13/09/17 10:55:34.03
平成22年9月7日に起きた尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖での中国漁船衝突事件後、中国が日本への経済制裁とみられる措置をとって約3年。
ハイブリッド車(HV)のエンジンにも欠かせない資源、レアアース(希土類)の輸出規制の強化は
日中双方にどのような影響を及ぼしたか。(飯田耕司、兼松康、塩原永久、本田誠、北京 矢板明夫)
対日経済制裁の象徴となったレアアースの事実上の禁輸。レアアース価格は急騰、日本は脱レアアースと中国依存からの脱却を迫られ、
企業の投資もかさんだ。しかし、その後は供給過剰に陥り、中国のレアアース採掘業は低迷。資源物資を外交交渉のカードにした代償は、決して小さくはなかった。
中国・内モンゴル自治区の包頭市。世界最大のレアアースの技術基地を目指した広大な工業団地の入居企業は少なく、閑散としている。
同市に隣接し石炭産地として知られたオルドス市でも、100万人収容できる新市区の住民が3万人に満たず「鬼城(ゴーストタウン)」とさえ呼ばれる。
「町を建設したとき、レアアースで収益を上げている包頭や(包頭から約150キロ離れた鉱山都市の)バヤンオボの富豪の投資も期待したが、バブルははじけた」。
関係者はこう語る。不動産と石炭、そしてレアアース需要の冷え込みが重なり、街の景色を変えた。
中国最大のレアアース生産業者、包鋼稀土の株価は今、30元(約480円)程度。ピークだった3年前に比べて、約3分の1に下落。
中国税関総署の統計によると、昨年のレアアースの輸出額は前年から66・1%減少し、9億600万ドル(約900億円)にとどまる。
「今年も減少傾向は止まらない。昨年夏ごろから、多くの関連企業は実質的な生産停止に追い込まれている。在庫を少しずつ減らしているのが現状だ」。
あるレアアース企業関係者はこう明かす。
厄介な問題はほかにも起きた。レアアースの密輸出だ。輸出規制後、収入が減ったレアアース企業の従業員が密輸業者に転じたケースもあるという。
レアアースは地面の表層近くにあるため採掘が比較的簡単で、密輸業者が「土」として運び出し、安値で売りさばく事案が急増している。
密輸出されたレアアースが香港や台湾などを経由して日本に渡ったものも少なくなく、
密輸出が「レアアース産業に大きな打撃を与えている」(中国工業情報化省の蘇波次官)。
正確な統計データはないが、公式輸出量の約1・2倍と推測する中国メディアもある。
「昨年の釣魚島(尖閣諸島の中国名)国有化の時、中国政府が日本に対し経済制裁を実施しなかったのは、その2年前の反省があったからだ」。
中国外交関係者はこう漏らし、日本の官民を挙げた急速な脱レアアースの動きの影響を「見誤った」と語る。
ベトナムの首都ハノイから東方に約100キロにある工業都市ハイフォン市。南シナ海に面するディンブー工業団地で、
信越化学工業がレアアース磁石の主原料の分離精製をする工場を本格的に稼働させた。
「中国の状況を受けて以降、それまで全く拠点のなかったベトナムでの設立の検討を始めた」(同社)結果だ。
投資額は20億円。中国の輸出停止の影響で、レアアース価格が急騰。HVに搭載する高性能磁石に使うジスプロシウムは、
23年7月に1キロ3千ドル超と、前年4月に比べ10倍以上跳ね上がっていた。
衝突事件直後の事実上のレアアース禁輸措置は、同社が事業方針を改めて見直す契機となった。
磁石を高温状況下でも安定的に使うために用いられるジスプロシウムは、ほぼ中国にしかないのが実情だからだ。
製作工程で発生し、以前は捨てるだけだった端材や切断時の切りくずもリサイクル。
今ではレアアース磁石を作るためのレアアース使用量のうち、十数%はリサイクル品から作られている。
さらに、ジスプロシウムの使用量を半分にしても磁力を維持できる新製法を開発。
「顧客先のほとんどの企業で、ジスプロシウムを減らした磁石を採用している」(同社)という。
しかも、ベトナムには、ジスプロシウムが取れる鉱脈が存在する可能性が高い。
同社はカザフスタン産のレアアースの使用も検討中で、中国以外の国に視線を向ける大きなきっかけになった。
(続く)
URLリンク(www.zakzak.co.jp)
URLリンク(www.zakzak.co.jp)
URLリンク(www.zakzak.co.jp)