21/11/07 12:47:44.62 .net
中島みゆきの名曲から物語を作る名曲一日一選マラソン
2:Track No.774
21/11/07 20:26:32.73 .net
「あなたでなければ」
「お前の靴ズタボロじゃん。汚ったねぇ」履いているスニーカのボロボロ具合で、
家の事情がばれたのか、地元有力者のドラ息子は俺に目をつけ何かと、毎日ちょっかいを
かけてくる。先生にチクったところで意味はない。もっと酷くなるだけだった。
取り巻きを引き連れたドラ息子は腹立たしいが、本気で憎い裏切者は別にいた。
下駄箱に突っ込まれたゴミを片付け、一路焼却炉に行く。あいつは懲りもせず、毎回同じ場所に
捨てる。校舎裏に回り込めば、案の定、あいつが俺の上履きを持って焼却炉に立っていた。
あいつは高校で初めてできた俺の友達。教室の席も近く、自然な流れで毎日会話する仲になった。
お互い貧しい母子家庭育ち。俺には弟がいて、あいつには妹がいる。お互いに兄貴ということで、
親近感が湧いて「お兄ちゃんって損だよな」「なー」と愚痴をこぼしあっていた。そんな楽しい日々は、
あいつがドラ息子のグループに入ったことで終わりを告げる。今じゃあいつはドラ息子の使いパシリ。
ボスに命令されれば何でもやる。それからの日々は地獄だった。ドラ息子の嫌がらせは日増しに、
エスカレートして行った。物を取られて捨てられるのはしょっちゅうだし、トイレや校舎裏で、
ヤキを入れられることもあった。「ぐうぅ...」「貧乏人が学校へ来るな、とっととやめろ」と、鳩尾を
思い切り蹴られ激痛が走る。ニヤケ顔で脅すドラ息子の後ろで、あいつは卑屈に薄ら笑いしていた。
何度も学校をやめたいと思った。それでも意地と根性で通い続けた。働きづめのお袋や中学生の弟に
心配はかけたくないからだった。俺さえ我慢すればと自分に言い聞かせ、殴る蹴るの理不尽な仕打ちや
陰湿な嫌がらせに耐え続けた。お袋はパートで帰りが遅く、家にいる時間がすれ違っていたので、
何とか上手くごまかせたが、弟となるとそうもいかない。「ただいま」「どうしたの兄貴。泥だらけじゃん」
ぐったりして玄関のドアを開けると、先に帰っていた弟が驚き、頼んでもいないおせっかいを焼いてくる。
「転んだんだ」「でも、怪我もしているし・・・顔のそれ、殴られたのか」「ほっとけよ」「学校で何かあったの?」
食い下がる弟にいら立ちが爆発し、思わず怒鳴り飛ばす。「関係ねえだろ、弟のくせに変な事、気にすんな!」
家で声を荒げる事なんて滅多にない俺の変貌ぶりに弟はびっくりし、しょげ返り「…ごめん」と呟く。
目に涙をためて謝る弟に罪悪感が襲い俺は何も言わずに自分の部屋に引っ込み、枕に顔を埋めて悔しくて泣いた。
高校卒業後、俺は大学へは行かず、地元の自動車整備工場に就職した。親父の作った借金を返すのはもちろん、
弟の学費を稼いでやりたかったからだ。「お前は本当に働き者だな」「お袋は年だし、下には手のかかる弟がいるもんで、
俺が食わせてやらなきゃいけないんで」上司の言葉に笑って返し、エンジンの修理に戻る。毎日オイル塗れになって
車に下に潜り、サボることなど考えず、がむしゃらに働いた。実家の借金返済を目標に仕事に打ち込み、あっという間に
十年が経った。「お疲れ様です。良ければどうぞ」「サンキュー」事務のユキちゃんがくれた缶コーヒーを笑って受け取る。
まだ新人だが、とても気配りが上手な子で、キツイ仕事で汗をかいていると、清潔なハンドタオルをそっと差し出してくれる。
若手が長続きしない職場だったのもあってか、心優しいユキちやんとはすぐに親しくなった。付き合うまでには時間はかからなかった。
何回かのデートでお互いの家族の話になった。最初こそ母子家庭の苦労がわかる者同士話が弾んだが、途中から何か引っかかり
その後に衝撃的な事実を知ってしまう。なんとユキちゃんは高校時代、俺を虐めていた同級生の・・・元親友の妹だったのだ。
あいつの妹。暗い顔で黙り込んでいると「どうしたの?」と身を乗り出して聞いてきた。俺は過去の事を洗いざらし話した。
彼女は泣きだし、謝ってくれた。彼女は相当ショックを受けたらしく、次の日、会社を休んだ。その晩、夜遅くに彼女からメールが来た。
「兄と喧嘩しました。私には、どうしても、あなたが必要です。あなたでなければイヤなんです。あなたでなければ駄目なんです。
似たような人じゃなくて、代わりの人じゃなくて、どうしてもあなたが傍にいてほしいんです」俺も返信を送った。「俺も同じだ」
3:Track No.774
21/11/07 20:43:13.32 .net
>>2
下から10行目「車の下に潜り、・・・」に訂正
4:Track No.774
21/11/08 09:14:38.32 .net
>>2
下から4行目「俺は過去の事を洗いざらい話した。」に訂正
その「俺は過去の事を洗いざらい話した」の前に「少し言うのをためらったが、」を追加
5:Track No.774
21/11/08 22:19:02.96 .net
「海鳴り」
夏の海を見ながら歩いていると浜辺に座ってじっと海を眺めている男の子がいた。
よく見るとその子は隣町の学校の制服を着ていた。
それが彼との出会いだった。「何してんの?」「海見ている」
海に視線を向けたまま彼は答えた。
靴と靴下を脱いで、足だけ波に浸かっていた。
「なんで?」「海が好きだから」そう言ってからやっと顔をこちらに向けた。
「君も好きだろ?」
ドクンと心臓が跳ねた。
「うん、好き」
すぐ隣に置いていた靴をよけて、「座る?」と私に場所を譲った。
そうされると座るしかない。私も、靴と靴下を脱いで、足だけ波に浸かった。
「冷たい」と足をバタバタさせて燥いだ。海水は冷たかった。
彼も私を見て笑っている。大きな波の音が聞こえた。
夕日は水平線に沈んだ。--- 今日の太陽も綺麗だった ---
それから1か月、私は学校が終わってから日没までの間、彼と一緒に海を眺めていた。
第一印象はちょっと変わった奴だった。けれど鼓動は高鳴るばかりだった。
私の中では彼の存在が次第に大きくなっていった。
そんな日々もあっという間に、1か月が過ぎた。そんなある日、別れ際に彼が言った。
「ありがとう」と何故か、礼の言葉を述べた。私にはその言葉の意味が分からなかった。
ただ胸があたたかくなるのを感じた。
「・・・あのさ、俺、いや、やっぱいい・・・ なんでもない」
彼は言いかけてやめた。彼の顔は少し赤かった。
次の日、彼は来なかった。 それ以後、彼は来ることがなかった。
――――― あれから3週間近くが経った。
― 風の噂では転校して行ったことを知る ―――――
海岸から少し離れた場所にある私の家にも迫力ある海鳴りが聞こえてくる。
台風が近づいていて、通常の荒れた波に加え、海全体がうねる圧力のある波が押し寄せてくる。
遠くの海の向こうからグオオォ~~~ と低く唸るような風の音。家の中の吊り戸が換気口などの影響で
カタカタカタ・・・ そして近くも強風になると山側でも、ビューオォーオォ---
窓から見ると波が堤防にぶつかり太鼓よりも低くくドドドオォオォ~~~ン
ザザァヴァ~ン・・・・・・ザザァヴァ~ン・・・・・・
物凄い波が海の中にある防波堤に当たって砕け散っていた 。
波が砕け散った時には破裂したような音がする。
一晩中繰り返していた ―――――
6:Track No.774
21/11/09 20:51:09.75 .net
「あのバスに」
あのバスに乗らなけりゃならないと急いでいた。立ちふさがる雨傘を
押しのけて飛び乗った。選ぶほど沢山のバスがあるわけじゃないから、
とにかく、目の前に来たバスに乗る事だけを考えた。
精一杯に急いだと、肩で息を継ぎながら、見飽きた枝の木を駆け抜けて飛び乗った。
外の景色を見る。
バスの行く先も見もせずに急いでいた。あのバスに乗らなきゃと
そして飛び乗ったバスの車内。
「次の停留所は〇〇〇〇」と社内アナンスが… 「しまったあぁー 間違えた! 」
会社の同僚を乗せたバスは軽快に走り去っていく ――――― 「あのバスだった!」
--- ああぁぁあぁぁ~~ 遅刻だあぁぁぁぁぁぁぁぁ ---
--- ここで目が覚めた ---
「あ、夢か」時計を見る。時刻は今、午前8時半。ヤバい。完全に遅刻だ!
今日は遅刻するわけにはいかない。とにかく急いで、パジャマを脱ぐ。
「また課長に怒られる。ヤバいよ! ヤバいよ! もう遅刻しないと約束したばかり。ヤバいよ。ヤバいよ」
ワイシャツをハンガーから取り、慌てて着る。慌ててズボンが上手く履けない。
ズボン履いて、ベルトを締め 「靴下は、靴下は?、あった!」穴あき靴下だ!
気にしている暇ない。気にせず履き、上着を羽織り鞄を持ち。靴を履き。
マンションを出る。ゴミ出しオバサン、そこどいてと思いながら、焦る焦る。
道行く先の信号、赤が続く・・・正直、イラつく、、、 「あ、あのバスに」もう既にバスは来ていた。
精一杯の走力で走る走る走る 肩で息を継ぎながら 急いでバス停まで向かう。
「待ってー 乗せて」 ――――― あのバスに乗らなけりゃならないと急いでた。
7:Track No.774
21/11/09 21:13:07.21 .net
「あのバスに」は人生の選択の場面をバスに例えているのか
「選ぶ程沢山のバスがあるわけじゃないから、とりあえず目の前に来たバスに乗る事だけを考えた」と言う事なのだろうか
「後ろが見えなくなる、角を曲がってしまったから 角を曲がり見たものは数え切りない曲がり角だった」
若い頃はあの角を曲がれば、ここじゃなければ次の角を曲がれば、何もかも風景が新しくなるはずだと信じていたけど、
数えきれない曲がり角が見えるだけで、結局はそこそこの人生なのかもしれませんね。
他人を押しのけてまで何とか目当ての出世街道のバスに乗ることが出来たが・・・果たしてそれで良かったのだろうか...
バスが走りだしても、何か大切なものを置き去りに・・・忘れ去ってはいないだろうか・・・
「精一杯に急いだと 肩で息を継ぎながら 押しのけたあの傘の中に自分がいた気がした あのバスに乗らなければならないと急いでいた」
8:Track No.774
21/11/09 21:34:08.30 .net
新しい風景を期待して飛び乗ったバスは市内循環バスだった。
新しい風景など無いと知っても、それでも飛び乗らなければならないのだ言いたいのかもしれませんね。
「遠ざかる古い樹は切り倒され」もう後戻りはできない 先へと先へと急ぐしかない。
もう乗ってしまったのだから、もう後戻りできない、行く先が思い描いていたような世界でなくても
とにかく進むだけなのかもしれません。人生も我々のこの世界も言い当てているのかも・・・
9:Track No.774
21/11/09 21:56:05.57 .net
>>8
バスに乗らない選択もありかと。最終的には自分の人生は自分で決める。
10:Track No.774
21/11/10 17:35:20.00 .net
「黄色い犬」
俺は某取材記者。〇〇事件の真相を追っているうちに、黒幕と思われる人物、
鬼頭勝男がいることを突き詰めるのだが、その取材に関わっているうちに、
上層部から取材を一方的に打ち切られた。
仕方なく取材を終えた後、近くの某有名外資系ホテルのカフェラウンジに入った。
広いスペースにはグランドピアノが置いてあり、落ち着いた雰囲気がある。
ちょうどピアノの生演奏が始まった。
――――― 俺の心を癒すように雰囲気のあるスロージャズが流れる。
周りを見回すと、スタイルのいい女性がバーテンダーがいるカウンターテーブルに座っていた。
確かに見覚えがある。そうだ、あの鬼頭の女だった。
某有名ホテルの豪華絢爛たる大広間で行われたパーティで鬼頭の傍にいた女だった。
目の覚めるような深紅のドレスを着た女がにこやかに立っていた。
ほっそりと気持ちよく伸びた足に首が長く品の良い小作りな顔が似合っていた。
鮮烈な妖しい美しさがあった。
俺の近くのテーブルでは、サラリーマン風の二人が世間話をしていた。
「なんだかんだ言ってもさ、日本はアメリカのいいなりだもんな」
「まあ、確かにそれはあるな。だから誰がなっても一緒という感じはあるな」
「どんなに白く顔を塗ったって中身は黄色い犬っコロだよねって!
そうじゃなくなる日が日本に来るのかね?」
「日本はアメちゃんの妾、愛人の一人(一つの国)に過ぎないのかもね」
「そうだな。いいこと言うね。ワハハハ」「仕方ないさ。わははは」
11:Track No.774
21/11/12 08:00:28.74 .net
「世迷い言」
あれは昨年の3月頃のこと。上司に連れられてオカマバーに行った時の話。
何故オカマバーに行くことになったかは飲みの席でのノリだった。
「じゃあ、フィリピンパブか、オカマバーか、どっちがいい??」と
究極の選択を迫られ、こちらとしては、なんかこちらの方が面白い事、
起こりそうやんという感じでオカマバーを選んだ。
オカマバーの客引きやってるオカマが「お姉さんオカマ如何~?
