中島みゆきの名曲at MJSALOON
中島みゆきの名曲 - 暇つぶし2ch100:Track No.774
21/12/23 12:08:45.92 .net
「僕は青い鳥」
ある貧しい木こり家に、二人の子供がいて兄はチルチル、妹はミチルという名前でした。
チルチルとミチルの兄弟は、いつも近所のお金持ちの家の子のことを羨ましく思っていました。
クリスマスの夜、魔法使いのおばあさんがやって来ました。
「私の孫が病気で苦しんでいる病気を治す為に、幸せの青い鳥を見つけてほしい」と頼まれます。
鳥かごを持って出かけた二人は、妖精に導かれながら、様々な場所を訪れます ・・・
「思い出の国」では、亡くなったおじいちゃんとおばあちゃんに出会いました。
青い鳥がこの国にいる事を教えてもらいます。チルチルとミチルは手に入れることに
成功します。しかし、この国を出た途端に、黒い鳥へと変わってしまったのです。
その後、二人は「夜の御殿」を訪れます。ここでも青い鳥を手に入れたものの、
この国を出た途端、死んでしまったのです。
その後、二人は「贅沢の御殿」「未来の国」などに行きますが、どうしても青い鳥を
持ち帰ることはできませんでした ・・・・・・・・・
そんな時、「二人とも起きなさい! 今日はクリスマスですよ」とお母さんの声が聞こえ
二人はベットの上で目を覚ましました。とうとう青い鳥を捕まえることが出来なかったと
ガッカリしていると ・・・ 部屋にある鳥かごの中に ・・・
          ―― 青い羽根を持った鳥を見つけます ――
「あら、 もう寝たのね。 ・・・ まあ、なんて寝顔が可愛いのかしら ・・・」
       ・・・ 布団をかけ ・・・ おやすみなさい ・・・
・・・・・・・・・ 本当の幸せは手の届くところにあるのね ・・・・・・・・・
      ―― お母さんは明かりを消し部屋を出ていく ――

101:Track No.774
21/12/24 11:29:56.12 .net
「LOVERS ONLY」
欧米では家族そろって静かに過ごすのが習慣になっているクリスマス。
イブに綺麗な夜景のレストランでカップルでお食事。クリスマスイブはカップルの為に… 
 クリスマスはカップルのデート… 恋人と過ごすもの… 
・・・・・・・・・ そんな空気がこの国の風物詩になったのはいつ頃だろうか …
 そんな僕のクリスマスの思い出と言うと幼稚園くらいの時を思い出します・・・
その頃の僕はサンタさんをまだおぼろげながら信じていました...。
クリスマスイブの夜、布団に入って「こんばんは、ずっとおきていて、サンタさんの
しょうたいをたしかめよう!」と固く決心しました。
これ、もしかしたら多くの子供達が一度は決心することかもしれませんね。
かなり頑張りましたが、途中でうとうととして、ハッと気づいたら、
もう外が少しだけ明るくなってて… 朝です。「しまった!」と
頭で思ったものの、未だ夢うつつ状態...。
必死になって頭を上に向けて、枕元にプレゼントがあるかどうか、探します… ある。
何か鉄の塊が... (これは、ひよっとして... ずっと欲しかったロボットでは?)と
手を伸ばして... その鉄の塊を掴みます...。 その鉄の塊は… ロボットなのか?...
子供時代の僕は... 再び夢の世界に入っていきました...。
朝になって改めて見ると、その鉄の塊というのは、欲しかったゼンマイ仕掛けの
ブリキのおもちゃの「ロボット」でした。
よくは覚えていないけれど.........
ゼンマイ仕掛けのブリキのおもちゃのロボット...
それにサンタさんの正体も判明したので、満足で燥いでいたと思います...
父からのプレゼントはボードゲームでした。当時人気の人生ゲーム。
普段喧嘩ばかりして仲の悪い両親も、
この日ばかりは、ボードゲームの人生ゲームで家族5人が一家団欒で楽しく笑い声で
一喜一憂でゲームに夢中する姿が子供ながらに一番嬉しかったのを覚えています...

102:Track No.774
21/12/25 12:43:17.68 .net
「クリスマスソングを唄うように」
雪の降る夜は、いつも思い出す.........
私の職場にバイトとして入って来た高校生。何もわからない彼に仕事を
教えることになった私。「美香さんて可愛いですよね」初対面での挨拶が、これ?
「年下君に言われてもねぇ、もう少し大人になってから言って」
それからの彼の押しは凄かった。帰りは必ずバイクに乗って待っているし、
休みの日も迎えに来てくれた。彼は自分の事を隠さずに話してくれた。
彼の両親は離婚して、父親は出て行った。「弟や妹たちはまだ小さいから、あいつらの
小遣いくらい俺が稼がないと」そういう彼の照れたような横顔。
「美香さん、妹の誕生日プレゼント買いに行くの付き合ってください。母の日、どういうの
プレゼントすれば喜ぶんですかね?」と、不器用だけど一生懸命で優しい彼。
いつの間にか彼に惹かれている自分がいた。「やっぱり、俺、美香さんの事、好きです」
その言葉をきっかけに付き合いだした私達。両親に反対されると思って黙っていた。
けれど、どこから聞いたのか両親にばれてしまった。案の定、両親は大反対。
一人娘で大事に育てられてきたことは分かっている。「高校生なんかと付き合うような
娘に育てた覚えはない。お前は、高校生なんかに貢いでいるのか?」「何も知らない癖に!」
初めて本気で怒鳴った気がする。私は思わず家を飛び出した。彼に電話しようか…
もう… 家には戻れないかもしれない… そんなことを考えながら、行く当てもなく私は歩いた。
クリスマスの街はキラキラ輝いて見えた。自分が凄く惨めで寂しくて… たった一人… 
そんな時、「美香!」聞きなれた声に、振り向くと彼が居た。「ごめん。バイト増やしたんだ」と彼が言う。
そんなことはどうでもよかった。私は思わず泣きだしてしまった… 
「何? どうしたの? ちょっと待って、店長! ちょっと外します! すみません!」
近くの公園で、私は泣きじゃくりながらすべてを話した。あんなこと言われた。こんなこと言われた。
彼は全部黙って聞いてくれた。「ちょっと待ってて、店長に話してから、送っていくから」
バイクの後ろに私を乗せて、彼は私の家に向かった。慌てて出て来た両親にバイクを降りて彼は一言だけ言った。
「頼りない俺ですけど、絶対に幸せにしますから。 すいません、バイト途中で抜けて来たんで、また、改めて伺います」
そう言ってバイクに乗っていった彼。
その後、私は両親ときちんと話し合った。父は不機嫌そうだったけど、母は優しい視線で
「いい子じゃないの。ゆっくり見守りましょう。私たちの子よ。信用してもいいと思うわよ」と母の優しい言葉。
次の日、彼のお母さんから電話がかかって来た。「息子の彼女さんですよね? 今から出てこれますか?」
彼のお母さんから教えてもらった住所は彼の自宅。緊張しながらチャイムを押すと、彼のお母さんが
出てきてくれた。泣き腫らしたような目。彼のお母さんに案内されて入った部屋に彼は居た。
白い布をかけられていた。「昨日、バイトの帰りにバイクで転んで・・・」
   … どうして寝ているの?起きてよ。何が起きているの? …
「これ、多分、あなたへのプレゼントだと思うんです」と
彼のお母さんが渡してくれた小さな箱。中に入っていたのは指輪だった…
    … こんなのが欲しかったんじゃない …
 ― 彼のお母さんが、私の両親に連絡してくれて私は帰った...
 ・・・ 「頼りない俺だけど、絶対に幸せにするから」 ・・・
   ―― クリスマスに浮かれる街の光景の中 ーーーーーーーーー
 今でも白い雪が舞うこの季節になると… そんな彼の言葉を思い出す…

103:Track No.774
21/12/26 12:31:24.09 .net
「群衆」
公園のベンチに座っていた。多くの人たちがすぐ目の前を通り過ぎる…
話しかけようと思えば、話しかけられるのに、相手から接触してこない環境。
案外、人間観察などが好きだったりする。
僕は公園のベンチでのんびりと行きかう人々を茫然と、ただ何も考えず見ているのが好きだったりする。
ただ、気をつけなければいけないのは、あまりジッと見つめないこと。相手も気づき、ガンつけられたり、
相手は気分を害したり、お互いに気まずくなるだけだからね。
マーケッティングなどでテーマを持った人間観察を職業にしている人達とでは視点が違うのかもしれない。
人間観察ってどこを見るかによって随分と違ってくる。色違いのモコモコのダウンの防寒着を着て寒そうに談笑して
歩く女性たちやホット缶コーヒーを飲みながら談笑しているオッちゃん達を見ているだけでほっこりする。
心がほっこりする光景をただ探しているのかもしれない。良い悪いにつけ人間が好きなんだなと思う。
くだらないことで悩んでいる自分が馬鹿らしくなるほど、いろんな発見があって面白い。まだまだ人間って
捨てたもんじゃないよと思う。公園に来る前の商店街や路地裏でよく見かける光景。その中で通り過ぎる
人々をただただ眺めているだけのおばちゃん。その表情からは何とも言えない哀愁が漂っていた…
そんな下町だけではなく、繁華街や駅前で見かけた、何とも言えない哀愁漂う表情で煙草を銜え向かいの店を眺めている
中華店のおっちゃん。その表情。そんな下町のおばちゃんも、煙草を銜え向かいの店を眺めている中華店主で休憩中のおっちゃんも
「何を考えているのかな?」と想像しますが、別に何も考えていないと思う… その場の景色と光景、その中で醸し出す風情というか、
情緒、味わいがあって、何とも言えない哀愁を感じる… 長いようで短い… 儚い一瞬のドラマ… だからこそ一瞬一瞬を
大切に生きたいよね ―― 人混みの中から、若い女性が息を切らして駆け寄って来た。「やぁー  待ったぁー」
「遅いよ! じゃあ、行くか!」 ―― また再び、都会の雑踏とした人混みの中に消えていく ーーーーーーーーー

104:Track No.774
21/12/27 10:38:03.19 .net
「断崖-親愛なるものへ-」
今日は結婚記念日でカミさんと外食した。レストランはそこそこ混んでいて
ガヤガヤうるさかった。特に、隣の家族がうるさくって、カミさんとちょっと
顔を見合わせては苦笑いをしたぐらいだった。
父親が幼い子供に色々と質問しては笑いあってと言うのが、延々と続いて、こっちもうんざり
していた。しかも、その父親がやたらと大きく咳き込むので、実際に鬱陶しかった。
暫くすると、うちのカミさんが、その家族の父親の方を見て「ちょっと、おのお父さんを見て」と
言うので、見つめるのも失礼なので、向かいの鏡越しに、その父親の姿を見てみた。咳き込むたびに
ハンカチを口に当てていて、それを幼い子供たちに気づかれぬようにポケットにしまい込む姿が見えた。
ハンカチは血だらけだった。咳き込んだ後は赤ワインを口に含んで幼い子供達にバレないように大声で
笑いごまかしていた。向かいに座っていた奥さんは笑っていたが、今にも泣きそうな顔をしていた。
奥さんは、どうやら事情を知っているみたいだった。
その父親が、何らかの重い病気なのは明らかだった。うちのカミさんの方を見ると奥さんの
顔を見たのかもらい泣きしていた。帰りに、俺は無神経にも「今日は、なんか暗い結婚記念日に
なっちゃったなぁ~ 台無しだよなぁ~」とカミさんについ言ってしまった。
カミさんは、ちょっと沈黙した後、「カッコよかったじゃん!あの父さん。ああいう父さん
好きだよ。幼い子供たちに心配かけてはいけないと無理して、頑張って… ああいう父さん好きだよ。
って声を詰まらせて、涙声で俺に言った。
あの親父、頑張ってるな! 人生踏ん張って生きているんだなと思っていたら、
俺も自然と、こみ上げてくるものを押さえきれなくなっていた… 俺たち歩きながら…
 嗚咽して… 街を歩くみんなジロジロ見てるぜ! ・・・ カッコ悪いじゃん(笑)
―― 今日の結婚記念日 あの家族に泣かされ、帰りに嗚咽しながら帰宅なんてカッコ悪いよ ―

105:Track No.774
21/12/27 12:30:53.67 .net
>>104
タイトル「断崖-親愛なる者へ-」に訂正

106:Track No.774
21/12/28 10:12:52.92 .net
「六花」
僕の母は僕ら姉弟を女で一つで育ててくれました。
「ほら、ゆっくり食べなきゃ、ダメじゃない」
僕らは比較的遅い時期に生まれた子供だった。
父が亡くなった後、母はどんなに不安だったのか…
でも、子供の僕には、そんなことはおくびにも出しませんでした。
「はい! 出来たよ。 いっぱい食べなさい」「うん!」
母は僕たち姉弟の前では、いつも笑った顔しか見せませんでした。
そんな母が他界したのは姉が九つ、僕が五つの時でした。
僕たち姉弟はとうとう二人きりになってしまったのです。
母が亡くなったあの夜の事は、今でも不思議なほどに、
鮮明に僕の目に焼き付いています。
「さむいよー  ねぇちゃん! おうちへ はいろうよ」
「いい、修。 これからは、私達二人きりになるのよ。
もっともっと、辛い事が、いっぱいあるけど、二人で頑張っていこうね」
「うん!」
「修には、まだわからないと思うけど、よく聞くのよ。
お姉ちゃんはね、ゆうべ、冷たくなっちゃった母ちゃんの横で、
ずっと寝ないで、考えたことがあるんだ」
「なあに? おねえちゃん」
「これから二人、生きていくためのことを考えたんだ。
二つあるから、よく覚えておくのよ。いつも一緒にいることと、
それと絶対に親戚の人にわがまま言わずに、言うことを聞くのよ。
お姉ちゃんね。中学卒業したら、働いて修の面倒見るからね。
二人で生きていこうね。 それまで我慢してね…  分かった?」
「うん!!」
「ゆきだ! おねぇちゃん! ゆき、ゆきがふってきたよ!」
「あっ! 本当だ! 雪。綺麗ね」
「うん!」
その後、二人は親戚の間を転々とする生活が始まったのです・・・
昭和〇〇年.........

