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「アイス・フィッシュ」
男のやり方は卑怯だと言えば卑怯だし、洒落ていてこの男らしいと言えば、そうかもしれない…
おじさん… そうとてもいいおじさん… そういう顔をしているわ… あなたと出会ったのは去年。
気の合う飲み仲間とたびたび訪れている行きつけのBAR。たまたまその日はひとりで飲んでいた。
馴染みのバーテンダーから、「あちらのお客様からです」それがあなたとの出会いだった。
スキューバダイビングをしているという。海の中の探索は毎回、宝探しているような楽しさがあるという。
毎年沖縄の海にも出かけているという。いつもは、時間があれば東京から日帰りで行ける伊豆にも出かけるという。
そんな会話を交わしているうちに、話も盛り上がり、意気投合している自分がいた。
彼に感化され私もスキューバダイビングを習い始めた。そして彼と行った沖縄の海、伊豆の海。
海の中は今まで体験したことのない夢の世界だった。私も彼と海の中の探索。宝探し気分で楽しんだ。
日中の海の中も、海から上がった夜も、何のためらいもなく彼と一つになっていた。
OLとして将来の事が不安で、絶えず洋服を買うやりくりに悩み、家賃が高いと嘆いていた今までの自分が嘘のようだった。
海の中が楽しければ楽しいほど、現実の世界はうつろになっていく… 誰でもいい仕事… 空っぽの人間関係…
彼からの連絡がなくなった。電話しても仕事が忙しいという。仕事が忙しくて、もう、今までのように、海に行けないとい。
海の中の探索。宝探しはもう出来ないという。仕事が思うようにいかず空回りしていた。ちょうど、そんな時期、
焦るぐらいなら、休んでいようと、一時的に海の中に逃げていたのかもしれないという。
久しぶりで行きつけのBARで会った時の彼は無表情な大人の顔だった。疲れが見えたのは、多分、裕福な生活を送っている
からに違いがない。「ねえ、又、伊豆の海に行こう」と誘っても、彼は「息子が通っている幼稚園の運動会があるんだ」と言う。
「宝物なんか見つける必要なんてなかったんですよね。あなたにはちゃんと家族っていう宝物持っていたんだもん」
男はエリートで平均的サラリーマンより遥かにリッチな生活を送っていた。そんな彼が仕事に行き詰って自分探しを
していた時、私に出会った。そんなこと言われたら、私なんか一体どうしたらいいのだろう…
… そして彼と別れた …
「この熱帯魚、可愛い~」友人の満里奈がそう言って燥いでいる。見たら菱形でモノトーンの縞々模様…
私は友人の満里奈に誘われて葛西臨海水族館に来ていた。淡水魚、熱帯魚、深海魚… ぐるぐる廻る廻る 先へ進む…
私は立ち止った。体の脇の側線以外に鱗が無く、頭部が扁平な形をした透明というかクリーム色した魚が目に止まった。
何という魚だろうと解説を見ると、アィスフィッシュ。コオリウオ科の魚で、成魚の全長は55センチメートル。
最大の特徴は脊椎動物で唯一、血液中にヘモグロビンを持たず、血液が無色透明で赤くないことだった。
稚魚たちの体は透き通っていて、背骨が見える。