23/01/28 12:14:19.11 +8MGxJht0.net
>>74
同じく『本の雑誌風雲録』から。
「ぼくが椎名誠と初めて会ったのは1970年、大阪万博の年である。当時ぼくは一度
卒業した大学に聴講生として戻り、本を読むだけの怠惰な毎日を過ごしていた。
そんなある日、たまり場である学校近くの喫茶店で何気なく新聞をひろげていると、
求人広告が目にとまった。1級上の菊池仁が前年入社した会社の求人である。突然、
就職することが新鮮であるように思え、すぐ菊池仁に電話をかけた。
「お前、本気で働くか」 彼が疑わしそうに言ったのには理由がある。新卒で入社
した会社を3日間でやめ、聴講生として大学に舞い戻ったのが前年のことで、その
退職の理由が「毎日会社に行くと本を読む時間がなくなるから」ということを菊池仁
が知っていたからである。紹介するのはいいが、すぐそんな理由でやめられたら彼
だって立場がなくなるだろう。「大丈夫ですよ、1年前とは違いますから」 ぼくが
答えると、菊池仁は、何でもいいから自分の書いたものを持って翌日社まで来いと
言う。
その会社は銀座にあった。待ち合わせの喫茶店に行くと、菊池仁が大きな男を伴って
入ってきた。「うちの編集長だ」 それが椎名誠だった。彼が24歳のときだったと思う。」