107:Track No.774
21/12/28 19:19:57.46 .net
>>106
下から4行目「あっ! … 本当だ … 雪。。。 綺麗ね...」に修正

108:Track No.774
21/12/29 10:08:54.43 .net
「帰省」
子供たちがまだ幼かった頃は、家族全員で車でよく帰省していた。
4人分の飛行機代はバカにならなかったので、いつも車を使って帰省していた。
途中で渋滞につかまり予定の時間を大幅に遅れて実家に着くと、母は毎度
同じことを孫たちに言った「あんまり遅いから、じいちゃんの首がのびたばい」
そういう母の首も、少しだけ伸びているように見えた。子は父の背中を見て育つと言うけど、
本当にそうだろうか? 亡くなった父は、昔から新聞や本を読んでいるか、あるいは、
酒を飲んでいるかで、記憶にあるのは、父の背中というよりも、その横顔であった。
むしろ覚えているのは、母の背中だった… 台所に立って茶碗や食器を洗う背中、
物干し竿に洗濯物を干す背中、縁側に座ってそれをたたむ背中… 我が子の生き方に
対して言いたいことが沢山あっただろうと思うが、母は何も言わず応援してくれた。
いつも何も言わず背中で語っていたのだと思う… 笑う背中もあれば、
泣いている背中もあっただろう… そんな母の生き様に思いを寄せることはせず、
そこに背中があるのが当たり前だと生きて来た。母の思いに気付いた時には、
もう母は居なかった.........
年老いてからは、帰省して車に乗るたび、「あんたが運転する車に乗るのは、
これが最後かもしれんねぇ」と母は呟いた。「そんなことないさ」と僕は言いながら、
本当にそうなるかもしれないことなど想像も出来ずに車を走らせていた。
東京に戻る朝、いつも母は門柱の前に立ち、走り去っていく子と孫をずっとずっと見送っていた… 
小学生の息子は手を振りながら泣きじゃくっていた。ルームミラーの向こうで、小さくなっていく母の姿を
見ながら、震えそうになる声で息子に、もう泣くなと言った。それが母を最後に見た姿だった...
父が亡くなって十五年、もう、そんな母が亡くなって、十年以上経つ...
あの時、小学生だった息子も、今では大学生になっている。時間が経つのも早いものだ...
帰省とは、家族の繋がりを確かめる為のものだと思う… ずっと巡り続けて来た季節も
メリーゴーランドのように少しずつ速度を落としながら… やがて、いつかは、
止まる時が、訪れるのだろうか… 帰省するたびに、改めて家族の繋がりに気づかされる…
生きていくうえでの、人との繋がり、家族との繋がりを確かめる為に… 
 ーーー 僕らは生きているのだろう... 
...玄関前でばあちゃんを見つけた幼い息子が喜んで飛び出していく...
「ばあちゃん! 遊びに来たよ」
「よく来たね。ケンちゃん」
「おお、ケン坊! よく来たな」
「おじいちゃん」
      .........

109:Track No.774
21/12/30 10:03:00.07 .net
「ホームにて」
駅は帰省の人々でごった返していた。この駅が、こんなに人混みで
溢れるのは、この時期くらいだ。小学生だった僕は父さんとはぐれない
ように気を付けながら、人と人の間をすり抜けて進んでいた。
「康明! ちゃんとついてきているか?」と父さんは時々、僕を振り返りながら確認する。
迷子になるような年じゃないよと言いたいけれど、この人の多さでは本当に迷子になってしまいそうだ。
「下りのお客様は、こちらに整列をお願いします。二列になってお待ちください。次の列車は
すぐに参ります」駅員さんがメガホンを持って声を張り上げていた。これも毎年の光景だ。
「お疲れ様です」と、お父さんが、顔なじみの駅員さんに声をかけていた。
「毎年、この時期は、こうですからね。慣れていますよ」と駅員さんは笑った。
「それでも、働いている皆さんは大変でしょう。列車だけでなく、船も飛行機も、この時期は満員だ」
「そうですね、この時期だけの特別便が何本も出ます。でも、こちらでも働き方を見直そうという動きはありまして、
帰省をしない方々の中から、アルバイトを雇っているんですよ」と駅員さんと父の会話を聞いていた僕は、
確かに言われてみると、行き交う帰省客の案内や整理をしている中には、明らかに駅員さんの制服でない
人たちがいる。(この人達は帰る故郷がないんだろうか)と幼い僕がそう思って見ていたのが、顔に出ていたのかも知れない…
「帰れない方も、帰りたくない方もいらっしゃいますよ。アルバイトに応募されて来た皆さんは、自分は帰らなくとも他の方々の
帰省を手助け出来ることに喜びを感じている方ばかりですよ」と駅員さんは、父の方とそして、僕の顔を見て微笑んだ。
そんな駅員さんと父の会話から、僕は人には人知れずそれぞれの事情があるんだと言う事をその時、初めて幼いながらも知った。
列車は中々来なかった。駅に集まっている人々も、退屈しのぎに、あっちこっちでおじゃべりしていた。
「うちの故郷は、年々人口が減ってましてね。そのうち帰っても誰も居なかったと言う事になるかもしれません」
「私の村は、何年も前にダムの底に沈みました。毎年、帰省した連中と一緒に、ダム湖を眺めながら過ごしていますよ」
「うちの所は、私がいた頃とは、すっかり様子が変わってしまいました。まるで、他の町にいるようで、帰省しても落ち着きません」
「まあ、世の中、変わっていくものですからね」「これも時代の移り変わりというものでしょうな、きっと、ワハハハ」
「あら、あなたは、初めての帰省なの?」「はい。...何もかもが嫌になって自分から飛び出した故郷ですけど・・・
それでも両親が待っているかと思うと… やっぱり帰った方がいいのかなって… ...でも、まだ少しだけ帰るのが怖いんですけどね」
「大丈夫よ、他の人が何と言ったって、御両親は、きっとあなたの帰りを待ちわびているわ。喜んで迎えてくれるわよ」
「...だと、いいんですけど・・・」
そんな大人達の会話を聞いていた僕に「康明! 切符ちゃんと持っているんだろうな?」と父さんが振り返って言って来た。
「もちろんだよ。父さん」―― 僕は、乗車券を入れた胸ポケットをそっと、何度も抑え確認した。。。

110:Track No.774
21/12/30 11:36:29.68 .net
>>109
下から11行目「あっちこっちでおしゃべりしていた。」に訂正

111:Track No.774
21/12/31 11:36:27.91 .net
「ヘッドライト・テールライト」
高層の本社ビルの最上階の窓の外を眺めていると、知らぬ前に横田が立っていた。
「なんだ、いつから居たんだ。気付かなかったよ」「入社以来のライバルが、
横に立っているのに気付かないようじゃ、お前も終わりだぞ。ワハハハ」
「ああ、終わりだね」「どこに出向することになったんだ?」「静岡にある小さな自動車部品
工場に決まったよ。年収は今より30%減だが、65歳まで働けるそうだ。そこで15年、総務部長として
頑張ることになった」「業界四位の大手商社の部長まで行ったお前が町工場の総務部長さんか。
いや、お前は確か、フィリピン支店長までやってんだな。失敬した」
「これが証拠の勲章だ」と左手をたくし上げて見せる。「現地人を指揮して沼に落ちて蛇にやられた。
支店長ったって現場監督だった。ワハハ」「俺は名古屋のバルブ専門会社の業務部長だ。年収は20%減だが、
定年は60歳、どうも俺とお前は、最後まで勝ち負けがはっきりしない競争を続けてしまったようだな。ハハハハハ」
「俺の勝ちさ、この勲章の分だけ、俺の勝ちだ」「馬鹿、そんな勲章がなんだ。俺だって、此処に傷ぐらいある。
全部で六針も塗ったんだぞ!」と、ネクタイをほどいて、ワイシャツの襟を広げて見せる。
「あれ、なんだその傷は? お前一度も、外(海外)へ出なかったんじゃないのか?」
「出なかった出なかった分、仕事仕事で、家を空けていた。息子にやられたんだ。[お前なんか、父親じゃない]ってな。
これも勲章だろ」「ああ、間違いなく立派な勲章だ! 認めるよ。しかし、息子に憎まれるだけいいじゃないか」
俺達は三十年近い間、同じ会社でお互いがライバルだった。「俺は、お前と、こんなに気を張らず、話が出来るなんて初めてだ」
「俺もだよ。ワハハハ」「そうか、お前もそうか、ハハハハ」
会社も家族も世間の事も全く忘れて温泉でも浸かりに行こうじゃないかという話がまとまったのは、
それから一か月後だった。

112:Track No.774
21/12/31 11:48:11.28 .net
>>111
下から8行目「全部で六針も縫ったんだぞ!」に訂正

113:Track No.774
21/12/31 11:58:28.32 .net
>>111
一行目「知らぬ間に横田が立っていた。」に訂正

114:Track No.774
21/12/31 12:12:17.94 .net
>>111
1行目「ガラス張り超高層の本社ビル・・・」に修正

115:Track No.774
22/01/01 13:50:19.39 .net
「終わり初物」
あけましておめでとうございます。
歳時記を紐解いていると、『初物』を大切にして、日本人は生活の中に
見慣れたもの、振舞いを新しい眼で再発見して来たことが分かる。
初日の出 初富士 初詣 初夢 初笑い 初売り 初釜 書き始め
出初め式 仕事始め 歌い始め・・・ 
又、野菜や果物で、多く出回る時期が過ぎてから成熟したものを初物と
同様に珍重して言う語に『終わり初物』という言葉がある。
そう言えば、昨年、久しぶりに友人の女性の家で俺が美味しそうに食べながら晩酌をしていると、
彼女が「これ初物よ」と言った。聞くところによると、市場のオヤジが一ヶ月遅れで今日、
水揚げされた今年の初鰹だという。
同じ6月の中旬頃、田舎から届いたアスパラガス。お袋に電話すると、
「ごめんね。遅くなっちゃって」って言ってた『終わり初物』だった。
丹精込めて育てたものは、最後までしっかりと収穫する。
最後まで美味しくいたただいた。親に感謝…
ベランダに出る「おおぉ… 寒い!」今日は特別冷える。元旦の朝は静かだ。
道に面して建っている我が家。普段は窓を開ければ騒がしい音が聞こえてくる。
車は絶えず走っているし、ランニングしている人や、早くから通勤するサラリーマン、
犬と散歩する人など5分も眺めていれば、沢山の人々の朝の日常が垣間見える。
それがコロナ禍で別世界のように変わった。車も人の姿も見えず、生活音がまるでしない。
今年初めて迎える早朝の朝。そんな特別な時間に身の引き締まる思いがしてくる。
街を彩るカラフルな[新春][迎春]の文字。でも、今にも雪が降りだしそうな寒空の下、
ピンと張り詰めた空気の中、近所の小さな神社の境内に向かう。

116:Track No.774
22/01/01 13:55:16.17 .net
>>115
14行目「最後まで美味しくいただいた。・・・」に訂正

117:Track No.774
22/01/01 16:28:14.22 .net
>>115
9行目「市場のオヤジが言うには一ヶ月遅れで今日、」に修正

118:Track No.774
22/01/02 10:42:27.48 .net
「慕情」
「東京のマンションを売り払ってこっちを大きくするか」遅く起きて、
ぼんやりした顔で居間に来た夫が言った。「昨日は、こちらを売り払って
東京の方を大きくしようとおっしゃいました」と私が言うと、
夫は「つべこべ言うな」「でも、全く違うこと言ってますよ」と私。
夫の言動が常に両極に大きく揺れ動くのには理由があった。
しかし、私も常に逆らい、決して同意はしない。子供の為にと無理して建てたおもちゃのような別荘。
二十年もの間、主を迎えることなく、長らく忘れられていた... あまりにも多くの思い出があり、
売ることも、壊すことも出来ずにいた。こちらに来た当初は、散歩はおろか外に出る事さえも、
嫌がっていた夫が、一年も経つと日に二度は一緒に散歩をするようになった…
二十年前、私達夫婦は一人息子を交通事故で失った。夫の言動が常に両極に揺れるようになったのは、
その時を境にしてからだった... それが、あまりにもひどいので会社の部下の人たちが訪ねてくる度に、
それとなく聞いても、会社ではその反対で、一度口にしたことは絶対に曲げないと言う… 
ふと、この人は、心の中で戦っているのではないかと思った。ある方向に引かれようとしている自分の気持ちを何とか、
踏みとどまろうとしているのだと思った。それに気づいたのが、定年になるちょうど、一年前の事だった...
警官に担ぎ込まれてきた時、「あなた!! 一体どうしたの?」「いや、大丈夫です。心配いらないですよ。お怪我は
ありませんから」「喧嘩でもしたのですか?」「酔って車道と歩道をふらふら、ふらついて歩いていたものですから、
では、私はこれにて失礼します」「どうもありがとうございます」-あの時...。
この人は、仕事でごまかしていたんだと...その仕事も定年を来年に控えた、今、この人から無くなろうとしている。
どうしたらいいのかわからなくなったんだわ。「あなた、定年になったら、別荘で暮らしましょう。通勤の必要がなくなったら
空気の良い自然の中で暮らしましょうよ」...そして、ここにやって来たのよね、...あなた。
そんなちっちゃな別荘の近くを二人で散歩していた。「あら、赤とんぼ! ほら、あそこ、あそこよ。早く捕まえて!」
「全くお前というやつは、いつまで経っても子供なんだから」...私たちは一人息子という大きなものを失ったけど...
生まれて、逝ってしまった命の記憶を知っているのも私たちだけなのだから...「ほら、捕まえたぞ!」
「凄いじゃないあなた!! ...でも、逃がしてあげて!」「せっかく捕まえたのに、逃がすのか?」と訝し気に言う夫...
「そうよ。それでいいのよ。ねえ、見て、あれが今の私達よ。捕まえられていた時が、今までの私達と同じなの。
もう一度、初めから...そう、何も急ぐ必要がないのよ。これからゆっくりでいいから...」
今までの私たち何故か、愛を急いでいたのね。愛を後回しにして、何を急いでいたのかしら、ね...
 ...今からでも遅くはないから...そう...
もういちどはじめから... もしも、これからも末永く...あなたと歩き出せるなら...
―― もういちどはじめから... ただあなたに尽くしたい ーーーーーーーーー