ポケモンgoじゃなくてばけもんGOよ~ん」とか言ってて思わず笑ってしまった。
上司が「ここがいい。此処にしょう」と言うノリで決めた。
店に入ると、どうも上司が気に入っているキャストがいたらしく紹介された。
その方はもう既に70歳近いその道のプロの方で、御尊顔は笑点の歌丸。
そう歌丸が女装したときの雰囲気に激似だった。
上司が「おう! お前本当に歌丸に激似だな!! 気持ちわりーな!」
「もう、何よ!入って来ていきなり! やめてよー!!」と上司は
その歌丸激似のオカマと初めて来た店と思えないノリのいいやり取りをしていた。
俺の所にはコロチキのナダル似のオカマがついた。
「こんにちはー!! 何なされているんですか~!」「いゃ、会社員ですね。おもちゃ関連の」
「あらま、大人の?」「まいっちゃうなぁ~ 違いますよ。子供の玩具ですよ(笑)」そんな感じで始まった。
「あら、ちょっとお兄さん!」「はい?」「よく見ると可愛い顔しているわね。
あなた! あたしのお酒に惚れ薬入れたでしょ!」そこにニューハーフ顔のオカマが、
「あら、ここにいい男いるわ。は~い、いらっしゃ、、、ぶぇっくしょん!!」
「なに、あんた!お客様の前で!汚いわね」「お客様に向けないようにしたでしょ!
花粉症なの…ふぇっくしょん! …あら、いやだわ、突然、くしゃみが止まらなくなったわ」
なんたってオカマだ。迫力のある親父のようなくしゃみをする。
「この子ね。つい最近彼氏に逃げられたの」
「あら、嫌だ! あんた!余計なこと言わないでぇーぇ~ … はぁ…はぁ…はぁ…はぁ、、、
ハックション!!… 大魔王。 呼ばれて飛び出て…ジャジャジャジャーン
アラビン ドビン ハゲチャビーーーーーーン 」
12:Track No.774
21/11/12 08:11:21.67 .net
>>11
6行目「お兄さん!オカマは如何~?」に訂正
13:Track No.774
21/11/12 08:44:12.54 .net
>>11
下から2行目「大魔王」消去
14:Track No.774
21/11/12 11:46:08.35 .net
ミュージックステーション2時間スペシャルは、11月12日20時から放送。 【出演アーティスト】(50音順) ITZY「WANNABE -Japanese ver.-」 AKB48「会いたかった」「根も葉もRumor」 ELAIZA「Close to you」 関ジャニ∞「稲妻ブルース」 CHEMISTRY「PIECES OF A DREAM feat. mabanua」 清水美依紗「衝撃的だったデビュー曲ランキング」第1位の名曲 TOMORROW X TOGETHER「0X1=LOVESONG(I Know I Love You) feat. 幾田りら[Japanese Ver.]」 なにわ男子「初心LOVE(うぶらぶ)」 日向坂46「ってか」 HIROBA with 伊藤沙莉「光る野原」
15:Track No.774
21/11/13 12:12:35.07 .net
「眠らないで」
彼がこの世を去りました。病死でした。その彼と出会ったのは7年も前でした。
彼は大学1年生で持病があり、「あと5年、生きられるかどうか」と寂しく笑って
言っていました。それを承知で私たちは付き合い始めました。
観覧車のゴンドラの中から街の景色を二人寄り添って眺めた思い出。
時には、些細なことで言い争ったことも… そして最後には「泣くなよ」と
慰めて抱きしめてくれたことも… 夏祭り、提灯の明かりに照らされた
色とりどりの明かりの道を二人手を繋いで歩いた事も…
ーーーーーーーーー みんな夢だったなんてことないよね…
彼のお母さんから入院したという連絡があり、私は大急ぎで彼の病室に行きました。
看護師や医師に囲まれたベットで、うつろな目をした彼が居ました。
ぐったりとした彼の青白い手を医師が掴み、脈を取っていました。
その変わり果てた彼の姿に、私は身動きも出来ませんでした。
その傍では目を真っ赤に腫らした彼のお母さんがいました。
横になっていた彼は私に気づき、ゆっくり口を動かしました。
ほんの僅かでしたが、はっきりと動かしていました。
私は急いで彼の口元に耳を当てて聞き取ろうとしました。
「い・ま・ま・で… あ・り・が・と・う…」
僅かでしたが、私には、はっきり聞き取れました。
私は涙が止まらず、何も言えず、手を握り返し、言葉を聞き逃すまいと、
必死で彼の口に耳を当てていました。
とにかく、頭の中が真っ白で、どうしてよいのかわからず ただ手を握り返す
事しかできませんでした。
心の中で ーーーーーーーーー 眠らないで… 眠らないで… 眠らないで…
それからどのぐらいの時間が経ったのかわかりませんでした。
突然、それまで不規則に響いていた電子音が、連続音に変わりました。
医師が彼の目に懐中電灯を当て、ゆっくりと「ご臨終です」と言いました。
その言葉を聞いて、彼の母親が声を上げて泣き始めました。
気が付くと私も、そして彼の父親も声を上げて泣いていました。
私は握りしめた彼の手が、ゆっくり確実に冷たくなっていくのを感じていました。
16:Track No.774
21/11/13 12:32:07.17 .net
>>15
末尾
私こそ「今までありがとうと彼に感謝している」
17:Track No.774
21/11/14 13:52:25.14 .net
「アイス・フィッシュ」
男のやり方は卑怯だと言えば卑怯だし、洒落ていてこの男らしいと言えば、そうかもしれない…
おじさん… そうとてもいいおじさん… そういう顔をしているわ… あなたと出会ったのは去年。
気の合う飲み仲間とたびたび訪れている行きつけのBAR。たまたまその日はひとりで飲んでいた。
馴染みのバーテンダーから、「あちらのお客様からです」それがあなたとの出会いだった。
スキューバダイビングをしているという。海の中の探索は毎回、宝探しているような楽しさがあるという。
毎年沖縄の海にも出かけているという。いつもは、時間があれば東京から日帰りで行ける伊豆にも出かけるという。
そんな会話を交わしているうちに、話も盛り上がり、意気投合している自分がいた。
彼に感化され私もスキューバダイビングを習い始めた。そして彼と行った沖縄の海、伊豆の海。
海の中は今まで体験したことのない夢の世界だった。私も彼と海の中の探索。宝探し気分で楽しんだ。
日中の海の中も、海から上がった夜も、何のためらいもなく彼と一つになっていた。
OLとして将来の事が不安で、絶えず洋服を買うやりくりに悩み、家賃が高いと嘆いていた今までの自分が嘘のようだった。
海の中が楽しければ楽しいほど、現実の世界はうつろになっていく… 誰でもいい仕事… 空っぽの人間関係…
彼からの連絡がなくなった。電話しても仕事が忙しいという。仕事が忙しくて、もう、今までのように、海に行けないとい。
海の中の探索。宝探しはもう出来ないという。仕事が思うようにいかず空回りしていた。ちょうど、そんな時期、
焦るぐらいなら、休んでいようと、一時的に海の中に逃げていたのかもしれないという。
久しぶりで行きつけのBARで会った時の彼は無表情な大人の顔だった。疲れが見えたのは、多分、裕福な生活を送っている
からに違いがない。「ねえ、又、伊豆の海に行こう」と誘っても、彼は「息子が通っている幼稚園の運動会があるんだ」と言う。
「宝物なんか見つける必要なんてなかったんですよね。あなたにはちゃんと家族っていう宝物持っていたんだもん」
男はエリートで平均的サラリーマンより遥かにリッチな生活を送っていた。そんな彼が仕事に行き詰って自分探しを
していた時、私に出会った。そんなこと言われたら、私なんか一体どうしたらいいのだろう…
… そして彼と別れた …
「この熱帯魚、可愛い~」友人の満里奈がそう言って燥いでいる。見たら菱形でモノトーンの縞々模様…
私は友人の満里奈に誘われて葛西臨海水族館に来ていた。淡水魚、熱帯魚、深海魚… ぐるぐる廻る廻る 先へ進む…
私は立ち止った。体の脇の側線以外に鱗が無く、頭部が扁平な形をした透明というかクリーム色した魚が目に止まった。
何という魚だろうと解説を見ると、アィスフィッシュ。コオリウオ科の魚で、成魚の全長は55センチメートル。
最大の特徴は脊椎動物で唯一、血液中にヘモグロビンを持たず、血液が無色透明で赤くないことだった。
稚魚たちの体は透き通っていて、背骨が見える。
18:Track No.774
21/11/14 13:58:46.84 .net
>>17
13行目の末尾「海に行けないという。」に訂正
19:Track No.774
21/11/14 14:07:46.35 .net
>>17
13行目「そんな日々も長くは続かなかった。彼からの連絡がなくなった。・・・」に訂正
20:Track No.774
21/11/14 21:56:11.09 .net
>>17
9行目「私たちは、まるで魚になった気分で泳ぎ回った。私も彼と魚になった気分で海の中を探索。宝探し気分で楽しんだ。」に修正
21:Track No.774
21/11/15 10:41:55.44 .net
「エレーン」
私はシンガーソングライターとしてやっと軌道に乗り、シングルもヒットし、
西麻布のマンションに移り住んだ。私は有名人の居宅として騒がれるのを嫌って
麻布の外国人専用マンションを選んだ。
そのマンションに住んでいた外国人モデルの一人、ヘレンとふとした切っ掛けで、
知り合い、時折片言の英語で会話するようになって、非常に仲良くなった。
ヘレンはモデルをしていると言う。髪は金髪に染め、いつも派手な化粧と、身に着けている
洋服はファッション雑誌から切り抜いてそっくり持ってきたかと思うほど洒落たものばかり。
そんな派手な衣装を普段から身に着けていた。端正な顔立ちの華やかな美しい人で、明るく気さくで、
愛嬌があり、ちょっとおっちょこちょいな性格だった。彼女の部屋へ遊びに行くと、モデル業だけ
あって華やかな衣装下着に溢れていた。私たちは会うと楽しく料理をしたり世間話に花が咲いた。
その後、私はコンサートやレコーディングで忙しくなり、暫くヘレンとは顔を合わすことがなかった。
そんなある夜、マンションの共同洗濯室に行くと、そこに独りポツンとヘレンが佇んでいた。
久しぶりに見る彼女の姿に私は嬉しくなって声をかけようとした。しかし、私に気づくとヘレンは
見たこともないような化粧っ気のない青白い顔で一言「… これが、あたしの、普通の顔なのよ…」
ジッと私を見つめて呟いた。いつもの華やかさ明るさは彼女から消えていた。洗濯機の中には、
華やかな衣装の彼女には似合わない白い下着が少しだけ、クルンクルンと回っていた…。
ある朝、私の部屋に男の人が訪ねて来た。警察だった。絵に描かれた女性を見せ、もし心当たりがあれば、
申し出てほしいと言う。見せられた似顔絵は、見慣れない表情で、病んだような女の顔だった。
知らない名前の女がインクの滲んだ粗い印刷で大まかに図解説明されていた。
三日前、東京都港区で発見された全裸死体は… 死亡推定時刻、四日前の午前二時から、午前五時の間…
身の回りの品を一切所持しておらず、その上、顔面を殴り潰されているため、身元の確認に時間がかがったが…
身長… 体重… 年齢… 髪は赤毛を金髪に染めており、近年増加の傾向にあった外国人娼婦の中でも、
かなり有名だった一人で… 被害者はかって出産もしくは中絶の経験があり… 出身地… 本名…
仲間内の愛称ヘレン… ……「ヘレン」! 彼女はモデルではなかった。
貧しい国から家族の生活を支えるために事情を抱えてやって来た外国人娼婦だった…
マンションの管理人がヘレンの部屋を処分しなければならなかったそうだが、彼女の部屋にあった沢山の華やかなドレスの殆どは、
売り物にならない安物で、業者も引き取らず、ゴミとして出すしかなかった。
ヘレンは顔面を潰されて絞殺された上に、全裸でゴミ捨て場に捨てられていた。
顔が潰されているので、暫くは身元も特定できなかった。手口と状況から見て、
所持金目当ての犯行という疑いよりも、客とのいざこざから起きた犯行との疑いが
濃いという。これだけの無残な事件なのに新聞はたった数行の扱いだった。
…異国の地で独り寂しく死んでいった女。あの夜、化粧っ気のないヘレンが呟いた一言。
「…これがあたしの普通(本当)の顔なのよ…」
… ヘレン。二十七歳。死因・絞殺。目撃者なし、迷宮入り。………
22:Track No.774
21/11/15 11:01:47.66 .net
「エレーン」は実話が基になって作られた曲。コンサートツアー
「Tour Special SUPPIN VOL.1」の中で実話が基に作られたことを明かしている。
中島みゆき著書「女歌」の中でも語られている。
23:Track No.774
21/11/16 15:36:25.20 .net
「なつかない猫」
「猫飼うようになったんだけど… うちの猫、全然なついてくれないの… こんなにも
好きなのに、猫がなついてくれない… 手を差し伸べても、跳び退るし… 撫でようとすると
手を掻い潜って身をかわすの」「しつこく構い過ぎじゃないの?」「そんなことないと思うんだけど…」
「あなたになんか興味いよ。と無関心を装う方が、意外と早く距離を縮める事にも繋がる事もあるの」
「それから、あんまり見つめてもダメよ。猫を安心させる為には、目線を合わせず、ゆっくり近づいて、
猫が逃げたり、嫌がらなければ、そのまま喉や首回りなど、喜ぶところを優しくなでてあげればいいのよ」
「怪我しても、誰も届かない場所でうずくまるだけ。犬好きの彼が来た時も、彼が撫でようとすると、
手を掻い潜って身をかわすし、手を差し伸べても、飛び去るばかりで、全然なついてくれないの。
「なつかねぇなこの猫と言いながら、それで彼も持て余してパチスロのコイン投げて釣っていたわ。
そのコインに興味を示したのか、近づいて来て鼻をクンクン匂いを嗅いでいたわ。彼も保護猫は
警戒心が強く、中々なつかないよと言っていたわ」「確かに猫が育ってきた環境も性格に影響する
からね。元々猫はなつきにくい生き物。特に野良猫などの虐待などの辛い経験があるとね…」
「ちゃんと、ご飯やおやつあげてる」「毎日ちゃんとあげてるわよ」「なら心配ないわよ。そのうち慣れて
なついて来るわよ。食いしん坊なお猫ちゃんほど、なついて来るわよ」「そうかしら… 」「そうよ」
「でも、何かとツンデレなの」「猫は元々ツンデレなのよ」
――――― 輩は猫である。というか、雌猫なのであたいは猫である。
ニャ、ニャ、ニャァ~ … ふにゃぁ~ ご主人様たちが、あくびが出る話をしている。
構って欲しいのはわかるが、あまり構われるのが好きじゃないのニャー …
ツンデレで悪かったニャー …
仔猫だった野良猫の頃からよ。ずっとこんな風だったわ。可愛げのある猫仲間を
真似てみても真似は真似だニャー … いずれスグにバレてしまう付け焼刃よニャー …
あたいはあたいなのニャー … 猫は単独行動が基本なのだニャー …
なつかない猫をおびき寄せようとコインを投げたご主人の彼氏。
犬とは違うだニャー … あいつの煙草の匂いが嫌だニャー …
アイツは好かんニャー … ニャロメ!
