20/09/04 22:21:22.54 Df1Kmpkj.net
ヨーロッパ企画の映画『ドロステのはてで僕ら』に押井コメント
URLリンク(www.europe-kikaku.com)
押井守 映画監督
世に謂う「自主映画」は、その鑑賞にあたって苦痛を伴うことが通例であり、
その苦痛の中味はといえば「他人の語る夢」を聞かされることの苦痛と同じだと言ってもよいでしょう。
自分が面白いと思ったことを他人に伝えることは大変に難しい。
身振り手振りを交え、情熱を込めて、リキめばリキむほど、聞かされる側の腰は退けていくものです。
それほど「他人」の壁は高く、これを乗り越えることは大変に難しい。
「他人」は貴方ではないのですから、当たり前です。「他人」はそれほど優しくないし、ヒマでもないのですから。
それが昨夜の夢ならばまだしも、仮にも映画ということになれば、これはもう腰が退くだけでは済まされませんが、
それでもなお、自分が面白いと思うことを誰かに伝えたい、それを形にしたいと望むなら、そこから先は技術の出番です。
シンプルなアイディアを、無駄のないプロットを重ねてテンポよく、しかも縦軸のドラマに落とし前を着けてエンディングに着地させる。
これは言うほど簡単なことではありません。その秘訣はといえば…(ここから先は営業上の秘密です)。
でも技術だけでは面白さを伝えることはできても、なにかしら心に残るものを伝えることはできません。
始めるにあたって必要で、終わりに向けてもっとも大事なものがあります。この映画には、確実にそれがあります。
強烈な刺激も、妖しい官能もありませんし、有名な俳優も見当たりませんが、見終わったあとで、少しだけ人間が好きになれそうな気がする筈です。
面白可笑しく、そしてなにより優しい映画です。