119:Track No.774
22/01/02 10:58:45.67 .net
>>118
最初の一行
「去年の夏の終わりの頃...」

120:Track No.774
22/01/02 11:07:19.38 .net
>>118
下から4行目「今までの私たち急いでいたのね。愛を後回しにして、何を急いでいたのかしら、ね...」に訂正

121:Track No.774
22/01/02 11:23:20.21 .net
>>118
下から2行目「もういちどはじめから...もういちど出逢いから...もしも、これからも末永く...あなたと歩き出せるなら...」に修正

122:Track No.774
22/01/02 11:37:36.02 .net
身体は成長期があるから、ほっといても成長し、大人の外見を保てるが、内なる人の心は
ほっといても成長しない。そんな心を成長させるために人は生まれて来たと思う。

123:Track No.774
22/01/03 10:44:45.81 .net
「陽紡ぎ唄」
自動ドアが開いて、幼い女の子が一人で入って来た。極度の緊張からか、
頬を赤く染め、真剣な眼差しで店員に「けえきください!」と声を発した。
「一人で来たの?ママは?」と店員の女性が問いかけると、女の子は、どもりながらも必死で、
独りで来たこと、今日がママの誕生日なので、驚かせる為に内緒で自分のお小遣いで、ケーキを
買いに来た事を、たどたどしくながらも、必死で懸命に話していた。
「そう、偉いね! どんなケーキがいいの?」「あのね、いちごがのっているの!」
どう見ても大金を持っているように見えない。僕は店員との言葉のやり取りの光景をハラハラしながら見ていた。
店員も、女の子がお金を大して持っていないことに気づいたらしく、イチゴが乗っているものの中で、
一番安いショートケーキを示し「これがイチゴが乗っているので一番安くて380円なの、お金足りるかな?」
すると、女の子の緊張は最高潮に達したようで、ポケットの中から、必死で小銭を取り出して数を数え始めた。
- 僕は心の中で、どうか足りてくれ! - 「100えんがふたつと...50えんと...10えんが、いち、にい、さん...」
僕は心の中で叫んだ!ああっ!ダメだ!280円しかない!!! 店員は申し訳なさそうに、お金が足りない事を女の子に伝えていた。
女の子は買えないことが伝わったらしく、泣きそうなのを必死で堪えながら、小銭を握ったままの手で、目をこすりながら
出て行こうとして、ろくに前も見ていないものだから自動ドアのマットに躓いて転んだ。その拍子に握っていた小銭が、
派手な音を立てて、店内に散らばった。きっと、神様が舞い降りる瞬間とは、こういう時の事を言うのだろう...
僕は、女の子の傍に駆け寄って小銭を拾うのを手伝ってあげた。小銭を拾い集め、終わった後で、女の子に、
こう話しかけた「全部あるかな? 数えてごらん!」 女の子は「うん! 100えん、200えん、300えん...?
あれ! 380えん、あるーっ?」 僕は「きっと、数え間違えていたんだね。ほら、これでケーキ買えるよ!」
  「うん! ありがとう!!」と、ぺこんと頭を下げ、嬉しそうな顔で店員の所へ行き 
     ―― イチゴのショートケーキをひとつ買っていた ――
 
       ーーーーーーーーー 僕は、その光景を見届けてから店を後にした。

124:Track No.774
22/01/04 09:57:03.56 .net
「トーキョー迷子」
正面のガラス張りのエレベーターから見渡せるショッピングモールの
吹き抜けホール。私はエレベーターを降りながら、目の前のフロアに視線を走らせた。
休日なので、いつもに増してカップルや家族連れが多いショッピングモール。
目の前では、ベンチに座る背の低い老夫婦が、身を寄せ合い楽しそうにイチャついている。
年取ってからも、あんな関係でいられるのは羨ましい。
-  あの子、もうかれこれ30分近く独りでいるんだけど、大丈夫かな? -
私はあれから近くの雑貨店を巡った後、本屋で物色していた。
手に持っていた文庫本から視線をそらし、先ほどから何度も見かける子供を注意深く見ていた。
可愛い耳付きの黄色いフードのダウンを着た色素の薄い茶色の髪は人工的に染められたものではなく、
地毛だとわかる自然な色。ふっくらとした子供らしい曲線を描く頬は薄っすらピンクに染まっている。
近くで見たわけではないので、顔は分からないが、少なくとも身長から判断するに、こんなところに
独りで来れる年齢ではないことは確かだった。
お気に入りの雑貨店と本屋と紅茶専門店が入っている。今日はいつものように
茶葉を購入し、何度も手にとっては棚に戻したマグカップ。欲しいけど、衝動買いは
したくないと我慢。その後、何か面白い本はないかと立ち寄った本屋。
物色していれば、チラチラと目に入ってくる幼い影。 - 迷子かな? -
キョロキョロと周りを見渡しながら、歩く幼い子供の周囲に視線を走らせたが、
親らしき人は見当たらない。レジに視線を向けても店員は迷子の可能性のある子供に
注意を払っていなそうだった。再度、子供に視線を向ける。
- ん~。 転びそうで、怖いなぁ~ - 足元がおぼつかない。今にも人にぶつかって転びそうだった。
私は子供に近寄って「僕、どうしたの?」キョロキョロ辺りを見渡していたお目目クリクリの
目でこっちを見つめる。「僕、おうちの人と、逸れちゃったのかな?」「… 」
「この本屋さんで、逸れちゃったの?」「… 」幼い子供は、私の質問に無言で頷いて答える。
「ん~、そうかぁ。じゃあ、お姉さんと一緒に、本屋さんぐるっと回って、おうちの人、探してみようか」
「...んっ!」一生懸命、返事をしようとしてくれているのだろう。今度は、頷きと共に声が聞こえてきたことに
私は嬉しくなった。
そんな時、「あっ!パパ!!」焦躁と安堵が入り混じった表情で駆け寄って来た男性が子供を抱き上げた。
「ごめんなー! パパね。お仕事の電話がかかって来て、すぐに切れなくて話が長引いて、
見たら近くに居なくて、探し回ったんだよ。いゃあ、見つかって良かったよかった」
私を見て「すみません。ご迷惑をおかけしました。いゃあ、本当に申し訳ございません。
緊急の仕事の電話がありまして」
「お休みなのに、お仕事の電話なんて大変ですね。良かったね。僕、パパ見つかって」
坊やは紅潮した顔で「うんっ!」
「いゃあ、本当にありがとうございました」お父さんに何度も何度も頭を下げられて
お礼の言葉まで言われてしまうと「私、何もしてないんですよ。そんなに頭を下げられても
困ります」と言って父親に会釈をし、私は手を振ってその場を後にした。
考えてみれば、私も年を重ねただけであって、私のこれまでの人生も、幼いあの子と同じだ。
恋.恋愛に翻弄され続けた人生を考えると、そう、恋.恋愛に翻弄された
恋愛の迷子だったのかもしれないと思った。

125:Track No.774
22/01/05 10:05:07.66 .net
「ばりほれとんぜ」
この寒いのに、美佳は買い物と称して、俺様を引きずり回す。
大抵は、全く興味のない店に限って、美佳は長々と店員と話し込む...
それだけでも腹が立つのに・・・
それより困るのは、下着売り場まで連れ込む事だ。
そういう場所は、男として恥ずかしい上に、目のやり場に困るうえ、長居はしたくない場所だ。
今日は本当に、その時間が長かった。。。。。。。。。
「俺、ちょっと、他の店か、本屋で待っているよ」なんて言ったら、
ふくれて、どっかに行っちまうし、仕方ないから...
通路のベンチに座ってボーっとしているしかない...
(頼むから、早く決めてくれ… どれでもいいだろ!)
あっちこっちの店に付き合わされた挙句、(げんなり...あぁ~と溜息が出る)( ;∀;)
「あ、これが良いだの、あれが良いだの」で、買うのかと思えば、、、
買わずに他の店に行く、またそこの店で「中々、良いのないわね」と...
色々探し回る始末。(マジか? こいつ何考えているんだ?)
付き合わされる身になってみろよと言いたくなる。。。
(ああ、面倒くせ~)と思っていたら...こっちにと俺を呼ぶ、恐怖のこっちに来てコール。
「ねぇ、これとこっち! どっちがいい?」
どっちでもいいだろ!と言いたいところだが、「こっちが、良いね」と言うと、
「いや、こっちも、良いんじゃない!」と言う。
「じゃあ、そっちかな」と言うと、
「いゃ、こっちも、捨てがたいわ!」と言う。
どっちなんだよ! じゃあ、自分で決めろよ! 決められないなら、どっちも買えよと
言いたくなるのを堪えて「こっちだね!」と決めてやると、「じゃあ、こっち!」と少々ふてくされた顔で、
俺の選ばなかった方を選ぶ。   - 全く、考えていることが分からん -
俺をからかっているんかと腹が立つが...いゃあ、ちょっと待てよ、
それとも、聞く前から、頭の中で決まっているんじゃないのか、ふと思う...。
なのに、わざわざ人に聞くなんて、こいつはわけわからん奴やと思っていると...
「ねぇ、これってね。 大きく見えるんだって!」
「だから、ちょっと試着するから、もう一回、呼んだら見てくれる?」ときた、
ケラケラ笑っているが、本気顔。...色々回ってから… 
もう、ここに来て早、1時間も経っている...
どうしょうもない戯けた奴だ
   - こいつは、小悪魔か、堕天使に違いない -

126:Track No.774
22/01/06 11:27:56.12 .net
「こんばんわ」
「あらっ、随分、ご無沙汰ね」「え?!」「なによ、驚いた顔してさ」
「...いやあ、一瞬、誰か、分からなかったよ。てっきり有閑マダムに
誘われたのかと思ったよ。アハハハ」「本当はそうなの、うふふ」
「何だ、それじゃ、昔と変わらないじゃないか。もっとも、あの頃みたいに、
可愛くないけどさ。アハハハ」「まあ、言ったわね。 こらっ! すぐ、
からかうんだから...うふふふ。変わらないわね。昔と、その笑い方も、昔のままね」
昔、マリコと飲み歩いた時と、変わらずビル群に囲まれていても、此処の一角の飲み屋街は、
昔のまま残っていて、久しぶりに顔を見せたら、昔のマリコにばったりと出くわしたのだった。
「あれから、ずっと、此処で働いているのか?」「あれから、色々あってね。何をやっても
上手くいかなくてねぇ。あの町、この街、渡ったわ。あたし、一つの場所にとどまることが出来ない
のかもね。此処に来る前は、仙台の国分町にいたわ。それから、歌舞伎町、中州、ススキノ、
北新地、錦3丁目、福富町...と渡り歩いて、又、此処に戻って来たの。ずっと一つの街にいると、
他の街に行きたくなるの。人間関係も含めてね。もう、この街は、いいかなぁ~って...続かないわね」
「定住できない遊牧民気質か、マリコらしいよ。ワハハハ」「何よ! 茶化さないでよ! うふふふ」
「まだ猫は飼っているの?」「あの頃の猫は死んでしまったけど、今も猫は飼っているよ。
あなたも猫好きだから、話し合うわね」あれから十年も経っていながら、マリコは気の向くままに、
気ままな昔の風来坊なマリコのままだった...
   ―― それからは、俺たちは昔話に花を咲かせた ――
俺はマリコの愛嬌のある話し方につられ、もう、戻れない昔話の懐かしい話の数々に
いつの間にか時を忘れて相槌を打ち、お互いの出会いと、それぞれ別に歩んだ人生を
店を閉めるまで語り合っていた...
  店の外は雪景色。。。
     街灯の光に照らされた中...雪が深々と降っていた。。。。。。。。。

127:Track No.774
22/01/06 22:48:01.98 .net
期間限定「ワンカップ大吟醸180ml 瓶詰 中島みゆきの歌ラベル」が発売されるらしい。
 - ♪ 酒(日本酒)に氷を入れて 飲むのが好き -  これどうですかね(^_-)-☆

128:Track No.774
22/01/07 07:13:07.01 .net
>>126
下から9行目「」の修正
「あの頃の猫は死んでしまったけど、今も猫は飼っているよ」
「あなたも、私もお互いに猫好きだから、話が合うわね」に訂正

129:Track No.774
22/01/07 07:51:37.12 .net
>>126
8行目「昔のまま残っていて、前のマスターと顔なじみと言う事もあり、マスターが入院中、
頼まれて、一時、この店の雇われマスターをしていた。そんな時、マリコと親しくなった。
暫く顔を見せていなかったので、久しぶりに寄ってみたら、そんな昔のマリコにばったりと
出くわしたのだった...。」に修正

130:Track No.774
22/01/07 07:55:44.84 .net
>>126
9行目「あれから、ずっと、此処で働いていたのか?」を消去して
「あれからどうしてた?」に訂正

