中島みゆきの名曲at MJSALOON
中島みゆきの名曲 - 暇つぶし2ch58:Track No.774
21/12/02 14:37:47.86 .net
「EAST ASIA」
 撮影なんかで外国に行った時、向こうの人から「あなたどこの人?」「中国人?」と尋ねられた時、
「いえ、日本です」と言うと「ああ、日本。どこにあるの?」とフランスの地図を見せられた時、
「あれっ?」ってなったの。日本で習う世界地図は、真ん中に日本があるでしょ。
ところがフランスに行って地図を広げると、日本はないのね。後ろの方にゴミのようにちょこっと
しか描かれてなくて、そんなもんかなぁ…(笑)と思ったわけ。フランスの人から見れば、こっちの事を
EASTだって言うわけでしょ、でも、日本の地図をガバッって開けば、EASTはアメリカ(笑)。
で、アメリカの地図を広げると、今度はアメリカがど真ん中で、EASTの国はどこって言ったら、
フランスになっちゃうわけでしょ。いい加減なもんよね(笑)。じゃあ、回っている地球でEASTって
どこって言えるっていうような感じがするのね」
「どこの国の世界地図だって、自分の国を中心に描いてあるさ。そんなの当然だろと思ってしまうと、
それで終わってしまう。何でもそうだけど、そういう何気ない疑問を持つことも大切だね。何事も…
確かに日本に住んで、世界地図の真ん中に日本がある地図を見慣れて育った立場で世界へ行くと国に
よって地図の描かれ方が異なることに強い違和感を感じるのは当然と言えば当然だ。ワハハハ」
休日ということで、僕たちは久しぶりのデートで横浜中華街に来ていた。
「はい、お待ちどうさま」「こちらも、お待たせ。熱いから気を付けてね」
「ありがとう」「わあ、美味しそう」僕たちが頼んだメニューが運ばれてきた。
「女の視点で考えた時、女ってどこの国に行っても結構生きていくでしょ。海外勤務で外国に行って、
日本食じゃなきゃ嫌だって言って、ノイローゼになるのは男が多いんですって(笑)。ところが女は、
地元の何だかわからんものでも「あら、結構いけるわよ」って食べちゃう(笑)。そんなとこあるわけ」
「確かに、女の方が順応性は高いね。男の方がなんにでもこだわりが高いからね。何週間も日本食を
食べていないと、そうなっちゃうかもしれない(笑) 男の縦社会、理念で生きているから、男はなんにでも
ルールやこだわりを持って生きる。女は、「踏んじゃったぁー」と笑って男が引いた線を越えてしまう
ところがある(笑)。そんな何にもこだわりなく生きることが出来る女は、何が強いってそんな心を自由に
して生きる適応能力の高さ、女の生命力(笑)かな。ワハハ。それから先ほどの話だけど、どこが中心かなんで、
地球からすればどうでもいいことだしね。これから大切なことは、どこで暮らすようになっても、どこでも
誰とでも合わせて生きていける生命力なのかな。どんなに高い壁があっても柔らかな風のように笑って
超えてゆく心があれば、どこでも生きて行けるね」

59:Track No.774
21/12/02 14:44:10.57 .net
>>58
下から4行目の末尾「どこが中心かなんて、」に訂正

60:Track No.774
21/12/04 20:34:31.36 .net
「誘惑」
ゆらりと彼が手にした煙草の煙が揺れる…
白を通り越してわずかに紫ががっているその色を見て
ああ、こういうのを紫煙っていうんだっけ、と何気なく考えていた。
紫煙は緩やかに形を変えながら、天井まで昇っては霧散していく…
時折、彼が吐き出す煙が形を崩す。混ざり合って溶けて消える。
そんな様子が面白くて、寝転びながらじっと見つめていた。
その様子に気付いた彼が「何を見ているんだ?」
訝し気に聞く。私の視線の先を割り出そうと周りを見回す。
結局それらしいものが見つからなかったのか、問うようにこっちを振り返る。
私は「ちょっと煙をね。何だかわからないけど楽しい。見ているのが…」と笑いながら答える。
 彼はキョトンとした顔をして、呆れたように微笑を浮かべて、「こいつの事か」と
煙草を一回吸ってから煙を吐く。煙草を銜えながら「楽しいか?」「うん」
「・・・俺にはわからないな」と何かを考えている彼。
悩んでいたり、辛そうにしていても「何でもないよ。大丈夫」と言ったり、
風邪や怪我を心配しても「これくらいなんてことない」といつも、
強がって本心をさらけ出してくれない彼。今一体に何を考えているのだろう… 
小さい頃からパイロットになりたい夢を持ち続け、6年間航空学校と航空会社の訓練所に
通っていたけどパイロットになれなかった彼。航空学校でも訓練所でもトップの成績だったのに
教官から適正に欠けると判断された彼。小さい頃からの夢で、あれほどなりたかった
パイロット。彼の気持ちが痛いほど分かるだけに… 言葉がかけづらい…

61:Track No.774
21/12/05 11:48:41.91 .net
ここで使われる紙飛行機の比喩は多分、社会的成功かな。より高く飛躍なのかな。
それともガラスの靴が女。紙飛行機が男。隠し持っている。幼少期の願望、女の子の
ガラスの靴はシンデレラストーリー。いつか白馬に乗った王子様が迎えに来て幸せに
暮らすお姫様願望。理想の男性がいつか自分の事を捜し突き止めて愛してもらえることを
夢見る。そうなると男の子の紙飛行機は紙飛行機を折って好意を抱く女性の元にスッと
飛ばすなりして気付いてほしい。又は意中の女性を奪い去る。連れ去りたい願望。
紙飛行機は1枚の紙を折って作り、的を狙ったり、男の子が戦争ごっこで投げ合う玩具という
記載が19世紀英国の子供の遊びに関する本にある。
的を狙う>愛する女性をめがけて飛ばす>恋の矢を放つ>キューピッド 色々考えさせるね。

62:Track No.774
21/12/06 12:05:39.51 .net
「空港日誌」
ーーー 風の便りで昔、不倫していた彼が亡くなったことを知る。
ーーーーーーーーー あの頃の思い出が今鮮明に甦ってくる。
あの頃の私は旧広島空港(観音の西空港)で彼が来るのを待っていた。
     でも風が強くてYS-11は広島空港に降りない…
ーーーーーーーーー 待っても待ち人はやってて来なかった。
    ~~~~~~~~~ 風が強くてゲートが閉まる。
「〇〇っていう男性が乗っているんですけど!」と係の人に尋ねても
彼の名前は乗客名簿にないと言う。何かの事情を察してか、気の毒顔をしていた。
あの頃の彼は、博多にいた頃、いつも東京の家族の所に帰らずYS-11に乗って、ここ広島に来ていた。
博多から東京行きではなく広島行きに乗って来ていた。あの日の思い出が蘇る…
分かっていた… もう彼との日々が戻ってこないことも… でもあきらめきれない自分がいた…
だから… わずかな期待を込めて… 博多からの飛行機を今日も待つ。そんな健気な自分がいた…
ーーーーーー またあのゲートをくぐり出てくる彼の姿が見えないかと… 待つ自分。
分かっている… あの日にあなたが博多にいたという愛のアリバイを壊してあげたい…
「博多に行ってくる」と言って会いに来ていた。あなたのアリバイ…
貴方の奥様に見せてやろうかしら…
ーーーーーー 写真一つで 幸せはたじろぐ。 
彼が、このままフェードアウトして関係解消狙っているなら… 
「そんな都合のいい事させないわ。あなたが博多にいたというアリバイを壊したかった」
腹いせにそんなことする安い女のと思われてもいい… そんな思いもあった…
ーーーーーーーーー そんな気持ちに揺れ動いている自分…
 
~~~ ドアから吹き込む12月の風がグランドスチュワーデスのスカーフを揺らす ~~~
「今夜の乗客は9人 乳飲み児が一人 女性が二人 後は常連客… 尋ねられた名前は ありません」と言う。
そう「羽田へ向かう便にさえ乗っていない」と事務的に事実を告げられる。
親身になってくれでもしたら、思わず話していたかもしれない。
ーーーーーー 彼を呼んだけど、結局は来なかった…
そんな事、百も承知でわかっているけど、でも… もう一度、報われぬ季節があなたに来れば
迷いに抱かれて 戻ってくるかと… そんな思いで待つ自分がいた…
 その後、東京の妻や子供の元へ帰った彼…
   ーーーーーーーーーそんなあの頃の辛く切なさい思い出が今でも蘇ってくる…

63:Track No.774
21/12/07 09:40:39.94 .net
>>62
5行目「待っても待ち人はやって来なかった。」に訂正
下から11行目「安い女と思われてもいい…」に訂正

64:Track No.774
21/12/07 12:04:43.94 .net
「闘うりゃんせ」
ーーーーーーーーー あれは日本がバブルで浮かれていた頃。
〇〇証券の営業マンとして香港勤務証券マンからスタートした私は、
無我夢中でハードワークに専念していた。
その頃多くの華僑投資家に出会って学んだ事は、その後の証券会社退社後、
個人投資家になった今も大きく役に立っている。
ある日、昼食から帰ってくると、一枚のファックスが来ていた。
「ブレックファースト・ミーティングをしたい。ついては午前八時に来てほしい」
かねてから門前払いを8回ほど受けていたH・コン氏の秘書からだった。
ファックスにあった住所までタクシーで飛ばした。大きな鉄製の門。その横にある
インターフォンを押す。「Hello!」と英語の返事。一瞬、驚きで声を詰まらせながらも、
「マイネームイズ ハヤシ」恐る恐る聞いた所、急にウィーンウィーンと大きな音で、
重厚な鉄製の門扉が開いた。さらにその向こうは鉄格子の門が二重になっていた。
インド人と思しきターバンを巻いた大男の門番から中門が開けられると、その内側は、
一面広大な芝生で、中央には巨大な噴水が水しぶきを上げていた。中国人と欧米人のハーフぽい
中年の女性が屋敷を案内してくれた。通された部屋には米国の国務長官と握手している写真や
日本の著名な政治家と並んでいる写真が飾られていた。香港人とポルトガル人のハーフで、
深いしわが刻み込まれた顔立ちに風格があった。いざ日本株の話を始めると、証券マンの私よりも
知識が豊富で、遥かに奥深いことに驚愕した。「ワシはエイティーミリオンドルほど過去、日本株で
損をしたことがある。君は50回以上電話をかけてきて日本株投資を推奨した。そんな君と会う時間が
本当に意義あるかどうかを5分でジャッジしたい」軽くコーヒーカップを持ち上げ、広大な庭を
散歩しながら急に言われた。「ワシは経済的合理性にかなうものにしかお金を出さない」
これが華僑投資家に共通する投資理念だということが後になって分かることになる。
「ワシは、昨日、ワイフと喧嘩をした。あなたは何かにつけ経済的合理性ばかりでものを考えている。
そんな人生なんてつまらないわと言われたよ。 ワハハハ。確かに人生に、これが正しいと言う正解などはない。
どの世界で生きようとも生き残るための闘いだ。ワイフはワシには愛が足りないと言う。愛がなんだ!
