13/12/04 12:44:48.11
>>1の続き
鈴置:軍用機にはどう対処しているのですか。
B:航空自衛隊はほとんどの航空機についてはFIRからの情報で判断できます。しかし飛行計画等を事前に入手していない航空機もあります。
いわゆる彼我不明機で、飛行計画を通報する義務のない軍用機が一般的です。
針路、速度等から、放置しておくとわが国の領空を侵犯しかねない航空機には航空自衛隊が対処、
すなわち戦闘機が接近して目視確認し、必要な場合は警告します。この行動を俗にスクランブルといいます。
でも、いくら軍用機が相手でも、識別圏内であろうと領空に入る前は「そのまま進むと日本の領空に入るので引き返せ」
と警告するにとどめます。なぜなら、そこは領空ではないからです。
しかし、中国の“識別圏”では「圏内の飛行機は中国国防省の指令に従わなければならない」としたうえ
「指令を拒み、従わない航空機に対し、防御的な緊急措置を講じる」と撃墜まで示唆しているのです。
だから日本政府は、中国の無茶苦茶な“防空識別圏”は認めない、と言っているのです。
鈴置:ところで、中国には“識別圏”を管理する能力があるのですか?
宣言後に日米の軍用機がその圏内に入った際も、ちゃんとスクランブルしてこなかったようですが。
B:専門家の間でも、中国が実際に対処できる能力を持っているのか―いつでもスクランブルできるのか、疑問が持たれています。
「“識別圏”を継続的に監視することは現時点での中国空軍の能力を超えている」と見る人が多いのです。
それに向けた訓練をしているとも見えません。このような広大な海域に中国空軍機が常続的に進出して対処するとは思えません。
まして海軍航空隊では対処可能な機種を十分に保有していないでしょう。
未だ統合運用の概念が薄い人民解放軍が、空軍の警戒管制部隊の統制下で海軍航空隊を運用できるのか、という疑問も残ります。
それなのに、空域だけ設定してしまうというのですから、
中国の常套手段である「形だけ整えて強圧的な態度に出る」に過ぎないのではと思います。
鈴置:防空識別圏の設定は地図の上に線を引く―だけではできないのですね。
B:もちろんです。「スクランブル対処態勢」を常時維持できなければ管理していることにはならないのです。
これには大変な労力を要します。
防空レーダーの稼働と監視態勢の維持、飛行場の整備、戦闘機の常時稼働状態での維持、
搭乗員や整備員の養成と人数の確保、各種武装や装備品の維持管理―など枚挙に暇がありません。
航空自衛隊は、これを1日24時間、それを365日、休むことなく維持しています。航空管制機関との連携も当然、休み無しです。
こうして日々努力して初めて、国籍不明機が接近した場合に直ちにスクランブルできるのです。
防空識別圏―ADIZを設定した国は、こうした態勢を維持しなければならないのです。
これを怠れば馬鹿にされ、舐められるだけです。そのためには、ADIZを管轄し得る全国的な部隊配備が必要になります。
鈴置:中国政府は「今回の米軍の行動を全て監視していた」と発表しています。
B:出鱈目もいいところです。はたしてその飛行物体が米軍機であると識別できる資料が手元にあったのでしょうか。
中国空軍のADIZの管理能力は低く、防空態勢のお粗末さが暴露されたと言えるでしょう。
スクランブルしなかったのは、米国と事を構えたくないという思惑からにも見えます。
でも、空域を設定し「対処するぞ」と宣言しておいて、実効手段を取らないと、はなはだ面子を失うことになります。
ともあれ、問題は不測事態の発生です。対処されることはないとタカを括って通常の飛行を続けていて、
ある日突然に中国空軍機が現れて……という事態にもなりかねません。何らかの決着をしっかりと図っておくことが肝要です。
鈴置:では、なぜこのように一触即発の事態を招きかねない措置を、あえて中国は取ったのでしょうか?
B: 尖閣諸島の上空を含む空域に“識別圏”を設ければ、日本が反発するであろうから、
それをテコにこの地域に領土問題があることを認めさせよう―との狙いと思います。
(続く)
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