131:Track No.774
22/01/07 07:59:27.62 .net
>>126
7行目「昔、飲み歩いていた時と、・・・」に訂正

132:Track No.774
22/01/07 08:51:40.22 .net
「India Goose」
世界で5番目に高い山、ヒマラヤのマカルーに挑む登山家として、山頂まで、あと少しの
所まで来て驚いたことがある。越冬の為にインドに渡るインドガンが頭上高く飛ぶ光景を
目にしたからだ。この鳥は高度9000m、実に民間航空機と、ほぼ同じ高さを飛ぶ。
このアジアに生息するガンの一種、インドガンは世界で最も高く飛ぶ鳥だと言う。
渡り鳥の期間はおよそ2ヶ月。移動距離最大8000キロ。二か月間に何度も休憩するが、
ヒマラヤ越えは夜間から早朝にかけ一気に飛び越える。平均8時間で向こう側に到達する。
しかも、追い風や上昇気流の助けを利用せず、自力で自分の筋力だけでそれほど、
風が吹かない夜に飛びたち山を越える。何でまた態々そんな超高所、難所を追い風に
乗ることもなく、滑空もせず、逆風であっても常に羽ばたき続け、そんな過酷な条件下で
自力で超えて行こうとするのか、インドガンに不思議と興味を持ち始めていた。
私はそんな山岳登山家として、企業や大学の支援を受けて挑んでいた。
それに並行して講演活動なども、忙しく駆け回っていた。そんな矢先だった...。
妻が、まだ母親が恋しい幼い子供達を残し原因不明の突然死で他界してしまった。
妻が他界して半年が経った頃、当時6歳の娘と3歳の息子がいた。 電車に乗っていると、
息子が「ママ、ママ…」と女の人の服を掴んで、その女性の友達が「あんたに言っているよ。この子」
それを聞いたお姉ちゃんが「まぁちゃん、ママじゃないよ! ママはもう、居ないんだよ!」
「だってママ…」「ちがうよ! まぁちゃん、ママはね、お空に行っちゃったんだよ!」「だって… ママ...」
妻が居なくなったことを、まだ理解できないでいる幼い息子。私は、そんな幼い子供たちにどう接してやれば
良いのか父親としての不甲斐なさに悩まされていた。実際の私も、妻の面影を追う毎日であった。
家に帰宅しても、寂しさが家中を包み込んでいるようだった...。
そんな折、私は仕事の都合上、又、再びというか、度々暫く家を空けることが多くなり、
実家の母に暫く来てもらうことになった。
出張中、何度も自宅へ電話をかけ、子供たちの声を聞いた。二人を安心させるつもりだったが、
心安らぐのは私の方だった気がする。そんな矢先、息子の通っている幼稚園の運動会があった。
[ママと踊ろう]だったか、そんなタイトルのプログラムがあり、園児と母親が手を繋ぎ、
輪になって、お遊戯するような内容だった。こんな時に、そんなプログラムを組むなんて・・・
と思っていた時、「まぁちゃん、行くよ!」娘だった。息子も笑顔で娘の手を取り、二人は楽しそうに走っていた。
一瞬、私は訳が分からずに呆然としていた。隣に座っていた母がこう言った。
あなたが、この間、九州に言っていた時に、正樹はいつものように泣いて、
お姉ちゃんを困らせていたのね。
そしたら、お姉ちゃんは正樹に、
「ママはもういなくなっちゃったけど、お姉ちゃんがいるでしょ?
本当は、パパだって、とてもさみしいのよ。だけど、パパは、
泣いたりしないでしょ? それはね、パパが男の子だからなんだよ!
まぁちゃんも、男の子だよね。 だから、だいじょうぶだよね?
お姉ちゃんが、パパと、まぁちゃんのママになるからね」そう言ったのよ。
・・・なんということだ。。。 6歳の娘が、ちゃんと私の代わりに、この家を守ろうとしている
ではないか...と、思うと目頭に熱いものが込み上げてくるではないか ・・・

133:Track No.774
22/01/07 08:58:03.38 .net
>>132
下から10行目「九州に行っていた時に、・・・」に訂正

134:Track No.774
22/01/07 09:46:30.43 .net
>>132
下から18行目「度々家を空けることが多くなり、」に訂正

135:Track No.774
22/01/07 23:37:40.39 .net
テスト

136:Track No.774
22/01/08 10:27:18.35 .net
「天使の階段」
小さい頃から幼馴染の女の子がいた。そいつとは本当に仲が良かった。
小学生の頃、親父の左手の薬指につけていた指輪が、気になって親父に
「なんで、ずっと、つけてるの?」って聞いたんだ。
そしたら、親父が「これはな、母ちゃんとの約束の指輪だよ。これを付けていれば、
離れていても、いつも、心は一緒なんだよ」って笑顔で言ってくれた。
それを聞いた幼い俺は、仲のいい幼馴染と結婚したかったから、ずっと、豚の貯金箱に、
貯めていた小遣い1000円分ぐらいの小銭を持って、商店街のアクセリーショップみたいな
所へ行って「一番いい指輪ください!」って店員に言った。そしたら、店員のお姉さんが、
「僕、お母さんにあげるの?」って聞くから、俺「お嫁さんの!」って言ったら、
お姉さんが「じゃあ、ちょっと待っててね!」って指輪を探し始めたんだ。
それから、お姉さんが綺麗にラッピングしてくれた指輪を持ってきてくれて、
俺は、ありったけの小銭をお姉さんに渡した。そしたら、お姉さんは笑顔で
「頑張ってね!」って俺を送ってくれたんだ。
俺は、その幼馴染に親父に聞いたことを、そのまま言いながら指輪を渡した。
幼馴染の子は、ビックリしたような顔をしながら、頬にチューをしてくれたんだ。
それから時が経って、幼馴染の子は、小学校卒業と同時に親の都合で転校したんだ。
俺は、地元の中学に行ったが、別れが寂しくてサヨナラって言えなかったのが、
ずっと心に引っ掛かってた。
それから更に時が経って高校に進学。高校には可愛い子がいっぱいいて好きな子も出来た。
もう、高校が楽しくて幼馴染の子のことはすっかり忘れていた。
でも、そんな高校2年の秋、幼馴染のお母さんから電話が来て、今、幼馴染の子が、
入院しているという。そんな話を聞いた俺は、今更ながら心配になって、お見舞いに行ったんだ。
お見舞いに行くと、個室のベットで幼馴染が寝ている。ベットで寝ている幼馴染は、
もの凄く綺麗で、なんかドキドキした。何の病気か、分からなかったけど左手を握った。
そしたら、薬指に違和感を感じて、よく見たら、あの時、俺があげた指輪がついていたんだ。
その瞬間、俺は、何故か知らないけど、突然、涙が零れた...
幼馴染の子は起きて、俺の泣き顔を笑顔で見てた。そして笑顔で
「指輪つけていたから、ずっと、一緒だったよ」って。。。
幼馴染のお母さんが言うには、ずっと、その時の指輪を外さずにつけていたらしい。
その話を聞いて、幼馴染に俺は「バカだよなぁ~ 血が止まっちゃうよ」
  ―― 俺、今度、新しい婚約指輪、買いに行ってくる … 
俺はもう、涙が止まらなくて、恥ずかしくて、そんな姿を見られたくなくて、
病室の窓の方へ視線を向けると、夕方の空、太陽が雲に隠れているのか、
- 雲の切れ間、あるいは端から光が漏れ...光の柱が...
      ―― 放射状に地上に降り注いでいた  ――
――― 幼馴染のお母さんが「あら、珍しいわね。見て、天使の梯子よ!」

137:Track No.774
22/01/09 10:17:05.64 .net
「走(そう)」
今年の箱根駅伝は青山学院大が2年ぶり6回目の総合優勝で幕を閉じたが、
これまでの箱根駅伝は人々の琴線を揺さぶる幾多のドラマを生んできた。
一人一人が力を出し切り、襷を繋ぐ一心で必死に懸命に走る。勝者が、
歓喜に酔いしれるドラマもあれば、それ以上に心を揺さぶられてしまう
敗者のドラマが箱根駅伝には沢山ある。特に繰り上げスタートや途中棄権。
脱水症状、足の疲労骨折、アキレス腱痛、ふくらはぎの肉離れ、足の靭帯損傷、
足の痙攣、低体温症などが起きて走る事が困難になる。
目の前にいる仲間を置き去りに、繰り上げスタートしていくランナー。これも切なく辛い光景だ。
長年、箱根駅伝を見続けて来た中で、今もくっきりと脳裏に残っているのは、悲劇の途中棄権と
言われた最終10区を走ったアンカー。ゴールまで残り150mに迫りながら途中棄権を余儀なくされた。
極限を遥かに超えていただろう。その時、ランナーは、どんな気持ち、状態で、走っていたのだろうか…
襷を渡す事が出来なかったランナーが、肩を震わせて号泣きする姿。繰り上げスタートが迫ってくる…
繰り上げスタート用の白い襷を掛けて仲間を待つランナーの祈るような気持ちが伝わってくる…
中継所の映像。襷を繋ぐ為にヨロヨロしながらも必死の形相で、中継地点に現れたランナー。
襷を運んでくる仲間を待ち続けるランナー。すぐ外せるように白い襷に手をかけ、あらん限りの声を張り上げで叫ぶ声。
近づくランナーに手を振っている。その声が中継所を目指すランナーの耳に届いていたかどうかは分からない。
ランナーは、あと5m、あと4m、あと3mと少しずつ 中継地点まで近づいてくる。
残り1mと少し… 手を伸ばせば届きそうな距離まで近づいたランナー。
その時、無情にも「ピッ」と笛が鳴り、白い襷を掛けたランナーは母校の襷を受け取れないまま繰り上げスタートしていく…
最後の力を振り絞り中継ラインを超えたランナーは、母校の襷をギュッと握りしめ倒れ込み号泣き!
仲間が繋いできた襷を渡すことが出来なかった悔しさが伝わってくる光景… 特集番組で見た過去の箱根駅伝の映像。
その中に今回優勝した青山学院大の過去の映像があった。
第52回大会の最終10区のランナー。大手町ゴール150m手前で脱水状態により意識を失う… 
角を曲がると真っ直ぐにゴール地点、アンカーは、その曲がり角のすぐそこまで来ていた。
150m手前だった… 右にヨロヨロ、左にヨロヨロ、今にも倒れそうになりながら、
それでも走ろうとするランナー … その傍らにチーム監督がいて
「もういいよ、 よく頑張った! もういい!!」と声をからして叫んでいた。
未だうつろながらも走ろうとするランナー … ランナーの表情は意識が朦朧としているのが、傍目でわかる。
監督が声を掛けながらランナーの肩に手をかけた。ランナーの身体に触れたらレース終了の合図。
「よく頑張った!」「よく頑張ったぞ!」四方八方から大観衆が叫ぶ… 記憶の片隅には、涙をぬぐう観衆の姿もあった。
意識が朦朧としているランナーは、監督の手が触れた瞬間、ふらっと身体が揺れて、その場に倒れ込んだ。
意識もうろうとしながら、右に左にヨロヨロしながら、それでも、前に前にと、つんのめるようになりながらも歩む…
そんな極限を超えたランナーの姿… あと少しでゴール出来たという思いが伝わってくる… 残り150mは遠かった...
- あと少しで持ち帰れた襷は、ゴールで待つチームメイトに届くことはなかった...
優勝のゴールのテープを切ったアンカーが、駆け寄った仲間と一緒に喜びを爆発させていた。
こんな悲喜こもごもの多くのドラマがある箱根駅伝。山もあれば谷もある。歓喜の涙もあれば、
- 悔し涙もあるマラソンや駅伝は、まさに人生そのものではないだろうか・・・

138:Track No.774
22/01/10 08:30:02.61 .net
「荒野より」
小さい頃、よく親父と一緒に街中を走っていた。生まれた町は田舎で、交通量も少なく、
自然が多く、晴れた日にはとても気持ちのいい空気が漂っていた。
親父は若い頃、箱根駅伝で走っていた。足の痙攣で、途中棄権。チームに迷惑をかけ、
完走できなかった事が悔しくて、今も走る事がやめられないと言う。普段、無口で
近寄りがたい親父も、走っている時だけは、ずっと俺に声をかけ続けていた。
中学に入った俺は、当然の如く陸上部に入部した。レースでは、結構いい成績で、
部活内でもトップレベルだった。毎回応援に来くる親父。俺が良い記録を出した日は、
酒を飲んで真っ赤な顔で上機嫌だ。正月はいつも箱根駅伝をTVで見て言う。
「俺の望みは、お前と箱根を走る事だ。ワハハハ」
高校に行っても陸上は続けた。でも、思うように記録は出ず、俺はいつもイライラしていた。
そんなある日、体調を崩した事もあってか、案の定、酷い記録だった。
家に帰って、部屋のベットで独り天井を眺めていると親父が入って来た。俺の横に座って、長い沈黙の後に
「なぁ、どうした!? 最近のお前は・・・」と親父が言いかけたところで、俺の気持ちが爆発した。
「うるせえ!出ていけよ!!親父には俺の気持ちなんか、分かんねぇだろ!!もう、嫌なんだよ!
親父の期待に応えるのが!俺にとっちゃ重荷なんだよ!!」親父は驚いた顔をして眺めていたが、
暫くすると、悲しそうな顔をして俺を思い切って殴った。お袋が止めに入るまで大喧嘩した。
それ以来、親父とは、話す事もなくなり、その後、俺は陸上部を退部し、走るのをやめた。
その二か月後、親父が急に倒れ、病院に運ばれた。余命半年の末期癌だった。俺はショックを
受けたが、親父とのわだかまりがあり、お袋に何度も、誘われたが、見舞いに行けずにいた。
親父の様子は、体力は徐々に衰え、いつ死んでもおかしくないほど弱って来たとお袋が言う。
そんなある朝、学校に行く前、お袋が思い出すように話し始めた。俺が高校へ入ってからも、
陸上を続けた事を親父は凄く喜んでいたと。俺が記録が出ず、苦しんでいる時、親父も同じように
悩んでいたと。走る事を嫌って辞める事を凄く心配していたと。なのに、あの日、大喧嘩の後、
一切、俺が走る事、辞めた事を知り、その後、何も言わなくなったと。
「あの人も頑固だからねぇ」とお袋。俺は、そんな話を聞いて、学校へ行ってからも気になっていた。
休み時間、友達が「あの先生で数学が嫌いになった」と行った時、- 俺は気づいた! - そうだ!! -
俺は、あの日、親父に「親父のせいで走るのが嫌いになった」そう言った。
誰よりも走る事が好きで、俺と走る事が楽しみな親父に言ってしまった。
俺は授業そっちのけで病院に走った。道路は雪が積もり、何度も転びそうになった。
暫く走っていないせいか、心臓が破裂しそうなくらいバクバクいっていたけど、それでも俺は走った。
走っている間、あの日、俺を殴る前に見せた悲しそうな親父の顔が何度も頭に浮かんだ。
病室に行くと、変わり果てた親父がいた。ガリガリに痩せて、身体からはいくつかチューブがでて、
大きく胸を動かしながら、苦しそうに息をしていた。走ってぜぇぜぇしている俺を見て、
「走って来たの?」と驚くお袋の顔、親父は、「走って.来た.か...」と消えるような声で言った。
頷く俺に、「なあ、走るのは...楽しい.だろ.お前と箱根走りたかったな...でも、後悔はしていない...
お前は...俺の誇りだ」それが親父が力を振り絞って俺に語った精一杯の言葉だった。それが最後の言葉になった。
 その後、すぐに親父の容態は急変し、間もなく息を引き取った。
- 俺は病院を出て、とにかく走った。涙があふれて止まらなかった -
小さい頃に親父と走ったあの道、コースまでとにかく走った。走りに走った。
霙交じりの雪が降っている。。。身体が震える。号泣きしながら...
  