飼い主のご主人は、やたらとあたいと仲良くしたいあまり、あたいの後を
追いかけまわしたり、捕まえて無理に抱っこしたりするの嫌だニャー …
あたいが足元で顔をスリスリした時や、ご主人が帰宅するのを玄関で待ってくれた時、
ご主人が思わずテンションが上がり、嬉しくなって身振り手振り大きくなったから
逃げたニャー … 近づいて来るのを待てばいいだニャー …
そう気が向いた時だけ、構って欲しいニャー … だからツンデレだと言われるニャー …
――――― そう猫はマイペースだにゃぁ~
今日もパーソナルスペースを守りつつ… 湖よりも遥かに鎮まりかえった瞳で猫は見てる。
24:Track No.774
21/11/16 15:45:10.45 .net
>>23
16行目「吾輩は猫である。・・・」に訂正
25:Track No.774
21/11/16 15:49:05.96 .net
>>23
9行目「「なつかねぇな、この猫」と言いながら、・・・」に訂正
26:Track No.774
21/11/16 16:08:33.90 .net
>>23
下から6行目「ご主人が帰宅するのを玄関で待ってた時、」に訂正
27:黄砂
21/11/16 20:42:50.34 .net
秋子でしょ
未練だね 未練だね
あー震えてる
震えてる…懐かしいわ
28:Track No.774
21/11/17 14:10:03.24 .net
「それ以上言わないで」
波がざわざわ音を立てている。波打ち際に座るサーファーを眺めながら
僕らは街外れにある海へと来ていた。彼女とは浮気がばれて別れて以来の
久しぶりの再会だった。「あの子とはうまくいってるの?」「まあね」
波打ち際に座るサーファーが、ゆっくりと立ち上がり、沖へ出て行った。
サーフボードを脇に抱え、腹くらいまで浸かるところまで行くと、後はボートに乗って
スイスイと沖へと進んでいく。夏のシーズンが終わった海は静かだ。
平日の昼過ぎと言えば、海にいるのは散歩しているおじいさんやサーフィンを
楽しむサーファーくらいなものだ。人の声がしないだけで、世界はこんなに静かなのかと
海に来るたび思う。さっきから彼女と一言も会話がない。互いに海を見ていた。
「君は強い人だからいいね一人でも、だけど僕のあの娘は…」と言いかけて、
「…それ以上言わないで」と話を遮られた。僕が余計なことを言ったからだ。
彼女が少し寒そうにしたので、僕の上着を脱いで羽織ってあげた。「ありがとう」と
一言言ってくれた。僕が余計なことを言うまでは、わりとスムーズに会話は弾んでいた。
世間話に花が咲いていた。
彼女とは浮気がばれて、喧嘩別れしてから久しぶりに会うけど、
こんな静かな海に来て海を眺めていると、何故か、不思議と、
人は本当の意味で優しくなれる気がする。
砂浜を二人で静かに歩いていると、僕らの足跡が波に洗われて消えてゆく…
ーーーーーーーーー そんな自然の情景を見ていると・・・
僕が彼女と一緒に歩んできた(一緒に過ごしてきた日々、時間)、
足跡(そくせき)が消えてゆく様に感じる…
何故か、不思議と僕の意識の中で海の音が遠のく… 抑えていたものが、溢れ出そうになる。。。
ーーーーーーーーー 彼女も同じ思いなのだろうか…
―― 波は静かに絶えず押し寄せてきて、海岸の砂をさらってゆく…
29:Track No.774
21/11/18 13:57:13.55 .net
「歌うことが許されなければ」
大量の難民がヨーロッパに向かう連日のニュースの中で、悲しいニュースが届いた。
一人の可愛らしい難民の男の子がトルコの砂浜で死体で見つかった。
湾岸警備退院がその幼い死体を気づかわし気に抱えている写真が世界中に報道された。
この隊員は自分の子供と同年代の子供の痛ましい死体にとても心を痛めたことを話していた。
幼い男の子の母親と姉妹も一緒に亡くなり、父親だけが生き残ったそうだ。
父親は自分が変わってあげたいと嘆いていた。それと同時に、このような悲劇が
繰り返さないようにと彼は重ねて訴えていた。
乾いた風に砂塵、砂埃が立ち、舞い上がる。
沙漠の中にある難民キャンプには、シリアからの難民3万人以上が暮らしていた。
広大な敷地に建てられたキャンプ。小さな家が連なりそれぞれの狭い住居に、それぞれの家族が暮らしていた。
難民キャンプで働くボランティアは、必ずしも難民の話す言語に通じていると言う訳ではない。
公用語である英語や身振り手振りでなんとか意思疎通を図っていた。
2014年から家族と難民キャンプで暮らすファティマと言う女の子と知り合った。
冬は風が吹き荒れ土埃が舞うため、多くの時間を屋内で過ごすと言う。
「私は大きくなったらプロの料理人になりたい」と言っていた。
トルコの難民キャンプにいる大好きな母親の元を離れ、
難民として命がけでギリシャへやって来た少年アーダムと父親は、
ギリシャに到着してすぐ、強制送還の可能性に怯えながら暮らしていたが…
何とか昨年、ドイツ入国した。未だ正式な仕事は見つからず、
フランクフルト市内にある難民収容施設内で通訳などをしながら
他の難民と共同生活をしていた。
――――― 9月のフランクフルトは、もう既に頬に当たる風が冷たかった。
少年アーダムはとても歌が上手い少年で、将来、オペラ歌手になることを密かに夢見ていた。
――――― 少年アーダムは、言葉も分からず住む場所も定まらない生活が続く…
突然移り住むことになったフランクフルトでの生活が始まった。
30:Track No.774
21/11/18 14:44:24.41 .net
>>29
3行目「湾岸警備隊員」に修正
31:Track No.774
21/11/19 16:56:47.27 .net
「時は流れて」
「オヤジ! いつもの頼むよ」
「あいよ! いつものだね」
異動が多い仕事の関係でこの街に来て早いもので、もう3年目になる。
ここの居酒屋は仕事帰りに、いつも立ち寄るようになっていた。
ここの居酒屋の雰囲気をカウンター越しでいつも楽しんでいた。
後方では若いOLのガールズトークに花を咲かせている。
「美咲ってさ、好きな人とかいないの?」
「いますよ。もちろん」
「えっ! 誰々? もしかしてさ、いけない恋?」
「違いますよ」「藤崎君はダメだからね」
「あいよ!海老天。いっちょ上がり」
俺の前に差し出される海老天。ここの看板メニューの一つでもある。
「はい!生ビールね!」
「あっ、どうも」
俺は軽く会釈をして生ビールのジョッキを居酒屋の主人から直接頂く。
運命の悪戯か、奇妙な巡り合わせで、なんと…
そんな居酒屋に、実は10年前に別れた彼女がカウンターから少し離れたテーブルで
ひとり酒に酔いしれていた事を知る由もなかった ―――――
32:Track No.774
21/11/19 17:12:26.35 .net
>>31
3行目「異動が多い仕事の関係で、この慣れ親しんだ街に戻って来て、もう1年目になる。」に訂正
33:Track No.774
21/11/21 13:23:02.42 .net
「トラックに乗せて」
タイムカードを押してトラックの始業点検を始める。
まず八輪あるタイヤの状態を見て回り、エンジンオイルの量をチェックする。
それから運転席に乗り込み、スピードメーターを開け、三日分のタコグラフを
装着した後でセルを回す。エンジン音を聞きながら給油所に向かい、オイルが
不足気味の時は適量だけ補充する。
ミーティングが終わり、集荷の終わりを知らせるアナウンスを合図に、
積み込み作業途中の運行者たちは追い込み作業に入った。出発と到着の準備が
同時に始まったプラットホームの上は、その日を締めっくくる一番慌ただしい
時間が廻って来た。
運転伝票を受け取った気の早いドライバーが、我先へと、出口に向かう中、
俺は慌てる素振りもなく事務所に向かった。
「本田、無茶な運転だけはするなよ。承知の上だろうが、中央道で何かあったら厄介だからな」
運行伝票の処理を済ませた田辺が俺の肩をポンと叩いた。
「大丈夫ですよ。田辺さん、安全運転指導者の俺に任せてください。法定速度を守りますのでご安心を」
俺はそう言うと笑顔で事務所を出て行った。
トラックのドアを閉め、クローランプが消えるのを待ってセルを回した。
力強い始動と共に軽快なアイドリングが始まった。乾いたディーゼル音が鳴り響く。
支店のプラットホームから次々に運行車両が離れたして行った。
俺はサイドブレーキを戻して、セカンドギアにクラッチを繋いだ。
エンジンが程よく温まった二tトラックは軽い身のこなしでプラットホームから離れて行った。
空を覆う雨雲は広範囲にまたがり、関東平野にまで続いて周期的に激しくなる模様とラジオから流れる交通情報が伝える。
途中、僅かな時間だったが、アメリカ映画ながらの小さなカバンを持ったヒッチハイカーの女性を
乗せる羽目になるとは思ってもいなかったのだった ーーーーーーーーー
34:Track No.774
21/11/21 13:28:15.83 .net
>>33
16行目「グローランプ」に訂正
35:Track No.774
21/11/21 13:32:54.90 .net
>>33
18行目「運行車両が離れ出して行く。」に訂正
36:Track No.774
21/11/21 21:57:56.22 .net
>>33
下から4行目「10tトラック」に訂正
37:Track No.774
21/11/22 12:35:59.77 .net
「ベットルーム」
「家に帰りたい」愛知県内の自立支援業者に預けていた長男から、母親に電話があった。
長男は1年前から業者の寮で他の引きこもりの人たちと共同生活をしながら、青果市場で
働いて自立を目指していた。再会した際は疲れ切った表情をしており、両親に
「共同生活は好きじゃない。働いてばかりだった」とこぼしていた。
自宅に戻った後は仕事を探すどころか、家事すら手伝わないようになった。父親は
「成長して帰ってきたかと思ったら、全く変わっていなかった」と嘆き、長男にもう一度
寮生活に戻るように説得。母親は「あなたの働いている姿が見たい」と励ました。
再入寮を目前にした同年12月末、長男は家出した。その六日後、有明海に浮かぶ遺体が
地元漁師によって発見された。警察署に駆けつけた母親は泣き崩れ、父親は「息子を追い込んでしまった。
生きてさえいてくれれば、それでよかったのかもしれない」と全身が凍り付き後悔した。
つい最近、こんな新聞記事に目が留まった。
何年か前だったか、フジテレビ系列の「ザ・ノンフィクション」という番組で、虐め、非行、親の虐待、引きこもり、
薬物依存などで苦しんでいる子供たちを無償で預かり、更生に導いている愛知県岡崎市にある西居院というお寺の和尚。
救った子供たちは20年間で1000人以上にのぼるという。このようなサンクチュアリか、アジールという聖域、
(駆け込み寺、避難所、保護施設)もそれで更生できればいいが、その施設が預かった者を食い物にしているケースもある。
心の傷や色んな事情を抱え苦しんで自分を守る殻、殻に閉じこもる者を無理にそこから引き離しても良い結果は生まれない。
本人が抱えている心の問題を解決できない限り無理なのだ。それが心の中のベットルームなのかもしれない。
ーーーーーー 堅固な石垣で囲むベットルームはあなたをあなたから守るベットルームだ
年齢では大人なのだが、精神的にはまだ自己形成の途上にあり、大人社会に同化できずにいる人間。
これをモラトリアム人間と言う。競争社会でストレスが多く、何かと他人と自分を比較し、自信を失いやすい現代。
近年その傾向は益々強くなっている。他人と比べる必要もないし、自分を卑下する必要もない、自分に自信を持ち
自分本来の姿を取り戻す為の猶予期間と言うのも必要だろう。
ーーーーーー 最終的に本人が納得できる生き方が出来るようになればいいのではないだろうか…
38:Track No.774
21/11/22 12:44:27.27 .net
>>37
タイトル「ベッドルーム」に訂正
文章の中のベットルーム×
ベッドルーム〇
39:Track No.774
21/11/22 14:50:41.84 .net
>>37
下から9行目「中には、その施設が預かった者を食い物にしているケースも稀にある。」に修正
40:Track No.774
21/11/23 13:33:24.69 .net
「たとえ世界が空から落ちても」
「一緒に暮らしていたと言っても、籍は入ってませんでしたから…
それにあの人の事、私良く知らないんですよ。この子が出来た時、籍だけは入れて
くれって頼んだんですけどね。俺はお前なんかと終る人間じゃないって、
いずれ大きくなる人間だからって… 自分勝手で横暴な人でした」
「殺される前、特に変わったことを言っていませんでしたか、例えば、近いうちに、
大金が入るとか」「ええ、言っていましたよ。いい金づるを掴んだからもう貧乏とは、
おさらばだって… でも、私と知り合ってから、ずっと言ってましたからね。そんな事を」
俺は殺された札付きのワルでチンピラ詐欺師、土屋勝利の聞き込み、身辺調査をしていた。たった一つの事実が、
俺をあまりにも乱暴で強引な推理に駆り立てていた。土屋の死体のワイシャツに微かに付着していた口紅と
地元有力者新村家の娘、輝美が常用している口紅が一致したのだった。
どう見ても二人は別の世界に住む人間だった。
「須藤!例の事件の事な。んだけど…」「あ、松本さん。それが一向に、糸口が掴めず、弱っているんですよ。
その上、あの事件に関しては、妙に、上の人間がハッパをかけてきましてね。二週間以内に早期解決しろと言う
特別命令が出ましてね。現場はすっかり焦っています」「早期解決の特別命令?」俺は須藤刑事に
新村輝美の事を話し、彼の調査に協力した。
そして二週間後、ついに我々は土屋と新村輝美の接点を見つけ出すことに成功した。
二人が同じホテルに連れだって通っていた事実を掴んだのだった。ところが我々が
二人の接点を掴んだ翌日、一人の暴力団員が土屋殺しの容疑で逮捕された。