 何だと言うんだ! 愛国心、家族愛、恋人のを守る為、人は愛の為に闘い争いを生み血を流す。
そんな争いの火種を生むじゃないか!女は感情で動く。ワシは感情で投資はしない。あいつ(ワイフ)が
愛や夢を求めて闘って来たのなら、ワシはこのほんの一握りの者だけが勝ち残る。この世界で生きる為、
生き残るために闘い続けて来た」
その数年後、そんな感情をコントロールする合理的投資でこの世界で長く生きて一代で財を築いた
H・コン氏が亡くなったことを知ることになる。享年70歳だった。私とは僅かな付き合いでしたが、
癌が全身に転移して亡くなったH・コン氏。晩年、自宅ベットで寝たきりだったという。
その一週間後、そんな寝たきりの夫を献身的に支えて病床に倒れた奥様も後を追うように他界した。
  — そんな人生の儚さを知り、改めて人生とは何なのかを考えさせられた ー
「人生に正解はない。ワシは、この世界で生きる為、生き残るために闘い続けて来た」
   ーーーーーーーーー 私の心に、そんな彼の人生観。彼が放ったそんな言葉だけが残った。
 
晩年、病に侵されお金では買えない無償の愛に気付き目覚めた彼が奥様を連れ去ったのだろうか… 
彼の邸宅の門を出ると、降り続いていた雨は、いつしか止み、そこには空高く大きな虹がかかっていた…

65:Track No.774
21/12/07 12:24:00.66 .net
>>64
タイトル「闘りゃんせ」に訂正
下から13行目「恋人を守る為、・・・」に訂正

66:Track No.774
21/12/07 15:39:09.46 .net
>>64
下から9行目「その数十年後、・・・」に訂正

67:Track No.774
21/12/07 15:41:17.24 .net
>>66
「十数年後、・・・」に再訂正

68:Track No.774
21/12/08 15:10:23.86 .net
「merry-go-round」
手に持っているアイスを、落としてしまいそうなぐらい、よちよち歩きの
男の子の傍に急いで駆け寄って抱きかかえる母親らしき女性。
私は彼とのデートでよく来ていた遊園地に友人と来ていた。
「次どこへ行く?」とマミが訪ねる。
お化け屋敷、ジェットコースター、ミラーハウス・・・
目ぼしいアトラクションは一通り乗った感がある。
午後の日差しは消え、微かに夕暮れ時を帯びていた…
向こうに見えるメリーゴーランドの電飾が妙にキラキラ輝いて見えるのは
その分だけ陽が陰って来たからだった。
私達は遊園地のベンチに座り、クレープを食べながらお茶をしていた。
「メリーゴーランドはどう?」とマミが言う。
向こうで楽し気な電子音のメロディを奏でながら回る、大きなオルゴールみたいな
アトラクション。マミに誘われて近づいていくと、豪華な電飾の中で回る回転木馬。
そんな作り物のポニーや馬車に乗った人達が笑顔をこちらに向けたまま流れて行く。
幼い男の子と綺麗なお母さんが乗ったポニーが目に入った。二人とも弾けるような、
笑顔で手を振っていた。柵の外の人混みでビデオカメラを取っているお父さんに
向けてだった。その光景があの人とあの人の彼女とダブって見えてしまう… 
 足が勝手に止まった。「どうしたの?」とマミが不思議がって訊ねる。
好きじゃない人から言い寄られることはただ気分が悪くなるだけのことね
好きじゃない人から電話もらうこともただの時間の無駄なだけのことね
それと同じことを私があの人にしてただけだね。
悲しい現実から目をそらしても 同じ所を回っているだけで1ミリも
進まない距離がある 他の誰かなんて見る暇も惜しんで恋い焦れて
続けても報われなくて それと同じことをあの人嘆いては誰かを想う
綺麗な矛盾だね 傍から見れば  
    それを分からずに同じ所をただ回っていただけ…
   ― 私は今まで現実から目を背けていただけだね ー
   そんな実らない恋をしていた自分を知ることになる。
       ーーーーーーーーー涙が零れる…
       
 

69:Track No.774
21/12/08 16:05:04.41 .net
>>68
16行目「ビデオカメラで撮影しているお父さんに」に訂正

70:Track No.774
21/12/08 16:42:43.94 .net
>>68
タイトルを大文字「MERRY-GO-ROUND」に修正
4行目「マミが尋ねる。」に訂正

71:Track No.774
21/12/08 19:25:39.17 .net
URLリンク(i.imgur.com)

72:Track No.774
21/12/08 20:02:57.62 .net
>>71
遊びに来るのは構わないが、変なのは張らないでほしいね。

73:Track No.774
21/12/08 20:08:37.35 .net
>>72
張る×
貼る〇

74:Track No.774
21/12/08 20:28:24.40 .net
>>71
松任谷由実ファンなのかな? 分らないけど、ユーミン、みゆきとかの対抗意識に
興味が全くないので、荒らしならやめてもらいたい。松任谷由実さん良いと思いますよ。
ライバル意識や対抗意識なんて、そんなの、どーでもいいじゃないですか。
荒らし嫌がらせはお断りします。

75:Track No.774
21/12/09 14:03:36.90 .net
「この空を飛べたら」
頑固おやじの父親が先月亡くなった。享年69歳 胃癌だった。
私は小さい頃から看護師になることが夢だった。可愛いナース服とか、
病気で不安な時も笑顔で話しかけてくれる優しさとか、全てが
自分の憧れだった。
高校生になっていよいよ進路をという時、とある国立大学の看護学部に
行きたいと親に話した。私の努力を誰よりも認めてくれていた親だから。
きっと応援してくれるだろうと思っていた。だが、ダメだった。
父親が反対して来た。「せっかく良い私立に入ることが出来たんだから、
看護婦になるくらいなら、医者を目指せ!」というものだった。
その時の事は今でも鮮明に覚えている。泣き叫びながら父親に殴り掛かった。
実の父親に対して、とんでもない暴言も吐いた。
結局、私は父親に一発殴られた後、母にたしなめられ、自室に戻って泣きながら寝た。
この時から、私は父親を嫌い始めるようになった。それ以来、父とは二人きりで外出する
ことはなくなった。母を交えて三人で出かける事はあっても、父とは目を合わさない生活が始まった。
父の前では意地でも笑顔を見せようとしなかった。結局、父から私への謝罪はないまま私は家を出た。
見事第一志望校に受かり、看護学を修める為に独り暮らしをすることになった。
出発の日、見送りに来てくれたのは母だけだった。あれだけ父に嫌がらせを
したくせに、この時だけは年甲斐もなくぽろっと泣いてしまった。
大学生活は本当に楽しかった。ずっと学びたかった事を教えてくれる先生。同じ志を持って高め合える友達。
看護師になった先輩の、地元では決して聞けなかっただろうリアルな話を聞くことが出来た。
そんな充実した日々だったが、私にはまだ父とのわだかまりがあった。実家に帰る時は、
その度に「今日こそはきちんと謝ろう」と決心して、いざ父の顔を見るとどうしても
素直に謝れない自分がいた。たった一言「ごめんなさい」というだけなのに・・・
そんな時、父、危篤の知らせを母から知ることになる。急いて病院に駆けつけると、
父は既に息を引き取っていた。母曰く、余命宣告は受けており、父本人もそれを知っていたが、
私には絶対に知らせないでくれと頼みこまれててたために私に最後まで連絡出来なかった
ということだった。私は父の葬儀の為に暫く実家にいたが、親が死んだという実感は中々湧かなかった。
葬儀も淡々と執り行われ、私は特に取り乱さなかった。そしていよいよ、明日、私が帰るという日、
就寝前に母が私を呼び寄せた。寝る前にリビングに呼び出されて「ここに座りなさい」なんて言う
もんだから父に代わって何か言われるのだろうかと内心びくびくして座った。
母が取り出したのは、新品のピカピカ、綺麗な桜色の高級なナースサンダルだった。
いつまでも黙っている母に「これどうしたの?もしかして、私に買ってくれたの?」と
母に聞くと、「それはお父さんからのプレゼントよ」 聞いた瞬間、大粒の涙が零れた。
嘘だ!あんなに看護師になることを反対していたじゃないか… 母は、その他にも、
次々と色んなものを出してきた。万年筆、ちょっと高級な財布、いかにも女子大生が
好みそうなデザインの可愛い腕時計… これが誕生日のプレゼント、これがお雛祭りの…
これがに入学祝い、これがクリスマスプレゼントと… 説明する母の言葉は震えていた…
母が最期に見せてくれたのは、私が看護学部に合格し、入学式、大学の門の前で母と二人で
笑顔で映っていた写真だった。その写真には父の指紋がびっしりとついていた。
母が写真を見せると、特に興味を示さない様子で「その辺に置いとくれ、気が向いたら見るから」と
ぶっきらぼうだったと言う。見たがらないものを無理強いするのも良くないと思い、ベットの傍に
置いたものだと言う。改めて見つけたその写真は父の指紋がびっしりとついていた。
その写真の裏側には、もう文字も書けない状態で一生懸命書いたのだろうか、崩れた文字で
 「合格おめでとう 頑張れよ」と書かれてあった ーーーーーーーーー

76:Track No.774
21/12/09 14:18:19.19 .net
>>75
13行目「私は父親を嫌い避けるようになった。」に修正

77:Track No.774
21/12/09 14:46:19.70 .net
>>75
26行目「頼みこまれていた為に・・・」に訂正

78:Track No.774
21/12/10 15:31:28.68 .net
「夢見る勇気」
私があの先生に出会ったのは中学一年の夏でした。
とても元気で毎回楽しい授業をしてくれる塾の先生でした。
そんな先生の事が私はとても大好きでした。
その頃の私は、学校で虐め、嫌がらせを受けていたこともあり、親には私の気持ちが分からないと、
親に反発し、いつも親と喧嘩していました。虐めや嫌がらせは学校、放課後だけに留まらず、
塾や色んな所で受けていて、かなり精神的ダメージになっていて、死にたいとすら思っていました。
どうしても周りに信頼し、相談できる相手が居ず、ただだた日々耐えていました。
そんなある日、塾の先生が私を呼びつけました。「最近、元気ないけど何かあったのか?
言える範囲でいいから聞かせて?」いつも元気な先生とは違って、とても優しい声でそう言ってくれました。
私は今まで堪えていたものが抑えられずに、涙が溢れ出て止まりませんでした。
今まであったことを全て話しました。先生は何でも優しく聞いてくれました。
「ゆっくりで良い。もっと落ち着いて話して。焦ると上手くいかなくなってもっと辛くなる。俺はお前が笑顔で
居ることが一番だと思っているから」そんな先生の優しい言葉に救われた気がした。
そんな先生がある日、私にこう告げた。「もっと傍にいてやりたかったけど、ごめんな。
俺は塾の講師を辞めて地元へ帰ることになった」その瞬間、私は頭が真っ白になりました。
ショックでした。悲しくて心の中で何回も泣きました。帰宅した後も独り自分の部屋に籠り泣き崩れました。
最後の日、「私は、先生に出会えて本当に良かった。今までありがとうございます。先生が居ないと、
どうしたらいいかわからない。だけど、勇気をもって自分らしく少しずつ頑張る」そう誓いました。
   誰も… 誰も辛くない別れなんてない 誰もわざと一人になりなくなんかない
それを聞いた先生は「実はな、先生もお前と一緒だったんだ」ほっとしたような、少し寂しそうな顔で
教えてくれた。「学校でいつも虐められていた。親とも喧嘩が絶えなかった。そんな経験があるからこそ、
皆に虐められているお前が気になり、何とかして心の支え、助けられる存在になりたかった。お前は、
出来る子だから、辛くても苦しくても頑張って乗り越えられると信じている。頑張れよ! いつか、
お前が笑顔で頑張ったよって報告してくれるのを待っているからな。辛い思いをした分だけ人間的に必ず
成長できる。何十年先だろうと、俺は待っているぞ! 頑張れよ!!」
そんな元気な先生の初めて見る涙に驚き、先生も辛い思いをしていたんだ・・・
 ・・・そう思うと… 私も何だか、頑張る勇気が湧いてきた。
  先生が最後に「何か、夢を持って生きろ! それが、きっとお前に力になる。頑張れ!」

79:Track No.774
21/12/10 17:39:21.64 .net
「夢見る勇気」
彼と大喧嘩した。「バカ野郎!」切っ掛けはほんの些細なことだった。
私は一人、公園のベンチに座りながら老人たちが談笑しながら
ゲートボールを楽しんでいるのを見ていた。
空を見上げ、眺める。空に次々とあいつのこと思い出しては腹が立つ。
悔しいけどそこまで惚れてるのかな。あの野郎とはいつも口喧嘩になる。
素直になれない。あいつが言う「お前は男勝りで俺の手には負えないよ」
というあいつに、肘打ちを突き放ち去って来た。
空を見上げ溜息ついていた。そんな時、「どうしたんじゃい。お嬢ちゃん?」
老人特有の寂声が響く、私は視線を空から降ろした。
いつの間にか私の隣に小柄なおばあちゃんが座っていた。
「ちょっと、彼と喧嘩して」「ふむ、若い頃はよくあることじゃな。ワシもあったわ」
おばあちゃんは、懐かしむような優しい笑顔をを浮かべた。
「素直になれないんです。好きなのに… 言葉にして伝えられないんですよ。
言葉にしなくても伝わると思っていて、それがいつの間にか当たり前になっちゃって」
気付いたらすべてを話していた。おばあちゃんの持つ優しい雰囲気のおかげなのだろうか…
「確かに、言葉にしなくても伝わっているかもしれんな。しかしな、言葉にするだけで
色々変わるもんなんじゃよ」「私男勝りで、いつも彼と大喧嘩になる」
「大抵の男は気の強い女を敬遠する。たまには男を立てて、甘えてみてはどうじゃ。とにかく
素直で愛嬌があれば十分じゃよ」おばあちゃんはそこまで言うと、
仲間に呼ばれたみたいで「よっこいしょ」と立ち上がった。
「何も悩む必要はない。とにかく素直で愛嬌があれば十分じゃよ」

80:Track No.774
21/12/11 22:35:41.28 .net
「匂いガラス~安寿子の靴」
半年ほど前、爺ちゃんが入院した。それまでに何回か入退院を繰り返していたが、
今回はやや長くなると言うのでお見舞いに行った。病室は6人部屋の一般病棟。
そこにまだ小学校にも上がっていないくらいのお人形さんのような可愛いらしい女の子が
テディベアのぬいぐるみを抱えていた。爺ちゃんと他愛もない話を30分ほどしてからコーヒーを
買いに席を外した。自動販売機の傍にあったベンチでコーヒーを飲んでいた。
ふと近くにあった部屋を覗き込んだ。そこはTVがあり、おもちゃや絵本が置いてある部屋で子供の遊び場だった。
そこにさっき爺ちゃんの病室に居た女の子が座っていた。そこに入って、女の子に声をかけた「こんにちは、
さっき病室に居た子だよね。名前なんて言うの?」女の子は小さな声で「ユカ」と答えた。
どうやら折り紙を一生懸命折っているようだった。
「ユカちゃんか、僕はタケルだよ。よろしくね」ユカちゃんは折り紙をやめて僕の方を見て、小さい声で
「よろしくね」って答えて、また折り紙を始めた。その部屋を後にして、病室に戻りその日はそのまま家に帰った。
爺ちゃんの入院は長くなると言うので家族が一週間おきに輪番でお見舞いをする事になった。
4人家族だからおよそ1か月に一度のお見舞いになる。そして僕の当番の日。着替えなどを持って
病院に行き、爺ちゃんと話をしてから、いつものようにコーヒーを買いに行った。
子供の遊び場を覗くと、そこにはユカちゃんが独りで遊んでいた。僕は部屋のドアを開け声をかけた。
「ユカちゃん、こんにちは。僕のこと覚えている?」「うん」そう言ったユカちゃんは立ち上がり、
僕の傍に近づいてきた。そして「これあげる」と僕にあるものをそれは小さな折り紙だった。
僕はそのままその部屋に入り、ユカちゃんと色んな話をした。
病気で幼稚園に行けなくなった事、ピアノのお稽古が嫌いな事、来年から小学校に上る事。折り紙は看護師さんが
教えてくれたらしい。僕は夏にとある国家試験を控えていたので、ユカちゃんに「ユカちゃん折り紙が得意だったら、
お兄ちゃんに、いっぱい鶴折ってよ。夏に大事な試験があるんだ」ってお願いした。多分、ユカちゃんは試験の意味も
分かっていなかったと思う。でも、最高の笑顔で「うん」って答えてくれた。「約束だよ。指切りしようね」と
ユカちゃんと指切りをして部屋を後にした。    ー それがユカちゃんを見た最後だった ー
次の当番の日、お見舞い道具一式を持って爺ちゃんの病室に行った。その時、ユカちゃんとの約束の事など
すっかり忘れていた。爺ちゃんに着替えを届けて話をして帰ろうと思った時、一人の女性が声をかけて来た。
「〇〇〇さんのお孫さんですか?」見たこともない人に声をかけられた僕は少し驚いたが、
「ええ、そうですが、あなたは?」と答えた。
するとその女性はこう答えた。「ユカの母親です」話を聞くとユカちゃんは僕が帰ってから二週間後に
亡くなったそうだ。ユカちゃんのお母さんは一通り話を終えると持っていた紙袋からあるものを取り出した。
それは透明なビニール袋いっぱいに入った折り鶴と手紙らしきものだった。
「あなたとの約束をユカから聞いた日から、妙に張り切って折り紙を折って作っていたんです。
あなたのお爺さんに字を教えてほしいって頼んで、お爺さんが理由を聞いたら「おてがみかくの」と
言ったらしいんです」 その言葉を聞いた僕は袋を開けて中の手紙を取り出した。
 開いた手紙には   ー 「し けん が ん ばって く だ さい ゆか より」 ー
 たどたどしい文字で大きく書かれてあった。
ー その紙いっぱいにに描かれた一生懸命書いたであろう不揃いな文字が躍っていた...
