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「たとえ世界が空から落ちても」
「一緒に暮らしていたと言っても、籍は入ってませんでしたから…
それにあの人の事、私良く知らないんですよ。この子が出来た時、籍だけは入れて
くれって頼んだんですけどね。俺はお前なんかと終る人間じゃないって、
いずれ大きくなる人間だからって… 自分勝手で横暴な人でした」
「殺される前、特に変わったことを言っていませんでしたか、例えば、近いうちに、
大金が入るとか」「ええ、言っていましたよ。いい金づるを掴んだからもう貧乏とは、
おさらばだって… でも、私と知り合ってから、ずっと言ってましたからね。そんな事を」
俺は殺された札付きのワルでチンピラ詐欺師、土屋勝利の聞き込み、身辺調査をしていた。たった一つの事実が、
俺をあまりにも乱暴で強引な推理に駆り立てていた。土屋の死体のワイシャツに微かに付着していた口紅と
地元有力者新村家の娘、輝美が常用している口紅が一致したのだった。
どう見ても二人は別の世界に住む人間だった。
「須藤!例の事件の事な。んだけど…」「あ、松本さん。それが一向に、糸口が掴めず、弱っているんですよ。
その上、あの事件に関しては、妙に、上の人間がハッパをかけてきましてね。二週間以内に早期解決しろと言う
特別命令が出ましてね。現場はすっかり焦っています」「早期解決の特別命令?」俺は須藤刑事に
新村輝美の事を話し、彼の調査に協力した。
そして二週間後、ついに我々は土屋と新村輝美の接点を見つけ出すことに成功した。
二人が同じホテルに連れだって通っていた事実を掴んだのだった。ところが我々が
二人の接点を掴んだ翌日、一人の暴力団員が土屋殺しの容疑で逮捕された。
「何!? 犯人が逮捕された!?」俺は驚いて、須藤刑事に尋ねた。「ええ、逮捕と言っても正確には自首して来たんです。
土屋と関係がある新興暴力団です」「それで?」「調査本部は解散です。上は大喜びですけどね。奴は犯人じやない。
松本さんと一緒に新村輝美を追った俺の正直な俺の感想です」「しかし、調査本部が解散した以上、身動きが取れんな。
お前も、次の事件に回されるだろうしな」「俺は松本さんと調査続けるつもりです。上からは猛反対を受けましたが、
俺は上を怖いと思った事は、一度もありませんから、…本当に怖いのは事実を隠されることですから」「よく言った」
とは言ったものの、我々二人に出来ることは、新村輝美の身辺を洗うことと、彼女自身の行動を探ることぐらいだった。
新村邸前に車を止めていると「世田谷警察のものですが、用がなければ車を移動させてもらいませんかね」
「あ、いや、私は警視庁捜査一課の刑事で…」「わかっている!刑事だからって人に迷惑かけていいってことにはならんぞ!」
二週間後、須藤刑事が慌てて俺の家に来た。「どうした青い顔して?」「昨夜、新村輝美が、ホテルの部屋から
投身自殺しました。遺書は見つかりませんでしたけど、ホテルのメモ用紙に{土屋は私が…}と書かれていました」
「そうか…」「松本さん教えてください。土屋のどこに惚れたんですかね?」「多分… 土屋が、騙して強請るまで、
昔の土屋を演じていたんだろう…」