「何!? 犯人が逮捕された!?」俺は驚いて、須藤刑事に尋ねた。「ええ、逮捕と言っても正確には自首して来たんです。
土屋と関係がある新興暴力団です」「それで?」「調査本部は解散です。上は大喜びですけどね。奴は犯人じやない。
松本さんと一緒に新村輝美を追った俺の正直な俺の感想です」「しかし、調査本部が解散した以上、身動きが取れんな。
お前も、次の事件に回されるだろうしな」「俺は松本さんと調査続けるつもりです。上からは猛反対を受けましたが、
俺は上を怖いと思った事は、一度もありませんから、…本当に怖いのは事実を隠されることですから」「よく言った」
とは言ったものの、我々二人に出来ることは、新村輝美の身辺を洗うことと、彼女自身の行動を探ることぐらいだった。
新村邸前に車を止めていると「世田谷警察のものですが、用がなければ車を移動させてもらいませんかね」
「あ、いや、私は警視庁捜査一課の刑事で…」「わかっている!刑事だからって人に迷惑かけていいってことにはならんぞ!」
二週間後、須藤刑事が慌てて俺の家に来た。「どうした青い顔して?」「昨夜、新村輝美が、ホテルの部屋から
投身自殺しました。遺書は見つかりませんでしたけど、ホテルのメモ用紙に{土屋は私が…}と書かれていました」
「そうか…」「松本さん教えてください。土屋のどこに惚れたんですかね?」「多分… 土屋が、騙して強請るまで、
昔の土屋を演じていたんだろう…」
41:Track No.774
21/11/23 13:49:52.25 .net
>>40
12行目「須藤!例の事件の事なんだけど…」に訂正
21行目「俺の正直な感想です」に訂正
42:Track No.774
21/11/23 14:59:14.25 .net
>>40
下から11行目の末尾「奴は犯人じゃない」に訂正
43:Track No.774
21/11/23 21:20:38.80 .net
「最愛」
時代は1984年頃。私は港に来ていた。
大好きだった彼があの人と乗り込む船が出航する港に来ていた。
彼があの人と二人でクルーズ船で船旅に出ることを私にこっそり
友人が教えてくれた。
あの頃は今と違い、まだ携帯とかスマホがない時代。ポケベルさえ一般に普及する前の話。
彼とあの人が乗船する豪華客船クルーズ号は船内の部屋の電話にメッセージランプが点灯し
伝言を受け取れる仕組みになっていることを知る。一番好きな彼。彼以外に考えられない。
けれど、私は覚悟を決めた。
44:Track No.774
21/11/23 21:22:10.14 .net
作品を誤爆しました。続きは明日になります。
45:Track No.774
21/11/24 09:34:40.60 .net
引き続き「最愛」
ーーーーーー メッセージを お願いします
今 出てゆくあの船に ・・・
豪華客船の出航。次々と船内から紙テープが投げ込まれる…
船とデッキと岸壁を結ぶ色とりどりの紙テープ…
デッキの正面の客船ターミナルのテラスには多くのお見送りの方々がいた。
彼とあの人の姿を確認した。誇らしそうな貴方と愛されても相応しいと
思える綺麗なあの人が… 私は物陰からこっそりと見つめていた。
私の心は張り裂けそうだった。
二人の姿をつぶさに見てしまったからか、涙が留まることなく頬を濡らしてしまった。
大好きな彼があの人と仲良く楽し気にしているシーンは私には耐えられなかった。
彼と過ごした時間が、まるで昨日のことのように鮮明に甦ってくる。
あの人がデッキに出て潮風にそよんでいるうちにそっと点いたブルーのメッセージランプ。
彼の落ち着かない行動を見て分かった。送った伝言は電光掲示板に灯されたようだった。
― 豪華客船クルーズは汽笛を鳴らし
多くの人々に見送られゆっくりと
港を離れ出航していった ーーーーーーーーー
46:Track No.774
21/11/24 10:04:34.52 .net
>>43
1行目「私は横浜港に来ていた。大好きだった彼があの人と乗り込む船が出航する横浜港。
みなとみらい地区は祝日ということもあってカップルや家族連れなど多くの人々で賑わっていた。
彼があの人と二人でクルーズ船で船旅に出ることを私にこっそり教えてくれた。」に修正
47:Track No.774
21/11/24 10:15:14.69 .net
>>46
私にこっそり友人が教えてくれた。
48:Track No.774
21/11/24 10:42:11.27 .net
>>46
>>43の1行目から4行目までの修正
49:Track No.774
21/11/25 15:06:16.82 .net
「夢だもの」
「踊ってください」挫けないで言えた… 貴方は気さくに手を取ってくれた…
ーーー それからあなたとの出会いだった ーーーーーーーーー
そして初めて出会ってからたった3週間で付き合うことになったのです。
元々何も知らない人だったし、何も接点もなかったので、新しい発見の毎日…
少年のように純粋で、話も面白くて、ロマンチスト。
私の誕生日やクリスマスはいつも、全力で楽しませようとしてくれていました。
なんでもない日でも、毎回楽しくてお互い笑ってばかり。喧嘩することもあったけれど、
フィーリングも合い、彼と一緒に居る事はとても居心地がよかった。
喧嘩しても、私がヤキモチを妬いて困らせても、喧嘩して意地を張って素直になれない時も、
彼はいつも、そんな私を受け止めようとしてくれていました。
段々と、私の中で、彼と家庭を作りたいという気持ちが芽生えていきました。
それと同時に、もしも、彼が私に対して結婚を意識しておらず、いずれ終わってしまう日が
来るかもしれないなら、いっそ、今、幸せなうちに別れたいと思って、何度か彼に伝えた。
そんな時、「そんな理由では別れられないよ」と、毎回、彼は笑ったり、少しすねたりしながら私に言う。
3回目の私の誕生日、過去二回の誕生日やクリスマスで彼のサプライズはいつも私の予想を超えていた為
「今回はいったい何が待っているのだろう」と期待に胸を膨らませていました。
ひょっとしたらプロポーズもあるかも… と淡い期待も…
夕方からホテルに行き、ディナーのお食事、そしてホテルのスタッフさんが「ご用意が出来ました」と
呼びに来た。一体何が用意されているのか、全くわからなかった。後をついていくと、案内されたのは、
ホテルのチャペル。中に通してもらい「では、ごゆっくり」と扉を閉められた。期待と胸の高鳴りで、
よくわからないまま、彼がにこやかに片膝をついて小箱を開け私に差し出す。小箱の中には指輪。
「誕生日おめでとう。今年は、悪いけど、誕生日プレゼントはないんだ。僕は君といつまでも
一緒に居たいんだ。だから、僕と結婚してください」ーーーーーーーーー ここで目が覚めた ー
50:Track No.774
21/11/27 13:59:16.40 .net
「傷ついた翼」
あれは私が高校生の頃 ーーーーーーーー
私は生まれつき体が弱く、よく学校で倒れたりしていました。
重い病気というほどの病気は持っていないけど、時折目眩や麻痺などの症状が
出る病気を持っていました。
ーーーーーー この事は友達や学校のみんなには黙って秘密にしていました。
ある日、病気の診療で病院へ行き、「今日は何事も終わるんかなぁ…」と思いながら、
先生の話を聞いていたら、「そのうち、右手が使えなくなる」と言う先生のおぞましい
言葉が聞こえてきました。
流石にそんな悪い状態だと思ってもおらず、初めてそのことを聞いたときは、
「嘘だ! …だって、普通に手を動かせるもん!」と誰の言うことも聞きませんでした。
信じたくなかったし、認めたくなかった…
でも、月日が経つにつれて右手の痙攣が酷くなり、今まで書いていた文字は男の子が書いた
文字のようになり、答案用紙に名前を書き忘れた時、担任の女の先生に
「この字は男子でしょ」と言われ、恥ずかしくて前にも出られませんでした。
段々使えなくなる右手を毎日のように見ていると、辛くなって、親に当たったり、
学校の友達に冷たくなったりして、いつの間にか、自分の周りには誰も居なくなった。
その異変に気付いた私と当時親しかった彼は、「どうしたの? 最近なんか変だよ。
何かあったなら、俺が何とかするから」そんなとても優しい言葉をかけてくれました。
でも、当時、荒れていた私は冷たく振り払っていました。
ーーーーーーーーー あれから何年たったのだろう ーーーーーーーーー
私は毎日元気で過ごしています。毎日、右手を動かすリハビリしたおかげで、
何とか日々の生活で困らないほどに回復しています。
ー 時は流れ、通り過ぎてゆく人達も、今は優しく見える ーーーーーーーーー
そんなある日、思い出す、当時の彼の事。彼に辛く当たってしまった私。
そうね、あの頃は悲しくて誰の言葉も聞かず、愛の翼にも気づかずに突き飛ばしてきた私。
何も言わぬ瞳の色… 今は見える...
愛は一人一人になって やっとこの手に届いたの…
そして彼は私から秘かに去った...
どこにいるの? 翼を折って悲しい思いをさせた彼…
傷ついた翼思うたび 胸は激しく痛む 遅すぎなければ この想い乗せて…
51:Track No.774
21/11/27 16:18:01.59 .net
>>50
上から6行目「今日は何事もなく終わるんかな…」に修正
52:Track No.774
21/11/27 19:54:21.32 .net
>>50
下から3行目「私から秘かに去った彼は今...」に訂正
53:Track No.774
21/11/28 18:22:20.12 .net
「紅い河」
私はちょっとしたセンチメンタルジャーニーという感じでラオスの首都
ビエンチャンに来ていた。日本からラオスまでの直行便は運行されていないらしく、
ベトナム航空の飛行機でベトナムのハノイまで行き、そこからラオ航空の飛行機に
乗り換えてラオスの首都ビエンチャンに向かう。
朝10時に成田を出発し、ビエンチャンに到着したのは夕方6時過ぎだった。
すっかり日が暮れて辺りは真っ暗なのだが、むわっとした暑さに東南アジアに到着
したのだなということを実感する。
空港にあったラオテレコムのカウンターでSIMカードを購入してからタクシーに乗り込む。
ホテルに到着したのは午後7時過ぎだった。ラオスの首都ビエンチャンは、タイとの国境近くの
メコン川に沿った場所にある。
ホテルに到着した時点ですっかり日は暮れてしまっていたが、せっかくだからとメコン川まで
10分ほど歩いてみた。初めて目にしたメコン川は、対岸に見える僅かな家の明かりと、真っ暗で
何も見えない黒く塗りつぶされたような川の流れだった。流石にこれでは何もわからないと、
川沿いの道路に広がっていた屋台で夕飯を済ませて、ホテルに戻ることにした。
翌朝、朝食を取りながらホテルのスタッフに夜のメコン川は真っ黒だったことを話すと、
「メコン川だったら夕方の5時頃に行くと綺麗な夕陽が見れますよ」と教えてくれた。
その日の夕方、その言葉を信じてメコン川沿いの公園に行ってみると、4時半を過ぎた頃から、
夕陽を待つ人達が公園に集まり始めていた。
雄大なメコン川に沈む綺麗な夕陽を眺めていた。この夕陽が沈んでいくメコン川の対岸はタイ王国。
メコン川に沈む夕陽を静かに見つめる人々… 夕陽をバックに自撮りにいそしむ観光客。
私のあの人は… もう私を忘れたの… 河に映るのは夕陽の色… あの人の心は見えない…
そんな時、目を凝らして遠くを見ていると、
ーーー 夕陽に照らされて二人の人影が乗った細長い舟がメコンの大河を進んでいた ーーーーーー
ーーーーーー ゆったりと流れる濃い黄赤の褐色のメコンの大河の中で
夕陽に照らされた二つの人影が乗る
その舟はどこまでもどこまでも流れていた ーーーーーー
54:Track No.774
21/11/28 18:31:33.43 .net
>>53
3行目「ラオス航空」に修正
55:Track No.774
21/11/30 12:48:19.00 .net
「ジェラシー・ジェラシー」
あの人は誰にでも優しい。それはとてもいいことだけど・・・
あいつがまた、会社の飲み会であの女と親しくしていた。
「ねえ、あの二人いい雰囲気ね」
「あ、ほんとね。なんだかいい雰囲気」
私がもし、あいつを好きじゃなかったら、飲み会で、上司以上に悪ノリして、
意地悪なぐらいに盛り上げて、からかって、弄って、楽しんで終われたのに…
ほんと、仲が良いよなぁ… 本当に彼女とは何もないのだろうか・・・
本当に自覚がないからダメなんだけど、正直、疑わられても仕方がないよ。
あいつの言葉を信じたいけど、何もないと言われても、やっぱり二人の様子を目の辺りにすると・・・
私のジェラシーは多分、他の人より厄介だ。ちょっとの嫉妬なら可愛いけれど…
自分でもコントロールしようがない・・・
飲み会が終わり帰宅、自宅のマンションのベランダに出て、ひとり夜景を眺めて
気持ちを落ち着かせる。北方向には隣町の大きな工場夜景が見える…
春になったらあいつは隣町の部署へ移動してしまう。
ぼんやり夜景を見つめながら、嫉妬する自分が嫌になる…
誰にでも見せたくない一面と思い知る。私が男なら嫉妬心の強い女なんて大嫌いだ。
一番面倒なタイプ。遊びでも付き合いたくないだろう…
誰の目にも見せないようにすればするほど 酷くなってゆくのがジェラシー
目線一つでバレずにクールに見せてるほど積もり積もってゆくのがジェラシー
会えないのと会いたくないのは別物だと分かり切っているのにジェラシー
「縛らないで済むのが賢い」と男たち猫みたいに言うからジェラシー
――――― 嫌われたくないのね
あの人からもあの人の側にいる人みんなから良く思われたいのよね 馬鹿じゃないかしら… 私。
56:Track No.774
21/12/01 13:31:45.15 .net
「寄り添う風」
――――― 私はただ、遠くからあなたを眺めていれば良かった。
ただ、それだけで良かった。関わりすぎてあなたを苦しめるくらいなら・・・
――――― 出会ってどのぐらい経つのだろう...