        …これはユカちゃん、君が生きた証だ ー
 ―― ユカちゃん ありがとう 君の思いは しっかり受け取ったよ ――

81:Track No.774
21/12/12 08:55:37.93 .net
「孤独の肖像」と「孤独の肖像1st.」は全く別の世界を描いているが、驚く事に、実は歌詞は同じなんだよ。

82:Track No.774
21/12/12 08:57:49.67 .net
>>81
ほぼ歌詞の内容は同じなんだに訂正

83:Track No.774
21/12/12 09:38:38.25 .net
唄う声に表情があるからだろうか・・・

84:Track No.774
21/12/12 10:19:39.48 .net
>>80
下から3行目「その紙いっぱいに描かれた・・・」に訂正

85:Track No.774
21/12/13 17:15:02.05 .net
「カーニヴァルだったね」
土曜日は会社が休みだったが、朝九時頃に支社の内務課長から
目黒のマンションの自宅に電話がかかって来た。
早速、東京の本社総務部長室へ。本社総務部長の二人が、向かい側に座って、
直ちに事実確認が行われ、調査の結果、この8年間で、持田が、不正に引き出した
総額は2億8千万に上る事が指摘された。
「2億8千万もの金を、君は一体、何の為に使ったのかね」と本社総務部長の一人から
顔を歪められ詰め寄られた。「会社の為に使ったんです」と持田は落ち着いた口調で
答えた。訊ねた本社総務部長の一人は荒げた口調で「なんだって! ふざけた事言うな!!」
「全額会社の為に使った金です」「いい加減なことは言うな!」
「事実を言っているだけです」
「会社の為に使ったというなら、証拠を見せてもらおうか」
「会社の労使問題が協調を前提に円滑に保持されるようになったじゃないですか」
「労使関係と君の使い込みが、一体どういう関係があると言うんだ」
京橋支部長を務める持田は一日置きに銀座に通ううち、いつの間にか銀座では
彼の顔を知らぬ者はいない銀座では名の知れたちょっとした有名人になっていた。
京橋支部の成績は1年に80億から90億という抜群の契約実績を上げていた。
交際費枠や接待費が無しの支部で、8年前から持田は、あるやりくりに手を染め、
8年間に四百億近い契約を集めていたが、銀座でその間に使った額は、いつの間にか
2億8千万にも膨れ上がっていた。返すつもりだった金額は、いつの間にか
返せない額に達していた。
いずれはバレる運命にあるとはいえ、持田の苦しいやりくりも、ついに表面化したのだった。

86:Track No.774
21/12/15 15:49:43.73 .net
「サーモンダンス」
小さい頃に母が亡くなったので、俺はオヤジに育てられた一人っ子。
オヤジは長距離運転手なのでほとんど家にはいなかった。
たまに家にいたとしても口うるさくて少し口答えしただけでよく殴られた。
まあ生き方が頑固一徹で不器用な人だから、オヤジとはよく衝突した。
いつも怒鳴ってばかりいたオヤジ。たまに家にいた時作ってくれた鮭の塩焼き。
そんな父子家庭で育った俺は、当然の如く家が貧乏で、いつもボロボロな服で小学校に
通っていた為、学校では何かと虐められ、よく喧嘩して帰って来ていた。
たまにオヤジが家にいた時、俺がいつものように虐められ喧嘩して帰って来た時のことだ。
オヤジはそんな俺に何も言わず黙って焼き鮭のおにぎりを俺の前に置いてくれた。
その時、そんなオヤジから突然、鮭の産卵の話を聞かされた。
「海で大きく育った鮭は、自分が死んでしまうのに、どうして子供を産むためにボロボロになりながら、
かって自分が生まれた川に戻るのか?鮭の雌は産卵する為に飛び跳ねながら川の流れに逆らい遡り遡上する。
彼らは故郷である川の上流にたどり着くと、迎えてくれるのは懐かしい故郷の川の匂いだ。上流に行けば行くほど、
川は浅くなり、産卵場所にたどり着く頃には川底の石に傷つけられた鱗はボロボロだ。もはや泳いでいると
言うよりも、もがいていると言った方がいい。そんな状態で川底に産卵する所を探し、そこに雄が寄り添い、
産卵・放精をする。繁殖を終えた鮭には、生涯やるべきことも、体力も残されてはいない為、産卵が終わると
やがて力尽き雄も雌もその一生を終える。しかし、卵を産む事で、新しい命のバトンを繋ぐ。それが鮭の役割。
そんな感じで、それぞれの生き物にはそれぞれの役割や生きている意味がある」
     ――――― そんな鮭の命がけの遡上の話を突然聞かされた。
 ------ お前にも生きている意味や役割があると言うように聞こえた。

87:Track No.774
21/12/16 21:29:31.50 .net
「いつか夢の中へ」
――――― 今日は50年連れ添ったあなたのお通夜。 
今日、取引先から聞いた話でとってもじ~んと来ちゃった。
お見合い結婚で最初は武骨な印象だったけど、
一生懸命に笑顔を見せるところに誠実さを感じました。
結婚してからはめったに笑顔を見せず
いつも、ムスッと難しい顔をしていましたね。
経営していた自動車修理工場を朝早くから夜遅くまで働いて指定工場にまでしたのに…
二人の息子は後を継がずに東京へ行っちゃいました。
二人とも今日は来ていますよ。
明日の告別式を待ち真っ白に包まれて眠っているあなたを見つめながら
50年の月日を振り返っています…
お陰様で孫にも恵まれて幸せでした…
でも、色んな事がありましたね。
従業員の給料を払うために必死で銀行の融資担当者に頭を下げていたあなた…
私は後ろからそんなあなたに頭を下げました…
長男に続いて次男まで上京したいと言い出した時…
あなたは黙って次男を駅まで見送りましたね… 
あの時のあなたの寂しそうな顔が忘れません。
病気になって入院するまで、朝早くから夜遅くまで油まみれで働いて…
大好きだったビールを1日に大瓶一本空けていましたね。
今、隣の部屋から孫たちの声が聞こえてきます。
孫にはだらしないまでに甘かったあなた。
――――― あなた よく頑張りましたね。
私たち家族の為に… 会社の為に… 本当に頑張ってくれました。
あなた 本当に… 本当に… 「お疲れさまでした」
 
そんなあなたの顔を見ていると、なぜか不思議と、お見合いの時見た
――――― ちょっとはにかんだ笑顔が浮かんだような気がしました… 

88:Track No.774
21/12/16 22:59:21.01 .net
「いつか夢の中へ」
仕事から帰ると妻が一人掛けの椅子に腰掛けて眠っていました。
そんなはずはないと分かっていても、声を掛けられずにはいられませんでした。
「ただいま」 すると妻は、ゆっくりと顔を上げて「お帰り」と返してきました。
俺は妻に近づいて、頭をゆっくり撫でました。ちゃんと触ったという感覚がありました。
「なんでいるの?」 妻は入院中で、家に居るはずがないのです。
やっとのことで口から出た言葉はそんなものでした。
すると妻は、笑って「抜け出したんよ! 凄かろう?」
凄いとか、ほんま… アホかと思いました。昔から妻はそういうところがありました。
末期の癌で入退院を繰り返している癖に活発という…
最近忙しくて、週一のペースでしか見舞いに行かなくなっていました。
そりゃあ、寂しかったのだろうと思います。
暫く二人とも無言でしたが、少し経って俺は「病院へ戻ろう?」
妻は拗ねたように「いやだ!」
妻が病院を抜け出して来た理由も全く聞かずに俺はアホだったと思います。
妻がきっと自分の死期を悟っていました。だから帰って来たのだと思います。
俺は一週間ぶりに見る妻がいとおし過ぎて…
細くなった腕も、少しこけている頬も、病室で見る度に苦しかったのに…
俺はその後、妻を寝かしつけると病院に連絡を入れ、明日には病室に
戻すので今晩は家に居させてくださいと頼みました。
担当医は俺に激怒しましたが、無理を通してもらえました。
次の日の朝、起きると妻はまだ寝ていました。
可笑しいなと疑うこともなく、10時頃まで寝かせておきました。
でも、流石に起こそうと思って妻の体を軽く揺さぶりました。
でも、妻は中々起きません。何回呼んでも妻は起きません。
何度も何度も妻の名前を呼びました。何が起こったのかも、
全部わかっていたけど、認めたくはなかった。
起きて欲しい… 話せなくていい… 笑っていなくていい…
冷え切った妻の手を握り締め、これまでにないぐらい泣き叫びました。
いつか来る日だと分かっていたけど… 「ありがとう 愛しているよ」

89:Track No.774
21/12/17 10:01:03.41 .net
>>88
末尾の「ありがとう 愛しているよ」の前に「ひょっとしたら、自分の死期を悟った妻は
お別れのあいさつに来たのかもしれない… 一人で旅立つ前に…」を追加

90:Track No.774
21/12/17 12:14:16.50 .net
>>88
15行目「妻はきっと自分の死期を悟っていました。・・・」に訂正

91:Track No.774
21/12/18 21:12:06.19 .net
「離郷の歌」
私の甥っ子は、母親である妹が病気で入院したので、暫くママと離れて
ママの実家の父母の家に預けられることになりました。
「ママが、びようきだから、おとまりさせてね」と言いながら小さな体に着替えを
入れたリュックを担ぎ、我が家にやって来たのです。
夜寝る時は、「きょうは、じいじとねる」「きょうは、ばあばとねる」と
楽しそうに寝る相手を選んでいました。昼間は時々「ママは、びょうきなおったかなぁ~」
と言うので「寂しいの?」と聞くと「ううん、だいじょうぶ!」と、いつも元気よく
話してくれます。子供ながらに周りに気を遣っているのかなと家族で話ていました。
母である妹が、その後亡くなり、甥っ子は「ママに、あいたい」「ママ、かえってこないの?」と
毎日泣いていた。そんな幼い心を痛めている姿が、可哀そうで見るに堪えられなかった。
そんな甥っ子が、先週あたりからぱったりと泣かなくなった。
墓参りに行った墓前で、
「4さいになったからね。なかないよ、ばあばとやくそくしたんだ!」と
私に打ち明けてくれた。
そして小高い丘の上にある墓地から空に向かって
「ママーっ! いつでも、かえってきてねぇー !!」と叫んでいた。

92:Track No.774
21/12/19 15:06:20.32 .net
>>91
3行目「ママが、びょうきだから、・・・」に訂正

93:Track No.774
21/12/20 11:10:07.34 .net
「ばいばいどくおぶざべい」
雑居ビルの薄暗い地下にあり、壁には古びたポスターやステッカーが
大量に貼ってある昔ながらの老舗のライブハウスに来ている。
仲は煙草の煙で薄暗い。
そんな昔ながらのイメージのライブハウスは年々減り、分煙や禁煙が進んでいる
所が多くなっている。最近はキャパ1000人規模のライブハウスや都会のおしゃれ空間的
ライブハウスなど従来のイメージを大きく変えるようなところも増えてきて、
ライブハウスの雰囲気はそれらの場所や又、イベントによって雰囲気は違ってくる。
ここの老舗のライブハウスもビルの建て替えと言う事で、来年閉店と言う事になった。
思い出の場所が、無くなるのは寂しいと多くのファンが駆けつけていた。私が行った時は、
ちょうどタテノリバンドの演奏が終わり、次のステージの準備中だった。
― 準備は整ったようだ ―
― ステージが始まった —  Dock of the Bay だ  それも三人組親父バンドだ。
聞いたところによると、今日が最後のステージらしい。ブルースバンドのブルース風の
ドッグ・オブ・ザ・ベイ。 ドスの効いた、しわがれた声がブルースアレンジとマッチ
していていい味を醸し出していた。2曲目はBob DylanのLike a Rolling Stone .........
どことなく、気のせいなのか、心なしか...  泣いているようにも聴こえた...
哀愁が漂うドスの効いた、しわがれた低く渋い声の響き… 親父バンドの最後の舞台。
いいものを聞かせてもらったよ...  ありがとうと、心の中で叫んでいた...
... そして親父バンドの最後のステージは終わった ...