   俺はとにかく無我夢中で走った。そしたら幼い頃、親父と一緒に走っていた記憶が蘇って来た。
    一緒に走る時は、いつも俺に声をかけ続けていた親父...たとえどんなに距離が離れても...
     -「オヤジ―― !」  - 霙混じりだった雪は...。。。
          ――― いつの間にか、吹雪になっていた。。。。。。。。。
     

139:Track No.774
22/01/10 13:03:12.96 .net
>>138
下から19行目「と言った時、」に訂正

140:Track No.774
22/01/11 12:15:09.60 .net
「雪」
幼稚園からいつも一緒だった幼馴染の男の子がいた。
私は今でも覚えている...彼に恋した日のことを。。。
幼稚園で、意味もなく友達に責められている時に、唯一、私の側にいてくれて、
ギュッと手を握ってくれた彼が好きになった。それからは、子供ながらに「好きだよ」などと
自分なりにアピールしていた。今思うと、ませていたと思う。彼は顔を赤くするだけで、
答えてはくれなかった。周りに冷やかされるほど仲が良く、私も彼が好きだった。
中学校からは私も素直に好きと言うのが恥ずかしくなり、小学校からの友達などに冷やかされる度、
否定していた。徐々に彼との距離も離れていった。でも、密かな私の恋心は冷めることなく、
彼と同じ高校に行きたくて必死に勉強した。中学時代はお互い絡むことなく、特に思い出もない
まま進んでいた。だから高校では… と期待を込めて、彼と同じ高校へ入学した。
高校からは中学生の時の時間を取り戻すほど仲が良くなった。高校も卒業間近、彼は進学、私は就職も
決まり、こうやって久しぶりに今日、彼との待ち合わせ場所で待っていたが、彼は来なかった...
あんなに約束したのに来てはくれなかった。忘れてしまったのだろうか  - どうしたんだろう? -
雪がちらつく中、一人トボトボと歩いて帰ろうとしていた時、母から電話が鳴った。
「あんた今、どこにいるの?」と母。「○○公園にいる」と私。
「今から、お父さんと向かうから、待っていなさい!」とお母さんが凄く焦っていたのを
今でも覚えている。尋常ではないほど早口な口調と大きな声だった。数分もしないうちに
親が来た。来るなり、すく車に乗せられ、訳も分からないまま病院へと連れて行かれた。
親が先生と何かお話をしている。病院には学校の先生とお医者さんと、私の親と彼の親がいた。
私の足りない頭では理解が難しかった。お医者さんに連れて行かれたところは病室ではなかった。
薄暗い部屋にベットのようなものがあり、そこには人が寝かされていて、顔には白いタオルが掛けられていた。
此処でようやく頭が追いついた私。そっと、ベットに近づき顔のタオルを取ろうとするも、
彼の親からは見ない方がいいと止められた。私が彼を公園で待っている間、彼は飲酒運転の車に撥ねられ即死。
私はそんな事実を受け止められず、彼が「嘘だよ! 馬鹿だな」と笑いながら、頭をなでてくれるんじゃないか、
もしかしたら、慣れない悪戯をしようとしているんとじゃないかって… また、いつものように私の顔を
見てくれるんじゃないかって… ずっと待っていた。起きて笑いかけてくれるのを...
けれど、いくら待っても、いくら時間が過ぎても彼は起き上がらない...
周りから聞こえてくる嗚咽、むせび泣きが私の頭を刺激した。もう彼は帰ってこない...
彼はもういないの...どうして、どうして彼なの...なぜ飲酒運転の車に...
どこにもぶつけられない気持ちが私の中で渦巻いていた。
好きだから、起きてって何度も、お願いした...
どうしてって何度も何度も周りに投げかけた。
意味のない私の叫びし消されていく...
親や彼の両親に宥められても、私は彼の傍を離れようとしなかった。
傍にいてと、もう何度も何度も、届かない声を彼に投げかけていた。
既に冷たくなった彼の手を離そうとしなかった。
抜け殻のようになった私に、真っ赤に目を腫らした彼のお母さんが
彼が持っていたという手紙を渡してくれた。
手紙はぐちゃぐちゃで血が滲んでいた。これを読んでしまったら、彼が死んだということを
認めてしまう、実感してしまう。私は、どうしても、この現実を認めたくなく目を逸らしたくて、
 - 窓の外に目を向けると、もう既に夜になっていて、止んでいた雪が再び...
       ....... . . 。 。 。 。 。 。 。 。 。
 。。。。。。。。。 街灯の灯りの中、ゆっくりと空から雪が舞い降りてくる...。

141:Track No.774
22/01/11 12:33:38.83 .net
>>140
下から19行目「慣れない悪戯をしようとしているんじゃないかって…」に修正
下から11行目「意味のない私の叫びは消されていく...」修正

142:Track No.774
22/01/11 19:02:55.52 .net
>>140
13行目の「- どうしたんだろう - 」の
後に「私が言った… わがままが原因だろうか...」追加

143:Track No.774
22/01/11 19:11:20.79 .net
>>140
11行目「高校も卒業間近、頭が良くて色々と学ぶことが
多かった彼は進学、私は就職も決まり、・・・」に修正

144:Track No.774
22/01/12 10:32:57.94 .net
「ツンドラ・バード」
真っ暗な道を走って約40分、遅刻せず無事にヒッコリーウインドに着いた。
ガイドさんから「上着が足りないね~」と指摘され、防寒着のレンタルをしてもらう。
防寒着を着たら早速、音羽橋へ出発。到着すると、もう既に人が沢山いた。
早朝、こんなに人がいることにもびっくりだが、もっと驚いたのは外国人観光客の数だ。
ほとんどが外国人ばかりだった。コロナ禍になる前の話だ。
ガイドさんも英語がペラペラだ。
釧路から、ここ鶴居村まで車で約40分ぐらいで着いた。
隣のガイドさんが、英国のソ-ルズベリー近郊の街から来たと言う男性と話をしている。
何言っているのかは全然わからない。凄いなぁ~。話を聞きながらも鶴を発見!!!
- これは凄い!!! いっぱいいる!!! -
...朝靄の湯気が上がる中の鶴の群れ、なんと幻想的光景だろうか...。 見とれてしまう......
ガイドさんの話によると、鶴は川で寝るそうで、凍っている場所よりも、
凍っていない川の方が温かく、鶴にとっては温泉のようなものだとか。
川で寝てれば敵が近づいて来ても、音で分かるのが理由らしい。
話を聞いているうちに日も出て来た。すると、鶴の群れが一斉に羽ばたき、大空に舞い上がった。
こんなに近くで、飛び立つ姿を見る機会は今までなかったので、かなりの感動!!! 
太陽を背に大空を飛んでいく姿は、あの映画のワンシーンのようだった・・・
隣のアメリカ人男性が、双眼鏡で見ているので「何を見ているのですか?」と
ガイドさんに聞いてもらうと「高い樹の枝から、獲物を狙うオオワシ」を見ていたと言う。
ガイドさんによると、鋭い眼光のオオワシやオジロワシなどの猛禽類は特に外国人に人気が高いと言う。
その時だった !! 一瞬の隙を突き、小高い丘の高い樹の上から急降下、水面付近にいた獲物を捕らえた。
そんな " 決定的瞬間 !!! " を目撃した !!! ...  " オジロワシ " だった。
- その瞬間!- を隣のオーストラリア人の男性がシャッターチャンスとばかりパシパシとシャッターを切っていた。

145:Track No.774
22/01/12 10:40:01.65 .net
>>144
11行目「朝靄の湯気が舞い上がる中の鶴の群れ、」に訂正

146:Track No.774
22/01/13 11:39:06.47 .net
「粉雪は忘れ薬」
- 風が冷たいプラットホーム...。
もうすぐしたら電車がやってくる。
電車を待つのは、私を含めて親子連れなど8人ほど。
空を見上げると、粉雪が舞っている。儚いくらいの雪の結晶。。。
- 粉雪が舞い落ちてゆく。   。  。   。 。 。 。。。
親子連れの幼い子供たちが「ゆきだ! ゆきだぁ~!!」と燥いでいた。
その小さな手のひらに包まれる。子供たちが、それを私の方に差し出した。
「ねぇ、おねえさん! みて! ゆきだよ!!」 私は「どれ、見せて」
でも、覗いてみても、そこにあるのはただの水。
「ああ...とけちゃった!」と肩を落とし、ガッカリする子供たち。
せっかく捕まえたのにと、呟きながら水になったそれを見つめている。
ふと、その子が顔を上げた。「ねぇ、おねえさん!」
「なぁに?」急に話しかけられ、慌ててニッコリと笑顔を作る。
ちょっと、わざとらしくなってしまったかもしれない。
無理やり作った笑顔も、その子の無邪気な表情を見れば、自然と心から笑えてくる。
この駅から、私の新たな一日が始まる。
そう思うと、この見慣れた風景が、なんだか新鮮に感じられる。
少し前に、売店で買った缶コーヒーは、その温かみまだ保っていた。
握ったその温かみが、私の心をそっと慰める。
覚えておこうとしないのに、何かのはずみで、思い出しては泣ける。
 忘れなけりゃならないことを、忘れながら人は生きている。
 ―― すべての物事には意味があるのかもしれない ――
 
  ー 空を見上げると、まだ、粉雪は降り続けている 。。。
...ほんのわずかな雲の隙間から、小さな光が顔を覗かせている...
  。。。 降り続く、粉雪を見つめながら私は電車に乗った 。。。
      。。。粉雪はすべてを忘れさせてくれる。。。

147:Track No.774
22/01/13 11:47:12.30 .net
>>146
下から9行目「その温かみを、まだ保っていた。」に訂正

148:Track No.774
22/01/14 20:59:36.69 .net
「サッポロSNOWY」
テレビを点けると、ニュースで、海に出たら思わぬ吹雪にあい
立ち往生してしまった漁船の映像が映しだされていた。
中継で映し出されたのは、吹雪の海で迷っている漁船の船内の映像。
その船内の無線では、漁師の強気な駄洒落のやり取りが映し出されていた。
漁船の漁師たちは、相変わらず、負けん気なジョーク言っていた。
今頃、故郷の空は途切れることなく雪が降りしきっているのだろうか・・・
故郷の天気予報が知りたくて、受話器を取り、懐かしい市外局番に続けて、117をダイヤルして聞く。
「大陸からの強い寒気が下がって 今夜半 冷え込みます 夕方遅く降り出した
雪は明日も かなり強くなるでしょう」と感情のこもらない声が流れる。
 。。。 サッポロは雪が降って、明日にかけて、さらに強く降るらしい  。。。
  - あの人が、まだ、私の気持ちを受け止めてくれないから... 
    こうしてひとり故郷の天気予報をじっと聞いている。
。。。 あの人に、言葉では言い表せないほどの雪景色を見せてあげたい 。。。
。。。 テレビなどの映像で見る雪ではなく、本物の雪を見せてあげたい 。。。
 。。。 。 。 。  。  。   。    。     。      。
いつまで経っても彼の心は、どこか別のところに行ったきり戻っては来ない。
この季節が終わるまでに、彼が自分のことを好きになってはくれそうもない。
私は一人故郷に戻る気にもなれず、ただ今夜も受話器を握りしめ、
長距離の天気予報を、溜息交じりに聞いている私がいる。。。
サッポロ SNOWY  まだ SNOWY あの人が
まだ好きになってくれないから
サッポロ SNOWY  まだ SNOWY 帰れない
。。。 彼に寄せる思いのように雪がどんどん積もってゆく 。。。
SNOWY snowy 。。。。。。。。。

149:Track No.774
22/01/15 12:59:59.40 .net
「根雪」
私には付き合っていた彼がいました。彼と出会ったのは単なる偶然だった。
だけど私は、あなたとの出会いは神様がくれた運命だったと今でも思っている。
彼は優しくて、いつも私のわがままを聞いてくれた。
ところが、ある日、突然、「君には悪いが、別れてほしい」と彼から
別れを切り出された。彼に理由を聞いても何も答えてくれない。
私は何が何だか、わからないながらも、意地を張って「分かった」と言ってしまった。
彼との別れを、全く頭で整理できないまま、毎日泣き続ける日々を過ごしていた。
私がわがままを言ったからなの? ・・・ でも、あまりにも突然すぎる。
あんなに仲良くしてくれていたのに ・・・ 嫌われてしまったと、
悔やんでも、悔やんでも、悔やみきれない...
それでも振られた手前、連絡をすることも出来ずに過ごした半年後、
また彼から連絡が来た。
「どうしている? 元気?」
「もう新しい彼氏がいるから平気。 元気にしているよ」
「...そっか...」
つかなくていい嘘をついてしまった...。
今も、ずっと、あなたを思っているのにと、何故そう言えなかったのだろう・・・
それから間もなくして、彼の友達から彼が亡くなったことを知らされることになる。
彼は余命半年の癌だった。
別れを切り出された頃に癌が見つかり、その後、闘病生活に入っていたことを知る。
彼が私の事を想って別れたのだと、やっと理解できるようになった。
どうして私に教えてくれなかったのだろう...
その日はあふれる涙が止まらなかった...
 -  あれから三週間が経った ーーーーーーーーー
今、街ですれ違った人が、あなたと同じ匂いを漂わせていた。
それだけで、どうしてもあなたのことを鮮明に思い出してしまう。
この世界は、あまりにもあなたのことを思い出させるものが多すぎる。
- 今でも彼とよく聴いた古い歌が街に流れると彼のことを思い出す・・・
   -  降り積もった雪が解けずに地面を覆っている。
そこに深々と粉雪が舞い落ちてくる。そんな雪の中を私は歩いていた。
 。。。。。。。。。 。。。 。。。 。。。 。。。。。。。。。