互いに、それなりに仲が良くて、心地よいそんな関係。
幼い頃から二人で砂場で遊んだり、小学生の頃は宿題を教えあったり、
校庭のブランコに乗って、二人で遊んでいた幼馴染。私は勝手に『運命の人』と思っていた...
知らぬ間に幾つもの時を積み重ねた・・・
あなたが私に会わせたいと紹介した可愛らしい女の子が大嫌いだと思うのはどうしてなんだろう…
あなたの距離を感じるようになって初めて気づいた。私はあなたが好きなんだ。
私が気づくより、ずっと前から… 今更、知ったって遅いと言うのに・・・
回数が減ったメールも話す機会が亡くなったのも、すべてあなたの可愛い彼女が・・・
もっと早く気づいていたら... 私は今も、あなたの隣に入れたのかな…
こんなに辛いなら、いっそ気付かなきゃよかったのに・・・
でも、ずっと前から、あなたが好きでした。もっと傍に居たいと何度も思うほどに…
愛しいのにこの想いを告げられない。あなたが運命の人ならいいのに...
理由もなく会いたいのに 理由を探してる… 会わなければならないのと 理由を探してる…
人恋しさは諸刃の剣 関わりすぎて あなたを苦しめるくらいなら…
――――― あなたから届いた 久しぶりの便り。
返事できないでいる私。幸せそうな二人の写真を見て、思わず、涙を流した...
結婚するのだろうか・・・ 私は祝福しなくちゃいけない。『昔の友達』として
もう、あの時には、戻れないんだ。今更ながら後悔することもあるけれど…
寄り添う風 それだけでいい あなたの袖を揺らして
寄り添う風 それだけでいい 私は彼方で泣く ―――――
57:Track No.774
21/12/01 13:40:27.12 .net
>>56
11行目「回数が減ったメールも話す機会がなくなったのも、・・・」に訂正
58:Track No.774
21/12/02 14:37:47.86 .net
「EAST ASIA」
撮影なんかで外国に行った時、向こうの人から「あなたどこの人?」「中国人?」と尋ねられた時、
「いえ、日本です」と言うと「ああ、日本。どこにあるの?」とフランスの地図を見せられた時、
「あれっ?」ってなったの。日本で習う世界地図は、真ん中に日本があるでしょ。
ところがフランスに行って地図を広げると、日本はないのね。後ろの方にゴミのようにちょこっと
しか描かれてなくて、そんなもんかなぁ…(笑)と思ったわけ。フランスの人から見れば、こっちの事を
EASTだって言うわけでしょ、でも、日本の地図をガバッって開けば、EASTはアメリカ(笑)。
で、アメリカの地図を広げると、今度はアメリカがど真ん中で、EASTの国はどこって言ったら、
フランスになっちゃうわけでしょ。いい加減なもんよね(笑)。じゃあ、回っている地球でEASTって
どこって言えるっていうような感じがするのね」
「どこの国の世界地図だって、自分の国を中心に描いてあるさ。そんなの当然だろと思ってしまうと、
それで終わってしまう。何でもそうだけど、そういう何気ない疑問を持つことも大切だね。何事も…
確かに日本に住んで、世界地図の真ん中に日本がある地図を見慣れて育った立場で世界へ行くと国に
よって地図の描かれ方が異なることに強い違和感を感じるのは当然と言えば当然だ。ワハハハ」
休日ということで、僕たちは久しぶりのデートで横浜中華街に来ていた。
「はい、お待ちどうさま」「こちらも、お待たせ。熱いから気を付けてね」
「ありがとう」「わあ、美味しそう」僕たちが頼んだメニューが運ばれてきた。
「女の視点で考えた時、女ってどこの国に行っても結構生きていくでしょ。海外勤務で外国に行って、
日本食じゃなきゃ嫌だって言って、ノイローゼになるのは男が多いんですって(笑)。ところが女は、
地元の何だかわからんものでも「あら、結構いけるわよ」って食べちゃう(笑)。そんなとこあるわけ」
「確かに、女の方が順応性は高いね。男の方がなんにでもこだわりが高いからね。何週間も日本食を
食べていないと、そうなっちゃうかもしれない(笑) 男の縦社会、理念で生きているから、男はなんにでも
ルールやこだわりを持って生きる。女は、「踏んじゃったぁー」と笑って男が引いた線を越えてしまう
ところがある(笑)。そんな何にもこだわりなく生きることが出来る女は、何が強いってそんな心を自由に
して生きる適応能力の高さ、女の生命力(笑)かな。ワハハ。それから先ほどの話だけど、どこが中心かなんで、
地球からすればどうでもいいことだしね。これから大切なことは、どこで暮らすようになっても、どこでも
誰とでも合わせて生きていける生命力なのかな。どんなに高い壁があっても柔らかな風のように笑って
超えてゆく心があれば、どこでも生きて行けるね」
59:Track No.774
21/12/02 14:44:10.57 .net
>>58
下から4行目の末尾「どこが中心かなんて、」に訂正
60:Track No.774
21/12/04 20:34:31.36 .net
「誘惑」
ゆらりと彼が手にした煙草の煙が揺れる…
白を通り越してわずかに紫ががっているその色を見て
ああ、こういうのを紫煙っていうんだっけ、と何気なく考えていた。
紫煙は緩やかに形を変えながら、天井まで昇っては霧散していく…
時折、彼が吐き出す煙が形を崩す。混ざり合って溶けて消える。
そんな様子が面白くて、寝転びながらじっと見つめていた。
その様子に気付いた彼が「何を見ているんだ?」
訝し気に聞く。私の視線の先を割り出そうと周りを見回す。
結局それらしいものが見つからなかったのか、問うようにこっちを振り返る。
私は「ちょっと煙をね。何だかわからないけど楽しい。見ているのが…」と笑いながら答える。
彼はキョトンとした顔をして、呆れたように微笑を浮かべて、「こいつの事か」と
煙草を一回吸ってから煙を吐く。煙草を銜えながら「楽しいか?」「うん」
「・・・俺にはわからないな」と何かを考えている彼。
悩んでいたり、辛そうにしていても「何でもないよ。大丈夫」と言ったり、
風邪や怪我を心配しても「これくらいなんてことない」といつも、
強がって本心をさらけ出してくれない彼。今一体に何を考えているのだろう…
小さい頃からパイロットになりたい夢を持ち続け、6年間航空学校と航空会社の訓練所に
通っていたけどパイロットになれなかった彼。航空学校でも訓練所でもトップの成績だったのに
教官から適正に欠けると判断された彼。小さい頃からの夢で、あれほどなりたかった
パイロット。彼の気持ちが痛いほど分かるだけに… 言葉がかけづらい…
61:Track No.774
21/12/05 11:48:41.91 .net
ここで使われる紙飛行機の比喩は多分、社会的成功かな。より高く飛躍なのかな。
それともガラスの靴が女。紙飛行機が男。隠し持っている。幼少期の願望、女の子の
ガラスの靴はシンデレラストーリー。いつか白馬に乗った王子様が迎えに来て幸せに
暮らすお姫様願望。理想の男性がいつか自分の事を捜し突き止めて愛してもらえることを
夢見る。そうなると男の子の紙飛行機は紙飛行機を折って好意を抱く女性の元にスッと
飛ばすなりして気付いてほしい。又は意中の女性を奪い去る。連れ去りたい願望。
紙飛行機は1枚の紙を折って作り、的を狙ったり、男の子が戦争ごっこで投げ合う玩具という
記載が19世紀英国の子供の遊びに関する本にある。
的を狙う>愛する女性をめがけて飛ばす>恋の矢を放つ>キューピッド 色々考えさせるね。
62:Track No.774
21/12/06 12:05:39.51 .net
「空港日誌」
ーーー 風の便りで昔、不倫していた彼が亡くなったことを知る。
ーーーーーーーーー あの頃の思い出が今鮮明に甦ってくる。
あの頃の私は旧広島空港(観音の西空港)で彼が来るのを待っていた。
でも風が強くてYS-11は広島空港に降りない…
ーーーーーーーーー 待っても待ち人はやってて来なかった。
~~~~~~~~~ 風が強くてゲートが閉まる。
「〇〇っていう男性が乗っているんですけど!」と係の人に尋ねても
彼の名前は乗客名簿にないと言う。何かの事情を察してか、気の毒顔をしていた。
あの頃の彼は、博多にいた頃、いつも東京の家族の所に帰らずYS-11に乗って、ここ広島に来ていた。
博多から東京行きではなく広島行きに乗って来ていた。あの日の思い出が蘇る…
分かっていた… もう彼との日々が戻ってこないことも… でもあきらめきれない自分がいた…
だから… わずかな期待を込めて… 博多からの飛行機を今日も待つ。そんな健気な自分がいた…
ーーーーーー またあのゲートをくぐり出てくる彼の姿が見えないかと… 待つ自分。
分かっている… あの日にあなたが博多にいたという愛のアリバイを壊してあげたい…
「博多に行ってくる」と言って会いに来ていた。あなたのアリバイ…
貴方の奥様に見せてやろうかしら…
ーーーーーー 写真一つで 幸せはたじろぐ。
彼が、このままフェードアウトして関係解消狙っているなら…
「そんな都合のいい事させないわ。あなたが博多にいたというアリバイを壊したかった」
腹いせにそんなことする安い女のと思われてもいい… そんな思いもあった…
ーーーーーーーーー そんな気持ちに揺れ動いている自分…
~~~ ドアから吹き込む12月の風がグランドスチュワーデスのスカーフを揺らす ~~~
「今夜の乗客は9人 乳飲み児が一人 女性が二人 後は常連客… 尋ねられた名前は ありません」と言う。
そう「羽田へ向かう便にさえ乗っていない」と事務的に事実を告げられる。
親身になってくれでもしたら、思わず話していたかもしれない。
ーーーーーー 彼を呼んだけど、結局は来なかった…
そんな事、百も承知でわかっているけど、でも… もう一度、報われぬ季節があなたに来れば
迷いに抱かれて 戻ってくるかと… そんな思いで待つ自分がいた…
その後、東京の妻や子供の元へ帰った彼…
ーーーーーーーーーそんなあの頃の辛く切なさい思い出が今でも蘇ってくる…
63:Track No.774
21/12/07 09:40:39.94 .net
>>62
5行目「待っても待ち人はやって来なかった。」に訂正
下から11行目「安い女と思われてもいい…」に訂正
64:Track No.774
21/12/07 12:04:43.94 .net
「闘うりゃんせ」
ーーーーーーーーー あれは日本がバブルで浮かれていた頃。
〇〇証券の営業マンとして香港勤務証券マンからスタートした私は、
無我夢中でハードワークに専念していた。
その頃多くの華僑投資家に出会って学んだ事は、その後の証券会社退社後、
個人投資家になった今も大きく役に立っている。
ある日、昼食から帰ってくると、一枚のファックスが来ていた。
「ブレックファースト・ミーティングをしたい。ついては午前八時に来てほしい」
かねてから門前払いを8回ほど受けていたH・コン氏の秘書からだった。
ファックスにあった住所までタクシーで飛ばした。大きな鉄製の門。その横にある
インターフォンを押す。「Hello!」と英語の返事。一瞬、驚きで声を詰まらせながらも、
「マイネームイズ ハヤシ」恐る恐る聞いた所、急にウィーンウィーンと大きな音で、
重厚な鉄製の門扉が開いた。さらにその向こうは鉄格子の門が二重になっていた。
インド人と思しきターバンを巻いた大男の門番から中門が開けられると、その内側は、
一面広大な芝生で、中央には巨大な噴水が水しぶきを上げていた。中国人と欧米人のハーフぽい
中年の女性が屋敷を案内してくれた。通された部屋には米国の国務長官と握手している写真や
日本の著名な政治家と並んでいる写真が飾られていた。香港人とポルトガル人のハーフで、
深いしわが刻み込まれた顔立ちに風格があった。いざ日本株の話を始めると、証券マンの私よりも
知識が豊富で、遥かに奥深いことに驚愕した。「ワシはエイティーミリオンドルほど過去、日本株で
損をしたことがある。君は50回以上電話をかけてきて日本株投資を推奨した。そんな君と会う時間が
本当に意義あるかどうかを5分でジャッジしたい」軽くコーヒーカップを持ち上げ、広大な庭を
散歩しながら急に言われた。「ワシは経済的合理性にかなうものにしかお金を出さない」
これが華僑投資家に共通する投資理念だということが後になって分かることになる。
「ワシは、昨日、ワイフと喧嘩をした。あなたは何かにつけ経済的合理性ばかりでものを考えている。
そんな人生なんてつまらないわと言われたよ。 ワハハハ。確かに人生に、これが正しいと言う正解などはない。
どの世界で生きようとも生き残るための闘いだ。ワイフはワシには愛が足りないと言う。愛がなんだ!
