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紀州出身の作家、中上健次(1946?92年)が生前創設した文化組織「熊野大学」の夏期セミナーが今年も8月、和歌山県新宮市で開かれた。
今年のテーマは「中上健次、半島、宿命」。竹島問題など日韓関係が緊張化する中、紀伊半島の突端に位置する「熊野」、中上文学と朝鮮半島の関わりが議論された。
初日の公開講座では、映画監督の井筒和幸さんが講演。中上作品を「マジョリティーの世界にあって、疎外される人間の生き方を明快に捉えて文学にした」と評した。
翌日のシンポジウムには、韓国の作家、韓江(ハンガン)さんが駆けつけた。韓さんは、中上と交流のあった作家の韓勝源(ハンスンウォン)の娘。
法政大教授で作家の中沢けいさん、中上の長女の紀さんと語り合った。
中上健次は81年、ソウルに長期滞在した。そこで韓国の小説家や詩人、芸能関係者と親交を深め、日韓の文化交流にも携わった。
中沢さんは「80年代の東京の文学界に、中上さんはいら立ちを感じていた。韓国の作家と話すことに救いを得ていたと思う」と述べた。
韓江さんは近年の文学が果たす役割について、
「たくさんの人の血が流れた不幸な20世紀を、私たちは生き残った。悲劇が繰り返すような動きがあったとき、ブレーキをかけて疑問を訴えることが必要だ」と述べた。
これに対し、中沢さんはヘイトスピーチを批判しながら「非難すべきことには非難を表明することが大事。日本の文学者は言葉を無力化してしまった」、
紀さんは「お互いのいたわりが必要で、こうして縁を持ったからには自分の意見をもっと発言しなければならない」と応じた。
続いて登壇した文芸評論家の川村湊さんは、81年にソウルで初めて出会った中上について振り返り、
「紀州だけではない『路地』をソウルに見つけた。力任せに作り上げていく『路地』の物語の強さを、韓国に見いだしたのではないか」と分析した。
さらに文芸評論家の高澤秀次さんは、川村さんとの対談で「作家の梁石日(ヤンソギル)さんは、中上を本格的に批判した例外的な人だった。
梁さんによると、(中上作品の登場人物の)浜村龍造は冗舌で、秋幸は思索的すぎる」と指摘した。
その上で済州島と関係が深い作家、金石範(キムソクポム)さん、金時鐘(キムシジョン)さんの名前を挙げながら、
「2人と中上の接点、梁さんの批判をすりあわせることによって、ねじれた日韓関係の突破口は開けるのではないか」と述べた。
ビデオ参加した梁さんは、「姻戚関係にある両国は、近親憎悪の関係にある。世界は狭くなり、欧米もアジアも違いがなくなった。互いを認め合い、吸収していくことが発展につながる」などと語った。
今回は「半島」をテーマに文化的、時事的な問題に切り込んだ。韓国から作家が参加するなど、よりアジアへの広がりを見せたセミナーとなった。【棚部秀行】
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