150:Track No.774
22/01/15 13:09:31.74 .net
>>149
下から8行目「- あれから今日で、ちょうど1年が経った...。 去年の今頃だった -」に訂正

151:Track No.774
22/01/16 09:51:06.39 .net
「旅人のうた」
ケンジはサンドバックを一時間ほど叩いた後、ヘッドギアをつけてリングに上がった。
ライト級の昨年度の新人王がケンジを待っていた。汗に濡れたケンジの肌が光る。
「よろしくお願いします」ケンジは新人王に向かって頭を下げた。
二十二歳の新人王が、白い歯を見せて笑う。彼は世界チャンピオンを目指して、破竹の快進撃を
続けていた。ケンジはまだ無名だった。二人は軽くグローブを触れ合わせて身構えた。
ケンジの瞼の裏に今朝、「お前がわからない!」「私もあんたがわからないわ!」
些細なことで口喧嘩して出て行ったメグミの顔が浮かんだ途端、新人王の強烈な左ストレートが、
顔面に音を立ててヒットした!! ケンジはロープ際まで吹っ飛んでガクッと片膝をついた。汗が散る。
新人王が、「どうしたケンジ!! ! リングに上がって、他のこと考えているのが表情で分かるぞ!!」
ケンジを叱る。思いやりを込めた叱り方だった。ケンジは、なぜか新人王に気に入られていた。
ケンジは頭を振って体勢を立て直した。再び二人は睨みあった。ケンジは目をギラつかせた。
「その眼つきだ!!! その眼つきを忘れるなよ!!」リングサイドにいた新人王のコーチが言った。
ケンジはコーチは新人王に言っているのだろうと思った。しかし、コーチの視線はケンジに向けられていた。
新人王の右フックが唸りを発してケンジの左の胴を襲った! ケンジは左腕で相手のパンチを防ぎ、
体をひねって右アッパーを新人王の顔面へ放った! 新人王がひょいと体を沈める。そこを狙って、
ケンジの左ストレートが炸裂した!!! ケンジの拳をまともに浴びて新人王がぐらっとなった。
ケンジは一歩踏み込んで、新人王のボディをドッドッと連打すると後ろに下がる。汗が散る、散る。
歪んだ新人王の顔が苦しげだ。「いいぞ!! その呼吸だ! その調子だ!!!」ジムの会長が事務所の
出入り口に立って大声で叫ぶ!!!    - ケンジは勢いに乗って、再び踏み込んでいく -
その時、新人王のアッパーカットがケンジの顎に炸裂した!!! 後ろに倒れ一瞬、" 意識が飛んだ " !!!
「気を失いそうになったら、思い切り息を吸い込め!! そして体を横にするんだ! !! 
上を向いたままだと、眠ってしまうぞ!!!」新人王のコーチがタオルを投げ、
「よし、そこまでだ! 強くなったなケンジ」ケンジの飛んで薄れた意識は戻ったが、
  しばらく倒れたままで、出て行ったメグミのことが一瞬脳裏をよぎった。

152:Track No.774
22/01/17 13:41:56.66 .net
「雪傘」
いきなり霙が降ってきたので近くのカフェに入る。
二人で夜、何度か訪れたことのあるカフェだった。ランチタイムは、混むという話を
聞いていたお店も、平日の午後3時過ぎくらいのこんな時間は、案外空いていて、
店内のお客は疎らだった。
「お好きな席へどうぞ」と店員に言われ、奥の方にある丸テーブルのソファ席に座る。
「この前来た夜と、雰囲気というか、印象が違うね」とあなたは店内をぐるりと見まわしながら言う。
久しぶりに、午後のひとときを時間を忘れ堪能した。
 外に出ると、昼頃から降り出した霙は夕方頃から霙交じりの雪に変わっていた。
全国的に寒波が襲い、霙交じりの雪が降っていた...。。。
   - 早速、近くのコンビニでビニール傘を購入する -
- 街の街頭に照らされた霙交じりの雪が降る中 -
雪が降るより冷たいみぞれ交じりの雪の夜、二人で傘を差し歩いた。
普段はあまり雪が降らない為、既に交通網が麻痺し、慣れない雪にバスも
電車も遅延しているようだった。灯り溢れる街中から、賑やかな歌が流れてくる。
これっきりと思い出に、決着を決めている私がいた。
心の中で { Happy Birthday 今日の主役は何処?} あなたは隠しているけど、
知っているのよ。あなたに祝ってもらえる新しい彼女が羨ましいわね...。
今日を祝う人が居てくれるなら 安心できるわ 
いつまでも、一人ずつなんて良くないことだわ 安心したのよ 
凍えるような寒さの中、傘を持っているあなたの温かいぬくもりのある手に
指を添えて、あなたの声、白く吐く息を聞きながら一瞬の過ぎ行く時を感じながら
歩いている。ありとあらゆる悲しいことからあなたが守ってくれていたんだね。
当たり前のように暮らしていたあの頃...。アリガトって伝え忘れたね。
今までの色々な思い出が走馬灯のように駆け巡っては消えてゆく...
   迷惑でなければ傍にいて 車を拾うまで。。。
      ーーーーーーーーー 思い出全部   アリガト ー

153:Track No.774
22/01/17 14:46:17.88 .net
「雪傘」
「誕生日、おめでとう」「乾杯!」「ありがとう」
今日はあなたの誕生日。私がこの店の予約をした。
あなたの友人と三人で長い間、談笑していた。
やがて、その友人は去り、あなたと二人きりの時間が続いた。
あなたの誕生日を時間を忘れ祝った...。
店を出ると、昼頃から降り出した霙は、既に霙交じりの雪に変わっていた。
早速、近くのコンビニでビニール傘を購入した。
    - 街の街頭に照らされた霙交じりの雪が降る中 -
雪が降るより冷たい霙交じりの雪の夜、二人で傘を差して歩いた。
普段はあまり雪が降らない為か、既に交通網が麻痺し、慣れない雪に
バスも電車も遅延しているようだった。
灯り溢れる街中から、賑やかな歌が流れてくる...。
これっきりと思い出に、決着を決めている私がいた。
心の中で{ Happy Birthday }...実は帰宅したら、
あなたの誕生日を祝ってくれる人が居るのよね。
知っていたわ...。
今日を祝う人が居てくれるなら 安心できるわ
いつまでも 一人ずつなんて良くないことだわ 安心したのよ
凍えるような寒さの中、傘を持っているあなたの温かいぬくもりのある手に
指を添えて、あなたの声、白く吐く息を聞きながら過ぎ行く時を感じながら
歩いている。ありとあらゆる悲しいことからあなたが守ってくれていたんだね。
当たり前のように暮らしたあの頃・・・  アリガトって伝え忘れたね。。。
今までの色々な過ぎ去った過去の思い出が蘇っては消えてゆく...
迷惑でなければ傍にいて 車を拾うまで...
ーーーーーーーーー 思い出全部...  アリガト -

154:Track No.774
22/01/17 14:56:44.50 .net
「Happy Birthday 今日の主役は何処?」と誰かが気付いて探しにくるまで
これで分かりました。

155:Track No.774
22/01/18 11:13:54.19 .net
「マンハッタン ナイトライン」
地味で簡素な部屋だ。家具もサイドスタンドも、キャナル・ストリートの泥棒市に
並んでいそうなアンティークだ。豪華な部屋とは言えないが、その方がかえって落ち着く。
窓には雪がびっしりとついている。窓を開け、眼下に一晩で積もったらしい雪景色に
なった小さな公園がある。
そこを独りの老いたジョガーが、凍り付く雪道を白い息を吐き切らし喘ぎながら苦しそうに
走っていた。お寒い中、ご苦労さんだ。彼もまた、このホテルの客なのだろう。
凍り付いて凍てついた車道を車のクラクションや往来のざわめきを遠くから運ぶ。
24時間眠らない大都市だ。この大都市が活気づくのは、むしろこれからと言っていい。
巨大なビル群… 壁面を埋め尽くす四角く切り取られた無数の窓に張り付いた雪。。。
活気ある街ではあるが、先へ先へ急ぎすぎるあまり、油断すると置いてけぼりを食らってしまう。
明日まで仕上げなければならない仕事が山積みだ。一つ一つこなしているうちにあっという間に
時間が経った。軽い朝食を済ませてから始めた仕事だったが...昼食を食うのを忘れていた。
壁の時計に目をやると18:36 夢中に仕事をこなしていると時間が過ぎるのも早いもんだ。
周りの巨大なビル群の窓に灯りが灯りだす。ビル群が徐々に輝き始めて来た...。
空港で買った煙草に火を点ける。部屋の灯りはまだ点けてはいない。窓の外の暮れゆくマンハッタンを
見ていると小さな部屋の中に居る、ちっぽけな自分と対比し、巨大なイルミネーションと化した
摩天楼が浮き上がってくる。孤独を感じやすい街でもある。
- 変わっていないなぁ~ - この大都市で暮らした甘く苦しい日々のことが頭を駆け巡る...。
大学を中退し、一年半、ぶらついてから海を渡った。名目はニューヨーク市立大学建築学科聴講生。
早い話がもぐりの天ぷら学生みたいなものだった。イーストビレッジの安アパートに部屋を借りていた。
週四日、歩いて15分の大学に通い、夜はタイムズスクエアの日本食レストランで働いた。
そんなかって経験したことに思いめぐらし回想しているうちに溜まっていた仕事を
一気にこなした為か、疲れから眠気が一気に襲って来た。そのままベットに眠り込んでしまう。
  - どのぐらい寝たんだろう - 
 テレビを点けると、ちょうど、深夜0:35 ナイトラインが始まっていた。

156:Track No.774
22/01/18 12:17:34.45 .net
>>155
下から4行目「そんなかって経験したことに・・・」の前に
追加「メリトクラシー(能力主義)が理想的生き方のアメリカに大学を中退し、
安易な気持ちで海を渡りやって来た。そして色々と辛酸舐めつくした苦い経験。」

157:Track No.774
22/01/18 21:58:44.77 .net
>>155
下から9行目「孤独を感じやすい街でもある。」の前に
追加「そんな競争社会アメリカは」

158:Track No.774
22/01/19 10:53:21.16 .net
「北国の習い」
こんなにたくさんの雪は何年ぶりだろう。。。
目の細かい粉雪が狂騒のように舞っていた。今日は異常な大雪だ。
強風も合わさり強烈な吹雪になってしまった。全く前方が見えない
視界不良で運転もままならない。
スピードを落とし、強い地吹雪のために1メートル先も見えないまま
走行していたが、ホワイトアウトになってしまったのだ。数センチ先も
全く見えない状態になってしまった。そうなったら動くのは、
かえって危険だ。その場にとどまるしかないのだ。
そして車に立ち往生になってしまった。他に車も走っていない。
近くに民家らしきものは見当たらなかった。
こんな人里離れた雪山を超えたところの車の中で、一晩過ごすしかないのか・・・
「車中泊するか?」「防寒用の毛布ないでしょ。暖取るためにエアコン点けっぱなし、
エンジンかけっぱなしだと、一酸化中毒で死ぬよ。あんた!」
「外は相変わらず、雪が降り続けている。車の排気口を雪で覆われ塞ぐから排気ガスで
確かに死ぬなぁ~ ワハハハ」「そんな笑っていてる場合じゃないでしょ。全くもう」
幼い息子が熱を出して体調が悪いという。こんな積雪が酷い中、妻は体調が悪い息子を背負って、
近くの民家を探して歩くと言い出した。俺は体調の悪い息子を背負い歩くことにした。
いくら歩いても、なかなか民家は見えてこない。。。 - 視界は白一色の銀世界のままだ -
人家の灯りがなかなか見えてこない中、俺の背中で息子の呼吸音が、先ほどよりも大きくなっていた。
一刻も早く、火の気のある所に息子を連れてゆかねばならなかった。
何も考えずに数メートル先をただ足を進めるだけだった。自分がどれほど馬鹿なのか、
本気で焦り始めそうになった時、激しく粉雪が舞う中、視線の先、微かに遠くを目を凝らし
眺めながら歩いていると、ぼんやりと民家の灯りが見えるではないか・・・

159:Track No.774
22/01/19 11:24:15.23 .net
>>158
13行目「一酸化中毒」正式には「一酸化炭素中毒」

160:Track No.774
22/01/20 09:44:50.96 .net
「雪・月・花」
―― ねぇ? ...どうしていつもそっちを向くの? ...
彼は私に背を向けて、煙草をふかしている。
彼の目線はテレビの画面。
いつもそう...。
ベットから降りて、椅子に座り、そこで一服。
つんつんと、布団から足を延ばし、足先で彼の背中をつつく...。
何も反応しない...
「ねぇ、ねぇ」と声をかけるが、それでも彼は何も言わない...。
(スルことだけが目的?)
考えちゃいけないのは解っている…
解っているけど・・・ 時々、私は虚しくなる.........
(ねぇ、こっちを向いてよ... 一緒に居るのに、一人にしないでよ!)
ねぇってば。。。
無言のテレパシー ・・・ 彼に届くように … 背中をジッと見つめて送る…
(こっち向いて…)
だけど… どんなに頑張っても、振り向かない…
疑い出すと止まらない。いろんなことを考えてしまう・・・
急に心臓がキリキリと痛み出す。唇に力を込める。
我慢していても、目頭がどんどん熱くなっていく...
(本当は、私の事、好きじゃないんだ! カラダだけが目的なんだ!)
(きっと、他に彼女がいるんだ! 私は遊びなんだ...)
色々頭を巡らしているうちに、だんだん不安になってきた。
(そうやって愛されることばかり、考えていると段々と不安になってくる...)
目いっぱいに溢れたものは、頬を伝わって流れている。。。
さらに唇を強くつむる。声を出さないように...。
「ひっ...く」我慢しているのに、声が漏れてしまう私の鳴き声。
それに " 驚き!" 振り向く彼。 ダラダラと涙を流す私を見て、" 目 " をまぁるくする。
「なぁんだ、おまえ!! 何、泣いてんだ??? 変な顔して泣くなよ~」と彼は大笑い。
 私の気持ち...何もわかっていない人ね。
自然の四季は時間の経過と共に移り変わって変化していくけど、
 - 恋心はひたすらそこにとどまり募らせてゆく.........

