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毎日新聞客員編集委員
2021年8月19日
いつまでも過去のあやまちを蒸し返すことには嫌悪感をおぼえる人もいると思う。
しかし、いじめは子どもを深く傷つけ、命まで奪うことがある。被害者の人生に暗い影を落とし続ける。
きわめて今日的問題であり、「過去のあやまち」として済ませることはできない。
小山田氏個人を責めるということではなく、政府批判のためでもなく、悩み苦しんでいる人のために、いじめについて語らなければならない。
障害のある同級生へのいじめ
亡霊のように27年前の記事が登場し、開幕直前の東京オリンピックを直撃した。
「ROCKIN'ON JAPAN」（ロッキング・オン・ジャパン）の1994年1月号、「クイック・ジャパン」の95年3号に掲載された小山田圭吾氏のインタビュー記事である。
段ボール箱とかがあって、そん中に〇〇（同級生）を入れて、全部グルグルにガムテープで縛って、
空気穴みたいなの開けて(笑）、「おい、〇〇、大丈夫か？」とか言うと、「ダイジョブ…」とか言ってんの（笑）
そこに黒板消しとかで、「毒ガス攻撃だ！」ってパタパタやって、しばらく放っといたりして、時間経（た）ってくると、
何にも反応しなくなったりとかして、「ヤバいね」「どうしようか」とか言って、「じゃ、ここでガムテープだけ外して、
部屋の側から見ていよう」って外して見てたら、いきなりバリバリ出てきて、何て言ったのかな…？
何かすごく面白いこと言ったんですよ。……超ワケ分かんない、「おかあさ～ん」とかなんか、
そんなこと言ったんですよ（笑）それでみんな大爆笑とかしたりして。
小山田氏が通っていたのは、幼稚園から大学まである私立の総合学園だった。
そこで知的障害のある同級生に対して仲間と行ったいじめのことを、インタビューで語っている。
マットの上からプロレス技のジャンピングニーパッドを繰り返す、下半身を露出させて女子のいる廊下を歩かせる。
自慰行為をさせる、汚物を食べさせる……。「いじめ」というより虐待や性暴力と呼ぶのがふさわしい行為も含まれているが、
それを小山田氏は自慢げにおもしろがって語っている。
「クイック・ジャパン」では「いじめ紀行」という特集が組まれ、編集部がいじめられた被害者や家族に会いに行って、
小山田氏との対談を申し入れている。結果的には断られたが、いじめられた同級生や家族の様子を小山田氏に
伝えて感想を聞いた内容が紹介されている。
当時はインターネットがまだ広がっていない時代だ。テレビや新聞などのメディアが、社会的な情報の広がりに圧倒的な影響力を持っていた。
日本のロック音楽の専門誌やサブカルチャー系の雑誌に載っただけで、大手メディアが取り上げることはなかった。
しかし、小山田氏がインタビューで語った内容はじわじわと世間に知られていった。
小山田氏は小沢健二氏と組んだフリッパーズ・ギターというバンドで一躍有名になり、都会的なセンスが「渋谷系」として
音楽界やファッションにも広く影響を与えることになる。その小山田氏が凄惨（せいさん）ないじめを赤裸々に語っている。
その衝撃の内容は音楽ファン以外にも注目されるようになっていった。
90年代に日本で起きたこと
「誰にだって子どものころにあやまちはある」「20年以上も前のことをいつまで引きずられなければならないのか」という擁護論がある。
いじめに加担したり、見て見ぬふりをしたりした経験のある人はきっと多いだろう。
そうした後ろめたさから、小山田氏へのバッシングをおもしろく思わない心理がはたらくのはわからなくもない。
ただし、私は、その当時からいじめの事件の現場を歩いて記事を書いてきた。
その立場からすれば、そうした一般論で済ますことができない重要性を小山田氏のインタビュー記事がはらんでいることを指摘しないわけにはいかない。
いじめはどこの国でもある。どこでもいじめは子どもたちを傷つけている。ただし、日本のいじめには特有の要素があり、
いじめられた子どもやその家族を二重三重に虐げる理不尽な構造がある。
小山田氏自身に自覚があったとは思えないが、そのインタビュー記事は日本型いじめのアリ地獄の底を掘り下げ、
救いのない状況を作り出すことに加担したのではないかと思う。
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