94:Track No.774
21/12/20 11:21:23.15 .net
>>93
3行目「中は煙草の煙で薄暗い。」に訂正
パソコンの誤変換

95:Track No.774
21/12/21 10:29:59.93 .net
「ローリング」
いつものように地下鉄を降り、改札を抜け地下街を歩く。地下街から地上に
上がる階段の隅でホームレスが眠っていた。「何処かで見た事のある顔だなぁ」と
思いながらも思い出せず、会社に着く。仕事中に肩を叩かれた。
「菊池さん、部長がお呼びです」部長の所へ行くと「菊池君、いくつになった」
「はぁ、来月で43歳になりますが、何か?」「43歳か、役職が全くないというのも、
何かと不都合だろ。どうだい、思い切って新しい職場で頑張ってみるのもどうかな、
向こうじゃ君に課長職を用意するから、是非、来てほしいと言っているんだが」
「子会社出向と言う事ですか?」「菊池さん、部長のご好意をそんな風に取っちゃいけないよ。
昔から適材適所って言葉がある。新天地で埋もれていた才能を開花するチャンスでもあるんだよ」
「お断りします。私、今のままで十分満足していますから、失礼します」
またやっちまった。俺が出世出来ない理由に自分の意見を言うというのがある。
それと言いたいことを言える組合を作ろうとしたことだ。今では会社のお荷物というか、
厄介者だ。会社務めとしてその十字架を背負っている。
―― そんな時だ!思い出したぞ!
朝出勤前、見かけた浮浪者は学生の頃、仕送り全部使っちゃって、職安に行った時、
声をかけて来たあの手配師だった… 
「お兄ちゃん学生だな」「あ、はい!」「おいで、いい仕事あるから、一日飯付き、時給1200円。
危ない仕事じゃないし、学生さんも大勢いるからおいで」「…」悪い手配師にぶつかると、
地方の飯場に連れていかれて安く働かされた挙句、博打で有り金巻き上げられると聞いていたから、
悩んだけど、仕事が終わると俺たち学生を飲みにつれて行ってくれた。
「俺のおごりだ。どんどん飲め。お前たち学生は将来、必ず世の中の上に立つ。
だから俺はお前達を大事に扱う。その代わり偉くなったら俺達の面倒を見てくれよ。ワハハ。
それと、お前、俺の事いい人だと思っていないか」「はい!」
「世の中にいい人間なんていないのよ。俺がお前におごってやってんのも、お前たちの金を
ピンハネした金でおごってる。俺も上のやくざからピンハネされてる。そしてそいつらも、
その上にやられている。世の中とはそういうものだ。すべては金だ。金がこの世を支配してる。
金の価値が人の価値より上になってる。金なんてよ。人が作ったもんだ。いくらでも擦れるのによ。
人は人を作れない。お前の母ちゃんはお前の体全部設計し、作ったわけじゃない。神様から授かっただけだ。
身の回りのものは人が作ったものだけど、人は神からの授かりもんだ。大切にしなけりゃいけないのによ。
上に行けば行くほど金の魔力に取りつかれ裸の王様になって分からなくなる。そしてそこら中、
鬼や餓鬼ばかりの地獄にしてるのは人間だ。人間の欲だ。何が大切か分からなくなっているのさ。
これからの世の中どんどん変わっていく。そのうち、おいらの居場所もなくなる。ワハハハ」
確かそう言っていた。あの手配師…
俺は仕事が終わり、あの手配師が好きな酒を持ち、彼が居た場所に行く。彼が居たので声をかける。
「覚えているかいバイトの時、お世話になった英二、菊池英二だよ」「...はあ、」
      … 駄目だ!   … 彼は何も覚えていない …
「また時々、酒を持ってくるよ」と言い大吟醸の一升瓶を置いてきた。
その後、それ以来、彼の姿は見なくなった。居場所を変えたのか… 本当に俺の事を思い出したのか…
 それとも亡くなったのか…     ー 今となってはわからない ー

96:Track No.774
21/12/21 10:43:52.09 .net
アルバム「時代-Time goes around-」に収録のローリングは迫力ある歌い方をしている。

97:Track No.774
21/12/21 20:00:35.82 .net
みゆきさんは失恋・恋愛ソングさえ歌っておけば良いみたいな歌ばかりではないんだよね。

98:Track No.774
21/12/22 09:21:01.93 .net
「白菊」
マミちゃん元気にしていますか?
そちらで大きなじいちゃんとばあちゃんたちと楽しく暮らしていますか?

ママはまだ、マミちゃんのお骨は手放せません。
可愛い妹をいつも見守ってくれてありがとう... マミちゃん。
又、お手紙書くね。
大好きな、マミちゃんへ
娘が空を見上げて「お母さん、空を見てみて。ほら、空の雲の間に光って
いるところがあるでしょ。そこからお姉ちゃんが見えるんだけど、
手を振っているよ。笑っているし、独りじゃないよ。 
ほら、おじいちゃんとおばあちゃんと、お母さんの友達かな...?
みんな一緒に居てくれているよ。だから寂しくないから、大丈夫だって」と
私に言うんです。
それを聞いて、私は涙が止まりませんでした...。
何故なら、まだ上の子が生まれる前に仲良しだった友人が若くして亡くなった
のですが、二人の娘には詳しい話もしたことなかったのに...
その友人の事まで私に教えてくれたのです。
私は思いました...。友人が泣いてばかりいる私に、
「私が一緒に居るから大丈夫だよ」と娘を通して励ましてくれたのではないかと…
亡くなった娘も天国では成長し、楽しく暮らしていることが分かり、少しですが、
心がスッとした事を思い出します。
今でも悲しくてふさぎ込むこともありますが、少しずつ前を向いていけるように
頑張りたいと思います...

99:Track No.774
21/12/22 09:30:09.47 .net
神田沙也加さんが亡くなったという悲しい知らせがありました。
ご冥福をお祈りいたします。

100:Track No.774
21/12/23 12:08:45.92 .net
「僕は青い鳥」
ある貧しい木こり家に、二人の子供がいて兄はチルチル、妹はミチルという名前でした。
チルチルとミチルの兄弟は、いつも近所のお金持ちの家の子のことを羨ましく思っていました。
クリスマスの夜、魔法使いのおばあさんがやって来ました。
「私の孫が病気で苦しんでいる病気を治す為に、幸せの青い鳥を見つけてほしい」と頼まれます。
鳥かごを持って出かけた二人は、妖精に導かれながら、様々な場所を訪れます ・・・
「思い出の国」では、亡くなったおじいちゃんとおばあちゃんに出会いました。
青い鳥がこの国にいる事を教えてもらいます。チルチルとミチルは手に入れることに
成功します。しかし、この国を出た途端に、黒い鳥へと変わってしまったのです。
その後、二人は「夜の御殿」を訪れます。ここでも青い鳥を手に入れたものの、
この国を出た途端、死んでしまったのです。
その後、二人は「贅沢の御殿」「未来の国」などに行きますが、どうしても青い鳥を
持ち帰ることはできませんでした ・・・・・・・・・
そんな時、「二人とも起きなさい! 今日はクリスマスですよ」とお母さんの声が聞こえ
二人はベットの上で目を覚ましました。とうとう青い鳥を捕まえることが出来なかったと
ガッカリしていると ・・・ 部屋にある鳥かごの中に ・・・
          ―― 青い羽根を持った鳥を見つけます ――
「あら、 もう寝たのね。 ・・・ まあ、なんて寝顔が可愛いのかしら ・・・」
       ・・・ 布団をかけ ・・・ おやすみなさい ・・・
・・・・・・・・・ 本当の幸せは手の届くところにあるのね ・・・・・・・・・
      ―― お母さんは明かりを消し部屋を出ていく ――

101:Track No.774
21/12/24 11:29:56.12 .net
「LOVERS ONLY」
欧米では家族そろって静かに過ごすのが習慣になっているクリスマス。
イブに綺麗な夜景のレストランでカップルでお食事。クリスマスイブはカップルの為に… 
 クリスマスはカップルのデート… 恋人と過ごすもの… 
・・・・・・・・・ そんな空気がこの国の風物詩になったのはいつ頃だろうか …
 そんな僕のクリスマスの思い出と言うと幼稚園くらいの時を思い出します・・・
その頃の僕はサンタさんをまだおぼろげながら信じていました...。
クリスマスイブの夜、布団に入って「こんばんは、ずっとおきていて、サンタさんの
しょうたいをたしかめよう!」と固く決心しました。
これ、もしかしたら多くの子供達が一度は決心することかもしれませんね。
かなり頑張りましたが、途中でうとうととして、ハッと気づいたら、
もう外が少しだけ明るくなってて… 朝です。「しまった!」と
頭で思ったものの、未だ夢うつつ状態...。
必死になって頭を上に向けて、枕元にプレゼントがあるかどうか、探します… ある。
何か鉄の塊が... (これは、ひよっとして... ずっと欲しかったロボットでは?)と
手を伸ばして... その鉄の塊を掴みます...。 その鉄の塊は… ロボットなのか?...
子供時代の僕は... 再び夢の世界に入っていきました...。
朝になって改めて見ると、その鉄の塊というのは、欲しかったゼンマイ仕掛けの
ブリキのおもちゃの「ロボット」でした。
よくは覚えていないけれど.........
ゼンマイ仕掛けのブリキのおもちゃのロボット...
それにサンタさんの正体も判明したので、満足で燥いでいたと思います...
父からのプレゼントはボードゲームでした。当時人気の人生ゲーム。
普段喧嘩ばかりして仲の悪い両親も、
この日ばかりは、ボードゲームの人生ゲームで家族5人が一家団欒で楽しく笑い声で
一喜一憂でゲームに夢中する姿が子供ながらに一番嬉しかったのを覚えています...

102:Track No.774
21/12/25 12:43:17.68 .net
「クリスマスソングを唄うように」
雪の降る夜は、いつも思い出す.........
私の職場にバイトとして入って来た高校生。何もわからない彼に仕事を
教えることになった私。「美香さんて可愛いですよね」初対面での挨拶が、これ?
「年下君に言われてもねぇ、もう少し大人になってから言って」
それからの彼の押しは凄かった。帰りは必ずバイクに乗って待っているし、
休みの日も迎えに来てくれた。彼は自分の事を隠さずに話してくれた。
彼の両親は離婚して、父親は出て行った。「弟や妹たちはまだ小さいから、あいつらの
小遣いくらい俺が稼がないと」そういう彼の照れたような横顔。
「美香さん、妹の誕生日プレゼント買いに行くの付き合ってください。母の日、どういうの
プレゼントすれば喜ぶんですかね?」と、不器用だけど一生懸命で優しい彼。
いつの間にか彼に惹かれている自分がいた。「やっぱり、俺、美香さんの事、好きです」
その言葉をきっかけに付き合いだした私達。両親に反対されると思って黙っていた。
けれど、どこから聞いたのか両親にばれてしまった。案の定、両親は大反対。
一人娘で大事に育てられてきたことは分かっている。「高校生なんかと付き合うような
娘に育てた覚えはない。お前は、高校生なんかに貢いでいるのか?」「何も知らない癖に!」
初めて本気で怒鳴った気がする。私は思わず家を飛び出した。彼に電話しようか…
もう… 家には戻れないかもしれない… そんなことを考えながら、行く当てもなく私は歩いた。
クリスマスの街はキラキラ輝いて見えた。自分が凄く惨めで寂しくて… たった一人… 
そんな時、「美香!」聞きなれた声に、振り向くと彼が居た。「ごめん。バイト増やしたんだ」と彼が言う。
そんなことはどうでもよかった。私は思わず泣きだしてしまった… 
「何? どうしたの? ちょっと待って、店長! ちょっと外します! すみません!」
近くの公園で、私は泣きじゃくりながらすべてを話した。あんなこと言われた。こんなこと言われた。
彼は全部黙って聞いてくれた。「ちょっと待ってて、店長に話してから、送っていくから」
バイクの後ろに私を乗せて、彼は私の家に向かった。慌てて出て来た両親にバイクを降りて彼は一言だけ言った。
「頼りない俺ですけど、絶対に幸せにしますから。 すいません、バイト途中で抜けて来たんで、また、改めて伺います」
そう言ってバイクに乗っていった彼。
その後、私は両親ときちんと話し合った。父は不機嫌そうだったけど、母は優しい視線で
「いい子じゃないの。ゆっくり見守りましょう。私たちの子よ。信用してもいいと思うわよ」と母の優しい言葉。
次の日、彼のお母さんから電話がかかって来た。「息子の彼女さんですよね? 今から出てこれますか?」
彼のお母さんから教えてもらった住所は彼の自宅。緊張しながらチャイムを押すと、彼のお母さんが
出てきてくれた。泣き腫らしたような目。彼のお母さんに案内されて入った部屋に彼は居た。
白い布をかけられていた。「昨日、バイトの帰りにバイクで転んで・・・」
   … どうして寝ているの?起きてよ。何が起きているの? …
「これ、多分、あなたへのプレゼントだと思うんです」と
彼のお母さんが渡してくれた小さな箱。中に入っていたのは指輪だった…
    … こんなのが欲しかったんじゃない …
 ― 彼のお母さんが、私の両親に連絡してくれて私は帰った...