何だと言うんだ! 愛国心、家族愛、恋人のを守る為、人は愛の為に闘い争いを生み血を流す。
そんな争いの火種を生むじゃないか!女は感情で動く。ワシは感情で投資はしない。あいつ(ワイフ)が
愛や夢を求めて闘って来たのなら、ワシはこのほんの一握りの者だけが勝ち残る。この世界で生きる為、
生き残るために闘い続けて来た」
その数年後、そんな感情をコントロールする合理的投資でこの世界で長く生きて一代で財を築いた
H・コン氏が亡くなったことを知ることになる。享年70歳だった。私とは僅かな付き合いでしたが、
癌が全身に転移して亡くなったH・コン氏。晩年、自宅ベットで寝たきりだったという。
その一週間後、そんな寝たきりの夫を献身的に支えて病床に倒れた奥様も後を追うように他界した。
— そんな人生の儚さを知り、改めて人生とは何なのかを考えさせられた ー
「人生に正解はない。ワシは、この世界で生きる為、生き残るために闘い続けて来た」
ーーーーーーーーー 私の心に、そんな彼の人生観。彼が放ったそんな言葉だけが残った。
晩年、病に侵されお金では買えない無償の愛に気付き目覚めた彼が奥様を連れ去ったのだろうか…
彼の邸宅の門を出ると、降り続いていた雨は、いつしか止み、そこには空高く大きな虹がかかっていた…
65:Track No.774
21/12/07 12:24:00.66 .net
>>64
タイトル「闘りゃんせ」に訂正
下から13行目「恋人を守る為、・・・」に訂正
66:Track No.774
21/12/07 15:39:09.46 .net
>>64
下から9行目「その数十年後、・・・」に訂正
67:Track No.774
21/12/07 15:41:17.24 .net
>>66
「十数年後、・・・」に再訂正
68:Track No.774
21/12/08 15:10:23.86 .net
「merry-go-round」
手に持っているアイスを、落としてしまいそうなぐらい、よちよち歩きの
男の子の傍に急いで駆け寄って抱きかかえる母親らしき女性。
私は彼とのデートでよく来ていた遊園地に友人と来ていた。
「次どこへ行く?」とマミが訪ねる。
お化け屋敷、ジェットコースター、ミラーハウス・・・
目ぼしいアトラクションは一通り乗った感がある。
午後の日差しは消え、微かに夕暮れ時を帯びていた…
向こうに見えるメリーゴーランドの電飾が妙にキラキラ輝いて見えるのは
その分だけ陽が陰って来たからだった。
私達は遊園地のベンチに座り、クレープを食べながらお茶をしていた。
「メリーゴーランドはどう?」とマミが言う。
向こうで楽し気な電子音のメロディを奏でながら回る、大きなオルゴールみたいな
アトラクション。マミに誘われて近づいていくと、豪華な電飾の中で回る回転木馬。
そんな作り物のポニーや馬車に乗った人達が笑顔をこちらに向けたまま流れて行く。
幼い男の子と綺麗なお母さんが乗ったポニーが目に入った。二人とも弾けるような、
笑顔で手を振っていた。柵の外の人混みでビデオカメラを取っているお父さんに
向けてだった。その光景があの人とあの人の彼女とダブって見えてしまう…
足が勝手に止まった。「どうしたの?」とマミが不思議がって訊ねる。
好きじゃない人から言い寄られることはただ気分が悪くなるだけのことね
好きじゃない人から電話もらうこともただの時間の無駄なだけのことね
それと同じことを私があの人にしてただけだね。
悲しい現実から目をそらしても 同じ所を回っているだけで1ミリも
進まない距離がある 他の誰かなんて見る暇も惜しんで恋い焦れて
続けても報われなくて それと同じことをあの人嘆いては誰かを想う
綺麗な矛盾だね 傍から見れば
それを分からずに同じ所をただ回っていただけ…
― 私は今まで現実から目を背けていただけだね ー
そんな実らない恋をしていた自分を知ることになる。
ーーーーーーーーー涙が零れる…
69:Track No.774
21/12/08 16:05:04.41 .net
>>68
16行目「ビデオカメラで撮影しているお父さんに」に訂正
70:Track No.774
21/12/08 16:42:43.94 .net
>>68
タイトルを大文字「MERRY-GO-ROUND」に修正
4行目「マミが尋ねる。」に訂正
71:Track No.774
21/12/08 19:25:39.17 .net
URLリンク(i.imgur.com)
72:Track No.774
21/12/08 20:02:57.62 .net
>>71
遊びに来るのは構わないが、変なのは張らないでほしいね。
73:Track No.774
21/12/08 20:08:37.35 .net
>>72
張る×
貼る〇
74:Track No.774
21/12/08 20:28:24.40 .net
>>71
松任谷由実ファンなのかな? 分らないけど、ユーミン、みゆきとかの対抗意識に
興味が全くないので、荒らしならやめてもらいたい。松任谷由実さん良いと思いますよ。
ライバル意識や対抗意識なんて、そんなの、どーでもいいじゃないですか。
荒らし嫌がらせはお断りします。
75:Track No.774
21/12/09 14:03:36.90 .net
「この空を飛べたら」
頑固おやじの父親が先月亡くなった。享年69歳 胃癌だった。
私は小さい頃から看護師になることが夢だった。可愛いナース服とか、
病気で不安な時も笑顔で話しかけてくれる優しさとか、全てが
自分の憧れだった。
高校生になっていよいよ進路をという時、とある国立大学の看護学部に
行きたいと親に話した。私の努力を誰よりも認めてくれていた親だから。
きっと応援してくれるだろうと思っていた。だが、ダメだった。
父親が反対して来た。「せっかく良い私立に入ることが出来たんだから、
看護婦になるくらいなら、医者を目指せ!」というものだった。
その時の事は今でも鮮明に覚えている。泣き叫びながら父親に殴り掛かった。
実の父親に対して、とんでもない暴言も吐いた。
結局、私は父親に一発殴られた後、母にたしなめられ、自室に戻って泣きながら寝た。
この時から、私は父親を嫌い始めるようになった。それ以来、父とは二人きりで外出する
ことはなくなった。母を交えて三人で出かける事はあっても、父とは目を合わさない生活が始まった。
父の前では意地でも笑顔を見せようとしなかった。結局、父から私への謝罪はないまま私は家を出た。
見事第一志望校に受かり、看護学を修める為に独り暮らしをすることになった。
出発の日、見送りに来てくれたのは母だけだった。あれだけ父に嫌がらせを
したくせに、この時だけは年甲斐もなくぽろっと泣いてしまった。
大学生活は本当に楽しかった。ずっと学びたかった事を教えてくれる先生。同じ志を持って高め合える友達。
看護師になった先輩の、地元では決して聞けなかっただろうリアルな話を聞くことが出来た。
そんな充実した日々だったが、私にはまだ父とのわだかまりがあった。実家に帰る時は、
その度に「今日こそはきちんと謝ろう」と決心して、いざ父の顔を見るとどうしても
素直に謝れない自分がいた。たった一言「ごめんなさい」というだけなのに・・・
そんな時、父、危篤の知らせを母から知ることになる。急いて病院に駆けつけると、
父は既に息を引き取っていた。母曰く、余命宣告は受けており、父本人もそれを知っていたが、
私には絶対に知らせないでくれと頼みこまれててたために私に最後まで連絡出来なかった
ということだった。私は父の葬儀の為に暫く実家にいたが、親が死んだという実感は中々湧かなかった。
葬儀も淡々と執り行われ、私は特に取り乱さなかった。そしていよいよ、明日、私が帰るという日、
就寝前に母が私を呼び寄せた。寝る前にリビングに呼び出されて「ここに座りなさい」なんて言う
もんだから父に代わって何か言われるのだろうかと内心びくびくして座った。
母が取り出したのは、新品のピカピカ、綺麗な桜色の高級なナースサンダルだった。
いつまでも黙っている母に「これどうしたの?もしかして、私に買ってくれたの?」と
母に聞くと、「それはお父さんからのプレゼントよ」 聞いた瞬間、大粒の涙が零れた。
嘘だ!あんなに看護師になることを反対していたじゃないか… 母は、その他にも、
次々と色んなものを出してきた。万年筆、ちょっと高級な財布、いかにも女子大生が
好みそうなデザインの可愛い腕時計… これが誕生日のプレゼント、これがお雛祭りの…
これがに入学祝い、これがクリスマスプレゼントと… 説明する母の言葉は震えていた…
母が最期に見せてくれたのは、私が看護学部に合格し、入学式、大学の門の前で母と二人で
笑顔で映っていた写真だった。その写真には父の指紋がびっしりとついていた。
母が写真を見せると、特に興味を示さない様子で「その辺に置いとくれ、気が向いたら見るから」と
ぶっきらぼうだったと言う。見たがらないものを無理強いするのも良くないと思い、ベットの傍に
置いたものだと言う。改めて見つけたその写真は父の指紋がびっしりとついていた。
その写真の裏側には、もう文字も書けない状態で一生懸命書いたのだろうか、崩れた文字で
「合格おめでとう 頑張れよ」と書かれてあった ーーーーーーーーー
76:Track No.774
21/12/09 14:18:19.19 .net
>>75
13行目「私は父親を嫌い避けるようになった。」に修正
77:Track No.774
21/12/09 14:46:19.70 .net
>>75
26行目「頼みこまれていた為に・・・」に訂正
78:Track No.774
21/12/10 15:31:28.68 .net
「夢見る勇気」
私があの先生に出会ったのは中学一年の夏でした。
とても元気で毎回楽しい授業をしてくれる塾の先生でした。
そんな先生の事が私はとても大好きでした。
その頃の私は、学校で虐め、嫌がらせを受けていたこともあり、親には私の気持ちが分からないと、
親に反発し、いつも親と喧嘩していました。虐めや嫌がらせは学校、放課後だけに留まらず、
塾や色んな所で受けていて、かなり精神的ダメージになっていて、死にたいとすら思っていました。
どうしても周りに信頼し、相談できる相手が居ず、ただだた日々耐えていました。
そんなある日、塾の先生が私を呼びつけました。「最近、元気ないけど何かあったのか?