161:Track No.774
22/01/21 10:40:07.85 .net
「白鳥の歌が聴こえる」
ボ~~~ボオオォゥイィィ~ン ボ~~~ボオオォゥイィィ~~ン
空気を揺らす、低くて太い音に混じって、細く高く捻る様な音が混じる汽笛の響き…
港の倉庫では、フォークリフトが稼働する音と、ベルトコンベアーの回る音が、
今日も無機質な金属音を生み出していた。いつものように次々と到着するトラック。
けたたましいエンジン音を響かせては、吐き出す排気ガスは倉庫内の隅々まで
充満していた。大手運送会社が運営する東京湾に面した物流センター。
二時間くらい前に昇った朝日は、未だこの薄汚れた海をキラキラと輝かせていた。
俺は忙しく動かしていた手をふと休めて、その風情に見惚れた。あまり気づいて
いる者はいないが、その情景は、ここでの一日で一番綺麗な瞬間でもあった。
「何やってんだ橋谷!!! また間違ってんじゃねえか!!」「すみません、ヘマばかりで、すみません!」
「そう思うなら、ドジんじゃねえぞ!! わかったか! バカヤロー!!!」
いつものように響き渡る安藤主任の怒鳴り声! それは無機質な金属音よりも、トラックのエンジン音よりも、
ここで一番響き渡っていた。その声は、ここ一週間、新人アルバイト橋谷さんに向けられていた。
「ハハハ、またやっているよ」周りから、小さく嘲笑する声が聞こえる...。
「今度は、どうしたんだい?」「はあ? 足立区と台東区じゃ別レーンじゃねぇか! どうすりゃ間違えられるんだ?」
「向いてねぇんだよ。それより俺は、あの怒鳴り声に朝から疲れちまうよ。アハハハ」
身をよじらせたおかしな格好で、ペコペコ平謝りで頭を下げまくる橋谷さん。
未だに怒鳴り続けている主任。傍から見ればいじめているようにしか見えない。
「やれやれいつまで続くんだい…」俺の隣で作業している斎藤のおっさんが疲れた顔でぼやく。
ちょうど - そんな時 - だった。
救急車とパトカーが、けたたましいサイレンを鳴らしながら、
こちらの海に面した港湾倉庫の方へ近づいてくるではないか・・・
「こっちに向かってくるけど、なんかあったんか?」「わからん?」

162:Track No.774
22/01/21 10:51:44.22 .net
>>161
下から9行目「今度は、どうしたんだい?」の後に
「今度ってか、いつもの事よ。足立区の荷物を台東区方面に流しちまったらしい」追加

163:Track No.774
22/01/22 09:07:55.31 .net
「顔のない街の中で」
「どうした健一? 元気ないな。 ははん、いじめられたか」
「お母さんには、内緒にしとくから、こっちに、こい!」と
離れのおじいちゃんの家に連れて行かれた。
薪ストーブに薪をくべながらおじいちゃんは「いじめっ子も普段から満たされないものがあるんだろう。
健一な、いじめられたからって、いじめっ子にはなるなよ。仕返し、したいだろうが、仕返しなんてしなくても
人にやったことは必ずどこかで自分に帰ってくるもんだ。お前がやるもんでもない。全ての原因があって
結果として帰ってくる世界だからじゃ。それよりも人の痛みがわかる人間になれ。世界にはな、生きるのも、
大変な地域がある。紛争地域や飢餓などの飢えに苦しみながら、大変な思いをしながら生きている子供たちがいる。
考え方ひとつじゃ。命ある限り希望がある。困難なことがあると、嫌になっちゃうけどな、困難な状況というのはな、
生きる為のヒントを与えてくれているんじゃ。それに気づかなきゃならん。人生に行き詰った時、本来の生きる
べき人生に、気付かせる為と思えば、人生の見方も変わってくる。捉え方一つで、ものの見方が変わってくる。
そんなもんだ。男の役割は女子供など、特に小さい者や弱い者を守る為にいる。いじめるんじゃなく、弱い者を
守れるくらい強い子になれ。男は肉体的な強さだけではなく、精神的にも強くならんといかん。分かったか!」
「大切なのは人の痛みの分かる人間になることじゃ。だから、健一、人の痛みの分かる人間になれ!」
おじいちゃんの話を聞きながら、薪ストーブの薪のパチパチ燃える音と炎を見ていると・・・
なんだか心が落ち着いてきた。

164:Track No.774
22/01/22 15:06:55.36 .net
>>163
下から2行目「そんなおじいちゃんの話を聞きながら、」に訂正
そして「そんなおじいちゃんの話を聞きながら、」の前に
「最後におじいちゃんは、今度、いじめっ子を連れてきなさいと言った。」を追加

165:Track No.774
22/01/23 13:22:57.89 .net
「かもめはかもめ」
「あら~ いらっしゃ~ い!」
ここは日本一のゲイの聖地新宿二丁目のとあるゲイバーでの客の会話。
「ママは酒豪ね! お酒強くて羨ましいわぁ~」
「酒豪とは名ばかりよ。強ければ強いほどお酒の奴隷です」
「ママ、俺ね奇をてらって、おかしなことしている店の奴らに無性に腹立つわけよ!」
「この街(新宿二丁目)じゃね、普通が悪なのよ! アンタはね、はみ出し者なの!
どうせなら、違うものをはみ出しなさいよ!」
「なぜモテないのかしら…」
「そうねぇ、きっと理想が高すぎるのよ。 守備範囲を広げなさいよ! 霊長類まで! オホホ」
「ねぇ、ママ、髪型をゆるふわ系に変えてみたの、男から見たらどうかしら?」
「アラ、素敵じゃない! エアプランツみたいで、手がかからない女に見えるわよ~ ホホホ」
「ママ、仕事忙しすぎて猫の手でも借りたいよ~」「あらっ、その発言、この世界では命取りよ。
でも、安心して! 私でいいかしら、私上手よ!」「そいつと違い俺さ、会社で社員の動向を見守るだけの仕事なんだ」
「へぇー、会社の椅子を温めるお仕事ってことね」「いゃーまいったな、ママには」
「今日のママ、いつもに比べて元気ないね」「ママね、付き合っていた男に振られたのよ!」
「いゃだぁ~、アンタ余計なこといわないでぇ~ ♪あきらめました あなたのことは もう、電話もかけない。
あなたの傍に 誰がいても うらやむだけ悲しい オカマはオカマ、 孔雀や鳩やましてや 女には なれない
あなたの望む 素直なオカマには初めから なれない ・・・ ・・・ ・・・
   ―― オカマはオカマ、ひとりで逝くのがお似合いーーーーーーーーー

166:Track No.774
22/01/24 10:08:46.55 .net
「MEGAMI」
昨日、午前4時22分に母が亡くなった。風邪ひとつ引かない元気な母だった...。
僕が幼稚園に入る頃には、もう父はいなかった。借金を作って逃げたらしい。
母は毎朝4時に起きて僕たち兄妹の弁当を作り、6時から17時まで弁当屋でパート。
帰ってきたら晩飯を作って、すぐ出かけていく。23時までパチンコ屋で掃除のバイト。
休日は月に三回あればよい方だったと思う。そうやって僕と妹を育ててくれた。
反抗期なんてほぼ無かった。あんなに頑張る母を見て、反抗などできるはずがなかった。
いや、一度だけあった。クリスマスの二、三日前にゲームボーイが欲しいとねだったのだ。
友達がみんな持っているのに、僕だけ持っていないといじめられると嘘をついた。
母は「ごめんね...。」と顔をくしゃくしゃにして泣いた。
僕は母の姿を見て嘘をついたことを後悔した。
クリスマスの日の夕食は、おでんとケーキだった。母は子供のようにはしゃぎ、歌い、最後に、
「はい!」とプレゼントを渡してくれた。それは - 古いゲームソフト - だった。
「これだけじゃ出来ないんだよ」と言おうとしたが、あまりにも嬉しそうな母の顔を見ていると、
何も言えなかった。
あれから20年、兄妹揃って大学まで出してくれた。
「僕も妹も、もう就職したし、これからは、楽させてあげるから仕事辞めなよ」と言ったのに...
 働いていなけりゃボケるって、そんな年じゃ...ないだろうに...... 
  - 何処か親子三人で旅行に行こうよと言っていたのに.........
妹の結婚式を見るまでは死ねないと言っていたのに… 何で、末期癌になるまで働くんだよ…
何度も何度も、病院へ行こうねと言ったじゃないか… 手遅れと言われた先生に
「あんな我慢強い人は、見たことない」とまで言っていたよ! 母さん...
看護師さんに「迷惑かけて、ごめんね」とばかり謝っていた母さん...。
 -「幸ちゃんへ 小さい頃は、いつもお手伝いありがとう。あなたは、わがままひとつも言わない
優しい子でした。妹の面倒も沢山見てくれてありがとう。あなたが生まれて来てくれて、
母さん本当に嬉しかったよ。 母さん、あなたのお嫁さんが見たかった...。」-
         ーーーーーーーーー 震える手で書かれた手紙が枕元にあった。

167:Track No.774
22/01/25 12:01:22.16 .net
「杏村から」
彼と付き合っていた時は、孤独が身に染みることもなかった...。
彼の浮気で口論、そんな口喧嘩で別れた。仕事帰りの夕刻の街の雑踏の中、
ひとり小さな公園で静かに沈みゆく夕日に心和ませていた。
もう、傍らで自分に気遣ってくれる人も居ない。もう疲れたとため息が出る。
今日も一日が終わる。こんな時にふと、思い出すのは幼い頃の思い出。
夕暮れの公園で、ひとりブランコに乗り、昔懐かしい子守歌を口ずさんでいた。
途切れ途切れにひとり唄を口ずさんでいると、薄れつつあった、幼い頃の記憶、
あの夕焼け空に染まった野原で遊んでいた頃を思い出す。
なかなか歌詞が思い出せない部分があった。思い出せないほど、大人になった自分がいた。
でも、少しだけ気持ちが楽になった。明日は案外うまくいくような気がする。
仕事に慣れてしまえば、慣れたなら・・・
いつものようにスーパーで夕食の材料とアルコールを調達してから家路をのんびり歩いて帰る。
マンションに着くと、ポストに宅配ボックスに荷物があると伝票に記されてあった。
早速、宅配ボックスを開ける。中には田舎の母からの荷物が入ってあった。
部屋に着くなり、ガムテープを勢いよく剥がし、中を開けてみると、
果物のあんず、ドライあんずというか干しあんず、あんずのシロップ漬け、
あんずの缶詰と菓子類などが入っていた。
うちの農家はあんず農家。荷物と共に母からの手紙が添えてあった。
そこには「まみちゃん。お誕生日おめでとう。小さい頃から、しっかり者だったまみちゃん、
お母さんの子供として生まれて来てくれてありがとう。身体に気を付けて頑張ってね。母より」と書かれてあった。
短い文章だったが、手紙には母が書いた文字以外にも筆跡がある。
母は筆圧が強いから、便箋に書いた文字が、その下の便箋に跡を残した。
おそらくは色々書こうとしてはしっくりこず、何度も何度も書き直したのだ。
この手紙には、母の愛情がたくさん詰まっていた。そう思うと、急に目頭が熱くなり込み上げてきた。
一日遅れて届いた荷物。昨日が私の誕生日だった。
     - 少し元気になったら、なんか明日も頑張れそうな気がしてきた -

168:Track No.774
22/01/25 19:31:25.44 .net
>>167
12行目「夕食の食材と・・・」に訂正
材料でもいいんだけど食材に訂正します。

169:Track No.774
22/01/26 08:53:59.47 .net
「命の別名」
今月の23日に走っていた電車の優先席で、タバコを吸っていた28歳の男性が
喫煙を注意した17歳の高校生に激高し殴るけるの暴行を加え、土下座させたうえ、
頭を何度も強く靴で踏みつけ、顔面や身体を複数回殴ったり蹴ったりを繰り返し、
顔面骨折全治不詳の大怪我を負わせたと言う。
世間的には優先席に寝転んで煙草を吸う人間に関わっちゃいけないと言う暗黙の了解みたいな
意見もあるが、偶々付けたフジテレビ「めざまし8(エイト)」でMCの俳優谷原章介さんが
「本当に、この28歳の容疑者は大人として恥ずかしいし、公共の列車内で煙草を吸っちゃ
いけないのは当たり前のこと」と話した上で「それを年下の子に注意されて改めるのではなく、
暴力に出るなんて本当に許せないですね。怪我してしまったことは本当にかわいそうですけど、
彼は全然悪くないし、僕とか武井壮さんが、その場に居たら絶対に守ってあげたいと思う」と
コメントしていた。確かにその通りだ。
確かに正義感からくる少年に勇気ある行動だったが、たとえば自分がその場に居たら、
果たして止められただろうか? ・・・ 
 