 ・・・ 「頼りない俺だけど、絶対に幸せにするから」 ・・・
   ―― クリスマスに浮かれる街の光景の中 ーーーーーーーーー
 今でも白い雪が舞うこの季節になると… そんな彼の言葉を思い出す…

103:Track No.774
21/12/26 12:31:24.09 .net
「群衆」
公園のベンチに座っていた。多くの人たちがすぐ目の前を通り過ぎる…
話しかけようと思えば、話しかけられるのに、相手から接触してこない環境。
案外、人間観察などが好きだったりする。
僕は公園のベンチでのんびりと行きかう人々を茫然と、ただ何も考えず見ているのが好きだったりする。
ただ、気をつけなければいけないのは、あまりジッと見つめないこと。相手も気づき、ガンつけられたり、
相手は気分を害したり、お互いに気まずくなるだけだからね。
マーケッティングなどでテーマを持った人間観察を職業にしている人達とでは視点が違うのかもしれない。
人間観察ってどこを見るかによって随分と違ってくる。色違いのモコモコのダウンの防寒着を着て寒そうに談笑して
歩く女性たちやホット缶コーヒーを飲みながら談笑しているオッちゃん達を見ているだけでほっこりする。
心がほっこりする光景をただ探しているのかもしれない。良い悪いにつけ人間が好きなんだなと思う。
くだらないことで悩んでいる自分が馬鹿らしくなるほど、いろんな発見があって面白い。まだまだ人間って
捨てたもんじゃないよと思う。公園に来る前の商店街や路地裏でよく見かける光景。その中で通り過ぎる
人々をただただ眺めているだけのおばちゃん。その表情からは何とも言えない哀愁が漂っていた…
そんな下町だけではなく、繁華街や駅前で見かけた、何とも言えない哀愁漂う表情で煙草を銜え向かいの店を眺めている
中華店のおっちゃん。その表情。そんな下町のおばちゃんも、煙草を銜え向かいの店を眺めている中華店主で休憩中のおっちゃんも
「何を考えているのかな?」と想像しますが、別に何も考えていないと思う… その場の景色と光景、その中で醸し出す風情というか、
情緒、味わいがあって、何とも言えない哀愁を感じる… 長いようで短い… 儚い一瞬のドラマ… だからこそ一瞬一瞬を
大切に生きたいよね ―― 人混みの中から、若い女性が息を切らして駆け寄って来た。「やぁー  待ったぁー」
「遅いよ! じゃあ、行くか!」 ―― また再び、都会の雑踏とした人混みの中に消えていく ーーーーーーーーー

104:Track No.774
21/12/27 10:38:03.19 .net
「断崖-親愛なるものへ-」
今日は結婚記念日でカミさんと外食した。レストランはそこそこ混んでいて
ガヤガヤうるさかった。特に、隣の家族がうるさくって、カミさんとちょっと
顔を見合わせては苦笑いをしたぐらいだった。
父親が幼い子供に色々と質問しては笑いあってと言うのが、延々と続いて、こっちもうんざり
していた。しかも、その父親がやたらと大きく咳き込むので、実際に鬱陶しかった。
暫くすると、うちのカミさんが、その家族の父親の方を見て「ちょっと、おのお父さんを見て」と
言うので、見つめるのも失礼なので、向かいの鏡越しに、その父親の姿を見てみた。咳き込むたびに
ハンカチを口に当てていて、それを幼い子供たちに気づかれぬようにポケットにしまい込む姿が見えた。
ハンカチは血だらけだった。咳き込んだ後は赤ワインを口に含んで幼い子供達にバレないように大声で
笑いごまかしていた。向かいに座っていた奥さんは笑っていたが、今にも泣きそうな顔をしていた。
奥さんは、どうやら事情を知っているみたいだった。
その父親が、何らかの重い病気なのは明らかだった。うちのカミさんの方を見ると奥さんの
顔を見たのかもらい泣きしていた。帰りに、俺は無神経にも「今日は、なんか暗い結婚記念日に
なっちゃったなぁ~ 台無しだよなぁ~」とカミさんについ言ってしまった。
カミさんは、ちょっと沈黙した後、「カッコよかったじゃん!あの父さん。ああいう父さん
好きだよ。幼い子供たちに心配かけてはいけないと無理して、頑張って… ああいう父さん好きだよ。
って声を詰まらせて、涙声で俺に言った。
あの親父、頑張ってるな! 人生踏ん張って生きているんだなと思っていたら、
俺も自然と、こみ上げてくるものを押さえきれなくなっていた… 俺たち歩きながら…
 嗚咽して… 街を歩くみんなジロジロ見てるぜ! ・・・ カッコ悪いじゃん(笑)
―― 今日の結婚記念日 あの家族に泣かされ、帰りに嗚咽しながら帰宅なんてカッコ悪いよ ―

105:Track No.774
21/12/27 12:30:53.67 .net
>>104
タイトル「断崖-親愛なる者へ-」に訂正

106:Track No.774
21/12/28 10:12:52.92 .net
「六花」
僕の母は僕ら姉弟を女で一つで育ててくれました。
「ほら、ゆっくり食べなきゃ、ダメじゃない」
僕らは比較的遅い時期に生まれた子供だった。
父が亡くなった後、母はどんなに不安だったのか…
でも、子供の僕には、そんなことはおくびにも出しませんでした。
「はい! 出来たよ。 いっぱい食べなさい」「うん!」
母は僕たち姉弟の前では、いつも笑った顔しか見せませんでした。
そんな母が他界したのは姉が九つ、僕が五つの時でした。
僕たち姉弟はとうとう二人きりになってしまったのです。
母が亡くなったあの夜の事は、今でも不思議なほどに、
鮮明に僕の目に焼き付いています。
「さむいよー  ねぇちゃん! おうちへ はいろうよ」
「いい、修。 これからは、私達二人きりになるのよ。
もっともっと、辛い事が、いっぱいあるけど、二人で頑張っていこうね」
「うん!」
「修には、まだわからないと思うけど、よく聞くのよ。
お姉ちゃんはね、ゆうべ、冷たくなっちゃった母ちゃんの横で、
ずっと寝ないで、考えたことがあるんだ」
「なあに? おねえちゃん」
「これから二人、生きていくためのことを考えたんだ。
二つあるから、よく覚えておくのよ。いつも一緒にいることと、
それと絶対に親戚の人にわがまま言わずに、言うことを聞くのよ。
お姉ちゃんね。中学卒業したら、働いて修の面倒見るからね。
二人で生きていこうね。 それまで我慢してね…  分かった?」
「うん!!」
「ゆきだ! おねぇちゃん! ゆき、ゆきがふってきたよ!」
「あっ! 本当だ! 雪。綺麗ね」
「うん!」
その後、二人は親戚の間を転々とする生活が始まったのです・・・
昭和〇〇年.........

107:Track No.774
21/12/28 19:19:57.46 .net
>>106
下から4行目「あっ! … 本当だ … 雪。。。 綺麗ね...」に修正

108:Track No.774
21/12/29 10:08:54.43 .net
「帰省」
子供たちがまだ幼かった頃は、家族全員で車でよく帰省していた。
4人分の飛行機代はバカにならなかったので、いつも車を使って帰省していた。
途中で渋滞につかまり予定の時間を大幅に遅れて実家に着くと、母は毎度
同じことを孫たちに言った「あんまり遅いから、じいちゃんの首がのびたばい」
そういう母の首も、少しだけ伸びているように見えた。子は父の背中を見て育つと言うけど、
本当にそうだろうか? 亡くなった父は、昔から新聞や本を読んでいるか、あるいは、
酒を飲んでいるかで、記憶にあるのは、父の背中というよりも、その横顔であった。
むしろ覚えているのは、母の背中だった… 台所に立って茶碗や食器を洗う背中、
物干し竿に洗濯物を干す背中、縁側に座ってそれをたたむ背中… 我が子の生き方に
対して言いたいことが沢山あっただろうと思うが、母は何も言わず応援してくれた。
いつも何も言わず背中で語っていたのだと思う… 笑う背中もあれば、
泣いている背中もあっただろう… そんな母の生き様に思いを寄せることはせず、
そこに背中があるのが当たり前だと生きて来た。母の思いに気付いた時には、
もう母は居なかった.........
年老いてからは、帰省して車に乗るたび、「あんたが運転する車に乗るのは、
これが最後かもしれんねぇ」と母は呟いた。「そんなことないさ」と僕は言いながら、
本当にそうなるかもしれないことなど想像も出来ずに車を走らせていた。
東京に戻る朝、いつも母は門柱の前に立ち、走り去っていく子と孫をずっとずっと見送っていた… 
小学生の息子は手を振りながら泣きじゃくっていた。ルームミラーの向こうで、小さくなっていく母の姿を
見ながら、震えそうになる声で息子に、もう泣くなと言った。それが母を最後に見た姿だった...
父が亡くなって十五年、もう、そんな母が亡くなって、十年以上経つ...
あの時、小学生だった息子も、今では大学生になっている。時間が経つのも早いものだ...
帰省とは、家族の繋がりを確かめる為のものだと思う… ずっと巡り続けて来た季節も
メリーゴーランドのように少しずつ速度を落としながら… やがて、いつかは、
止まる時が、訪れるのだろうか… 帰省するたびに、改めて家族の繋がりに気づかされる…
生きていくうえでの、人との繋がり、家族との繋がりを確かめる為に… 
 ーーー 僕らは生きているのだろう... 
...玄関前でばあちゃんを見つけた幼い息子が喜んで飛び出していく...
「ばあちゃん! 遊びに来たよ」
「よく来たね。ケンちゃん」
「おお、ケン坊! よく来たな」
「おじいちゃん」
      .........

109:Track No.774
21/12/30 10:03:00.07 .net
「ホームにて」
駅は帰省の人々でごった返していた。この駅が、こんなに人混みで
溢れるのは、この時期くらいだ。小学生だった僕は父さんとはぐれない
ように気を付けながら、人と人の間をすり抜けて進んでいた。
「康明! ちゃんとついてきているか?」と父さんは時々、僕を振り返りながら確認する。
迷子になるような年じゃないよと言いたいけれど、この人の多さでは本当に迷子になってしまいそうだ。
「下りのお客様は、こちらに整列をお願いします。二列になってお待ちください。次の列車は
すぐに参ります」駅員さんがメガホンを持って声を張り上げていた。これも毎年の光景だ。
「お疲れ様です」と、お父さんが、顔なじみの駅員さんに声をかけていた。
「毎年、この時期は、こうですからね。慣れていますよ」と駅員さんは笑った。
「それでも、働いている皆さんは大変でしょう。列車だけでなく、船も飛行機も、この時期は満員だ」
「そうですね、この時期だけの特別便が何本も出ます。でも、こちらでも働き方を見直そうという動きはありまして、
帰省をしない方々の中から、アルバイトを雇っているんですよ」と駅員さんと父の会話を聞いていた僕は、
確かに言われてみると、行き交う帰省客の案内や整理をしている中には、明らかに駅員さんの制服でない
人たちがいる。(この人達は帰る故郷がないんだろうか)と幼い僕がそう思って見ていたのが、顔に出ていたのかも知れない…
「帰れない方も、帰りたくない方もいらっしゃいますよ。アルバイトに応募されて来た皆さんは、自分は帰らなくとも他の方々の
帰省を手助け出来ることに喜びを感じている方ばかりですよ」と駅員さんは、父の方とそして、僕の顔を見て微笑んだ。
そんな駅員さんと父の会話から、僕は人には人知れずそれぞれの事情があるんだと言う事をその時、初めて幼いながらも知った。
列車は中々来なかった。駅に集まっている人々も、退屈しのぎに、あっちこっちでおじゃべりしていた。
「うちの故郷は、年々人口が減ってましてね。そのうち帰っても誰も居なかったと言う事になるかもしれません」
「私の村は、何年も前にダムの底に沈みました。毎年、帰省した連中と一緒に、ダム湖を眺めながら過ごしていますよ」
「うちの所は、私がいた頃とは、すっかり様子が変わってしまいました。まるで、他の町にいるようで、帰省しても落ち着きません」
「まあ、世の中、変わっていくものですからね」「これも時代の移り変わりというものでしょうな、きっと、ワハハハ」
「あら、あなたは、初めての帰省なの?」「はい。...何もかもが嫌になって自分から飛び出した故郷ですけど・・・
それでも両親が待っているかと思うと… やっぱり帰った方がいいのかなって… ...でも、まだ少しだけ帰るのが怖いんですけどね」
「大丈夫よ、他の人が何と言ったって、御両親は、きっとあなたの帰りを待ちわびているわ。喜んで迎えてくれるわよ」
「...だと、いいんですけど・・・」
そんな大人達の会話を聞いていた僕に「康明! 切符ちゃんと持っているんだろうな?」と父さんが振り返って言って来た。
「もちろんだよ。父さん」―― 僕は、乗車券を入れた胸ポケットをそっと、何度も抑え確認した。。。

110:Track No.774
21/12/30 11:36:29.68 .net
>>109
下から11行目「あっちこっちでおしゃべりしていた。」に訂正

111:Track No.774
21/12/31 11:36:27.91 .net
「ヘッドライト・テールライト」
高層の本社ビルの最上階の窓の外を眺めていると、知らぬ前に横田が立っていた。
「なんだ、いつから居たんだ。気付かなかったよ」「入社以来のライバルが、
横に立っているのに気付かないようじゃ、お前も終わりだぞ。ワハハハ」
「ああ、終わりだね」「どこに出向することになったんだ?」「静岡にある小さな自動車部品
工場に決まったよ。年収は今より30%減だが、65歳まで働けるそうだ。そこで15年、総務部長として
頑張ることになった」「業界四位の大手商社の部長まで行ったお前が町工場の総務部長さんか。
いや、お前は確か、フィリピン支店長までやってんだな。失敬した」
「これが証拠の勲章だ」と左手をたくし上げて見せる。「現地人を指揮して沼に落ちて蛇にやられた。
支店長ったって現場監督だった。ワハハ」「俺は名古屋のバルブ専門会社の業務部長だ。年収は20%減だが、
定年は60歳、どうも俺とお前は、最後まで勝ち負けがはっきりしない競争を続けてしまったようだな。ハハハハハ」
「俺の勝ちさ、この勲章の分だけ、俺の勝ちだ」「馬鹿、そんな勲章がなんだ。俺だって、此処に傷ぐらいある。
全部で六針も塗ったんだぞ!」と、ネクタイをほどいて、ワイシャツの襟を広げて見せる。
「あれ、なんだその傷は? お前一度も、外(海外)へ出なかったんじゃないのか?」
「出なかった出なかった分、仕事仕事で、家を空けていた。息子にやられたんだ。[お前なんか、父親じゃない]ってな。
これも勲章だろ」「ああ、間違いなく立派な勲章だ! 認めるよ。しかし、息子に憎まれるだけいいじゃないか」
俺達は三十年近い間、同じ会社でお互いがライバルだった。「俺は、お前と、こんなに気を張らず、話が出来るなんて初めてだ」
「俺もだよ。ワハハハ」「そうか、お前もそうか、ハハハハ」
会社も家族も世間の事も全く忘れて温泉でも浸かりに行こうじゃないかという話がまとまったのは、
それから一か月後だった。

112:Track No.774
21/12/31 11:48:11.28 .net
>>111
下から8行目「全部で六針も縫ったんだぞ!」に訂正

113:Track No.774
21/12/31 11:58:28.32 .net
>>111
一行目「知らぬ間に横田が立っていた。」に訂正

114:Track No.774
21/12/31 12:12:17.94 .net
>>111
1行目「ガラス張り超高層の本社ビル・・・」に修正

115:Track No.774
22/01/01 13:50:19.39 .net
「終わり初物」
あけましておめでとうございます。
歳時記を紐解いていると、『初物』を大切にして、日本人は生活の中に
見慣れたもの、振舞いを新しい眼で再発見して来たことが分かる。
初日の出 初富士 初詣 初夢 初笑い 初売り 初釜 書き始め
出初め式 仕事始め 歌い始め・・・ 
又、野菜や果物で、多く出回る時期が過ぎてから成熟したものを初物と
同様に珍重して言う語に『終わり初物』という言葉がある。
そう言えば、昨年、久しぶりに友人の女性の家で俺が美味しそうに食べながら晩酌をしていると、
彼女が「これ初物よ」と言った。聞くところによると、市場のオヤジが一ヶ月遅れで今日、
水揚げされた今年の初鰹だという。
同じ6月の中旬頃、田舎から届いたアスパラガス。お袋に電話すると、
「ごめんね。遅くなっちゃって」って言ってた『終わり初物』だった。
丹精込めて育てたものは、最後までしっかりと収穫する。
最後まで美味しくいたただいた。親に感謝…
ベランダに出る「おおぉ… 寒い!」今日は特別冷える。元旦の朝は静かだ。
道に面して建っている我が家。普段は窓を開ければ騒がしい音が聞こえてくる。
車は絶えず走っているし、ランニングしている人や、早くから通勤するサラリーマン、
犬と散歩する人など5分も眺めていれば、沢山の人々の朝の日常が垣間見える。
それがコロナ禍で別世界のように変わった。車も人の姿も見えず、生活音がまるでしない。
今年初めて迎える早朝の朝。そんな特別な時間に身の引き締まる思いがしてくる。
街を彩るカラフルな[新春][迎春]の文字。でも、今にも雪が降りだしそうな寒空の下、
ピンと張り詰めた空気の中、近所の小さな神社の境内に向かう。

116:Track No.774
22/01/01 13:55:16.17 .net
>>115
14行目「最後まで美味しくいただいた。・・・」に訂正

117:Track No.774
22/01/01 16:28:14.22 .net
>>115
9行目「市場のオヤジが言うには一ヶ月遅れで今日、」に修正

118:Track No.774
22/01/02 10:42:27.48 .net
「慕情」
「東京のマンションを売り払ってこっちを大きくするか」遅く起きて、
ぼんやりした顔で居間に来た夫が言った。「昨日は、こちらを売り払って
東京の方を大きくしようとおっしゃいました」と私が言うと、
夫は「つべこべ言うな」「でも、全く違うこと言ってますよ」と私。
夫の言動が常に両極に大きく揺れ動くのには理由があった。
しかし、私も常に逆らい、決して同意はしない。子供の為にと無理して建てたおもちゃのような別荘。
二十年もの間、主を迎えることなく、長らく忘れられていた... あまりにも多くの思い出があり、
売ることも、壊すことも出来ずにいた。こちらに来た当初は、散歩はおろか外に出る事さえも、
嫌がっていた夫が、一年も経つと日に二度は一緒に散歩をするようになった…
二十年前、私達夫婦は一人息子を交通事故で失った。夫の言動が常に両極に揺れるようになったのは、
その時を境にしてからだった... それが、あまりにもひどいので会社の部下の人たちが訪ねてくる度に、
それとなく聞いても、会社ではその反対で、一度口にしたことは絶対に曲げないと言う… 
ふと、この人は、心の中で戦っているのではないかと思った。ある方向に引かれようとしている自分の気持ちを何とか、
踏みとどまろうとしているのだと思った。それに気づいたのが、定年になるちょうど、一年前の事だった...
