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平成22年夏、長崎県・五島列島の福江島・福江港の沖に浮かぶ無人島の包丁島が突然、インターネット上で売りに出された。
福江島民が燃料用木材の切り出しに利用していた島で、売買価格は約1500万円だった。
「中国資本が購入に乗り出してくるという話だったが、最終的には地権者が売却をやめたことで一件落着した」
五島市は、五島列島最大の島の福江島など11の有人島と52の無人島を抱える。
同じ福江島の沖合にある別の無人島、姫島にも中国資本が一時、触手を伸ばしたことがあった。
以前姫島で御影石を採掘していた福江島の石材店の社長、有川一徳さん(57)が証言する。
「本土のブローカーの仲介で、中国資本が地権者に接触してきた。その後、なぜか、立ち消えになった」
中国資本がビジネスの話を持ちかけてきたこともある。地元紙「五島新報」(廃刊)の元社長、永冶克行さん(65)らによると、
21年、上海の投資顧問会社が福江島に現地法人を設立。五島市に対し、木材の買い付けやナマコの養殖、魚のすり身加工、別荘地開発などを提案した。
市長時代に対応した中尾郁子前市長(79)によると、中国側は「商売のチャンスじゃないか」「この商機を逃していいのか」と強気で押してきたという。
中尾前市長は「中国が日本の水源を買おうとしているという話が飛び交っていたので、こちらは慎重に対応した」と説明する。
市は地元の森林組合を紹介したが、中国側が現行の伐採量の10倍以上の買い付けを希望したことなどから契約は成立しなかった。
すると、中国側は山林そのものの買収に動き出し、所有者と直接交渉を始めたという。この話は、市が所有者らに呼びかけて阻止した。
中尾前市長は「山林の所有者にすれば魅力的な話で、安易に受け入れてしまいかねなかった。そこで、みんなで情報を共有して山を守ろうとした」。
五島列島では、長崎県の対馬のように、外国資本による大規模な不動産買収が現実になったケースはまだない。
ただ、中国資本の影はことあるごとに浮かんでくる。背景には、他の国境の島と同様、高齢化と過疎化、そして地域経済の悪化がある。
福江島から西に約120キロ進むと、日中漁業協定によって両国の漁船が自由に操業できる中間水域に入る。
ここでは数年前から、中国漁船が巨大な網で一気に大量の魚を取る虎網漁が猛威をふるっている。
この水域で取り締まれるのは双方ともに自国の漁船だけで、違法行為があったとしても摘発はできない。
「日本側は、水産資源を維持するために細かく規制しているが、中国は無制限。根こそぎ魚を取っている」。五島漁協の草野組合長は憤る。
中間水域の南には、日中漁業協定に基づく日中漁業共同委員会で双方の漁獲量などを決める暫定措置水域も広がる。
そして、その内容についても日本の漁業者は不満を募らせている。昨年8月の協議によると、水域で操業できる漁船について、
日本側が年間800隻、中国側を1万8089隻と取り決めた。漁獲量の上限も、日本が10万9250トンなのに対し、中国側は169万4645トンだ。
中国漁船との間ではトラブルも起きている。草野組合長によると、中間水域内で中国側から石を投げられた日本漁船もあるという。
「ベトナムでは中国の漁船がぶつかってくる事件が起きているが、人ごとではない」。
草野組合長は現役漁師だったころ、海の異変を海上保安庁などに通報するボランティア組織「海守(うみもり)」のメンバーだった。それだけに危機感は強い。
五島市の久保市長公室長は「男女群島の灯台が無人化して以降、周辺で中国漁船が急激に増えた。」
五島市防衛協会会長で福江商工会議所の前会頭、才津為夫さん(87)も「無人島になった男女群島が外国船に占領されてしまう危険性が高い」と危惧する。
男女群島の問題は、人口減少が進む五島列島全体にも通じる。「沖縄県の尖閣諸島のように、五島に人がいなくなる時代がくるかもしれない。
そうなれば、中国の船はもっと押し寄せてくる。国境は人が住むことで維持できる」。荒尾議長はこう危機感を募らせている。
地域の力を弱める過疎、そこにつけ込むかのような中国の経済的進出や圧力。「ある意味、尖閣よりもひどい状態」。
五島列島を取り巻く環境をこう憂慮するのは、玉之浦町(福江市などと合併して現在は五島市)の鶴田広太郎・元町長(66)だ。
「尖閣の場合は『領海に入るな』『絶対に上陸させるな』という日本政府の明確なメッセージがある。
五島は、近くに中国漁船がいることが当たり前になってしまっている」
産経ニュース 2014.7.22 08:27 URLリンク(sankei.jp.msn.com)