21/11/21 13:23:02.42 .net
「トラックに乗せて」
タイムカードを押してトラックの始業点検を始める。
まず八輪あるタイヤの状態を見て回り、エンジンオイルの量をチェックする。
それから運転席に乗り込み、スピードメーターを開け、三日分のタコグラフを
装着した後でセルを回す。エンジン音を聞きながら給油所に向かい、オイルが
不足気味の時は適量だけ補充する。
ミーティングが終わり、集荷の終わりを知らせるアナウンスを合図に、
積み込み作業途中の運行者たちは追い込み作業に入った。出発と到着の準備が
同時に始まったプラットホームの上は、その日を締めっくくる一番慌ただしい
時間が廻って来た。
運転伝票を受け取った気の早いドライバーが、我先へと、出口に向かう中、
俺は慌てる素振りもなく事務所に向かった。
「本田、無茶な運転だけはするなよ。承知の上だろうが、中央道で何かあったら厄介だからな」
運行伝票の処理を済ませた田辺が俺の肩をポンと叩いた。
「大丈夫ですよ。田辺さん、安全運転指導者の俺に任せてください。法定速度を守りますのでご安心を」
俺はそう言うと笑顔で事務所を出て行った。
トラックのドアを閉め、クローランプが消えるのを待ってセルを回した。
力強い始動と共に軽快なアイドリングが始まった。乾いたディーゼル音が鳴り響く。
支店のプラットホームから次々に運行車両が離れたして行った。
俺はサイドブレーキを戻して、セカンドギアにクラッチを繋いだ。
エンジンが程よく温まった二tトラックは軽い身のこなしでプラットホームから離れて行った。
空を覆う雨雲は広範囲にまたがり、関東平野にまで続いて周期的に激しくなる模様とラジオから流れる交通情報が伝える。
途中、僅かな時間だったが、アメリカ映画ながらの小さなカバンを持ったヒッチハイカーの女性を
乗せる羽目になるとは思ってもいなかったのだった ーーーーーーーーー