言える範囲でいいから聞かせて?」いつも元気な先生とは違って、とても優しい声でそう言ってくれました。
私は今まで堪えていたものが抑えられずに、涙が溢れ出て止まりませんでした。
今まであったことを全て話しました。先生は何でも優しく聞いてくれました。
「ゆっくりで良い。もっと落ち着いて話して。焦ると上手くいかなくなってもっと辛くなる。俺はお前が笑顔で
居ることが一番だと思っているから」そんな先生の優しい言葉に救われた気がした。
そんな先生がある日、私にこう告げた。「もっと傍にいてやりたかったけど、ごめんな。
俺は塾の講師を辞めて地元へ帰ることになった」その瞬間、私は頭が真っ白になりました。
ショックでした。悲しくて心の中で何回も泣きました。帰宅した後も独り自分の部屋に籠り泣き崩れました。
最後の日、「私は、先生に出会えて本当に良かった。今までありがとうございます。先生が居ないと、
どうしたらいいかわからない。だけど、勇気をもって自分らしく少しずつ頑張る」そう誓いました。
誰も… 誰も辛くない別れなんてない 誰もわざと一人になりなくなんかない
それを聞いた先生は「実はな、先生もお前と一緒だったんだ」ほっとしたような、少し寂しそうな顔で
教えてくれた。「学校でいつも虐められていた。親とも喧嘩が絶えなかった。そんな経験があるからこそ、
皆に虐められているお前が気になり、何とかして心の支え、助けられる存在になりたかった。お前は、
出来る子だから、辛くても苦しくても頑張って乗り越えられると信じている。頑張れよ! いつか、
お前が笑顔で頑張ったよって報告してくれるのを待っているからな。辛い思いをした分だけ人間的に必ず
成長できる。何十年先だろうと、俺は待っているぞ! 頑張れよ!!」
そんな元気な先生の初めて見る涙に驚き、先生も辛い思いをしていたんだ・・・
・・・そう思うと… 私も何だか、頑張る勇気が湧いてきた。
先生が最後に「何か、夢を持って生きろ! それが、きっとお前に力になる。頑張れ!」
79:Track No.774
21/12/10 17:39:21.64 .net
「夢見る勇気」
彼と大喧嘩した。「バカ野郎!」切っ掛けはほんの些細なことだった。
私は一人、公園のベンチに座りながら老人たちが談笑しながら
ゲートボールを楽しんでいるのを見ていた。
空を見上げ、眺める。空に次々とあいつのこと思い出しては腹が立つ。
悔しいけどそこまで惚れてるのかな。あの野郎とはいつも口喧嘩になる。
素直になれない。あいつが言う「お前は男勝りで俺の手には負えないよ」
というあいつに、肘打ちを突き放ち去って来た。
空を見上げ溜息ついていた。そんな時、「どうしたんじゃい。お嬢ちゃん?」
老人特有の寂声が響く、私は視線を空から降ろした。
いつの間にか私の隣に小柄なおばあちゃんが座っていた。
「ちょっと、彼と喧嘩して」「ふむ、若い頃はよくあることじゃな。ワシもあったわ」
おばあちゃんは、懐かしむような優しい笑顔をを浮かべた。
「素直になれないんです。好きなのに… 言葉にして伝えられないんですよ。
言葉にしなくても伝わると思っていて、それがいつの間にか当たり前になっちゃって」
気付いたらすべてを話していた。おばあちゃんの持つ優しい雰囲気のおかげなのだろうか…
「確かに、言葉にしなくても伝わっているかもしれんな。しかしな、言葉にするだけで
色々変わるもんなんじゃよ」「私男勝りで、いつも彼と大喧嘩になる」
「大抵の男は気の強い女を敬遠する。たまには男を立てて、甘えてみてはどうじゃ。とにかく
素直で愛嬌があれば十分じゃよ」おばあちゃんはそこまで言うと、
仲間に呼ばれたみたいで「よっこいしょ」と立ち上がった。
「何も悩む必要はない。とにかく素直で愛嬌があれば十分じゃよ」
80:Track No.774
21/12/11 22:35:41.28 .net
「匂いガラス~安寿子の靴」
半年ほど前、爺ちゃんが入院した。それまでに何回か入退院を繰り返していたが、
今回はやや長くなると言うのでお見舞いに行った。病室は6人部屋の一般病棟。
そこにまだ小学校にも上がっていないくらいのお人形さんのような可愛いらしい女の子が
テディベアのぬいぐるみを抱えていた。爺ちゃんと他愛もない話を30分ほどしてからコーヒーを
買いに席を外した。自動販売機の傍にあったベンチでコーヒーを飲んでいた。
ふと近くにあった部屋を覗き込んだ。そこはTVがあり、おもちゃや絵本が置いてある部屋で子供の遊び場だった。
そこにさっき爺ちゃんの病室に居た女の子が座っていた。そこに入って、女の子に声をかけた「こんにちは、
さっき病室に居た子だよね。名前なんて言うの?」女の子は小さな声で「ユカ」と答えた。
どうやら折り紙を一生懸命折っているようだった。
「ユカちゃんか、僕はタケルだよ。よろしくね」ユカちゃんは折り紙をやめて僕の方を見て、小さい声で
「よろしくね」って答えて、また折り紙を始めた。その部屋を後にして、病室に戻りその日はそのまま家に帰った。
爺ちゃんの入院は長くなると言うので家族が一週間おきに輪番でお見舞いをする事になった。
4人家族だからおよそ1か月に一度のお見舞いになる。そして僕の当番の日。着替えなどを持って
病院に行き、爺ちゃんと話をしてから、いつものようにコーヒーを買いに行った。
子供の遊び場を覗くと、そこにはユカちゃんが独りで遊んでいた。僕は部屋のドアを開け声をかけた。
「ユカちゃん、こんにちは。僕のこと覚えている?」「うん」そう言ったユカちゃんは立ち上がり、
僕の傍に近づいてきた。そして「これあげる」と僕にあるものをそれは小さな折り紙だった。
僕はそのままその部屋に入り、ユカちゃんと色んな話をした。
病気で幼稚園に行けなくなった事、ピアノのお稽古が嫌いな事、来年から小学校に上る事。折り紙は看護師さんが
教えてくれたらしい。僕は夏にとある国家試験を控えていたので、ユカちゃんに「ユカちゃん折り紙が得意だったら、
お兄ちゃんに、いっぱい鶴折ってよ。夏に大事な試験があるんだ」ってお願いした。多分、ユカちゃんは試験の意味も
分かっていなかったと思う。でも、最高の笑顔で「うん」って答えてくれた。「約束だよ。指切りしようね」と
ユカちゃんと指切りをして部屋を後にした。 ー それがユカちゃんを見た最後だった ー
次の当番の日、お見舞い道具一式を持って爺ちゃんの病室に行った。その時、ユカちゃんとの約束の事など
すっかり忘れていた。爺ちゃんに着替えを届けて話をして帰ろうと思った時、一人の女性が声をかけて来た。
「〇〇〇さんのお孫さんですか?」見たこともない人に声をかけられた僕は少し驚いたが、
「ええ、そうですが、あなたは?」と答えた。
するとその女性はこう答えた。「ユカの母親です」話を聞くとユカちゃんは僕が帰ってから二週間後に
亡くなったそうだ。ユカちゃんのお母さんは一通り話を終えると持っていた紙袋からあるものを取り出した。
それは透明なビニール袋いっぱいに入った折り鶴と手紙らしきものだった。
「あなたとの約束をユカから聞いた日から、妙に張り切って折り紙を折って作っていたんです。
あなたのお爺さんに字を教えてほしいって頼んで、お爺さんが理由を聞いたら「おてがみかくの」と
言ったらしいんです」 その言葉を聞いた僕は袋を開けて中の手紙を取り出した。
開いた手紙には ー 「し けん が ん ばって く だ さい ゆか より」 ー
たどたどしい文字で大きく書かれてあった。
ー その紙いっぱいにに描かれた一生懸命書いたであろう不揃いな文字が躍っていた...
…これはユカちゃん、君が生きた証だ ー
―― ユカちゃん ありがとう 君の思いは しっかり受け取ったよ ――
81:Track No.774
21/12/12 08:55:37.93 .net
「孤独の肖像」と「孤独の肖像1st.」は全く別の世界を描いているが、驚く事に、実は歌詞は同じなんだよ。
82:Track No.774
21/12/12 08:57:49.67 .net
>>81
ほぼ歌詞の内容は同じなんだに訂正
83:Track No.774
21/12/12 09:38:38.25 .net
唄う声に表情があるからだろうか・・・
84:Track No.774
21/12/12 10:19:39.48 .net
>>80
下から3行目「その紙いっぱいに描かれた・・・」に訂正
85:Track No.774
21/12/13 17:15:02.05 .net
「カーニヴァルだったね」
土曜日は会社が休みだったが、朝九時頃に支社の内務課長から
目黒のマンションの自宅に電話がかかって来た。
早速、東京の本社総務部長室へ。本社総務部長の二人が、向かい側に座って、
直ちに事実確認が行われ、調査の結果、この8年間で、持田が、不正に引き出した
総額は2億8千万に上る事が指摘された。
「2億8千万もの金を、君は一体、何の為に使ったのかね」と本社総務部長の一人から
顔を歪められ詰め寄られた。「会社の為に使ったんです」と持田は落ち着いた口調で
答えた。訊ねた本社総務部長の一人は荒げた口調で「なんだって! ふざけた事言うな!!」
「全額会社の為に使った金です」「いい加減なことは言うな!」
「事実を言っているだけです」
「会社の為に使ったというなら、証拠を見せてもらおうか」
「会社の労使問題が協調を前提に円滑に保持されるようになったじゃないですか」
「労使関係と君の使い込みが、一体どういう関係があると言うんだ」
京橋支部長を務める持田は一日置きに銀座に通ううち、いつの間にか銀座では
彼の顔を知らぬ者はいない銀座では名の知れたちょっとした有名人になっていた。
京橋支部の成績は1年に80億から90億という抜群の契約実績を上げていた。
交際費枠や接待費が無しの支部で、8年前から持田は、あるやりくりに手を染め、
8年間に四百億近い契約を集めていたが、銀座でその間に使った額は、いつの間にか
2億8千万にも膨れ上がっていた。返すつもりだった金額は、いつの間にか
返せない額に達していた。
いずれはバレる運命にあるとはいえ、持田の苦しいやりくりも、ついに表面化したのだった。
86:Track No.774
21/12/15 15:49:43.73 .net
「サーモンダンス」
小さい頃に母が亡くなったので、俺はオヤジに育てられた一人っ子。
オヤジは長距離運転手なのでほとんど家にはいなかった。
たまに家にいたとしても口うるさくて少し口答えしただけでよく殴られた。
まあ生き方が頑固一徹で不器用な人だから、オヤジとはよく衝突した。
いつも怒鳴ってばかりいたオヤジ。たまに家にいた時作ってくれた鮭の塩焼き。
そんな父子家庭で育った俺は、当然の如く家が貧乏で、いつもボロボロな服で小学校に
通っていた為、学校では何かと虐められ、よく喧嘩して帰って来ていた。
たまにオヤジが家にいた時、俺がいつものように虐められ喧嘩して帰って来た時のことだ。
オヤジはそんな俺に何も言わず黙って焼き鮭のおにぎりを俺の前に置いてくれた。
その時、そんなオヤジから突然、鮭の産卵の話を聞かされた。
「海で大きく育った鮭は、自分が死んでしまうのに、どうして子供を産むためにボロボロになりながら、
かって自分が生まれた川に戻るのか?鮭の雌は産卵する為に飛び跳ねながら川の流れに逆らい遡り遡上する。
彼らは故郷である川の上流にたどり着くと、迎えてくれるのは懐かしい故郷の川の匂いだ。上流に行けば行くほど、
川は浅くなり、産卵場所にたどり着く頃には川底の石に傷つけられた鱗はボロボロだ。もはや泳いでいると
言うよりも、もがいていると言った方がいい。そんな状態で川底に産卵する所を探し、そこに雄が寄り添い、
産卵・放精をする。繁殖を終えた鮭には、生涯やるべきことも、体力も残されてはいない為、産卵が終わると
やがて力尽き雄も雌もその一生を終える。しかし、卵を産む事で、新しい命のバトンを繋ぐ。それが鮭の役割。
そんな感じで、それぞれの生き物にはそれぞれの役割や生きている意味がある」
――――― そんな鮭の命がけの遡上の話を突然聞かされた。
------ お前にも生きている意味や役割があると言うように聞こえた。
87:Track No.774
21/12/16 21:29:31.50 .net
「いつか夢の中へ」
――――― 今日は50年連れ添ったあなたのお通夜。
今日、取引先から聞いた話でとってもじ~んと来ちゃった。
お見合い結婚で最初は武骨な印象だったけど、
一生懸命に笑顔を見せるところに誠実さを感じました。
結婚してからはめったに笑顔を見せず
いつも、ムスッと難しい顔をしていましたね。
経営していた自動車修理工場を朝早くから夜遅くまで働いて指定工場にまでしたのに…
二人の息子は後を継がずに東京へ行っちゃいました。
二人とも今日は来ていますよ。
明日の告別式を待ち真っ白に包まれて眠っているあなたを見つめながら
50年の月日を振り返っています…
お陰様で孫にも恵まれて幸せでした…
でも、色んな事がありましたね。
従業員の給料を払うために必死で銀行の融資担当者に頭を下げていたあなた…
私は後ろからそんなあなたに頭を下げました…
長男に続いて次男まで上京したいと言い出した時…
あなたは黙って次男を駅まで見送りましたね…
あの時のあなたの寂しそうな顔が忘れません。
病気になって入院するまで、朝早くから夜遅くまで油まみれで働いて…
大好きだったビールを1日に大瓶一本空けていましたね。
今、隣の部屋から孫たちの声が聞こえてきます。
孫にはだらしないまでに甘かったあなた。
――――― あなた よく頑張りましたね。
私たち家族の為に… 会社の為に… 本当に頑張ってくれました。
あなた 本当に… 本当に… 「お疲れさまでした」
そんなあなたの顔を見ていると、なぜか不思議と、お見合いの時見た
――――― ちょっとはにかんだ笑顔が浮かんだような気がしました…
88:Track No.774
21/12/16 22:59:21.01 .net
「いつか夢の中へ」
仕事から帰ると妻が一人掛けの椅子に腰掛けて眠っていました。
そんなはずはないと分かっていても、声を掛けられずにはいられませんでした。
「ただいま」 すると妻は、ゆっくりと顔を上げて「お帰り」と返してきました。
俺は妻に近づいて、頭をゆっくり撫でました。ちゃんと触ったという感覚がありました。
「なんでいるの?」 妻は入院中で、家に居るはずがないのです。
やっとのことで口から出た言葉はそんなものでした。
すると妻は、笑って「抜け出したんよ! 凄かろう?」
凄いとか、ほんま… アホかと思いました。昔から妻はそういうところがありました。
末期の癌で入退院を繰り返している癖に活発という…
最近忙しくて、週一のペースでしか見舞いに行かなくなっていました。
そりゃあ、寂しかったのだろうと思います。
暫く二人とも無言でしたが、少し経って俺は「病院へ戻ろう?」
妻は拗ねたように「いやだ!」
妻が病院を抜け出して来た理由も全く聞かずに俺はアホだったと思います。
妻がきっと自分の死期を悟っていました。だから帰って来たのだと思います。
俺は一週間ぶりに見る妻がいとおし過ぎて…
細くなった腕も、少しこけている頬も、病室で見る度に苦しかったのに…
俺はその後、妻を寝かしつけると病院に連絡を入れ、明日には病室に
戻すので今晩は家に居させてくださいと頼みました。
担当医は俺に激怒しましたが、無理を通してもらえました。
次の日の朝、起きると妻はまだ寝ていました。
可笑しいなと疑うこともなく、10時頃まで寝かせておきました。
でも、流石に起こそうと思って妻の体を軽く揺さぶりました。
でも、妻は中々起きません。何回呼んでも妻は起きません。
何度も何度も妻の名前を呼びました。何が起こったのかも、
全部わかっていたけど、認めたくはなかった。
起きて欲しい… 話せなくていい… 笑っていなくていい…
冷え切った妻の手を握り締め、これまでにないぐらい泣き叫びました。
いつか来る日だと分かっていたけど… 「ありがとう 愛しているよ」
89:Track No.774
21/12/17 10:01:03.41 .net
>>88
末尾の「ありがとう 愛しているよ」の前に「ひょっとしたら、自分の死期を悟った妻は
お別れのあいさつに来たのかもしれない… 一人で旅立つ前に…」を追加
90:Track No.774
21/12/17 12:14:16.50 .net
>>88
15行目「妻はきっと自分の死期を悟っていました。・・・」に訂正
91:Track No.774
21/12/18 21:12:06.19 .net
「離郷の歌」
私の甥っ子は、母親である妹が病気で入院したので、暫くママと離れて
ママの実家の父母の家に預けられることになりました。
「ママが、びようきだから、おとまりさせてね」と言いながら小さな体に着替えを
入れたリュックを担ぎ、我が家にやって来たのです。
夜寝る時は、「きょうは、じいじとねる」「きょうは、ばあばとねる」と
楽しそうに寝る相手を選んでいました。昼間は時々「ママは、びょうきなおったかなぁ~」
と言うので「寂しいの?」と聞くと「ううん、だいじょうぶ!」と、いつも元気よく
話してくれます。子供ながらに周りに気を遣っているのかなと家族で話ていました。
母である妹が、その後亡くなり、甥っ子は「ママに、あいたい」「ママ、かえってこないの?」と
毎日泣いていた。そんな幼い心を痛めている姿が、可哀そうで見るに堪えられなかった。
そんな甥っ子が、先週あたりからぱったりと泣かなくなった。
墓参りに行った墓前で、
「4さいになったからね。なかないよ、ばあばとやくそくしたんだ!」と
私に打ち明けてくれた。
そして小高い丘の上にある墓地から空に向かって
「ママーっ! いつでも、かえってきてねぇー !!」と叫んでいた。
92:Track No.774
21/12/19 15:06:20.32 .net
>>91
3行目「ママが、びょうきだから、・・・」に訂正
93:Track No.774
21/12/20 11:10:07.34 .net
「ばいばいどくおぶざべい」
雑居ビルの薄暗い地下にあり、壁には古びたポスターやステッカーが
大量に貼ってある昔ながらの老舗のライブハウスに来ている。
仲は煙草の煙で薄暗い。
そんな昔ながらのイメージのライブハウスは年々減り、分煙や禁煙が進んでいる
所が多くなっている。最近はキャパ1000人規模のライブハウスや都会のおしゃれ空間的
ライブハウスなど従来のイメージを大きく変えるようなところも増えてきて、
ライブハウスの雰囲気はそれらの場所や又、イベントによって雰囲気は違ってくる。
ここの老舗のライブハウスもビルの建て替えと言う事で、来年閉店と言う事になった。
思い出の場所が、無くなるのは寂しいと多くのファンが駆けつけていた。私が行った時は、
ちょうどタテノリバンドの演奏が終わり、次のステージの準備中だった。
― 準備は整ったようだ ―
― ステージが始まった — Dock of the Bay だ それも三人組親父バンドだ。
聞いたところによると、今日が最後のステージらしい。ブルースバンドのブルース風の
ドッグ・オブ・ザ・ベイ。 ドスの効いた、しわがれた声がブルースアレンジとマッチ
していていい味を醸し出していた。2曲目はBob DylanのLike a Rolling Stone .........