警官に担ぎ込まれてきた時、「あなた!! 一体どうしたの?」「いや、大丈夫です。心配いらないですよ。お怪我は
ありませんから」「喧嘩でもしたのですか?」「酔って車道と歩道をふらふら、ふらついて歩いていたものですから、
では、私はこれにて失礼します」「どうもありがとうございます」-あの時...。
この人は、仕事でごまかしていたんだと...その仕事も定年を来年に控えた、今、この人から無くなろうとしている。
どうしたらいいのかわからなくなったんだわ。「あなた、定年になったら、別荘で暮らしましょう。通勤の必要がなくなったら
空気の良い自然の中で暮らしましょうよ」...そして、ここにやって来たのよね、...あなた。
そんなちっちゃな別荘の近くを二人で散歩していた。「あら、赤とんぼ! ほら、あそこ、あそこよ。早く捕まえて!」
「全くお前というやつは、いつまで経っても子供なんだから」...私たちは一人息子という大きなものを失ったけど...
生まれて、逝ってしまった命の記憶を知っているのも私たちだけなのだから...「ほら、捕まえたぞ!」
「凄いじゃないあなた!! ...でも、逃がしてあげて!」「せっかく捕まえたのに、逃がすのか?」と訝し気に言う夫...
「そうよ。それでいいのよ。ねえ、見て、あれが今の私達よ。捕まえられていた時が、今までの私達と同じなの。
もう一度、初めから...そう、何も急ぐ必要がないのよ。これからゆっくりでいいから...」
今までの私たち何故か、愛を急いでいたのね。愛を後回しにして、何を急いでいたのかしら、ね...
 ...今からでも遅くはないから...そう...
もういちどはじめから... もしも、これからも末永く...あなたと歩き出せるなら...
―― もういちどはじめから... ただあなたに尽くしたい ーーーーーーーーー

119:Track No.774
22/01/02 10:58:45.67 .net
>>118
最初の一行
「去年の夏の終わりの頃...」

120:Track No.774
22/01/02 11:07:19.38 .net
>>118
下から4行目「今までの私たち急いでいたのね。愛を後回しにして、何を急いでいたのかしら、ね...」に訂正

121:Track No.774
22/01/02 11:23:20.21 .net
>>118
下から2行目「もういちどはじめから...もういちど出逢いから...もしも、これからも末永く...あなたと歩き出せるなら...」に修正

122:Track No.774
22/01/02 11:37:36.02 .net
身体は成長期があるから、ほっといても成長し、大人の外見を保てるが、内なる人の心は
ほっといても成長しない。そんな心を成長させるために人は生まれて来たと思う。

123:Track No.774
22/01/03 10:44:45.81 .net
「陽紡ぎ唄」
自動ドアが開いて、幼い女の子が一人で入って来た。極度の緊張からか、
頬を赤く染め、真剣な眼差しで店員に「けえきください!」と声を発した。
「一人で来たの?ママは?」と店員の女性が問いかけると、女の子は、どもりながらも必死で、
独りで来たこと、今日がママの誕生日なので、驚かせる為に内緒で自分のお小遣いで、ケーキを
買いに来た事を、たどたどしくながらも、必死で懸命に話していた。
「そう、偉いね! どんなケーキがいいの?」「あのね、いちごがのっているの!」
どう見ても大金を持っているように見えない。僕は店員との言葉のやり取りの光景をハラハラしながら見ていた。
店員も、女の子がお金を大して持っていないことに気づいたらしく、イチゴが乗っているものの中で、
一番安いショートケーキを示し「これがイチゴが乗っているので一番安くて380円なの、お金足りるかな?」
すると、女の子の緊張は最高潮に達したようで、ポケットの中から、必死で小銭を取り出して数を数え始めた。
- 僕は心の中で、どうか足りてくれ! - 「100えんがふたつと...50えんと...10えんが、いち、にい、さん...」
僕は心の中で叫んだ!ああっ!ダメだ!280円しかない!!! 店員は申し訳なさそうに、お金が足りない事を女の子に伝えていた。
女の子は買えないことが伝わったらしく、泣きそうなのを必死で堪えながら、小銭を握ったままの手で、目をこすりながら
出て行こうとして、ろくに前も見ていないものだから自動ドアのマットに躓いて転んだ。その拍子に握っていた小銭が、
派手な音を立てて、店内に散らばった。きっと、神様が舞い降りる瞬間とは、こういう時の事を言うのだろう...
僕は、女の子の傍に駆け寄って小銭を拾うのを手伝ってあげた。小銭を拾い集め、終わった後で、女の子に、
こう話しかけた「全部あるかな? 数えてごらん!」 女の子は「うん! 100えん、200えん、300えん...?
あれ! 380えん、あるーっ?」 僕は「きっと、数え間違えていたんだね。ほら、これでケーキ買えるよ!」
  「うん! ありがとう!!」と、ぺこんと頭を下げ、嬉しそうな顔で店員の所へ行き 
     ―― イチゴのショートケーキをひとつ買っていた ――
 
       ーーーーーーーーー 僕は、その光景を見届けてから店を後にした。

124:Track No.774
22/01/04 09:57:03.56 .net
「トーキョー迷子」
正面のガラス張りのエレベーターから見渡せるショッピングモールの
吹き抜けホール。私はエレベーターを降りながら、目の前のフロアに視線を走らせた。
休日なので、いつもに増してカップルや家族連れが多いショッピングモール。
目の前では、ベンチに座る背の低い老夫婦が、身を寄せ合い楽しそうにイチャついている。
年取ってからも、あんな関係でいられるのは羨ましい。
-  あの子、もうかれこれ30分近く独りでいるんだけど、大丈夫かな? -
私はあれから近くの雑貨店を巡った後、本屋で物色していた。
手に持っていた文庫本から視線をそらし、先ほどから何度も見かける子供を注意深く見ていた。
可愛い耳付きの黄色いフードのダウンを着た色素の薄い茶色の髪は人工的に染められたものではなく、
地毛だとわかる自然な色。ふっくらとした子供らしい曲線を描く頬は薄っすらピンクに染まっている。
近くで見たわけではないので、顔は分からないが、少なくとも身長から判断するに、こんなところに
独りで来れる年齢ではないことは確かだった。
お気に入りの雑貨店と本屋と紅茶専門店が入っている。今日はいつものように
茶葉を購入し、何度も手にとっては棚に戻したマグカップ。欲しいけど、衝動買いは
したくないと我慢。その後、何か面白い本はないかと立ち寄った本屋。
物色していれば、チラチラと目に入ってくる幼い影。 - 迷子かな? -
キョロキョロと周りを見渡しながら、歩く幼い子供の周囲に視線を走らせたが、
親らしき人は見当たらない。レジに視線を向けても店員は迷子の可能性のある子供に
注意を払っていなそうだった。再度、子供に視線を向ける。
- ん~。 転びそうで、怖いなぁ~ - 足元がおぼつかない。今にも人にぶつかって転びそうだった。
私は子供に近寄って「僕、どうしたの?」キョロキョロ辺りを見渡していたお目目クリクリの
目でこっちを見つめる。「僕、おうちの人と、逸れちゃったのかな?」「… 」
「この本屋さんで、逸れちゃったの?」「… 」幼い子供は、私の質問に無言で頷いて答える。
「ん~、そうかぁ。じゃあ、お姉さんと一緒に、本屋さんぐるっと回って、おうちの人、探してみようか」
「...んっ!」一生懸命、返事をしようとしてくれているのだろう。今度は、頷きと共に声が聞こえてきたことに
私は嬉しくなった。
そんな時、「あっ!パパ!!」焦躁と安堵が入り混じった表情で駆け寄って来た男性が子供を抱き上げた。
「ごめんなー! パパね。お仕事の電話がかかって来て、すぐに切れなくて話が長引いて、
見たら近くに居なくて、探し回ったんだよ。いゃあ、見つかって良かったよかった」
私を見て「すみません。ご迷惑をおかけしました。いゃあ、本当に申し訳ございません。
緊急の仕事の電話がありまして」
「お休みなのに、お仕事の電話なんて大変ですね。良かったね。僕、パパ見つかって」
坊やは紅潮した顔で「うんっ!」
「いゃあ、本当にありがとうございました」お父さんに何度も何度も頭を下げられて
お礼の言葉まで言われてしまうと「私、何もしてないんですよ。そんなに頭を下げられても
困ります」と言って父親に会釈をし、私は手を振ってその場を後にした。
考えてみれば、私も年を重ねただけであって、私のこれまでの人生も、幼いあの子と同じだ。
恋.恋愛に翻弄され続けた人生を考えると、そう、恋.恋愛に翻弄された
恋愛の迷子だったのかもしれないと思った。

125:Track No.774
22/01/05 10:05:07.66 .net
「ばりほれとんぜ」
この寒いのに、美佳は買い物と称して、俺様を引きずり回す。
大抵は、全く興味のない店に限って、美佳は長々と店員と話し込む...
それだけでも腹が立つのに・・・
それより困るのは、下着売り場まで連れ込む事だ。
そういう場所は、男として恥ずかしい上に、目のやり場に困るうえ、長居はしたくない場所だ。
今日は本当に、その時間が長かった。。。。。。。。。
「俺、ちょっと、他の店か、本屋で待っているよ」なんて言ったら、
ふくれて、どっかに行っちまうし、仕方ないから...
通路のベンチに座ってボーっとしているしかない...
(頼むから、早く決めてくれ… どれでもいいだろ!)
あっちこっちの店に付き合わされた挙句、(げんなり...あぁ~と溜息が出る)( ;∀;)
「あ、これが良いだの、あれが良いだの」で、買うのかと思えば、、、
買わずに他の店に行く、またそこの店で「中々、良いのないわね」と...
色々探し回る始末。(マジか? こいつ何考えているんだ?)
