだと思ふ。みんなで連携(合従連衡)して、中国に対して無謀なことは止めませうといふことはあるかも知れない。だが基本的に領土問題といふのは2国間問題だ」
この発言がまた不可解だ。直近の6月14日に雲南省玉渓で開かれたASEAN外相特別会合では、南シナ海の領有権が議論された。この際の中国側発言を見ても、領土問題を2国間問題に絞りたがつてゐるのは中国政府である。
利害が共通する国々と連携し、味方を一人でも増やすことは外交のイロハではないのか。その地固めをして2国間の問題も解決の端緒を掴めよう。かういふ発言は、加藤氏が現実の外交における軍事力の重さについての認識をすつぽり欠落させてゐるか、中国の立場に身を置いてものを言つてゐるかのどちらかだと考へるしか、理解のしようがないものである。
なほ、この時に回答者として出演した孫崎享氏(元外務省国際情報局長)も、まるで中国政府の代言人のやうな非常識な棚上げ論を述べてゐたが、民間の一評論家である以上、あくまでその言論は自由である(但し、NHKの番組における人選の傾向についてはまた別の大きな問題)。
問題は加藤氏が公共放送NHKの中国担当解説委員であり、明らかに偏つた発言をしてゐても、依然としてその部署に留まり続けてゐられるといふ事実だ。先に述べたやうに、他国のプロパガンダに騙されない「防諜」機能が働いてこそ、公共放送に要求される「公平・公正」はその基盤を得る。
その観点から4年を経た現実を見れば、結局は氏の言説が、中国共産党の覇権主義をサポートする結果になつてゐたことは歴然としてゐよう。
しかし、世間は一々そんな発言を覚えてゐる訳ではないから、言つたら言ひ放しで、実際に軍艦が出て来たにも拘らず、今後とも加藤氏が過去の発言を撤回することはない。現実には既に国際法無視を常套とする中国によつて、「日中平和友好条約」は破られ、加藤氏自らの論理で言へば「戦争状態」に入つてゐる筈なのだ。
しかしだからと言つてそれを認めることもまたあるまい。なぜか。それは「中国の脅威を喧伝することは厳に慎むべき」(6月11日付琉球新報社説)であり、解決には「幅広い分野で重層的な対話の回路を広げてゆく必要」(11日付朝日新聞社説)があつて、「求められるのは、日中双方による地道な信頼醸成の取組である」(同)からといふことに尽きる。
では対話が通じない相手に対してはどうしたらいいのか。ここで日本の反日メディアは横並びで思考を停止する。見て見ぬふりをする。1938年9月のミュンヘン会談において、宥和政策を以て独裁者ヒトラーにチェコ・ズデーテン地方を渡した結果、第二次世界大戦の惨禍を引き起したといふ教訓を思ひ浮かべた風もない。
軍艦が来たら「戦争状態」になるといふ加藤氏の指摘は正しい。当然、次に来る思考の道筋は、主権、領土、国民を守るために、端からルールを無視する相手には、国防力を充実させて付け入る隙を与へまい、となる筈だ。少くとも普通の国ならさうなる。
因みに「日中平和友好条約」第2条には、「両締約国はそのいずれも、アジア・太平洋地域においても、又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、またこのような覇権を確立しようとする他のいかなる国、又は国の集団による試みにも反対することを表明する」とある。
今後もし加藤青延氏が、「時論公論」などで中国海軍艦艇の接続水域航行や領海侵入を解説するなら、この第2条を引用して、この条文は時間稼ぎの心にもないペテンであつた、従つて、日本は尖閣有事に備へるべきだと説かなければ首尾一貫しない。それでこそ自らの言論に責任を取つたと言へる。
産経新聞 2016.7.3 【月刊正論】※この記事は月刊正論8月号から転載しました。
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続く