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夏裘冬扇／祭りの後はお気の毒様－台湾沖航空戦異聞
◆片山杜秀／台湾空襲、将棋棋士・木村義雄、菊池寛、小磯国昭元首相、外交評論家・清沢洌、東京空襲、縁故疎開
週刊新潮(2021-08-26), 頁：16
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が、祭りは一瞬で終わる。10月下旬、沈んだはずの敵機動部隊がフィリピンに襲いかかる。大本営は戦果を大誤認していた。
途端に口をつぐんだ。
これがほんとの糠喜び。秋の日は釣瓶落とし。44年の暮れに向かい、この国は全速で転げ落ちる。社会が荒み、労働者の
怠業が目立ちはじめ、公共交通機関が乱れ出す。が、最大の問題は食糧不足。国民を飢えから守るはずの配給制度が裏目に
出る。農村では働き手が徴兵されて生産力はがた落ち。それなのに、国家は安い公定価格で穀物も野菜も肉類も買い叩こうと
する。農民は面従腹背を決め込む。お上の言うことを聞いていたら身の破滅。法令を遵守せず、生産物を隠匿し、闇市場に高く
卸す。配給品はいつも品薄。
外交評論家の清沢洌は44年11月の日記に興味深い噂話を書き留めている。怪しい大荷物を抱えて列車の座席を占拠する
闇商人の多くは朝鮮人ではないかというのだ。彼らは、欧州におけるユダヤ人と同じく不当に差別されがちな少数民族として
独特に連帯し、全国的なネットワークを拵えている。しかも朝鮮総督府の方針により皆が日本風の通り名を使うので、官憲も
十分に実態を把握できない。そのメリットを最大限に活用し、闇経済を回しているのではないか。もうひとつの日本社会が陰に
出来つつあるのではないか。清沢はそんな推論をしているようだ。
どこまで事実か分からない。しかし、戦争末期の日本国民が、政府に従って合法的に暮らしてひもじくなるばかりの真面目な
小心者と、政府に従わず脱法的に振る舞って肥え太るばかりのしたたかな不届き者とに、急激に分断されていったことは確か
だろう。しかも、その構図を理解するのに、真偽はともかく、清沢は民族問題を持ち出している。いつもながらの日本的想像力と
いうものであろうか。