中島みゆきの名曲at MJSALOON
中島みゆきの名曲 - 暇つぶし2ch2:Track No.774
21/11/07 20:26:32.73 .net
「あなたでなければ」
「お前の靴ズタボロじゃん。汚ったねぇ」履いているスニーカのボロボロ具合で、
家の事情がばれたのか、地元有力者のドラ息子は俺に目をつけ何かと、毎日ちょっかいを
かけてくる。先生にチクったところで意味はない。もっと酷くなるだけだった。
取り巻きを引き連れたドラ息子は腹立たしいが、本気で憎い裏切者は別にいた。
下駄箱に突っ込まれたゴミを片付け、一路焼却炉に行く。あいつは懲りもせず、毎回同じ場所に
捨てる。校舎裏に回り込めば、案の定、あいつが俺の上履きを持って焼却炉に立っていた。
あいつは高校で初めてできた俺の友達。教室の席も近く、自然な流れで毎日会話する仲になった。
お互い貧しい母子家庭育ち。俺には弟がいて、あいつには妹がいる。お互いに兄貴ということで、
親近感が湧いて「お兄ちゃんって損だよな」「なー」と愚痴をこぼしあっていた。そんな楽しい日々は、
あいつがドラ息子のグループに入ったことで終わりを告げる。今じゃあいつはドラ息子の使いパシリ。
ボスに命令されれば何でもやる。それからの日々は地獄だった。ドラ息子の嫌がらせは日増しに、
エスカレートして行った。物を取られて捨てられるのはしょっちゅうだし、トイレや校舎裏で、
ヤキを入れられることもあった。「ぐうぅ...」「貧乏人が学校へ来るな、とっととやめろ」と、鳩尾を
思い切り蹴られ激痛が走る。ニヤケ顔で脅すドラ息子の後ろで、あいつは卑屈に薄ら笑いしていた。
何度も学校をやめたいと思った。それでも意地と根性で通い続けた。働きづめのお袋や中学生の弟に
心配はかけたくないからだった。俺さえ我慢すればと自分に言い聞かせ、殴る蹴るの理不尽な仕打ちや
陰湿な嫌がらせに耐え続けた。お袋はパートで帰りが遅く、家にいる時間がすれ違っていたので、
何とか上手くごまかせたが、弟となるとそうもいかない。「ただいま」「どうしたの兄貴。泥だらけじゃん」
ぐったりして玄関のドアを開けると、先に帰っていた弟が驚き、頼んでもいないおせっかいを焼いてくる。
「転んだんだ」「でも、怪我もしているし・・・顔のそれ、殴られたのか」「ほっとけよ」「学校で何かあったの?」
食い下がる弟にいら立ちが爆発し、思わず怒鳴り飛ばす。「関係ねえだろ、弟のくせに変な事、気にすんな!」
家で声を荒げる事なんて滅多にない俺の変貌ぶりに弟はびっくりし、しょげ返り「…ごめん」と呟く。
目に涙をためて謝る弟に罪悪感が襲い俺は何も言わずに自分の部屋に引っ込み、枕に顔を埋めて悔しくて泣いた。
高校卒業後、俺は大学へは行かず、地元の自動車整備工場に就職した。親父の作った借金を返すのはもちろん、
弟の学費を稼いでやりたかったからだ。「お前は本当に働き者だな」「お袋は年だし、下には手のかかる弟がいるもんで、
俺が食わせてやらなきゃいけないんで」上司の言葉に笑って返し、エンジンの修理に戻る。毎日オイル塗れになって
車に下に潜り、サボることなど考えず、がむしゃらに働いた。実家の借金返済を目標に仕事に打ち込み、あっという間に
十年が経った。「お疲れ様です。良ければどうぞ」「サンキュー」事務のユキちゃんがくれた缶コーヒーを笑って受け取る。
まだ新人だが、とても気配りが上手な子で、キツイ仕事で汗をかいていると、清潔なハンドタオルをそっと差し出してくれる。
若手が長続きしない職場だったのもあってか、心優しいユキちやんとはすぐに親しくなった。付き合うまでには時間はかからなかった。
何回かのデートでお互いの家族の話になった。最初こそ母子家庭の苦労がわかる者同士話が弾んだが、途中から何か引っかかり
その後に衝撃的な事実を知ってしまう。なんとユキちゃんは高校時代、俺を虐めていた同級生の・・・元親友の妹だったのだ。
あいつの妹。暗い顔で黙り込んでいると「どうしたの?」と身を乗り出して聞いてきた。俺は過去の事を洗いざらし話した。
彼女は泣きだし、謝ってくれた。彼女は相当ショックを受けたらしく、次の日、会社を休んだ。その晩、夜遅くに彼女からメールが来た。
「兄と喧嘩しました。私には、どうしても、あなたが必要です。あなたでなければイヤなんです。あなたでなければ駄目なんです。
似たような人じゃなくて、代わりの人じゃなくて、どうしてもあなたが傍にいてほしいんです」俺も返信を送った。「俺も同じだ」


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