付き合わされる身になってみろよと言いたくなる。。。
(ああ、面倒くせ~)と思っていたら...こっちにと俺を呼ぶ、恐怖のこっちに来てコール。
「ねぇ、これとこっち! どっちがいい?」
どっちでもいいだろ!と言いたいところだが、「こっちが、良いね」と言うと、
「いや、こっちも、良いんじゃない!」と言う。
「じゃあ、そっちかな」と言うと、
「いゃ、こっちも、捨てがたいわ!」と言う。
どっちなんだよ! じゃあ、自分で決めろよ! 決められないなら、どっちも買えよと
言いたくなるのを堪えて「こっちだね!」と決めてやると、「じゃあ、こっち!」と少々ふてくされた顔で、
俺の選ばなかった方を選ぶ。   - 全く、考えていることが分からん -
俺をからかっているんかと腹が立つが...いゃあ、ちょっと待てよ、
それとも、聞く前から、頭の中で決まっているんじゃないのか、ふと思う...。
なのに、わざわざ人に聞くなんて、こいつはわけわからん奴やと思っていると...
「ねぇ、これってね。 大きく見えるんだって!」
「だから、ちょっと試着するから、もう一回、呼んだら見てくれる?」ときた、
ケラケラ笑っているが、本気顔。...色々回ってから… 
もう、ここに来て早、1時間も経っている...
どうしょうもない戯けた奴だ
   - こいつは、小悪魔か、堕天使に違いない -

126:Track No.774
22/01/06 11:27:56.12 .net
「こんばんわ」
「あらっ、随分、ご無沙汰ね」「え?!」「なによ、驚いた顔してさ」
「...いやあ、一瞬、誰か、分からなかったよ。てっきり有閑マダムに
誘われたのかと思ったよ。アハハハ」「本当はそうなの、うふふ」
「何だ、それじゃ、昔と変わらないじゃないか。もっとも、あの頃みたいに、
可愛くないけどさ。アハハハ」「まあ、言ったわね。 こらっ! すぐ、
からかうんだから...うふふふ。変わらないわね。昔と、その笑い方も、昔のままね」
昔、マリコと飲み歩いた時と、変わらずビル群に囲まれていても、此処の一角の飲み屋街は、
昔のまま残っていて、久しぶりに顔を見せたら、昔のマリコにばったりと出くわしたのだった。
「あれから、ずっと、此処で働いているのか?」「あれから、色々あってね。何をやっても
上手くいかなくてねぇ。あの町、この街、渡ったわ。あたし、一つの場所にとどまることが出来ない
のかもね。此処に来る前は、仙台の国分町にいたわ。それから、歌舞伎町、中州、ススキノ、
北新地、錦3丁目、福富町...と渡り歩いて、又、此処に戻って来たの。ずっと一つの街にいると、
他の街に行きたくなるの。人間関係も含めてね。もう、この街は、いいかなぁ~って...続かないわね」
「定住できない遊牧民気質か、マリコらしいよ。ワハハハ」「何よ! 茶化さないでよ! うふふふ」
「まだ猫は飼っているの?」「あの頃の猫は死んでしまったけど、今も猫は飼っているよ。
あなたも猫好きだから、話し合うわね」あれから十年も経っていながら、マリコは気の向くままに、
気ままな昔の風来坊なマリコのままだった...
   ―― それからは、俺たちは昔話に花を咲かせた ――
俺はマリコの愛嬌のある話し方につられ、もう、戻れない昔話の懐かしい話の数々に
いつの間にか時を忘れて相槌を打ち、お互いの出会いと、それぞれ別に歩んだ人生を
店を閉めるまで語り合っていた...
  店の外は雪景色。。。
     街灯の光に照らされた中...雪が深々と降っていた。。。。。。。。。

127:Track No.774
22/01/06 22:48:01.98 .net
期間限定「ワンカップ大吟醸180ml 瓶詰 中島みゆきの歌ラベル」が発売されるらしい。
 - ♪ 酒(日本酒)に氷を入れて 飲むのが好き -  これどうですかね(^_-)-☆

128:Track No.774
22/01/07 07:13:07.01 .net
>>126
下から9行目「」の修正
「あの頃の猫は死んでしまったけど、今も猫は飼っているよ」
「あなたも、私もお互いに猫好きだから、話が合うわね」に訂正

129:Track No.774
22/01/07 07:51:37.12 .net
>>126
8行目「昔のまま残っていて、前のマスターと顔なじみと言う事もあり、マスターが入院中、
頼まれて、一時、この店の雇われマスターをしていた。そんな時、マリコと親しくなった。
暫く顔を見せていなかったので、久しぶりに寄ってみたら、そんな昔のマリコにばったりと
出くわしたのだった...。」に修正

130:Track No.774
22/01/07 07:55:44.84 .net
>>126
9行目「あれから、ずっと、此処で働いていたのか?」を消去して
「あれからどうしてた?」に訂正

131:Track No.774
22/01/07 07:59:27.62 .net
>>126
7行目「昔、飲み歩いていた時と、・・・」に訂正

132:Track No.774
22/01/07 08:51:40.22 .net
「India Goose」
世界で5番目に高い山、ヒマラヤのマカルーに挑む登山家として、山頂まで、あと少しの
所まで来て驚いたことがある。越冬の為にインドに渡るインドガンが頭上高く飛ぶ光景を
目にしたからだ。この鳥は高度9000m、実に民間航空機と、ほぼ同じ高さを飛ぶ。
このアジアに生息するガンの一種、インドガンは世界で最も高く飛ぶ鳥だと言う。
渡り鳥の期間はおよそ2ヶ月。移動距離最大8000キロ。二か月間に何度も休憩するが、
ヒマラヤ越えは夜間から早朝にかけ一気に飛び越える。平均8時間で向こう側に到達する。
しかも、追い風や上昇気流の助けを利用せず、自力で自分の筋力だけでそれほど、
風が吹かない夜に飛びたち山を越える。何でまた態々そんな超高所、難所を追い風に
乗ることもなく、滑空もせず、逆風であっても常に羽ばたき続け、そんな過酷な条件下で
自力で超えて行こうとするのか、インドガンに不思議と興味を持ち始めていた。
私はそんな山岳登山家として、企業や大学の支援を受けて挑んでいた。
それに並行して講演活動なども、忙しく駆け回っていた。そんな矢先だった...。
妻が、まだ母親が恋しい幼い子供達を残し原因不明の突然死で他界してしまった。
妻が他界して半年が経った頃、当時6歳の娘と3歳の息子がいた。 電車に乗っていると、
息子が「ママ、ママ…」と女の人の服を掴んで、その女性の友達が「あんたに言っているよ。この子」
それを聞いたお姉ちゃんが「まぁちゃん、ママじゃないよ! ママはもう、居ないんだよ!」
「だってママ…」「ちがうよ! まぁちゃん、ママはね、お空に行っちゃったんだよ!」「だって… ママ...」
妻が居なくなったことを、まだ理解できないでいる幼い息子。私は、そんな幼い子供たちにどう接してやれば
良いのか父親としての不甲斐なさに悩まされていた。実際の私も、妻の面影を追う毎日であった。
家に帰宅しても、寂しさが家中を包み込んでいるようだった...。
そんな折、私は仕事の都合上、又、再びというか、度々暫く家を空けることが多くなり、
実家の母に暫く来てもらうことになった。
出張中、何度も自宅へ電話をかけ、子供たちの声を聞いた。二人を安心させるつもりだったが、
心安らぐのは私の方だった気がする。そんな矢先、息子の通っている幼稚園の運動会があった。
[ママと踊ろう]だったか、そんなタイトルのプログラムがあり、園児と母親が手を繋ぎ、
輪になって、お遊戯するような内容だった。こんな時に、そんなプログラムを組むなんて・・・
と思っていた時、「まぁちゃん、行くよ!」娘だった。息子も笑顔で娘の手を取り、二人は楽しそうに走っていた。
一瞬、私は訳が分からずに呆然としていた。隣に座っていた母がこう言った。
あなたが、この間、九州に言っていた時に、正樹はいつものように泣いて、
お姉ちゃんを困らせていたのね。
そしたら、お姉ちゃんは正樹に、
「ママはもういなくなっちゃったけど、お姉ちゃんがいるでしょ?
本当は、パパだって、とてもさみしいのよ。だけど、パパは、
泣いたりしないでしょ? それはね、パパが男の子だからなんだよ!
まぁちゃんも、男の子だよね。 だから、だいじょうぶだよね?
お姉ちゃんが、パパと、まぁちゃんのママになるからね」そう言ったのよ。
・・・なんということだ。。。 6歳の娘が、ちゃんと私の代わりに、この家を守ろうとしている
ではないか...と、思うと目頭に熱いものが込み上げてくるではないか ・・・

133:Track No.774
22/01/07 08:58:03.38 .net
>>132
下から10行目「九州に行っていた時に、・・・」に訂正

134:Track No.774
22/01/07 09:46:30.43 .net
>>132
下から18行目「度々家を空けることが多くなり、」に訂正

135:Track No.774
22/01/07 23:37:40.39 .net
テスト

136:Track No.774
22/01/08 10:27:18.35 .net
「天使の階段」
小さい頃から幼馴染の女の子がいた。そいつとは本当に仲が良かった。
小学生の頃、親父の左手の薬指につけていた指輪が、気になって親父に
「なんで、ずっと、つけてるの?」って聞いたんだ。
そしたら、親父が「これはな、母ちゃんとの約束の指輪だよ。これを付けていれば、
離れていても、いつも、心は一緒なんだよ」って笑顔で言ってくれた。
それを聞いた幼い俺は、仲のいい幼馴染と結婚したかったから、ずっと、豚の貯金箱に、
貯めていた小遣い1000円分ぐらいの小銭を持って、商店街のアクセリーショップみたいな
所へ行って「一番いい指輪ください!」って店員に言った。そしたら、店員のお姉さんが、
「僕、お母さんにあげるの?」って聞くから、俺「お嫁さんの!」って言ったら、
お姉さんが「じゃあ、ちょっと待っててね!」って指輪を探し始めたんだ。
それから、お姉さんが綺麗にラッピングしてくれた指輪を持ってきてくれて、
俺は、ありったけの小銭をお姉さんに渡した。そしたら、お姉さんは笑顔で
「頑張ってね!」って俺を送ってくれたんだ。
俺は、その幼馴染に親父に聞いたことを、そのまま言いながら指輪を渡した。
幼馴染の子は、ビックリしたような顔をしながら、頬にチューをしてくれたんだ。
それから時が経って、幼馴染の子は、小学校卒業と同時に親の都合で転校したんだ。
俺は、地元の中学に行ったが、別れが寂しくてサヨナラって言えなかったのが、
ずっと心に引っ掛かってた。
それから更に時が経って高校に進学。高校には可愛い子がいっぱいいて好きな子も出来た。
もう、高校が楽しくて幼馴染の子のことはすっかり忘れていた。
でも、そんな高校2年の秋、幼馴染のお母さんから電話が来て、今、幼馴染の子が、
入院しているという。そんな話を聞いた俺は、今更ながら心配になって、お見舞いに行ったんだ。
お見舞いに行くと、個室のベットで幼馴染が寝ている。ベットで寝ている幼馴染は、
もの凄く綺麗で、なんかドキドキした。何の病気か、分からなかったけど左手を握った。
そしたら、薬指に違和感を感じて、よく見たら、あの時、俺があげた指輪がついていたんだ。
その瞬間、俺は、何故か知らないけど、突然、涙が零れた...
幼馴染の子は起きて、俺の泣き顔を笑顔で見てた。そして笑顔で
「指輪つけていたから、ずっと、一緒だったよ」って。。。
幼馴染のお母さんが言うには、ずっと、その時の指輪を外さずにつけていたらしい。
その話を聞いて、幼馴染に俺は「バカだよなぁ~ 血が止まっちゃうよ」
  ―― 俺、今度、新しい婚約指輪、買いに行ってくる … 
俺はもう、涙が止まらなくて、恥ずかしくて、そんな姿を見られたくなくて、
病室の窓の方へ視線を向けると、夕方の空、太陽が雲に隠れているのか、
- 雲の切れ間、あるいは端から光が漏れ...光の柱が...
      ―― 放射状に地上に降り注いでいた  ――
――― 幼馴染のお母さんが「あら、珍しいわね。見て、天使の梯子よ!」

137:Track No.774
22/01/09 10:17:05.64 .net
「走(そう)」
今年の箱根駅伝は青山学院大が2年ぶり6回目の総合優勝で幕を閉じたが、
これまでの箱根駅伝は人々の琴線を揺さぶる幾多のドラマを生んできた。
一人一人が力を出し切り、襷を繋ぐ一心で必死に懸命に走る。勝者が、
歓喜に酔いしれるドラマもあれば、それ以上に心を揺さぶられてしまう
敗者のドラマが箱根駅伝には沢山ある。特に繰り上げスタートや途中棄権。
脱水症状、足の疲労骨折、アキレス腱痛、ふくらはぎの肉離れ、足の靭帯損傷、
足の痙攣、低体温症などが起きて走る事が困難になる。
目の前にいる仲間を置き去りに、繰り上げスタートしていくランナー。これも切なく辛い光景だ。
長年、箱根駅伝を見続けて来た中で、今もくっきりと脳裏に残っているのは、悲劇の途中棄権と
言われた最終10区を走ったアンカー。ゴールまで残り150mに迫りながら途中棄権を余儀なくされた。
極限を遥かに超えていただろう。その時、ランナーは、どんな気持ち、状態で、走っていたのだろうか…
襷を渡す事が出来なかったランナーが、肩を震わせて号泣きする姿。繰り上げスタートが迫ってくる…
繰り上げスタート用の白い襷を掛けて仲間を待つランナーの祈るような気持ちが伝わってくる…
中継所の映像。襷を繋ぐ為にヨロヨロしながらも必死の形相で、中継地点に現れたランナー。
襷を運んでくる仲間を待ち続けるランナー。すぐ外せるように白い襷に手をかけ、あらん限りの声を張り上げで叫ぶ声。
近づくランナーに手を振っている。その声が中継所を目指すランナーの耳に届いていたかどうかは分からない。
ランナーは、あと5m、あと4m、あと3mと少しずつ 中継地点まで近づいてくる。
残り1mと少し… 手を伸ばせば届きそうな距離まで近づいたランナー。
その時、無情にも「ピッ」と笛が鳴り、白い襷を掛けたランナーは母校の襷を受け取れないまま繰り上げスタートしていく…
最後の力を振り絞り中継ラインを超えたランナーは、母校の襷をギュッと握りしめ倒れ込み号泣き!
