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「闘うりゃんせ」
ーーーーーーーーー あれは日本がバブルで浮かれていた頃。
〇〇証券の営業マンとして香港勤務証券マンからスタートした私は、
無我夢中でハードワークに専念していた。
その頃多くの華僑投資家に出会って学んだ事は、その後の証券会社退社後、
個人投資家になった今も大きく役に立っている。
ある日、昼食から帰ってくると、一枚のファックスが来ていた。
「ブレックファースト・ミーティングをしたい。ついては午前八時に来てほしい」
かねてから門前払いを8回ほど受けていたH・コン氏の秘書からだった。
ファックスにあった住所までタクシーで飛ばした。大きな鉄製の門。その横にある
インターフォンを押す。「Hello!」と英語の返事。一瞬、驚きで声を詰まらせながらも、
「マイネームイズ ハヤシ」恐る恐る聞いた所、急にウィーンウィーンと大きな音で、
重厚な鉄製の門扉が開いた。さらにその向こうは鉄格子の門が二重になっていた。
インド人と思しきターバンを巻いた大男の門番から中門が開けられると、その内側は、
一面広大な芝生で、中央には巨大な噴水が水しぶきを上げていた。中国人と欧米人のハーフぽい
中年の女性が屋敷を案内してくれた。通された部屋には米国の国務長官と握手している写真や
日本の著名な政治家と並んでいる写真が飾られていた。香港人とポルトガル人のハーフで、
深いしわが刻み込まれた顔立ちに風格があった。いざ日本株の話を始めると、証券マンの私よりも
知識が豊富で、遥かに奥深いことに驚愕した。「ワシはエイティーミリオンドルほど過去、日本株で
損をしたことがある。君は50回以上電話をかけてきて日本株投資を推奨した。そんな君と会う時間が
本当に意義あるかどうかを5分でジャッジしたい」軽くコーヒーカップを持ち上げ、広大な庭を
散歩しながら急に言われた。「ワシは経済的合理性にかなうものにしかお金を出さない」
これが華僑投資家に共通する投資理念だということが後になって分かることになる。
「ワシは、昨日、ワイフと喧嘩をした。あなたは何かにつけ経済的合理性ばかりでものを考えている。
そんな人生なんてつまらないわと言われたよ。 ワハハハ。確かに人生に、これが正しいと言う正解などはない。
どの世界で生きようとも生き残るための闘いだ。ワイフはワシには愛が足りないと言う。愛がなんだ!
何だと言うんだ! 愛国心、家族愛、恋人のを守る為、人は愛の為に闘い争いを生み血を流す。
そんな争いの火種を生むじゃないか!女は感情で動く。ワシは感情で投資はしない。あいつ(ワイフ)が
愛や夢を求めて闘って来たのなら、ワシはこのほんの一握りの者だけが勝ち残る。この世界で生きる為、
生き残るために闘い続けて来た」
その数年後、そんな感情をコントロールする合理的投資でこの世界で長く生きて一代で財を築いた
H・コン氏が亡くなったことを知ることになる。享年70歳だった。私とは僅かな付き合いでしたが、
癌が全身に転移して亡くなったH・コン氏。晩年、自宅ベットで寝たきりだったという。
その一週間後、そんな寝たきりの夫を献身的に支えて病床に倒れた奥様も後を追うように他界した。
— そんな人生の儚さを知り、改めて人生とは何なのかを考えさせられた ー
「人生に正解はない。ワシは、この世界で生きる為、生き残るために闘い続けて来た」
ーーーーーーーーー 私の心に、そんな彼の人生観。彼が放ったそんな言葉だけが残った。
晩年、病に侵されお金では買えない無償の愛に気付き目覚めた彼が奥様を連れ去ったのだろうか…
彼の邸宅の門を出ると、降り続いていた雨は、いつしか止み、そこには空高く大きな虹がかかっていた…