12/03/26 22:37:26.35 hIpoOFGj0
明日の放送分、ノベ本より。
残念ながらだんじり祭には間に合わなかったが、その秋、二階に立派なサロンが完成し、糸子は有頂天になった。
「なあ孝ちゃん、ええこと思いついたわ。着物のリフォーム教室やろよ。二階で。
あないええのんでけてしもたら、もったいななってきた。どんどん人呼んで使およ～」
さっそくこの調子だ。孝枝がぎっしり詰まったスケジュール帳を無言のまま開いてみせる。
「よ～う見てから言うてください。いつやるんですか!?」
糸子は首をすくめて上目遣いに孝枝を見上げたが、一週間後には風呂敷包みを抱えた中高年の女性たちが続々とサロンに集まった。
「えーみなさん、＜撫子の会＞へようこそいらっしゃいました。講師の小原糸子です。どうぞよろしゅうお願いします」
やると言ったら、やるのが糸子である。
「なんでこの着物のリフォーム教室を思いついたかちゅうたら、このサロンの改装をしたことがきっかけなんです。
ほんでその工事のために、ある日、押し入れを引っくり返してたら、古い着物が山ほど出てきました。
洋服は捨てられても、なんやしらん、着物ちゅうもんは捨てられへんもんです。せやけど着るかちゅうたら、なかなか機会もない。
いったい日本中でどんなけの着物が肥やしなってんやろ、思たら空恐ろしなります。
そこで…こちらを見てください」
糸子の合図で孝枝がボディにかけてあった布を取ると、着物で作ったドレスが現れた。
「これはもとは、うちの一張羅やった着物をばらしてこさえたドレスです」
「へえ～」「こないなるんや！」と、女性たちは目を輝かせている。
「ご存知のとおり、着物の反物と洋服の生地は幅が違います。反物の幅は約36センチ、しかも模様が入ってるよって、
洋服にすんのは大変難しい。私もずいぶん頭を使て、やっと見つけたやり方があります。
言うたら企業秘密みたいなもんやけど、ほんなセコいこと言うてたら、日本中のたんすに肥やしが増えていくばっかしです。
一日もはよ、一枚でも多く、着物が生き返ってくれるほうがずっとうれしい。実はうちの父親は、呉服屋やったんです」