仲間が繋いできた襷を渡すことが出来なかった悔しさが伝わってくる光景… 特集番組で見た過去の箱根駅伝の映像。
その中に今回優勝した青山学院大の過去の映像があった。
第52回大会の最終10区のランナー。大手町ゴール150m手前で脱水状態により意識を失う… 
角を曲がると真っ直ぐにゴール地点、アンカーは、その曲がり角のすぐそこまで来ていた。
150m手前だった… 右にヨロヨロ、左にヨロヨロ、今にも倒れそうになりながら、
それでも走ろうとするランナー … その傍らにチーム監督がいて
「もういいよ、 よく頑張った! もういい!!」と声をからして叫んでいた。
未だうつろながらも走ろうとするランナー … ランナーの表情は意識が朦朧としているのが、傍目でわかる。
監督が声を掛けながらランナーの肩に手をかけた。ランナーの身体に触れたらレース終了の合図。
「よく頑張った!」「よく頑張ったぞ!」四方八方から大観衆が叫ぶ… 記憶の片隅には、涙をぬぐう観衆の姿もあった。
意識が朦朧としているランナーは、監督の手が触れた瞬間、ふらっと身体が揺れて、その場に倒れ込んだ。
意識もうろうとしながら、右に左にヨロヨロしながら、それでも、前に前にと、つんのめるようになりながらも歩む…
そんな極限を超えたランナーの姿… あと少しでゴール出来たという思いが伝わってくる… 残り150mは遠かった...
- あと少しで持ち帰れた襷は、ゴールで待つチームメイトに届くことはなかった...
優勝のゴールのテープを切ったアンカーが、駆け寄った仲間と一緒に喜びを爆発させていた。
こんな悲喜こもごもの多くのドラマがある箱根駅伝。山もあれば谷もある。歓喜の涙もあれば、
- 悔し涙もあるマラソンや駅伝は、まさに人生そのものではないだろうか・・・

138:Track No.774
22/01/10 08:30:02.61 .net
「荒野より」
小さい頃、よく親父と一緒に街中を走っていた。生まれた町は田舎で、交通量も少なく、
自然が多く、晴れた日にはとても気持ちのいい空気が漂っていた。
親父は若い頃、箱根駅伝で走っていた。足の痙攣で、途中棄権。チームに迷惑をかけ、
完走できなかった事が悔しくて、今も走る事がやめられないと言う。普段、無口で
近寄りがたい親父も、走っている時だけは、ずっと俺に声をかけ続けていた。
中学に入った俺は、当然の如く陸上部に入部した。レースでは、結構いい成績で、
部活内でもトップレベルだった。毎回応援に来くる親父。俺が良い記録を出した日は、
酒を飲んで真っ赤な顔で上機嫌だ。正月はいつも箱根駅伝をTVで見て言う。
「俺の望みは、お前と箱根を走る事だ。ワハハハ」
高校に行っても陸上は続けた。でも、思うように記録は出ず、俺はいつもイライラしていた。
そんなある日、体調を崩した事もあってか、案の定、酷い記録だった。
家に帰って、部屋のベットで独り天井を眺めていると親父が入って来た。俺の横に座って、長い沈黙の後に
「なぁ、どうした!? 最近のお前は・・・」と親父が言いかけたところで、俺の気持ちが爆発した。
「うるせえ!出ていけよ!!親父には俺の気持ちなんか、分かんねぇだろ!!もう、嫌なんだよ!
親父の期待に応えるのが!俺にとっちゃ重荷なんだよ!!」親父は驚いた顔をして眺めていたが、
暫くすると、悲しそうな顔をして俺を思い切って殴った。お袋が止めに入るまで大喧嘩した。
それ以来、親父とは、話す事もなくなり、その後、俺は陸上部を退部し、走るのをやめた。
その二か月後、親父が急に倒れ、病院に運ばれた。余命半年の末期癌だった。俺はショックを
受けたが、親父とのわだかまりがあり、お袋に何度も、誘われたが、見舞いに行けずにいた。
親父の様子は、体力は徐々に衰え、いつ死んでもおかしくないほど弱って来たとお袋が言う。
そんなある朝、学校に行く前、お袋が思い出すように話し始めた。俺が高校へ入ってからも、
陸上を続けた事を親父は凄く喜んでいたと。俺が記録が出ず、苦しんでいる時、親父も同じように
悩んでいたと。走る事を嫌って辞める事を凄く心配していたと。なのに、あの日、大喧嘩の後、
一切、俺が走る事、辞めた事を知り、その後、何も言わなくなったと。
「あの人も頑固だからねぇ」とお袋。俺は、そんな話を聞いて、学校へ行ってからも気になっていた。
休み時間、友達が「あの先生で数学が嫌いになった」と行った時、- 俺は気づいた! - そうだ!! -
俺は、あの日、親父に「親父のせいで走るのが嫌いになった」そう言った。
誰よりも走る事が好きで、俺と走る事が楽しみな親父に言ってしまった。
俺は授業そっちのけで病院に走った。道路は雪が積もり、何度も転びそうになった。
暫く走っていないせいか、心臓が破裂しそうなくらいバクバクいっていたけど、それでも俺は走った。
走っている間、あの日、俺を殴る前に見せた悲しそうな親父の顔が何度も頭に浮かんだ。
病室に行くと、変わり果てた親父がいた。ガリガリに痩せて、身体からはいくつかチューブがでて、
大きく胸を動かしながら、苦しそうに息をしていた。走ってぜぇぜぇしている俺を見て、
「走って来たの?」と驚くお袋の顔、親父は、「走って.来た.か...」と消えるような声で言った。
頷く俺に、「なあ、走るのは...楽しい.だろ.お前と箱根走りたかったな...でも、後悔はしていない...
お前は...俺の誇りだ」それが親父が力を振り絞って俺に語った精一杯の言葉だった。それが最後の言葉になった。
 その後、すぐに親父の容態は急変し、間もなく息を引き取った。
- 俺は病院を出て、とにかく走った。涙があふれて止まらなかった -
小さい頃に親父と走ったあの道、コースまでとにかく走った。走りに走った。
霙交じりの雪が降っている。。。身体が震える。号泣きしながら...
  
   俺はとにかく無我夢中で走った。そしたら幼い頃、親父と一緒に走っていた記憶が蘇って来た。
    一緒に走る時は、いつも俺に声をかけ続けていた親父...たとえどんなに距離が離れても...
     -「オヤジ―― !」  - 霙混じりだった雪は...。。。
          ――― いつの間にか、吹雪になっていた。。。。。。。。。
     

139:Track No.774
22/01/10 13:03:12.96 .net
>>138
下から19行目「と言った時、」に訂正

140:Track No.774
22/01/11 12:15:09.60 .net
「雪」
幼稚園からいつも一緒だった幼馴染の男の子がいた。
私は今でも覚えている...彼に恋した日のことを。。。
幼稚園で、意味もなく友達に責められている時に、唯一、私の側にいてくれて、
ギュッと手を握ってくれた彼が好きになった。それからは、子供ながらに「好きだよ」などと
自分なりにアピールしていた。今思うと、ませていたと思う。彼は顔を赤くするだけで、
答えてはくれなかった。周りに冷やかされるほど仲が良く、私も彼が好きだった。
中学校からは私も素直に好きと言うのが恥ずかしくなり、小学校からの友達などに冷やかされる度、
否定していた。徐々に彼との距離も離れていった。でも、密かな私の恋心は冷めることなく、
彼と同じ高校に行きたくて必死に勉強した。中学時代はお互い絡むことなく、特に思い出もない
まま進んでいた。だから高校では… と期待を込めて、彼と同じ高校へ入学した。
高校からは中学生の時の時間を取り戻すほど仲が良くなった。高校も卒業間近、彼は進学、私は就職も
決まり、こうやって久しぶりに今日、彼との待ち合わせ場所で待っていたが、彼は来なかった...
あんなに約束したのに来てはくれなかった。忘れてしまったのだろうか  - どうしたんだろう? -
雪がちらつく中、一人トボトボと歩いて帰ろうとしていた時、母から電話が鳴った。
「あんた今、どこにいるの?」と母。「○○公園にいる」と私。
「今から、お父さんと向かうから、待っていなさい!」とお母さんが凄く焦っていたのを
今でも覚えている。尋常ではないほど早口な口調と大きな声だった。数分もしないうちに
親が来た。来るなり、すく車に乗せられ、訳も分からないまま病院へと連れて行かれた。
親が先生と何かお話をしている。病院には学校の先生とお医者さんと、私の親と彼の親がいた。
私の足りない頭では理解が難しかった。お医者さんに連れて行かれたところは病室ではなかった。
薄暗い部屋にベットのようなものがあり、そこには人が寝かされていて、顔には白いタオルが掛けられていた。
此処でようやく頭が追いついた私。そっと、ベットに近づき顔のタオルを取ろうとするも、
彼の親からは見ない方がいいと止められた。私が彼を公園で待っている間、彼は飲酒運転の車に撥ねられ即死。
私はそんな事実を受け止められず、彼が「嘘だよ! 馬鹿だな」と笑いながら、頭をなでてくれるんじゃないか、
もしかしたら、慣れない悪戯をしようとしているんとじゃないかって… また、いつものように私の顔を
見てくれるんじゃないかって… ずっと待っていた。起きて笑いかけてくれるのを...
けれど、いくら待っても、いくら時間が過ぎても彼は起き上がらない...
周りから聞こえてくる嗚咽、むせび泣きが私の頭を刺激した。もう彼は帰ってこない...
彼はもういないの...どうして、どうして彼なの...なぜ飲酒運転の車に...
どこにもぶつけられない気持ちが私の中で渦巻いていた。
好きだから、起きてって何度も、お願いした...
どうしてって何度も何度も周りに投げかけた。
意味のない私の叫びし消されていく...
親や彼の両親に宥められても、私は彼の傍を離れようとしなかった。
傍にいてと、もう何度も何度も、届かない声を彼に投げかけていた。
既に冷たくなった彼の手を離そうとしなかった。
抜け殻のようになった私に、真っ赤に目を腫らした彼のお母さんが
彼が持っていたという手紙を渡してくれた。
手紙はぐちゃぐちゃで血が滲んでいた。これを読んでしまったら、彼が死んだということを
認めてしまう、実感してしまう。私は、どうしても、この現実を認めたくなく目を逸らしたくて、
 - 窓の外に目を向けると、もう既に夜になっていて、止んでいた雪が再び...
       ....... . . 。 。 。 。 。 。 。 。 。
 。。。。。。。。。 街灯の灯りの中、ゆっくりと空から雪が舞い降りてくる...。

141:Track No.774
22/01/11 12:33:38.83 .net
>>140
下から19行目「慣れない悪戯をしようとしているんじゃないかって…」に修正
下から11行目「意味のない私の叫びは消されていく...」修正

142:Track No.774
22/01/11 19:02:55.52 .net
>>140
13行目の「- どうしたんだろう - 」の
後に「私が言った… わがままが原因だろうか...」追加

143:Track No.774
22/01/11 19:11:20.79 .net
>>140
11行目「高校も卒業間近、頭が良くて色々と学ぶことが
多かった彼は進学、私は就職も決まり、・・・」に修正

144:Track No.774
22/01/12 10:32:57.94 .net
「ツンドラ・バード」
真っ暗な道を走って約40分、遅刻せず無事にヒッコリーウインドに着いた。
ガイドさんから「上着が足りないね~」と指摘され、防寒着のレンタルをしてもらう。
防寒着を着たら早速、音羽橋へ出発。到着すると、もう既に人が沢山いた。
早朝、こんなに人がいることにもびっくりだが、もっと驚いたのは外国人観光客の数だ。
ほとんどが外国人ばかりだった。コロナ禍になる前の話だ。
ガイドさんも英語がペラペラだ。
釧路から、ここ鶴居村まで車で約40分ぐらいで着いた。
隣のガイドさんが、英国のソ-ルズベリー近郊の街から来たと言う男性と話をしている。
何言っているのかは全然わからない。凄いなぁ~。話を聞きながらも鶴を発見!!!
- これは凄い!!! いっぱいいる!!! -
...朝靄の湯気が上がる中の鶴の群れ、なんと幻想的光景だろうか...。 見とれてしまう......
ガイドさんの話によると、鶴は川で寝るそうで、凍っている場所よりも、
凍っていない川の方が温かく、鶴にとっては温泉のようなものだとか。
川で寝てれば敵が近づいて来ても、音で分かるのが理由らしい。
話を聞いているうちに日も出て来た。すると、鶴の群れが一斉に羽ばたき、大空に舞い上がった。
こんなに近くで、飛び立つ姿を見る機会は今までなかったので、かなりの感動!!! 
太陽を背に大空を飛んでいく姿は、あの映画のワンシーンのようだった・・・
隣のアメリカ人男性が、双眼鏡で見ているので「何を見ているのですか?」と
ガイドさんに聞いてもらうと「高い樹の枝から、獲物を狙うオオワシ」を見ていたと言う。
ガイドさんによると、鋭い眼光のオオワシやオジロワシなどの猛禽類は特に外国人に人気が高いと言う。
その時だった !! 一瞬の隙を突き、小高い丘の高い樹の上から急降下、水面付近にいた獲物を捕らえた。
そんな " 決定的瞬間 !!! " を目撃した !!! ...  " オジロワシ " だった。
- その瞬間!- を隣のオーストラリア人の男性がシャッターチャンスとばかりパシパシとシャッターを切っていた。


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