どことなく、気のせいなのか、心なしか... 泣いているようにも聴こえた...
哀愁が漂うドスの効いた、しわがれた低く渋い声の響き… 親父バンドの最後の舞台。
いいものを聞かせてもらったよ... ありがとうと、心の中で叫んでいた...
... そして親父バンドの最後のステージは終わった ...
94:Track No.774
21/12/20 11:21:23.15 .net
>>93
3行目「中は煙草の煙で薄暗い。」に訂正
パソコンの誤変換
95:Track No.774
21/12/21 10:29:59.93 .net
「ローリング」
いつものように地下鉄を降り、改札を抜け地下街を歩く。地下街から地上に
上がる階段の隅でホームレスが眠っていた。「何処かで見た事のある顔だなぁ」と
思いながらも思い出せず、会社に着く。仕事中に肩を叩かれた。
「菊池さん、部長がお呼びです」部長の所へ行くと「菊池君、いくつになった」
「はぁ、来月で43歳になりますが、何か?」「43歳か、役職が全くないというのも、
何かと不都合だろ。どうだい、思い切って新しい職場で頑張ってみるのもどうかな、
向こうじゃ君に課長職を用意するから、是非、来てほしいと言っているんだが」
「子会社出向と言う事ですか?」「菊池さん、部長のご好意をそんな風に取っちゃいけないよ。
昔から適材適所って言葉がある。新天地で埋もれていた才能を開花するチャンスでもあるんだよ」
「お断りします。私、今のままで十分満足していますから、失礼します」
またやっちまった。俺が出世出来ない理由に自分の意見を言うというのがある。
それと言いたいことを言える組合を作ろうとしたことだ。今では会社のお荷物というか、
厄介者だ。会社務めとしてその十字架を背負っている。
―― そんな時だ!思い出したぞ!
朝出勤前、見かけた浮浪者は学生の頃、仕送り全部使っちゃって、職安に行った時、
声をかけて来たあの手配師だった…
「お兄ちゃん学生だな」「あ、はい!」「おいで、いい仕事あるから、一日飯付き、時給1200円。
危ない仕事じゃないし、学生さんも大勢いるからおいで」「…」悪い手配師にぶつかると、
地方の飯場に連れていかれて安く働かされた挙句、博打で有り金巻き上げられると聞いていたから、
悩んだけど、仕事が終わると俺たち学生を飲みにつれて行ってくれた。
「俺のおごりだ。どんどん飲め。お前たち学生は将来、必ず世の中の上に立つ。
だから俺はお前達を大事に扱う。その代わり偉くなったら俺達の面倒を見てくれよ。ワハハ。
それと、お前、俺の事いい人だと思っていないか」「はい!」
「世の中にいい人間なんていないのよ。俺がお前におごってやってんのも、お前たちの金を
ピンハネした金でおごってる。俺も上のやくざからピンハネされてる。そしてそいつらも、
その上にやられている。世の中とはそういうものだ。すべては金だ。金がこの世を支配してる。
金の価値が人の価値より上になってる。金なんてよ。人が作ったもんだ。いくらでも擦れるのによ。
人は人を作れない。お前の母ちゃんはお前の体全部設計し、作ったわけじゃない。神様から授かっただけだ。
身の回りのものは人が作ったものだけど、人は神からの授かりもんだ。大切にしなけりゃいけないのによ。
上に行けば行くほど金の魔力に取りつかれ裸の王様になって分からなくなる。そしてそこら中、
鬼や餓鬼ばかりの地獄にしてるのは人間だ。人間の欲だ。何が大切か分からなくなっているのさ。
これからの世の中どんどん変わっていく。そのうち、おいらの居場所もなくなる。ワハハハ」
確かそう言っていた。あの手配師…
俺は仕事が終わり、あの手配師が好きな酒を持ち、彼が居た場所に行く。彼が居たので声をかける。
「覚えているかいバイトの時、お世話になった英二、菊池英二だよ」「...はあ、」
… 駄目だ! … 彼は何も覚えていない …
「また時々、酒を持ってくるよ」と言い大吟醸の一升瓶を置いてきた。
その後、それ以来、彼の姿は見なくなった。居場所を変えたのか… 本当に俺の事を思い出したのか…
それとも亡くなったのか… ー 今となってはわからない ー
96:Track No.774
21/12/21 10:43:52.09 .net
アルバム「時代-Time goes around-」に収録のローリングは迫力ある歌い方をしている。
97:Track No.774
21/12/21 20:00:35.82 .net
みゆきさんは失恋・恋愛ソングさえ歌っておけば良いみたいな歌ばかりではないんだよね。
98:Track No.774
21/12/22 09:21:01.93 .net
「白菊」
マミちゃん元気にしていますか?
そちらで大きなじいちゃんとばあちゃんたちと楽しく暮らしていますか?
ママはまだ、マミちゃんのお骨は手放せません。
可愛い妹をいつも見守ってくれてありがとう... マミちゃん。
又、お手紙書くね。
大好きな、マミちゃんへ
娘が空を見上げて「お母さん、空を見てみて。ほら、空の雲の間に光って
いるところがあるでしょ。そこからお姉ちゃんが見えるんだけど、
手を振っているよ。笑っているし、独りじゃないよ。
ほら、おじいちゃんとおばあちゃんと、お母さんの友達かな...?
みんな一緒に居てくれているよ。だから寂しくないから、大丈夫だって」と
私に言うんです。
それを聞いて、私は涙が止まりませんでした...。
何故なら、まだ上の子が生まれる前に仲良しだった友人が若くして亡くなった
のですが、二人の娘には詳しい話もしたことなかったのに...
その友人の事まで私に教えてくれたのです。
私は思いました...。友人が泣いてばかりいる私に、
「私が一緒に居るから大丈夫だよ」と娘を通して励ましてくれたのではないかと…
亡くなった娘も天国では成長し、楽しく暮らしていることが分かり、少しですが、
心がスッとした事を思い出します。
今でも悲しくてふさぎ込むこともありますが、少しずつ前を向いていけるように
頑張りたいと思います...
99:Track No.774
21/12/22 09:30:09.47 .net
神田沙也加さんが亡くなったという悲しい知らせがありました。
ご冥福をお祈りいたします。
100:Track No.774
21/12/23 12:08:45.92 .net
「僕は青い鳥」
ある貧しい木こり家に、二人の子供がいて兄はチルチル、妹はミチルという名前でした。
チルチルとミチルの兄弟は、いつも近所のお金持ちの家の子のことを羨ましく思っていました。
クリスマスの夜、魔法使いのおばあさんがやって来ました。
「私の孫が病気で苦しんでいる病気を治す為に、幸せの青い鳥を見つけてほしい」と頼まれます。
鳥かごを持って出かけた二人は、妖精に導かれながら、様々な場所を訪れます ・・・
「思い出の国」では、亡くなったおじいちゃんとおばあちゃんに出会いました。
青い鳥がこの国にいる事を教えてもらいます。チルチルとミチルは手に入れることに
成功します。しかし、この国を出た途端に、黒い鳥へと変わってしまったのです。
その後、二人は「夜の御殿」を訪れます。ここでも青い鳥を手に入れたものの、
この国を出た途端、死んでしまったのです。
その後、二人は「贅沢の御殿」「未来の国」などに行きますが、どうしても青い鳥を
持ち帰ることはできませんでした ・・・・・・・・・
そんな時、「二人とも起きなさい! 今日はクリスマスですよ」とお母さんの声が聞こえ
二人はベットの上で目を覚ましました。とうとう青い鳥を捕まえることが出来なかったと
ガッカリしていると ・・・ 部屋にある鳥かごの中に ・・・
―― 青い羽根を持った鳥を見つけます ――
「あら、 もう寝たのね。 ・・・ まあ、なんて寝顔が可愛いのかしら ・・・」
・・・ 布団をかけ ・・・ おやすみなさい ・・・
・・・・・・・・・ 本当の幸せは手の届くところにあるのね ・・・・・・・・・
―― お母さんは明かりを消し部屋を出ていく ――
101:Track No.774
21/12/24 11:29:56.12 .net
「LOVERS ONLY」
欧米では家族そろって静かに過ごすのが習慣になっているクリスマス。
イブに綺麗な夜景のレストランでカップルでお食事。クリスマスイブはカップルの為に…
クリスマスはカップルのデート… 恋人と過ごすもの…
・・・・・・・・・ そんな空気がこの国の風物詩になったのはいつ頃だろうか …
そんな僕のクリスマスの思い出と言うと幼稚園くらいの時を思い出します・・・
その頃の僕はサンタさんをまだおぼろげながら信じていました...。
クリスマスイブの夜、布団に入って「こんばんは、ずっとおきていて、サンタさんの
しょうたいをたしかめよう!」と固く決心しました。
これ、もしかしたら多くの子供達が一度は決心することかもしれませんね。
かなり頑張りましたが、途中でうとうととして、ハッと気づいたら、
もう外が少しだけ明るくなってて… 朝です。「しまった!」と
頭で思ったものの、未だ夢うつつ状態...。
必死になって頭を上に向けて、枕元にプレゼントがあるかどうか、探します… ある。
何か鉄の塊が... (これは、ひよっとして... ずっと欲しかったロボットでは?)と
手を伸ばして... その鉄の塊を掴みます...。 その鉄の塊は… ロボットなのか?...
子供時代の僕は... 再び夢の世界に入っていきました...。
朝になって改めて見ると、その鉄の塊というのは、欲しかったゼンマイ仕掛けの
ブリキのおもちゃの「ロボット」でした。
よくは覚えていないけれど.........
ゼンマイ仕掛けのブリキのおもちゃのロボット...
それにサンタさんの正体も判明したので、満足で燥いでいたと思います...
父からのプレゼントはボードゲームでした。当時人気の人生ゲーム。
普段喧嘩ばかりして仲の悪い両親も、
この日ばかりは、ボードゲームの人生ゲームで家族5人が一家団欒で楽しく笑い声で
一喜一憂でゲームに夢中する姿が子供ながらに一番嬉しかったのを覚えています...