でも、一人では止めに入るという勇気ある行動は中々難しいが、少年が暴行を
加えられている間、周りにいる大人たちみんなで協力しあって、止めに入り少年を
暴行から助けることは出来たかもしれないのだ。
少年の父親は「自分は悪くないのに、電車内で土下座させられて、靴で何度も何度も頭を
強く踏まれたことが精神的に辛かっただと思います」と語っていた。顔面骨折の重傷よりも、
心の傷が結構強く残ることが心配と話していた。
被害を受けた少年には、高校生の友達は止めに入ったが、周りの大人たちが何もして
くれなかったと言う思いもあるだろう。周りの大人達みんなで協力して止めに入ったり、
誰でもいいから通報したり、車掌に告げたり出来たかもしれないのだ。
色々と考えさせられることの多い理不尽で不条理な何とも後味の悪い障害事件だ。

170:Track No.774
22/01/26 10:46:04.85 .net
>>169
12行目「少年の・・・」に訂正

171:Track No.774
22/01/26 11:51:44.46 .net
「命の別名」
小学生の時、岡田って奴がいてね、足が悪くてね。
片足引きづるように歩くの、俺、何度かいじめたことがあってね。
でも、子供って気まぐれで、一度遊びに行ったの。
友達でもない癖に。そろそろ帰ろうかなって思ったら、岡田のお母さんがパートから
帰って来てね。クラスメイトを岡田が連れて来たの初めてやったんやろうね。
お母さんが凄く嬉しそうで、俺に「優しくしてくれて、ありがとうね。仲良くしてあげてね」って、
何度も何度も言われてね。俺、罪悪感でたまらんようになってね。「おばちゃん! 俺、
岡田の事、いじめたことあるって!」って言えなくてね。
なによりも、岡田がお母さんの前で、俺と親友のふりしたのが切なくて...辛くて...。
俺の心の中で、岡田とお母さんと色んなもんに何度も...ごめんなさいって思って・・・」と
松本人志がのちに自分のいじめ体験を語っていた。 
理不尽で不条理な場面で思いつくのはいじめだ。記憶に新しい出来事では、東京オリンピック前の
小山田圭吾の過去の障害者に対するいじめ自慢が引き起こした小山田騒動がある。
いじめられる側に立てば、これほど理不尽で不条理なことはないのだ。
いじめはこのように確かに悪い。いじめがなくなることもない。
大切なのは、このように過去の自分の過ちに気づき反省し、もう二度と同じ過ちを
繰り返さないことではないだろうか。幾つになっても、人の痛みがわからない人間は確かにいる。
親の教育、育った環境、友達などの交友関係など、色々とあると思うが、最終的に本人が、
そこんとこに気づき成長していくことが心の成長。人は肉体的には成長期があり、外見は、
ほっといても大人になるが、心はほっといても成長しない。本人がそこんとこに気づき、
自覚しない限り、いくつになっても心の成長はないのだ。
 松ちゃんが気付いた  - 人は、笑顔のままで、泣いてる時もある -  
このことに気づいた時、人はまたひとつ、大人になれるのだ。生きている間、
人は常に学んでいかなければならないと思うのだ。

172:Track No.774
22/01/26 12:32:23.17 .net
>>169
末尾の「傷害事件だ。」に訂正

173:Track No.774
22/01/27 09:40:49.53 .net
「わたしの子供になりなさい」
ぼうっと空を眺めている。ただ何もしないで、ただ風を感じながら空を見上げている。
久しぶりにそんな空を見ていた。地上より遥かに自由で、道路も棲家も何もない空。
ただ広く大きく、雲がゆっくり散歩していくように過ぎてゆく。そんな空をただぼうっと眺めている。
時間が過ぎるのも忘れ、窓辺やベランダに腰掛け空を見上げて、何もかも忘れて心地よく過ごす時間も時には必要だ。
空にも色んな顔がある。秋の時に感じる澄み渡って高く晴れ渡った空。夏の太陽の光あふれる空。
四季折々のそんな真っ青な空だけでなく、どこか切ない夕暮れの空やロマンチックな夜空も、
ぼうっと眺めて過ごすと、自分を癒す贅沢な時間や空間になる。特に夕日のオレンジ色は癒しを
与えてくれる。気分を穏やかにし、明日のやる気が自然と湧いてくる。
夜空という時間帯は、副交感神経が優位に働き、静寂と暗闇の中で安らげるのだ。
窓辺に行って、ぱっと見上げれば必ずそこにある空は、一番身近ですぐに触れられる自然でもある。
地上の出来事なんて、何の関係もなく、ただ穏やかに雲が駆け抜けていく。。。
あれこれ思い悩んだ時は、ぼうっと空を眺めるといい。空の青さや雲の流れ、時には、
虹が出たり、鳥が囀りながら親子で飛んでいたりと、予期せぬ訪問者に出会える。
そんな空を眺めては
「自分の悩みは、この空の大きさに比べれば、実にちっぽけなものだ!」それが
「大したことじゃない。よし明日も頑張ろう!」に繋がってゆく・・・
そんな切ない夕暮れ時の夕日のオレンジを浴びてぼうっといつまでも眺めていると、
 連れが「どんな時だって、朝になると、必ず、陽が昇るのよね」

174:Track No.774
22/01/28 08:52:54.86 .net
みゆきさんは不思議な人だ。その時々の心の状態に寄り添う歌が必ずある。

175:Track No.774
22/01/28 10:02:09.70 .net
「とろ」
私は何処へ行っても、動作がトロいと言われます… (´Д⊂グスン
そして時々、イライラされます。自分では、なぜ、トロと言われるのか、分かりません。(。´・ω・)?
こんな自分でも、「この人、のほほんとしていて... トロいなぁ~」と思う人が居ます。。。(*´ω`*) 
そういう人は手を動かすのが遅くて、その割に成果は一緒で、常に余計な事を考えているように見えます。
人の目を気にしていて、自分がどう見られているかだけを、気にして周りか見えていないようにも見えます。
客観的に見ると、トロいひとと普通の人との違いが判るのに、自分のこととなると全く分かりません。(?_?)(≧▽≦)
やっぱり、私もそういう人と同じ動きをしているからかもしれません。(´Д⊂グスン
食事も、話し方も、歩くのも遅いと言われます。(*´Д`) 「早く、早く」と、いつもみんなに急がされたり、
そんなにのんびりしていて「間に合うの?」(・・?  「大丈夫?」(・・?  っていつも心配されます...(´;ω;`)ウゥゥ
自分では急いでいるつもりなんですが... 「マイペースだから、基本、動作がトロいよね!」とか、
「どんくさい!、 ドン臭過ぎとか、言われたくないです...(´;ω;`)ウッ…
「マイペースで、おっとりしているね!」と褒めてくれる人もいますが、私は直したいのです(*'ω'*)
小学校の通知表に、マイペースですが、優しいところがありますって書かれていた...。
嬉しかった(((o(*゚▽゚*)o)))けど、テキパキしている人には、いつも、異常にイライラされて...(´;ω;`)ウゥゥ
どうしたらイライラされなくなるのか? どうしたらみんなと同じになれるのか?
テキパキとスピーディー、要領がよく、そつがない人が羨ましい...(´;ω;`)ウゥゥ
私は、ゆっくりゆっくりと考えながら進めるタイプなのです...(´Д⊂グスン
とろ、何とかならないか...(´;ω;`)ウゥゥ どうしたら? どうしたら?
考え考え、日が暮れる。。。((´;ω;`)ウッ ...とろ、

176:Track No.774
22/01/28 10:27:12.65 .net
「ロバを売りに行く親子」という寓話がある。
人に言われるから、余計、人の目を気にして、自分を失い裏目裏目のドツボにはまる。
人の目を気にして生きることがうまくできない人は、無理に人の目を気にして生きる
必要はないと思うね。人に何と言われようが自然体の人は自然体でいいんだよ。
それがその人の持ち味なのだから 自分らしく生きればいいんだよ。

177:Track No.774
22/01/29 08:18:37.88 .net
「ただ・愛のためにだけ」
うちの母はバツ2です。一人目の旦那さんで兄と私を産み、
二人目の旦那さんで妹を生みました。一人目の父はギャンブル依存症で、
多額の借金を抱え、家に帰ってこないほどパチンコをしていました。
母はこのままでは、まともに子供を育てられないと判断し、やむなく離婚しました。
二人目の父は、計画性がなく物欲がもの凄く、多額の借金を残して返済できないままどこかへ逃げられました。
二度の結婚を失敗した母は、残された三人の子供をひとりで育てることになりました。
誰の力も借りずに、夜は子供たちを家において、休む暇なく掛け持ちで仕事に行っていました。
夜に母が居ないのは、子供たちにとって寂しかったのですが、妹がまだ幼かったので夜は、
私がちびママをしなきゃと寂しい気持ちは隠して妹の面倒を見ていました。
母は子供達には、貧乏で辛い思いは、させまいと思いながら、日々、一生懸命に働いていたそうです。
おかげで、貧乏だと思ったことは一度もありませんでした。
母のそんな姿を、知っていた兄や私は、欲しいものを無理にねだることはなかったからかもしれません。
他の家と比べて羨ましいと思ったこともありませんでした。母の愛情だけで十分でした。
兄妹三人とも母が大好きだったので、子供なりに、母の力になろうと、家の掃除をしたり、洗濯をしたり、
母が喜ぶことを沢山していました。おかげで、母子家庭でも、他人に自慢したくなるくらいとっても、幸せな家族でした。
そんな私が二十歳になり、成人を迎える日、母の顔に皺が増え小さくなった背中を見て、
「お母さん、波乱万丈で大変な人生だったけど、ここまで育ててくれて、ありがとう」と私が言うと、
母は「遠回りで波乱万丈人生やったよ。子供たちを沢山振り回してしまったし... こんなどうしょうもないママに、
子供たちみんなついて来てくれて、ありがとうね。この大事な子供たちは私が守らないといけないと思うと、
余計愛しくなってね。夫に泣かされ恵まれなかったことで、ママはね、何が一番大切か知ったの。
あなたたちがママの生きがいだったのよ。もし、もう一度、人生のやり直しがあって、
あなたたち三人の兄弟に出会えるんだったら、また同じ人と結婚する。そしてママは、
また同じ人生を歩むよ。その時は、ママのところに、また生まれて来てね!」
   -  ママはね、あなたたちが居るだけで幸せなの さあ! おいで!!  -

178:Track No.774
22/01/30 09:16:34.68 .net
「らいしょらいしょ」
イッチョウメノ イスケサン イノジガヒライテ
イチマン イッセン イトコデ イット イット イットマメ
オオクラショウスケ スットコトンノ トントン
ライショ ライショ ライショ
ーーーーーーーーー 幼い女の子が寺の境内で手鞠を突きながら唄っている
ここはどこ? どこなのだろう 夢、夢かもしれない ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー 目が覚めた ―― やはり夢だった。
久しぶりに友人と居酒屋にいた。「お前は、これが夢だとわかる夢を見たことある?」
「明晰夢のことか?」「そう。来世、もしくはあの世ってあると思うか?」
「来世、もしくはあの世のことか、意識というものが解明できない限り、明確なことは言えないけど、
実際、どうなんだろうね。分かんないな。お前はどう思う?」「狭い産道を潜り抜けて、この世の光を
目にし、産声を上げて誕生だ。それまでの過程は、本人にとっては、あくまでもあの世だと思うね。
今でこそ、お腹の中の胎児を超音波検査などの医療機器で観察することは出来るが、昔は出来なかった。
生まれて来た赤ちゃんを取り上げたお産婆さん、産んだ母親、生まれて来た赤ん坊にとっても、狭い産道を
潜り抜け、この世の光を目にし、産声を上げて、初めて、この世に誕生だ。それまでの過程は、あの世ということになる。
この世に生まれてくる確率が、一億円の宝くじに百万回連続当選するくらい、この世では絶対にありえない確率と言われるのも、
あの世の確率だからだよ。一回の射精で、約5億の精子が放たれる。一回の射精で受精する確率は非常に低い。
その多くのライバル精子の中から、たった一匹の精子が卵巣に到達し、卵巣を潜り抜け、卵子と結合して受精する。その確率も、
そうだけど、そこから細胞分裂が始まり、胎内で徐々に人間の赤ちゃんに形成づけられていく過程は当人にとっては、
まだこの世に生まれていない段階だ。つまりあの世ということになる。狭い産道を潜り抜けて生まれてくる時、
酸欠、窒息、仮死状態で生まれてくる。その時に胎内記憶から過去の記憶が消されるという。赤ちゃんの頭蓋骨が、
柔らかいのも、狭い産道を潜り抜ける時、頭を少しでも通りやすくする為ともいわれる。
帝王切開で生まれた子の中には、胎内記憶から過去の記憶を持つ子が生まれてくるという。ということは、
他人の意識が、胎内に入って来て、それから細胞分裂が始まり、産婦人科に行き妊娠が発覚する。
量子情報の最小単位である量子ビットの重ね合わせの世界もそうだけど、物の大小関係なく、
+があれば必ず-がある。どんなものでも重ね合わせの相反する世界がある。
この世があるということは、重ね合わせのあの世があるということじゃないのか。
生まれてくるということは、生まれてくる前の世界がなければ、生まれてこれないんだよ。当たり前だけどね。
生まれてくる前、どの世界に居た? どの世界から、この世に来た? 誰がこの世に生まれるチャンスをくれた。
それが本当の意味での神様というしか、創造主というしかないだろうね」
「なるほどね。確かに、俺たち、元々、この世界に居たわけじゃ無いし、いつまでも居られるわけじゃないんだよな
考えてもみなかったけど、女性の身体はこの世とあの世の橋渡し的存在なんだろうな。男は頭で考え、女は子宮で考えるというから、
女の方が・・・うまく説明できないけど、無意識的にというか、本能的に何か知っているんじゃないのか? ワハハハ」


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