12/03/26 23:13:48.18 hIpoOFGj0
(続き)
「すばらしいお話でした。何度も涙が出ました。
その岸和田の看護師長さまにもぜひ一度お目にかかってみたいです…
医療の現場に私も四十年ほど携わってまいりましたので」
「一回来てみはったらよろしいねん。岸和田にはいつ頃までいてはったんですか?」
深い意味もなく尋ねた質問だったが、川上の表情がかすかにこわばった。
「あ、わたくしは…二十四までです」
「二十四まで住んではったわりには、岸和田弁が出ませんねえ?」
「はい、それは、あの…わたくしは、十歳まで長崎におりましたので」
長崎。言葉を失い、身を固くしている糸子に、川上がためらいがちに告げた。
「…実は、わたくしの死んだ父が、いっとき先生のところでお世話になっておりました」
「…おたく…どちらさん?」糸子はすべてを察しながらも、その質問を呆然と口にした。
「わたくしは…周防龍一の娘でございます」
初めて会った瞬間から、その誠実そうな優しい笑顔に心惹かれるものがあったのは、
かつて愛した人にどこか面差しが似ていたからかもしれない。
体が震えだし、糸子は何も答えられない。
「…あ…も、申し訳ありません…!失礼いたしました…」
糸子の様子を見てうろたえてしまった川上は慌てて頭を下げ、部屋を出ていこうと急いでドアを開けた。
そこには、やはり愕然として棒立ちになっている優子と、状況を読めずにきょとんとしている孝枝がいた。
会釈して足早に去っていく川上のあとを、優子が我に返って追いかけていく。
あっけに取られたまま孝枝が部屋に入ると、ソファで糸子が背中を丸めて泣いていた。
ノベ本の残りから推測すると、明後日はこの辺までかな。